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日立、徳永俊昭副社長が次期社長に昇格 2025年4月に就任予定
2024年12月17日 00:00
株式会社日立製作所(以下、日立)は16日、2025年4月1日付で、德永俊昭副社長が代表執行役 執行役社長兼 CEOに就任すると発表した。同社は、2025年度から新たな中期経営計画をスタートする予定であり、新たな経営体制で新中計に挑むことになる。小島啓二社長兼CEOは、取締役副会長に就く。また、東原敏昭会長は続投する。なお德永次期社長兼CEOは、2025年6月に開催する定時株主総会で取締役に就任する予定だ。
2024年12月16日午後5時30分から行われた会見で、德永次期社長兼CEOは、「次期中期経営計画においては、デジタルをコアとして、真のOne HITACHIを実現し、社会イノベーション事業のグローバルリーダーを目指した歩みを加速していく。具体的には、Lumadaをより進化させること、グローバルの各地域での成長機会の探索を強化すること、One HITACHIで新規事業を創生する取り組みを加速することで、日立グループの持続的な成長を実現したい」と述べ、「日立グループの28万人の社員とともに、社会に新たな価値を届け、企業としての持続的な成長を実現したい」と抱負を述べた。
德永次期社長兼CEOは、1967年3月、茨城県日立市出身。実父が日立の工場に勤務しており、幼稚園のころから日立の社宅で育った。「幼少期に日立市で暮らしていたときは、自らの生活のすべてを日立が支えていた。バスに乗っても、タクシーに乗っても、買い物するところも、病院も、すべて日立グループであった。身近にあって、社会を支えている存在という認識であった。だが日立に入社してからは、社会を支える企業であるという印象は変わっていないが、自分が見ていた領域は極めて狭い領域であり、日立グループが価値を提供する世界は広く、しかも、内部でトランスフォームをしていることが、新たな景色であった」と振り返る。
1990年3月に東京大学工学部卒業後、同年4月、日立に入社。国内金融機関向けシステムエンジニアとしてキャリアをスタート。ITおよびデジタルに関連する事業に携わってきた。2006年に情報・通信グループ 金融システム事業部 金融システム第一本部 第一部長、2014年に情報・通信システム グループ情報・通信システム社 サービス事業本部 スマート情報システム統括本部長を経て、2017年に家電および空調事業を担当する日立アプライアンス(現・日立グローバルライフソリューションズ)の取締役社長に就任。家電製品へのデジタル活用を推進するとともに、家電の開発、生産を行う日立アプライアンスと、販売、サービスを担当する日立コンシューマ・マーケティングの合併を主導。現在の家電事業体制の礎を作った。
2019年には、日立の執行役常務 サービス&プラットフォームビジネスユニット COOに就任。日立グローバルデジタルホールディングス社(現・日立デジタル社)の取締役会長、日立ヴァンタラ社の取締役会長にも就任し、米国のシリコンバレーを拠点に、Lumada事業のグローバル展開に注力した。
2020年には日立 執行役専務として、サービス&プラットフォームビジネスユニット CEO、日立グローバルデジタルホールディングス社取締役会長兼CEO、日立ヴァンタラ社取締役会長兼CEOとなり、2021年には、代表執行役 執行役副社長に昇格。社長補佐(システム&サービス事業、ディフェンス事業担当)のほか、システム&サービスビジネス統括責任者、システム&サービスビジネス統括本部長、社会イノベーション事業統括責任者、日立グローバルデジタルホールディングス社取締役会長兼CEOを兼務した。
さらに2022年には、社長補佐(金融事業、公共社会事業、ディフェンス事業、サービス・プラットフォーム事業、社会イノベーション事業推進、デジタル戦略担当)、デジタルシステム&サービス統括本部長、日立デジタル社取締役会長に就いた。
「2021年以降、デジタル事業のトップとして、デジタルの力と日立グループのケイパビリティを組み合わせて、One HITACHIで、お客さま課題や社会課題の解決に取り組んできた。GlobalLogicの買収以降は、Lumadaがグローバルで事業成長を加速しており、全社の売上収益に占めるLumada事業の割合は、2024年度末には約3割に達する見通しであり、中長期では過半を占めることになる」と述べた。
2023年には、社長補佐(クラウドサービスプラットフォーム事業、デジタルエンジニアリング事業、金融事業、公共社会事業、ディフェンス事業、社会イノベーション事業推進、デジタル戦略担当)、デジタルシステム&サービス統括本部長に就き、2024 年には、社長補佐(成長戦略、クラウドサービスプラットフォーム事業、デジタルエンジニアリング事業、金融事業、公共社会事業、ディフェンス事業、社会イノベーション事業推進、デジタル戦略担当)、デジタルシステム&サービス統括本部長に就いていた。
日立ならではの領域をスケールしていく
なお德永次期社長兼CEOは、Lumadaの中軸となるデジタルシステム&サービスにおける事業拡大をリード。デジタル戦略の成長エンジンであるGlobalLogicの買収や統合を進めた手腕が高く評価されている。
会見のなかで德永次期社長兼CEOは、「日立グループを持続的に成長させ、企業価値を向上していくためには、経済や社会の変化を機敏にとらえ、考え方や仕事の進め方をトランスフォームし続ける必要がある。世界の変化を先取りし、日立グループを形作っている社員一人ひとりのOSを入れ替え続けていくことが必要不可欠であり、私自身が先頭に立って、変革を推進していく覚悟である」と発言。
「変化の激しい時代だからこそ、創業者である小平浪平から、110年以上に渡って受け継いできた日立の存在意義である『技術による社会への貢献』という言葉は、ますます重みを増している。存在意義を将来に渡って体現しつづけるために、社会課題や経営課題に正面から向き合い、技術の変化点を機敏にとらえ、成長へとつなげていく。デジタルをコアとする真のOne HITACHIを通じて、社会イノベーション事業のグローバルリーダーを目指す」と述べた。
そして、「私の役割は、いまの成長を確実なものとし、持続可能なものにすることである。そこで重要になるのがデジタルである。デジタルシステム&サービス、グリーンエナジー&モビリティ、コネクティブインダストリーズの3つのセクターが、それぞれに独立して稼げる事業体となっているが、日立ならではの価値を提供し、成長するためには、デジタルによる価値を一緒になって作り出せるかが鍵になる。どこにデジタルの事業機会があるのかを理解することができている。詳細は、次期中期経営計画で発表する」とも述べた。
さらに、「今年2月に、NVIDIAのジェンスン・フアンCEOと、3時間ぐらい話をする機会があったが、日立がIT、OT、プロダクトのすべてを持っていることはパワフルであり、データに基づいて新たな価値を生み出すことができるの能力は希有であると指摘された。その成果が、鉄道システム事業でのHMAXにつながっている。日立ならではの領域をスケールしていくことが、デジタルの世界で日立の強みを発揮することにつながる」と語った。
社長就任の打診を受けたのは2024年10月末。取締役会議長であり、指名委員長の井原勝美氏から聞いたという。
「責任の重さを考えるにつけ、大きなプレッシャーを感じ、『はて、どうしたものか』と思ったのが正直なところ。だが、こうした経験は、そうそうあるチャンスではない。得られないチャンスであれば、ぜひチャレンジしてみたいと考え、全力をあげて取り組むと返事をした」と語る。
また、これまでの仕事を振り返って、「印象深いのはGlobalLogicの買収であり、約1兆円という、経験がない規模のM&Aに取り組んだことは、ビジネスパーソンとしての覚悟を醸成してくれた。コロナ禍で、銀行やプライベートエクイティとオンライン会議を行った際に、20人ぐらいから私1人でさまざまな質問を受け、買収に対する日立の本気度などを聞かれた。ここで、いま一歩のことを言ってしまったら、うまく行かなくなるという汗を流しながらやっていたこを思い出す。この困難は、いい経験になった」と振り返る。
さらに、「金融機関向けシステムエンジニアとして、5年をかけてシステム統合を行う仕事に携わった。1500人のチームで、プロジェクトを進め、それが完了したときには大きな達成感があった。学んだことも多かった。だが、システム統合を進めていくと、自分のシステムが、ほかの会社のシステムに移り変わっていくという経験もした。自分たちがやっていることが日本の社会を支えている、日本の経済の基盤を作っているという大義によって、仕事を進めていくという人の強さを目のあたりにした経験でもあった」と述べた。
また、「仕事で泣いたことはないが、冷徹というわけではない。仕事以外のことでは泣いている」と、ジョークを飛ばした。
加えて、「今日、ここに座っているということは、真剣に日立を離れようと思ったことがないということだが、仕事の壁にぶつかって、うまく行かないことや、投げ出したくなる瞬間もあった。日立で働きつづけている理由は、さまざまな事業があり、日立のなかにいるだけで自分を成長させる経験ができるみと、素晴らしいリーダーや人材がいて、一緒に仕事をする楽しさや喜びを感じることができることにある。進化しつづける日立で働けることは、幸運である」と語った。
なお、家電事業については、「事業成長を考えた場合に、パートナーと組んで成長させる手法と、自ら投資をして成長させるやり方がある。ひとつのやり方に決めるのではなく、事業が永続的に成長する機会を最ももたらすことができるやり方を選びたい」と語った。
小島社長から見た德永次期社長は?
一方、日立の小島啓二社長兼CEOは、德永次期社長兼CEOについて、「デジタル事業の申し子」、「創業の地からやってきた大本命」などと表現。「明るく、さわやか、ハンサムであり、ちょっとズルいと思っている。ただ、欠点がないことが、つけ入る隙を与えないと思わせることにつながっている。そこが改善ポイントである」と指摘。
その上で、「日立がデジタルに舵を切るなかで、なくてはならない存在だと日立の全員が思っている。海外のトップクラスの人と会っても、ものおじしない。日立のバリューをしっかりと理解しており、日立が持つ『誠』と『開拓者精神』を持っている。また、グローバルな感覚を持ち、ダイバーシティを大事にし、インクルージョンができるリーダーである。日立を変えていくことに対して恐れがなく、強いパッションを持っている」と評価。「日立は、これからはデジタルセントリックな企業となるべく、変革を続ける必要がある。日立を次のステージに導くリーダーであり、全責任を持って、次期中期経営計画の策定、実行に取り組んでくれると期待している」と評した。
また、德永次期社長兼CEOが、2024年4月以降、次期中期経営計画の策定を進めてきたことを明かしながら、「これを実行するのはCEOでなくてはならない。次期中期経営計画が実行するフェーズに入るのにあわせて、バトンを渡すことにした」と語った。
小島社長兼CEOは、約3年間の経営トップとしての自らの成果を振り返り、「2024中期経営計画では、それまでの日立の構造改革の成果を生かし、オーガニックな成長力を示し、企業価値を向上させることにベストを尽くしてきた。売上収益は目標を超えて、年率10%以上の成長を達成し、Adjusted EBITAは1兆円を超える見込みである。また、キャッシュ重視の経営に取り組み、FCFは2021中期経営計画から50%以上伸び、時価総額は3倍に成長した。オーガニックな成長力を示し、企業価値を向上させるという目標は有言実行できた。確かな手応えを感じている」と総括した。
日立 取締役会議長 指名委員長の井原勝美氏は、社長交代の背景について説明。「ここ数年で、グローバルに広がったインストールベースに対して、日立が持つデジタル技術に基づいたサービスを幅広く提供していくことが重要になる。次期中期経営計画では、日立をデジタルセントリックな企業集団にトランスフォームし、オーガニック成長をさらに加速することが大きな柱になる。このような将来の展望を念頭に置き、日立がグローバル企業として世界に伍していくためには、このタイミングでバトンを渡すことが最善だと確信した」とし、「德永氏は、常に将来のCEOの最有力候補であり、5年前から米国で日立全体のデジタル戦略をリードし、今年は中期経営計画をまとめ、タフなミッションに取り組んでもらった。取締役会を説得して、GlobalLogicの買収を実現するなど、信念と覚悟に基づいた強力なリーダーシップを発揮し、成果を積み上げてきた。日立のグローバル成長をデジタルで牽引する社長兼CEOとして、経験、能力の双方の面においてベストであると確信している」と述べた。