インタビュー
“VMwareオルタナティブ”から“フューチャープルーフなプラットフォーム”へ――、Nutanix APJトップが語ったインフラベンダーとしての市場戦略
2025年11月7日 06:00
仮想化基盤プラットフォームとして圧倒的なシェアを誇っていたVMwareが、2023年11月にBroadcomに買収されてから約2年が経過した。BroadcomはVMwareの買収完了後すぐにVMware製品の大幅なライセンス改定と値上げを実施、これによりインフラをVMwareに依存していた世界中の多くの企業が混乱に陥ったが、その影響は2年経った現在も続いている。結果として、少なくない数のVMwareユーザー企業がVMware製品から他社製品やパブリッククラウドへと移行、または移行の検討を開始し、VMwareの独壇場だった仮想化基盤市場はさまざまなプレーヤーが参戦する競争の場へと変わりつつある。
そうした中にあって、急速に“VMwareオルタナティブ”としての存在感を強めているのがNutanixだ。数年前まではHCI(ハイパーコンバージドインフラ)ベンダーとしての印象が強かった同社だが、VMwareの買収前後からハイパーバイザーに依存しないハイブリッド/マルチクラウドプラットフォーム戦略を掲げ、仮想マシン(VM)だけでなく、コンテナ、AIフレームワークといったあらゆるワークロードを実行/管理できる統合インフラプラットフォーマーへと進化しつつある。
VMwareからの移行案件も企業規模や業種/業界を問わず増え続けており、8月に発表された2025年度第4四半期決算では、通期で2700社以上の新規顧客を獲得したことを明らかにした。
Nutanixの勢いは、VMwareユーザーの多い日本においても加速している。同社のプレジデント兼CEOであるラジブ・ラマスワミ(Rajiv Ramaswami)氏は毎年5月に来日するが、「2年前に日本に行ったときは、こちらから約束を取り付けてなんとか会ってもらっていた企業が多かった。だが今年(2025年)は、先方から“ぜひ話を聞かせてほしい”と連絡が来るようになった」(米ワシントンで開催された年次カンファレンス「.NEXT 2025」でのインタビュー時)と日本企業の変化についてコメントしていたが、これは2025年後半から2026年にかけて既存のVMwareライセンスの更改を迎える日本企業が多いことも影響しているだろう。
VMwareの継続利用か、それとも別インフラ基盤への移行かに悩む日本企業にとって、グローバルで数多くの移行事例を成功させてきたNutanixは、間違いなく魅力的な選択肢として位置づけられている。
では具体的に、Nutanixはインフラプラットフォーマーとして、日本企業にどんなメリットを提供できるのか。Nutanixで日本を含むアジア太平洋地域(APJ)のビジネスを統括するバイスプレジデント兼ゼネラルマネージャー、ジェイ・トゥセ(Jay Tuseth)氏に話を聞いた。
VMwareオルタナティブとしてだけでなく、それ以上の付加価値を感じてもらえるベンダーに
――BroadcomによるVMwareの買収以来、グローバルと同様に日本でも多くの企業が現状の仮想化インフラ基盤をどうすべきなのか、その選択に悩んでいます。そうした流れにあって、多くの移行プロジェクトを成功させてきたNutanixをVMwareオルタナティブとして検討する日本企業が増えていますが、こうした市場の変化をどのようにとらえているでしょうか。
そうですね、たしかに日本企業の我々に対する評価はだいぶ変わってきたように思います。Nutanixのことを今もHCIアプライアンスのベンダーと思っている企業も存在しますが、最近ではNutanixに新しいロールを期待している顧客が多いことを実感しています。
――新しいロールとは、VMwareオルタナティブとは別の役割という意味でしょうか。
我々は現在、「インフラモダナイゼーション」「クラウドネイティブアプリケーション」「生成AI/エージェンティックAI」という3つの柱を中心に据えた“Run Anything, Anywhere”というマルチプラットフォーム戦略を掲げています。文字通り、既存のトラディショナルなワークロードから、Kubernetesベースのクラウドネイティブアプリケーション、さらには生成AI/エージェンティックAIに至るまであらゆるワークロードを、顧客が求めるあらゆる環境――オンプレミス、プライベートクラウド、パブリッククラウド、エッジロケーションなど、場所を問わずにシームレスに動かすというポリシーです。
もちろん、VMwareからの移行を含むインフラモダナイゼーションはNutanixにとって重要なミッションであり、日本企業からは特に高い関心を寄せられている分野でもあります。しかし、顧客が我々に期待しているインフラモダナイゼーションとは、既存環境からの単なるリフト&シフトではなく、将来、どんなアプリケーションが登場してもそれを動かせるプラットフォームとサポート体制によって支えられたフューチャープルーフ(future proof)なシステムだと思っています。VMwareオルタナティブとしての価値提案はもちろんですが、それ以上の付加価値を感じてもらえるよう、日本の顧客とも対話を重ねていくつもりです。
――5月の.NEXT 2025では、東芝が2000を超えるVMware環境の仮想マシンを約2年かけてNutanixに移行するというプロジェクトを明らかにしました。東芝という、日本を代表するエンタープライズ企業がこの規模の移行を決断したことにはとても驚かされましたが、この発表をどう受け止められたでしょうか。
トゥセ氏:東芝の事例はグローバルでも非常に高く評価されているケースであり、我々としてもNutanixへの移行を決断してくれたことを大変光栄に思っています。Nutanixはすでに数万VMの移行案件も成功させてきていますが、東芝の要望は「システムへの影響を最小限にする」「安定的なサポート」「持続的な競争力の維持/成長のためのプラットフォーム構築」というものだったので、長期間に渡る移行であっても陳腐化しないフューチャープルーフな成功事例となるよう、プロジェクト完了まで全力でサポートしていくつもりです。
――フューチャープルーフという表現を何回か使われていますが、変化のスピードが速く、不確実性の高い時代にあって、インフラシステムの将来性を担保するのはなかなか難しいことのように思えます。
それこそがNutanixの強みなのです。どんなアプリケーションやワークロードであっても、顧客が望むあらゆるロケーションで動かすことを可能にする――。これが“Run Anything, Anywhere”の目指すところであり、Nutanixの創業以来の哲学である「エンタープライズITのシンプル化」に深くリンクしたコンセプトでもあります。ここでいう“Anything”には、現時点では主流ではない、もしくは将来登場するかもしれないアプリケーション/ワークロードも含まれます。
不確実性が高い時代という表現はまさにそのとおりで、例えば数年前までは“クラウドネイティブアプリケーション”や“クラウドファースト”といえばパブリッククラウドを前提にしていたのですが、コンテナ需要の増加はやがてKubernetesベースのマイクロサービスを主流へと押し上げ、さらにデータ主権(ソブリンクラウド)やセキュリティの重要性からオンプレミスへの注目度が再び高まるという現象が起こっています。
5年前、10年前にその状況を予測することは不可能でしたが、我々は結果として事業を大きく成長させることができました。その理由はインフラのシンプル化、つまり企業にとって最も重要なデータ/アプリケーション/ワークロードを一貫したプラットフォームで扱うことにフォーカスしてきたからです。
私自身の経歴の話になりますが、Nutanixに入社する前にはVMwareも含む複数のインフラベンダーに勤務しており、正直にいうと、当時はNutanixのことをただのHCIの会社だと思っていました。しかしNutanixに入ってからはこの会社が「ワークロードの実行」にどのベンダーよりも徹底して取り組んでいることがわかり、今ではその熱意が確実に顧客にも伝わっていると感じます。VMwareから移行してきた顧客からは「最初はコスト削減のためにNutanixを選んだが、データベースサービスやコンテナライズされたクラウドネイティブアプリケーション環境、さらにAIへの備えなども含めて、Nutanixを選択して本当によかった」という声をいただくこともあります。Nutanixがフューチャープルーフなプラットフォームであるとより多くの企業に認めてもらえるよう、我々もイノベーションを継続していきたいですね。
――最後に、フューチャープルーフなプラットフォーマーとして、インフラの刷新に悩む日本企業に向けてメッセージをいただけますか。
クラウドネイティブアプリケーションや生成AIの登場はビジネスのスピードを劇的に変化させましたが、さらにエージェンティックAIの登場で、世界は再び大きく変わりつつあります。レガシーが多く残る日本企業にとっては、まずはインフラのモダナイゼーションが喫緊の課題となるでしょうが、顧客がどんな選択をしたとしてもNutanix自身のケイパビリティに加え、強力なパートナーエコシステムでもって万全の体制で支えていくことを約束します。Nutanixにとって日本市場は本当に重要な存在であり、我々は変化に立ち向かう日本企業に対して将来を見据えた価値提案を行いながら、その成長と発展を支援していきたいと心から願っています。




