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NEC・森田隆之社長が、50回目を迎えた「CEO Town Hall Meeting」を重視する理由は?
2025年11月4日 06:15
日本電気株式会社(以下、NEC)は、森田隆之社長兼CEOとNECグループ社員が直接対話をする場として、月1回のペースで、「CEO Town Hall Meeting」を開催している。コロナ禍の2021年4月にスタートしたこの取り組みは、2025年10月21日の開催で50回目を迎え、その様子が、本誌独占の形で初めて公開された。森田社長兼CEOは、「経営層と社員との距離は確実に近くなっている。それが業績につながっている」と手応えを見せる。
50回目の「CEO Town Hall Meeting」の様子をレポートするとともに、森田社長兼CEOにインタビューを行い、「CEO Town Hall Meeting」の取り組みを追った。
CEO Town Hall Meeting
東京・三田のNEC本社4階のInnovation Hub――。
昼食を終えた社員たちが、「CEO Town Hall Meeting」の会場となるこの場所に、徐々に集まってきた。会場には、すでにカメラや配信用機材がセッティングされ、海外への配信のために通訳ブースも設置されている。あとは午後1時の開幕を待つだけだった。
約5分前になると、森田社長兼CEOが会場入りした。リラックスした表情からも、このイベントを楽しみにしている様子が伝わってくる。
配信開始のカウントダウンが行われ、午後1時ちょうどに「CEO Town Hall Meeting」はスタート。会場には約50人の社員が参加。さらに、NECグループ会社の約1万5000人の社員がオンラインで参加した。

NEC コーポレートブランド戦略統括部CEOコミュニケーショングループディレクターの門前成美氏は、参加者に向けて、「オンラインでつながっている人からのコメントや質問を受け付けている。ぜひ、ボタンを押してリアクションもしてほしい」と、双方向型のイベントであることをあらためて社員に訴えた。
最初のコーナーは、「Top of Mind」。森田社長兼CEOが、直近1カ月のトピックスを報告する場になっている。
森田社長兼CEOは、「あと5カ月で、中期経営計画の区切りを迎えることになるが、定量的、定性的にも勢いを感じている」と切り出したあと、現在、経営幹部が取り組んでいることや、NECの最新技術発表会であるオープンハウスに自ら参加したこと、バレーボールチームのNECレッドロケッツ川崎が開幕4連勝していることなど、幅広い出来事に触れた。

このなかで森田社長兼CEOは、社員のキャリアに関して言及。「若い時には、あまりキャリアを考えたことがなかった反省がある」としながら、「ときどき、いままでやってきたことや、次に何をやりたいかといったことを考えるのはいいことである。私の場合は、役員になる直前、CFOになる直前、社長になる直前に、自分のキャリアを振り返り、やってきたこと、大事にしてきたことを振り返る機会があった。社長やCFOになる前は1カ月ぐらいかけて、考えをまとめた。これは強制的にやらされた時もあったが、やっている時には面倒くさいと思っていても(笑)、いまになってみると、それぞれの立場になる前に考えていたことを振り返ることができ、自分を見直す機会につながり、いまでは貴重な財産になっている。考えたり振り返ったりする機会を持つことは、その時は面倒だと思っていても、あとから振り返ると絶対に後悔しない。ぜひ、やってほしい」と呼びかけた。
今回のCEO Town Hall Meetingでは、50回目の節目を記念して、社員からの質問に答える「森田さんに聞いてみよう!」の時間を約40分間に拡大。MCの門前氏から、CEO Town Hall Meetingを開催した狙いなどの質問が行われたほか、会場の参加者やオンライン参加者からの質問にも回答した。
ここでは、社員への事前アンケートの集計結果についても発表。「CEO Town Hall Meetingは、あなたにとってどんな存在ですか」との質問に対しては、社員の76%が「森田さんの想い/経営方針を聞ける機会」となったと回答。次いで11%が「森田さんとの対話の場/直接質問ができる機会」と回答したという。また、「会社が注力する事業戦略を知る機会」、「企業文化をより深く知る機会」という回答もあった。
さらに、「CEO Town Hall Meetingに参加して得られたことは」との設問に対しては、「森田さんや経営層を身近に感じられるようになった」が61%と最も多く、次いで、「オープンな対話の重要性を感じた」が21%、「まずはやってみようという気持ちになった」が10%を占めた。
これらの結果を受ける形で、森田社長兼CEOは、CEO Town Hall Meetingを開催したきっかけについて触れた。
「CFOの時に、当時の新野隆社長が、社内変革プロジェクトである『Project RISE』を推進し、各地に出向いてTown Hall Meetingも積極的に行い、NECの文化を変えようと努力をしていた。だが、それだけやっても、社員からの声は、『経営陣との距離が遠い』というものだった」と前置き。
「社員との対話はとても重要なものであるという姿勢は、新野さんと変わらない。社長に就任して、すぐに開始したことのひとつが、このCEO Town Hall Meetingだった。アンケートの結果からも、私の想いや経営方針を聞ける機会となっているという回答が多かったことは、CEO Town Hall Meetingを開催した目的が達成できていると感じた」と、50回に渡る開催の成果に手応えを示した。
2025年4月以降のCEO Town Hall Meetingで、森田社長兼CEOが使ったワードを、NEC独自の生成AIであるcotomiで集計・分析した結果も発表された。
それによると、「NEC」、「会社」が上位を占めたが、これは当然使用される言葉だ。注目したいのは、それに続く順位だ。3位には「セキュリティ」と「AI(人工知能)」が同数で入り、5位には「顧客/クライアント」が入った。
森田社長兼CEOは、「改革や変革について話をしてきたが、その直接的な言葉を使うのではなく、中身を話してきた。その結果が今回のランキングになっている。クライアントは、クライアントゼロという文脈で語ったことも含まれているのではないか」と自己分析した。
また、「CEO Town Hall Meetingは、話すテーマを考える機会を得ることになり、私にとって重要なイベントになっている。社員との対話を通じて、気づきや学びを得ることができ、現場や地方での状況も理解できる。現場では、本社で聞いていた話とは、ちょっと違うなと感じることもある」とし、「社員がオープンに、正直に話をしてくれたり、相談してくれたりするケースが増えてきた。これがNECの業績を良くしている大きな要因だと感じている。社会の課題解決に企業全体のリソースを使って取り組むことができ、それがNECの強みになっている」と語った。
社員からの質問では、「今後、NECが強みにしたいサービスやモノは何か」、「BluStellarの海外展開はどうするのか」、「森田さんは、AIをどう使っているのか」、「NECは何の会社かと、中学生や高校生に聞かれたらどう答えるか」、「森田さんの弱い部分を知りたい」、「休日には、どんなリフレッシュをしているのか」など、幅広い質問が寄せられた。

森田社長兼CEOは、「AIは世の中を大きく変えていく。だが、まだ黎明(れいめい)期である。AIを安心、安全に使えるようにするのがNECの役割である。NECグループの11万人の社員がAIを使い、何が変わるのかを体感することがNECの強みになる。テクノロジーが世の中に、より良いインパクトを与えるところにNECの力を発揮したい。NECは、最先端の技術で世の中を変える企業である。安全で、平和にすることにテクノロジーで貢献している」とした。
また、「私自身のAIの使い方はまだ初歩的。メールの返信のほか、長いレポートや会議内容の要約などに使用している。最近では、森田AI(森田社長の過去の発言などをベースに社内で開発したAI)を使って、あいさつ文をもう少しフレンドリーにしてほしいとお願いしたり、自分の意見を交えながらレポートをまとめてもらったり、初めて会うお客さまの基本情報やどんな話題が良いのかといったことを聞いている。講演でのスピーチのポイントも出してくれる」としている一方で、「ただ、このままでは、頭を使わないことが増え、その分、危険を感じている」とも述べて、会場を笑わせた。
さらに、「一人でいることが寂しいとは思わない。経営者としての孤独も感じていない。ただ、一人だと気がつかないことが多い。違うという意見には、必ずしも従うわけではないが(笑)、それを言ってくれることは100倍うれしい。意見をもらう状況を作らないと、大きな失敗をしそうだという怖さがある。重要な物事は決める時は、つてをたどりながら、しかるべき人に意見を聞くようにしている」としたほか、「交渉時に、自分が考えていたことがハマるとうれしさを感じる。それによって相手との信頼関係が深まることも醍醐味(だいごみ)である」などとも語った。
「終わったことは、あまり悩まない。切り替えは早い。総括は必要だが、グジグジ考えない。次をどうするかを考える。やらなかったらゼロだが、失敗をしたとしても、10点でも20点でも取ることが必要である。アクションを取り、状況を変えることはプラスになる。いまは失敗コストが低い。失敗して学ぶことが、優れた結果を出すための最善、最速の策になる。人事を尽くして天命を待つというのが私のやり方。なんとかならなくても、なんとかなると考える(笑)。拙速の精神でやっている」と、自身の考え方を紹介している。
CEO Town Hall Meetingは、森田社長兼CEOが語るように、社長に就任した2021年4月に1回目をスタートした。まさに、森田社長兼CEOが肝いりで実施してきた社内イベントだ。
東京・三田のNEC本社や、神奈川県川崎市のNEC玉川ルネッサンスシティなどの拠点から配信し、社員が現地で参加するとともに、全世界のNECグループ社員が参加できるものとなっている。スタート時点ではオンライン配信のみで、約1万人が視聴していたが、現在では、リアル会場とオンラインを含めて、毎回、約1万5000人が参加している。
CEO Town Hall Meetingの初めてのリアル開催は、2022年8月にNEC玉川ルネッサンスシティで開催された。
CEO Town Hall Meetingの事務局を運営するNEC コーポレートブランド戦略統括部コミュニケーションプロフェッショナルの大戸和人氏は、「森田社長兼CEOからは、なるべく早く、CEO Town Hall Meetingをリアルで開催したいという要望が出ていた。初めてリアル開催となった際には、研究開発がテーマとなったことから、研究開発拠点であるNEC玉川ルネッサンスシティで開催した。直接、社員の顔を見ながら対話をする機会が生まれ、社員との距離感が、さらに一気に縮まった感じがあった」と振り返る。
それ以降、CEO Town Hall Meetingは、オンライン配信だけのスタイルから、リアル+オンラインの形へと移行している。
また、森田社長兼CEOは、社員との1対1の対話を重視しており、匿名での質問よりも、社員が名乗って質問することを楽しみにしている。それも「森田流」のやり方だといえる。そして、CEO Town Hall Meetingでは、社員からの質問時間を30分以上、設けるようにしている。
CEO Town Hall Meetingで、森田社長兼CEOが話すテーマは、あえて年間計画のようなものは立てていない。森田社長兼CEOと担当部門が2週間に1回のペースで行う会議のなかで、意見を聞き、最新動向やトレンド、事業への取り組み、社内の動きなどを取り入れ、フレキシブルに決定しているという。
「森田社長兼CEOからは、今回のテーマであれば、若手社員をゲストに呼んでトークセッションをしたいといった要望が出たこともあった。CEO Town Hall Meetingの参加者の約4割がグループ会社の社員であり、NEC本体だけでなく、NECグループ全体に対するメッセージを発信することにもこだわっている」(NECの門前ディレクター)という。
ちなみに、担当部門では、cotomiを使ってテーマのアイデアをリストアップすることもあるという。
社員と直接コミュニケーションを取るさまざまな仕組みを導入
実は、森田社長兼CEOは、今回50回目を迎えたCEO Town Hall Meetingのほかにも、仕組みを用意している。
2023年7月からスタートしている「リアル対話会」は、その場にいる社員たちと対話を行うイベントで、毎回80人~100人の社員が参加している。オンライン配信は行わないが、関西支社を皮切りに、全国の支社や、各地の工場などでも開催。次回の北陸支社での開催で13回目を迎えることになる。
また、「海外Town Hall Meeting」も開催している。こちらも、2021年から開始し、1年目は、国ごとにオンラインを活用して開催。年間で20回以上開催したという。さらに、現地に出向いて対話をする機会も用意。この1年では、シンガポールや英国でもリアル開催したという。
さらに、森田社長兼CEOは、社内CEOサイトである「MORITA Connection(モリコネ)」や、テキストや動画を活用したCEOメッセージ「Message from Takayuki Morita」によるコミュニケーションも図っている。
これらも2021年4月から実施しているもので、CEOメッセージは、新年(1月)や新年度のスタート(4月)などのほか、ファミリーデーなどの社内イベント、新方針や新体制が発表された際にも、森田社長兼CEO自らの言葉で、メッセージを発信しているという。
また、CEOサイトでは、CEO Town Hall Meetingのアーカイブを視聴することができたり、現地の人しか参加していない海外Town Hall Meetingのレポートも見ることができたりするという。
「直接対話の場に加えて、さまざまな媒体を使って社員とコミュニケーションしている。社員とその家族に向けた感謝のビデオメッセージを配信した際には、3万回以上の再生となった。社員からの評価も高かった回だった」(NECの門前ディレクター)という。
CEO Town Hall Meetingによる社員との積極的な対話だけでなく、さまざまなコミュニケーション手段を活用して、社員との接点を強化することで、経営に対する理解を深めるとともに、経営と社員との距離感も縮めている。その成果が、NECの好調な業績を下支えしているのは明らかだといえよう。
50回やってみて、経営と社員の距離は確実に近くなっている
50回目のCEO Town Hall Meetingを終了したばかりの森田社長兼CEOに話を聞いた。
――2021年4月からCEO Town Hall Meetingをスタートし、今回で50回目を迎えました。NECグループ内では、定着したイベントになっているようですね。
森田: 最初は1年ぐらいのつもりでスタートしたのですが、やめられなくなってしまい(笑)。社員からも続けてほしいという声が多く、いまは、毎回1万5000人のNECグループ社員が参加してくれています。
――CEO Town Hall Meetingを開始したきっかけは何ですか。
森田: 前任の新野さんが、あれだけ文化改革に取り組み、各地でTown Hall Meetingを開催したにもかかわらず、社員からは「経営との距離が遠い」、「経営が何を考えているのかがわからない」という声が挙がっており、それを目の当たりにして、社員に声を届けることの難しさを知りました。
社長就任を前に、国内外の経営トップと話をする機会があったのですが、そこで気がついたのは、社長になったタイミングに、私が発信をしていくことの重要性でした。社員にとっては、新しい社長はどんな人物なのかということに興味がある時期ですから、それを逃さずにTown Hall Meetingを始めました。コロナ禍のタイミングだったため、オンライン配信でスタートすることになったのですが、結果として、より多くの社員にメッセージを届けることができたといえます。
新野さんの時には、毎回、現地の社員との対話にとどまっていましたから、それに比べると、波及の仕方はかなり違います。毎月発信することも大切で、年間12回というつもりで発信しています。四半期に1回程度の発信では足りないと思って、毎月実施しています。
――CEO Town Hall Meetingにはどんな姿勢で臨んでいるのですか。
森田: CEO Town Hall Meetingは、私にとっても社員にとっても重要な機会です。毎回、テーマをじっくりと考えて、それを伝えるようにしています。ただ、私が本当にやりたいのは、社員との対話なんです。でも、当初はなかなか質問をしてくれない。また、厳しい質問もなかった(笑)。
海外の場合は、「私の事業はノンコアなのか」とか、「自分が所属している事業は撤退するのか」といった質問が出ますけどね。日本では、質問をすると周りから、あとでいろいろと言われるという感じがあったのかもしれませんね。でも、いまはずいぶんと手が挙がるようになっていますし、社員の間にも、自ら意見を出すという雰囲気が生まれ始めていると感じています。
――50回続けてみて、うれしかったことはありますか。
森田: 社員に会った時に、「いつも楽しみにしています」といった声を聞くとうれしく思います。各地の拠点でリアル対話会を開催すると、事務局側が、握手会をしたり、社員と一緒に写真を撮ったりする機会を用意するのですが、私は恥ずかしいですし、行列してまでこんなおじさんと写真を撮ってどうなのかなぁとも思うのですが(笑)、それでも、みんなが盛り上がってくれていることは、うれしいですね。
また、社員と一緒に昼食を取る機会もあります。その場では、いろいろなことを直接言ってくれるように変わってきましたね。現場の困りごとを聞くと、本社で聞いている話とは違うなと思うこともあります。グループ会社の再編においても、自分の立場などについて不安を感じる社員がいて、その声も直接聞けますから、それに対して、サイトやメッセージを通じて、私が直接返事をするといったこともしています。
また、地方都市に行くと、地域に密着したグループ会社のプレゼンスの高さを感じます。ただ、たまに、NECが本当に地域に密着したビジネスができていないのではないか、と思えるような出来事にも遭遇します。肌感覚でそうしたことを知るのも大切なことです。
CEO Town Hall Meetingを50回やってみて、経営と社員の距離は確実に近くなっていることを感じますし、だからこそ、業績が上向いているのだといえます。そこに手応えは感じています。
――課題はありますか。
森田: 部長クラスの中間層との対話をもっと増やし、もっと活性化したいと思っています。いま、NEC社内では、さまざまな経営指標をダッシュボードを通じて社員全員が見られるようになっています。もはや、上司の命令を部下に伝達するという仕事はありませんから、中間層には戦略立案力や経営力がないと、一般社員の上司という役割がなくなってしまいます。部長クラスは責任を持っているビジネスを読み解き、競争環境や市場変化にあわせて適合させることが求められます。そこに知恵と力を発揮してもらいたいですね。
――中期経営計画では、エンゲージメントスコアで50%の達成を目指しています。CEO Town Hall Meetingは貢献していますか。
森田: 経営トップとの距離が近くなったという点での成果が出ていますから、エンゲージメントスコアの向上に対するCEO Town Hall Meetingの影響は大きいと思います。2024年度時点で、エンゲージメントスコアは42%に達しています。
――今後、CEO Town Hall Meetingは継続していきますか。
森田: このスタイルを継続するかどうかは別にして、社員との対話を続けていくことは大切だと思っています。経営テーマは常に変化します。経営トップは、その変化をどうとらえているのか、どう取り組んでいくかといった考え方を、しっかりと伝える場は必要です。また、中間層を活性化するという課題もありますから、そこに向けて変える必要があります。そうしたことを含め、形を変えながら継続をしていくつもりです。















