ニュース

日本HP、2025年度は「Future of Work」を推進 AI PCのポートフォリオを法人向けにも拡充

 株式会社日本HPは16日、記者説明会を開催。2024年11月からスタートしている同社2025年度の事業方針として、「Future of Work」を掲げた。

 AIによってデバイスの管理や生産性を高める「AIを活用したITプラットフォーム」の提供、パーソナルコンパニオンとなるAI PCを活用した「スマートテクノロジーとパーソナライズ体験」の実現、Polyが持つ映像や音声に関する技術をAI PCに取り込むことで実現する「高いコラボレーション体験」を柱に、Future of Workを推進していくことになるという。

企業の成長と従業員の充実感を満たす、Future of Workの実現をリード

 日本HPの岡戸伸樹社長は、「日本では、AI PC、ソリューション、製造DX、そして、日本HP社内におけるFuture of Workの推進を進めることになる」と説明。「今年は巳年である。蛇のように脱皮をして、ひと回りも、ふた回りも大きくなれるように、果敢にリスクを取り、ビジネスチャンスを獲得していきたい」と意気込みを語った。

日本HP 代表取締役 社長執行役員の岡戸伸樹氏

2025年度は個人・法人・プロフェッショナル向けにAI PCのポートフォリオを拡充

 AI PCについては、日本HP 執行役員 パーソナルシステムズ事業本部の松浦徹事業本部長が説明。「日本HPでは、2024年をAI PC元年と位置づけ、Copilot+PCに準拠した次世代AI PCのラインアップの強化と、AIの便益を享受してもらうためのセキュリティやHP eSIM Connect、Polyといった独自ソリューションを提供。顧客価値の提案にも力を注いできた」と、この1年の取り組みを振り返り、ハードウェアとソフトウェアの両面から強化してきたことを示した。

日本HP 執行役員 パーソナルシステムズ事業本部の松浦徹事業本部長

 同社によると、2024年度第4四半期(2024年8月~10月)におけるグローバルでのAI PCの販売構成比は15%にまで到達しており、2025年度には25%、2027年度には半数にまで拡大することを目標に掲げている。

 「2024年度は個人向けを中心にAI PCを提案してきたが、2025年度は、HP AI Companionや、最新のWolf Securityを搭載した法人向け次世代AI PCを発売し、個人向け、法人向け、プロフェッショナル向けにAI PCのポートフォリオを拡充することになる」と述べた。

 法人向け次世代AI PCとして、14型モバイルノートを発表。インテルCore Ultraプロセッサーを搭載し、最大で48TOPSの性能を持つ「HP EliteBook X G1i 14 AI PC」と、AMD Ryzen PROプロセッサーと55TOPSのNPUで、ローカルでAIを処理する「HP EliteBook X G1a 14 AI PC」を公開した。

法人向け次世代AI PC
HP EliteBook X G1i 14 AI PCを持つ日本HPの岡戸伸樹社長

 また、AIワークステーションでは、AMD Ryzen AI Max PROを搭載した世界初のモバイルワークステーション「HP ZBook Ultra G1a 14 inch」と、ミニワークステーション「HP Z2 Mini G1a Workstation」を発表した。

AIワークステーションの拡大
モバイルワークステーション「HP ZBook Ultra G1a 14 inch」
ミニワークステーション「HP Z2 Mini G1a Workstation」

 ゲーミングPC分野では、AIを活用することで、ワンクリックで最適なゲームパフォーマンスを実現するOMEN AIを実装すると発表。これにより、OMEN Gaming Hubに蓄積した数100万件のデータと機械学習モデルにより、ゲーム内設定とFPS向上との相関関係を検出し、最適な推奨設定を、ゲーム設定として保存できるという。

 そのほか、冷却機能を強化したゲーミングノートPCの「OMEN MAX 16」、コンパクトなゲーミングデスクトップPCの「OMEN 16L Desktop」に加え、 Google TVを搭載したHP初のゲーミングディスプレイ「OMEN 32xスマートゲーミングディスプレイ」、高機能なモジュラーマウス「HyperX Pulsefire Saga Pro Wireless ゲーミングマウス」および「HyperX Pulsefire Sagaゲーミングマウス」も発表した。

 「今後は、クラウドAIの活用だけでなく、ローカルAIの価値が新たに生まれることになる。パーソナルライズした体験が可能になり、迅速なフィードバックとコスト削減といったメリットも生む。安全、快適に、ローカルAIがもたらす価値を体験してもらうことに力を注ぐ」とした。

 特に、次世代AI PCの体験を加速させることができるツールとして説明に時間を割いたのが、HP AI Companionである。生産性を高めるための生成AIツールとPC最適化ツールを集約。内蔵したAIアシスタントが日常のタスクを自動化し、最高のパフォーマンスを実現することができるという。

 「検出、分析、Performの機能を持ち、プロンプトの入力によってインサイトを得たり、個人ファイルのカスタムライブラリを構築したり、PCとのコミュニケーションにより、パフォーマンス状態を可視化し、最適な設定が可能になる。これらの機能をワンストップで提供することにより、AI PCをパーソナルコンパニオンとして利用でき、個人の生産活動をサポートすることができる。より役に立ち、より信頼されたコンパニオンになるため、ハードウェアとソフトウェアを組み合わせた価値を提供する」と語った。

HPならではのAI活用ソリューション

 なおHPでは、世界12カ国、1万5600人のナレッジワーカー、IT意思決定者、ビジネスリーダーを対象にした「HPワークリレーションシップ・インデックス2024」を発表しており、これによると、AIを利用しているナレッジワーカーは、2023年の38%から2024年は66%に増加したことがわかった。日本では36%にとどまっており、まだ低い状況にあるが、増加傾向にある点では変わらないという。

 同調査では、ナレッジワーカーがAIを活用することで生産性を向上し、AIを積極的に活用するほど、仕事に対する関係が良好であるという結果も出ており、73%がAIは仕事を楽にしてくれると回答し、68%がAIは仕事を楽しむ新たな機会を提供してくれると感じていると回答している。

 国内におけるPCの導入事例についても紹介した。杏林製薬では、MR向けデバイスとして、960台のHP Dragonfly G4を導入。1)HP eSIM Connect対応ノートPCとして、au回線を利用したMVNOサービスにより、5年間に渡って無制限でのデータ通信利用が可能になった点、2)HP Protect and Trace with Wolf Connectにより、ノートPCの電源がオフの状態や通信がオフラインの状態でも、リモートでPCの位置を検索し、ロックおよびデータ消去を可能にすることができる点――が評価されたという。なお、HP eSIM Connect対応ノートPCは、現在、10機種まで拡大しているとのことだ。

杏林製薬はMR向けのデバイスとしてHP Dragonfly G4を960台導入

 さらにPCの領域においては、GIGAスクール構想第二期に向けて特化したPCを開発しており、日本の教育分野からの要望をもとに、仕様を決定。Chromebookを中心とした提案を加速する考えも明らかにした。

PC活用時の“安心安全”確保に向けたソリューションを強化

 2つめの「ソリューション」では、「Workforce Solutions」を軸として、AI PCをはじめとしたデバイスの管理や、生産性向上を実現する提案を推進。PC活用時の安心安全を確保するためのソリューションを強化するという。

 日本HP ワークフォースソリューション事業本部の前田悦也事業本部長は、「Workforce Solutionsは、ワークフォース、従業員、環境、生産性の向上により、テクノロジーを通じて、お客さまのビジネスを成長させることを目指している」と、狙いを説明。

 これを実現させるため、PCおよびプリンタ、周辺機器の導入から廃棄までの「ライフサイクル全体に渡ったサービス」の提供、カスタマイズやキッティング、マネージドサービスなどによる「カスタムサービス」、2025年春に提供開始を予定しているHP Workforce Experience Platform(WXP)、およびセキュリティを強化するHP Wolf Securityによる「ソフトウェア」の提案に注力するとした。

日本HP ワークフォースソリューション事業本部の前田悦也事業本部長

 WXPでは、PCやプリンタなどの稼働状況を可視化し、従業員体験や生産性を向上させることができるという。HPでも約8万人の従業員が利用するデバイスの環境をモニタリングしており、生産性向上に向けた改善や、買い替え時期の提案なども行っているという。

HP Workforce Experience Platform(WXP)

 また、HP Wolf Securityは、大企業および自治体向けの「HP Wolf Enterprise Security」、中堅中小規模企業向けの「HP Wolf Pro Security」を用意。MDMの「HP Wolf Connect with Protect and Trace」により、エンドポイントの回復力と保護を提供しているという。「HP Wolf Securityを、お客さまの形態にあわせた形で提供していくことになる」と述べた。

 なお日本HPでは、ここ数年、自治体分野に注力しており、ネットワーク分離ソリューションである「SecurityHP Sure Click Enterprise」の導入が相次いでいることも示した。

 さらに、仮想化技術を活用した中堅中小規模企業向けウイルス対策ソフト「HP Wolf Pro Security」を投入。次世代ウイルス対策とマイクロ仮想マシンによって脅威を封じ込める、多重防御が評価を得ているという。HP Wolf Pro Securityは、国際的な第三者評価機関であるAV Testから、TOP PRODUCTの認証も獲得している。

 今後の注力分野としては、大企業向けのセキュリティソリューションを挙げ、2025年春以降、リモートアクセスを脅威から保護する「HP Sure Access Enterprise」、製品製造後の物流過程での侵害から守るサプライチェーンセキュリティの「HP Enterprise Security Edition」を提供する予定も明らかにした。

HP Wolf Securityポートフォリオ
HP Wolf Pro Security
HP Wolf Enterprise Security

業界の変革や新たな価値創造に向け製造業のDXを支援

 3つめの「製造DX」では、印刷業界のデジタル化とともに、製造業における3Dプリンタの活用を促進。業界の変革や新たな価値創造に向けて、製造業のDXを支援するという。

3Dプリンタによって造形した部品など

 岡戸社長は、「デジタル印刷は重点項目のひとつである。ラベル印刷にも力を注いでいる。製造業の生産性を高めることができる」とした。

 KADOKAWAでは、所沢市の同社拠点にHPデジタル印刷ソリューションを導入し、8台が稼働。必要な本を、必要な人に、必要な時に届けることを目指した「出版製造流通DXプロジェクト」の推進を下支えしているという。

 ここでは、100部からの小ロット印刷や、最短1日での短納期製造および配送を実現することで、販売機会の損失を減らし、返本率を10%削減。廃棄を減少させることにより、利益率が向上し環境にも貢献しているとした。なおKADOKAWAでは、デジタル製造による書籍の累計発行部数が3000万部を突破したとのこと。

KADOKAWA:「出版製造流通DXプロジェクト」で、HPデジタル印刷ソリューション8台が稼働

 Agnaviでは、2021年の創業以来、日本酒を手軽に購入できる仕組みを構築。全国120以上の蔵元と提携して、200種類の地酒を販売している。従来の一升瓶から缶を使用した新しいスタイルでの提供を開始しており、缶ラベルの印刷には、HP Indigoデジタル印刷機を採用して、リードタイムの短縮を実現しているという。Agnaviでは、現在、海外10カ国への日本の販売展開を進めている。

Agnavi:日本酒を手軽に購入できる仕組みを構築し、缶ラベルにHP Indigoデジタル印刷機を採用

 SUBARUでは、コンセプトカーである「SUBARU LEGACY OUTBACK BOOSTGEAR PACKAGE」の部品製造に、HP Jet Fusion 3Dプリンタを活用。金型が不要であり、デザインの制約を縮小し、デザイナーのアイデアをそのまま実現した。短期間で、高品質な部品の試作が可能になり、時間とコストの削減につながったという。

SUBARU:3Dプリンティングを活用し、付加価値を創造

 なお米国では、業界初のインテリジェントな印刷体験と位置づける「HP Print AI」を、ベータカスタマーを対象に提供を開始した。印刷物の約半数を占めると言われるWebサイトの印刷の場合にも、広告部分を削除したり、タイトルの追加、グラフのフォーマット、最適なレイアウトなどを、AIによって行ったりしているとのことだ。

日本HP社内におけるFuture of Workの推進

 このほか、日本HP社内におけるFuture of Workの推進にも取り組んでいることも紹介した。D&Iの推進、AIの活用により、日本HP自らが、Future of Workの見本になるように働き方を変革していくという。

 日本HP 人事総務本部の濱岡有希子本部長は、「環境変化に対応する未来を見据えた人事戦略が必要であり、それがFuture of Work人事戦略になる」とし、人材の大流動化時代を迎え、社員が望むキャリアを築く必要があること、多様な人材と多様な価値観が求められ、個を尊重する働き方が必要なこと、AIに代表される急激な技術革新が進展しており、常に学び、成長する組織であることが求められていることを強調した。

日本HP 人事総務本部の濱岡有希子本部長

 日本HPでは、キャリア支援 AIツールのキャリアハブを導入。これまでの経歴を登録すると、社内で選択できる複数のキャリアパスが表示され、自らのキャリアを考えるためのヒントが得られるほか、スキルアッププログラムの提案を受けることもできる。

 また、四半期ごとに上司と対話する仕組みや、社内公募制度の実施なども導入した。社内の異動や登用の多くが、社内公募制度を活用したものだという。さらに、2007年からハイブリッドワークを導入しているほか、男性育休取得率が100%となり、ワーケーションの利用も促進していると説明した。

社員の成長意欲を促進する

 「全社員を対象にしたAI基礎研修の実施や、次世代リーダー研修の実施に加え、製品やサービスについて高度な技術を持つ人材に対する『日本HPエバンジェリスト』制度も開始し、リスキルや活躍の場の創出にも取り組んでいる」とし、「創業当初からHP Wayと呼ぶ企業文化があり、社員一人ひとりを尊重し、主体性を大切にするカルチャーがある。長い時間をかけて取り組んできた文化の上で、Future of Work人事戦略を推進することになる」と語った。

 また、2024年度は、社員のボンティア参加率が67%に達し、前年度から約20ポイントも増加しているという。さらには、中高生へのキャリア教育、高校生を対象としたサステナビリティ出張授業のほか、デジタル障害者手帳「ミライロID」を利用した特別価格での販売なども行っていることも説明した。

 岡戸社長は、「社員が業務の範囲にとらわれることなく、強みや情熱を生かして社会貢献している。これも、Future of Workの取り組みのひとつになる」と述べた。