ニュース

日本HPが2024年の事業方針について説明、国内では「革新的な製品とサービス」「信頼のサプライチェーン」など3点に注力

 株式会社日本HPは18日、2024年の事業方針について説明した。

 日本HPの岡戸伸樹社長は、「2023年は成長の年であり、新たな部門リーダーが就き、地固めを行った1年だった。これをベースに、2024年は、大きく飛躍する年になる。龍のような飛躍を遂げたい」と宣言。「前年度からのHP Future Ready戦略を継続し、『AI』、『柔軟性の時代』、『セキュリティ』、『サステナビリティ』の4つの成長機会にフォーカスする。特に、日本においては、『革新的な製品とサービス』、『信頼のサプライチェーン』、『サステナビリティ』の3点に徹底的に取り組む。この3点が飛躍の鍵になる」との方針を示した。

HP Future Ready戦略と4つの成長機会

 AIでは、AIチップを搭載したAI PCや、AIを活用したサービスの創出による事業への貢献、AIによる社内の生産性向上に伴うコスト削減の3点に取り組む考えであり、「2024年はAI PC元年になる。AI PCへの買い替えを促進し、この市場において、HPブランドをしっかりと定着させたい」と語る一方、柔軟性の時代およびセキュリティでは、ハイブリッドワークの進展をとらえ、「世界で最も安心安全なPCやプリンタを提供するメーカーとして、柔軟で、働きやすい環境を実現する」と述べた。また、サステナビリティでは、製品のライフサイクル全体において、環境に貢献する姿勢を強調した。

 国内事業戦略のひとつめに掲げた「革新的な製品とサービス」では、HPブランドによるAI PCの投入のほか、Windows 11へのマイグレーションやGIGAスクールプロジェクトといった大規模なPC需要の取り込み、デジタル印刷および3Dプリンティングにおける付加価値の提供に注力するという。

 岡戸社長は、「2023年の国内PC市場のブランド別シェアでは8期連続でトップシェアを獲得するなど、すべての事業において、目指していた目標を達成できた。2024年は、革新的な製品、サービスによって大きく成長していく」とした。

日本HP、2023年は成長、2024年は飛躍の年に

 日本HPでは、グローバルのメッセージとして、PCの定義を、「パーソナルコンピュータ」から、「パーソナルコンパニオン」へと変更。岡戸社長は、「AIによってPC市場が拡大し、PCにとって新たなジャンルが生まれる年になる。これまでのPCは、とっつきにくく、後ろに隠れている状況だったが、AIの出現によって、テクノロジーがわかりやすくなり、伴走者として、人々を支援することになる。AIがクラウドによるサービスから、エッジでAI処理を行ったサービスに変化し、応答速度は5倍ほど速くなり、コストは80%削減できる。AI PCは将来的には、40~50%の構成を占めることになるだろう。HPはシリコンベンダーとの緊密な協業により、新たなPCの船出をサポートしていく」と述べた。

日本HP 代表取締役社長の岡戸伸樹氏

 また、日本HP 執行役員 パーソナルシステムズ事業本部長の松浦徹氏も、「2024年はAI PCの幕開けの年になる」と前置きし、「生成AIをPCに搭載することで、信頼性やスピード、プライバシーの課題を解決でき、エネルギー効率が高まり、コスト削減にもつながるなど、ユーザーは多くのメリットを享受できる。HPのエンジニアリングの強みを生かして、ローカルAIモデルの実行に最適化したマシンを開発しているところである。PCは、パーソナライズ型のAIソリューションを実行でき、よりインテリジェントなパーソナルコンパニオンになっていく」と語った。

2024年はAI PCの幕開けの年に
日本HP 執行役員 パーソナルシステムズ事業本部長の松浦徹氏

 1月18日から国内販売を開始した「HP Spectre x360 16」および「HP Spectre x360 14」、ゲーミングPC「OMEN TRANSCEND 14」は、「パーソナルコンパニオンのスタートに立つ製品」と位置づけている。

日本で販売を開始したHP Spectre x360シリーズ
1.63kgの軽量化により持ち運びできるゲーミングPCのOMEN TRANSCEND 14

 また、KDDIの回線を利用し、5年間無制限のデータ通信利用が可能な「HP Dragonfly G4 法人限定HP eSIM Connectモデル」や、Polyブランドの周辺機器群によって実現する「ハイブリッドワーク」、室内を持ち運びが可能なデスクトップPC「HP ENVY Move」、957gの軽量モバイルPC「HP Pavilion Aero」、HP初の大容量インクタンク搭載プリンタである「HP Smart Tankシリーズ」などによる「ハイブリッドライフ」、新たに投入した「OMEN TRANSCEND 14」をはじめとしたゲーミングPCの「OMENシリーズ」、ゲーミング向け周辺機器の「HyperX シリーズ」による「ゲーミング」の展開を強化する。

Polyブランドの周辺機器群
957gの軽量モバイルPC「HP Pavilion Aero」
家のなかを持ち運べるHP ENVY All-in-One 24
HP初の大容量インクタンク搭載プリンタである「HP Smart Tankシリーズ」

 松浦執行役員は、「ハイブリッドワークの実現においては、生産性や効率性の向上、コラボレーションの質の向上、デバイス管理の効率化、セキュリティ強化とリスク軽減の観点から、具体的なソリューションを提供し、体験を向上させていく」と述べた。

 セキュリティについては、HP Protect and Trace with Wolf Connectを2024年に発売することを示した。紛失または盗難されたノートPCが電源オフの状態や、Wi-Fiやインターネットに接続されていない場合でも、グローバルレベルでPCのデータを確実に消去できるなど、ハイブリッドワークの提案において差別化になる機能としている。

セキュリティ強化とリスク軽減のためのHP Protect and Trace with Wolf Connect

 さらに、プリンティング分野では、多品種少量印刷やオンデマンド印刷に最適なデジタル印刷の提案を推進。高品質の印刷物を高い生産性で出力できることや、ワークフロー管理システム「HP PrintOS Site Flow Pro」による差別化のほか、世界最大のデジタル印刷ネットワークであるdscoopや、導入実績をもとにしたコミュニティによる情報共有といった事業開発支援プログラムを提供し、日本の印刷業界に向けてデジタル印刷機の導入促進を図るという。

デジタル印刷の事例

 日本HP デジタルプレス事業本部長の礪波徹氏は、「HP Indigoは、発表から20年を経過し、全世界119カ国、4199社に導入され、7598台が稼働している。世界中のPhotoBookの多くがHP Indigoで出力されている。また、工程の見える化、自動化により作業の効率化を実現している点も特徴である。グローバル印刷ネットワークを構築しており、日本、米国、ドイツといった消費地ごとの印刷会社を利用し、データのやり取りを行うことで、グローバル展開する際にも、適時、適量、適地での印刷が可能になる。製品の機能だけでなく、IT基盤やビジネス支援体制も強みになり、印刷分野におけるデジタル革新を推進できる」と述べた。

HP デジタル印刷機ソリューションの強み
日本HP デジタルプレス事業本部長の礪波徹氏

 最新の導入事例についても説明。岐阜県本巣市の大洞印刷では、HP Indigoによるデジタル印刷機の導入とともに、受注から出荷までのワークフローの最適化を実現。2021年の導入以降、デジタル印刷サービスは2桁成長を継続。デジタル化によって、グローバルで印刷ビジネスを展開し、2023年には600万以上の印刷物を制作した実績を持つ。現在、デジタル印刷の売上比率は25%に達しているという。2023年10月には、「HP Indigo 15K HDデジタル印刷機」を増設している。

大洞印刷が増設したHP Indigo 15K HDデジタル印刷機

 また、3Dプリンティングでは、最終製品での造形が進んでいることも明らかにした。

 トヨタ自動車のLEXUS LC500のオートマチックトランスミッション(AT)オイルクーラーのダクトに、パートナー企業であるSOLIZEが、HP Jet Fusionシリーズで製造したした3Dプリント製品を採用。国内自動車メーカーで純正部品に3Dプリンタを採用したのは、初めてのケースになるという。海外では、GMやフォルクスワーゲン、ロレアルなどが、3Dプリンタの造形物を利用している事例も紹介した。

3Dプリンタで作られた造形や部品など
米スポーツシューズブランド「Brooks」と提携して、3Dプリンタで造形したソールを利用した高機能ランニングシューズを商品化
GMは、シボレーSUV向けスポイラーの部品に3Dプリンタを利用
フェルクスワーゲンはロゴマークに金型に3Dプリンタの造形を活用している
HPの3Dプリンタ本体にも3Dプリンタで作られた部品を使用

 日本HPでは、2024年は、最終製品の製造を支援するソリューション提供に注力する考えを示しており、パラメータの設定などにより品質のばらつきを低減でき、作業者がいなくても次の造形を自動で開始する機能を搭載することで、生産性を大幅に向上したHP Jet Fusion 5600シリーズを新たに投入するほか、海外の成功事例から得た知見を活用して、3Dプリンタによる最終製品の製造を検討している顧客に製造ノウハウを提供するプロフェッショナルサービスも拡充する。

 2つめの「信頼のサプライチェーン」では、2024年7月に、東京都日野市の生産拠点での「MADE IN TOKYO」(東京生産)の開始から25周年を迎えることに触れ、その強みをアピールした。

 日本HP 執行役員 サプライチェーンオペレーション統括本部長の吉田敦子氏は、「MADE IN TOKYOでは、デスクトップPCやノートPC、ワークステーションのすべてを受注生産し、約30種類の製品、数十万通りの組み合わせに対応したカスタマイズPCを、5営業日のリードタイムで納品している」と述べた。

日本HP 執行役員 サプライチェーンオペレーション統括本部長の吉田敦子氏
東京生産の強み
PCだけでなくワークステーションも東京生産が行われている

 東京生産にこだわっている理由として、HP製品の顧客やパートナーの80%が、東京および東京近郊に営業拠点や倉庫拠点を持っていること、遠距離輸送による振動や衝撃の軽減が可能になること、気軽に製造ラインを見てもらい、意見をフィードバックできる環境が構築できることを挙げたほか、製造拠点と物流拠点を一体化し、部品倉庫や組み立てライン、出荷工程までを、1フロアで完結し、注文から出荷までの時間短縮を実現していること、きめ細かな生産計画と作業工程のデジタル化によって、受注数にあわせた生産台数の変更、稼働する生産ラインの柔軟性を持たせていること、バーコードによる工程管理や動作試験の完全自動化による効率化、人的ミスの削減を実現していることなどを示した。

 「物量が増加しても、5営業日の固定納期を可能にするには、正確な需要予測に基づいた人、モノ、場所、物流手段の確保が重要になる。デジタルデータを用いながら、ブレることのない供給体制を整えていく。日本HPに頼めば、5営業日で届くということを、もって知ってもらいたい」と語った。

 海外生産のコンシューマ向けPCや、プリンタやアクセサリでは、5営業日の固定納期をさらに短縮する準備を進めているという。

 岡戸社長は、「2024年からの旺盛な需要に対応するには、堅牢なサプライチェーンが必要である。ここに東京生産の価値を生かしたい。また、Polyとの統合による周辺機器の物量の増加にも、サービスレベルを維持し、遅延のない納期対応を図っていく」と述べた。

デジタルデータを活用した柔軟な供給体制

 3つめの「サステナビリティ」では、製品設計から製造、配送、利用、回収までのライフサイクル全体での環境の削減を推進していることを示した。

 PC本体に使用する再生プラスチックや再生金属の割合を増やしたり、最新のオールインワンPCではコーヒーかすを利用したりといった「持続可能な素材の利用」、すでに全世界で7000万台のPCにおいて、パルプモールドや段ボール緩衝材を採用している「梱包・配送」、PC業界最多となるEPEATゴールドおよびシルバーの認定取得による「高い環境配慮」、法人向けのPCリユースプログラムなどによる「リサイクル&リユース」に取り組んでいる。

 段ボールの緩衝材は日本で開発したものであり、これを他国の生産拠点でも採用しているほか、東京生産では、工場内の移動や配送に使用するパレットも紙製とし、今後は、紙製梱包テープの活用も検討していくという。

 また、法人向け「PCリユースプログラム」は、Windows PCやChromebookを対象に、企業が使用している製品を定額で買い取り、リサイクル&リユースを推進するもので、日本独自のサービスになるという。

 岡戸社長は、「HPのPCを利用するだけで環境に貢献することになる」と語った。

 なお今回の会見では、DE&I(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)の取り組みについても説明した。

 「日本HPが成長し、大きく飛躍するには、社員一人一人が活躍できる環境を整える必要がある」(岡戸社長)とし、リーダーシップチームでは42%を女性が占め、3年前の役10%から大幅に上昇したこと、管理職に占める女性比率が2023年度実績で13.6%となり、2025年度の12%の目標を達成したため、この目標を15%に上方修正したこと、男性の育休取得率が100%になったことを紹介した。

 さらに、社員のボランティア参加率が43.5%となり、ボランティア時間は前年比33.7%増と大きく拡大。毎月開催される同社本社が入居するビル主催の清掃活動「品ピカプロジェクト」への参加、都立高校の授業の一環として、HPの気候変動対策や DE&Iについての出張授業の実施のほか、江東区毛利小学校5年生を対象にしたプログラミング体験会では累計400人が参加した実績や、累計109冊の音声電子図書製作を支援し、誰もが公平に学べる機会を実現していることにも触れた。

ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョンの推進