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日本マイクロソフト、AI導入自治体など行政や自治体向けの取り組みを紹介

 日本マイクロソフト株式会社は30日、パブリックセクター事業本部が担当する、日本の政府・自治体向け取り組みに関する記者説明会を開催した。

 パブリックセクター事業本部では、1)課題に合わせた最適なDXアプローチ提案、2)組織文化の変革支援、3)信頼して使える最新のテクノロジー提供――をミッションとしている。

パブリックセクター事業本部 ミッション

 説明会では、このミッションに基づき、行政機関庁向けとして人事院などの導入例、自治体としては東京都中野区の導入例などを紹介した。日本マイクロソフト 執行役員 常務パブリックセクター事業本部長の佐藤亮太氏は、「自治体が抱えている課題、さらに住民に対してしっかりとサービスを届け続けるという責任に対し、テクノロジーが担える領域はまだまだ増えてくると思っている。我々が提供するAIが担うべき役割も非常に高いのではないかなと考えている」とアピールし、行政・自治体をサポートしていく姿勢を強調している。

日本マイクロソフト株式会社 執行役員常務 パブリックセクター事業本部長の佐藤亮太氏

 日本マイクロソフトでは、継続的に政府や自治体向け取り組みを進めてきた。例えば、岸田文雄内閣総理大臣が訪米した際の4月10日には、米本社が日本国内のAIおよびクラウド基盤強化のために、今後2年で約4400億円の投資を行うことを発表している。

 佐藤事業本部長は、「この発表は、単にデータセンターインフラに投資するということだけではなく、政府の取り組みと密接に連動しながら、日本のデジタル化および社会課題の解決に対しMicrosoftがしっかりと向き合う、という意味を込めた内容となっている。パブリックセクター事業本部としても、例えばリスキリングについては、40万人を対象に実施をしていく。パートナーと連携しながら、行政機関に対しさまざまな講座を提供し、教職員や医療機関などに対しても業務に役立つプロンプトの提供を行うなどして、リスキリングの支援をしていきたい」と投資だけでない支援を行う体制を持っていることを強調した。

 こうした取り組みだけでなく、日本法人のパブリックセクター事業本部が実施している継続的な行政機関向け取り組みとして、上記の3つのミッションをベースに、行政機関等への課題と支援として、以下の3つの取り組みを行っている。

・モダナイズ化と内製化:レガシー、オンプレ資産の多さ、内製化の遅れによるベンダー依存によるコスト増からの脱却
・DXの基盤となる組織風土のトランスフォーメーション:DXを実現するうえでの土台となる組織風土や文化を改善するための活動の必要性
・AIトランスフォーメーション(AX)の加速:人口減少の中、公共サービスを維持するためには最先端のデジタル政府の実現することが不可欠

行政機関等の課題と支援

 1つ目のモダナイズ化と内製化支援として、クラウド基盤の構築支援、ローコードツール活用支援を実施。2022年から2024年の2年間で、マイクロソフト製クラウド利用は3倍に、ローコードツール利用は2倍になった。

 「行政機関には、さまざまな理由で特殊なネットワーク環境があり、昔ながらの古いシステムが多い。組織内のデジタル人材がやはり少ないため、ベンダーに依存せざるを得ないという状況があることも皆さんご承知の通り。こうした点を改善するための支援を行っていく」(佐藤事業本部長)。

 事例としては、大阪市の「大阪市共通クラウド」、山梨県庁のローコードツールを活用した庁内開発が紹介されたほか、行政機関などのDXを支えるパートナーとして、NTT西日本がAzure資格保有者を増大していることも紹介された。

行政機関のシステムモダナイズ化や内製化を引き続き支援
大阪市事例:大阪市共通クラウド

 2つ目の組織風土のトランスフォーメーションとしては、マイクロソフト自身が培ってきた働き方改革の実践ノウハウをベースに、東京都に対しては2023年2月に締結した連携協定に基づくDX研修を提供するなど、連携協定を踏まえたDX支援を実施している。防衛省に対しては、複数年にわたる自衛官の受け入れ、セキュリティやAI等の最新の技術のトレーニング提供など、働き方改革推進を支援している。

 政府自治体は機密性が高い情報を多く取り扱っていることから、セキュリティ強化にも取り組んでいる。中央省庁に対しては、府省庁横断でのゼロトラスト環境移行への継続的な支援する。自治体に対しては、自治体特有の三層分離の環境に合わせた、セキュリティの個別自治体への支援を行っている。

東京都事例:連携協定を踏まえたDX支援

 それ以外の事例としては、人事院の働き方改革について、人事院 事務総局サイバーセキュリティ・情報化審議官 事務総局公文書監理官(併) 長谷川一也氏がオンラインで登壇。人事院が取り組んでいるDXについて紹介した。

 「人事院では、2022年度にネットワークシステムの更新を行った際、デジタル庁が運用するGSS(ガバメントソリューションサービス)に移行した。デジタル庁以外では最初のユーザーとなった。この移行を契機に、2025年度に予定している庁舎移転で新たなオフィスデザインとすることを目指し、人事院の働き方改革につながるDX推進計画を策定した。2022年度から段階を踏み、DX推進計画を進め、新庁舎では従来の固定席ではなく、場所にとらわれない働き方を実現するオフィス作りを進め、テレワーク推進につながる電話機のあり方、座席表システムなどを具体的に検討していく」

 具体的なDXの取り組みとしては、チェンジマネジメント(ADKARモデル)等を活用したDX推進のフレームワークを策定。職員、関係者へDXを実施することの必要性理解、意識付け、知識の習得、活用、実践、活用の定着など、タスクを積み上げスケジュールを作り、進行している。実施の際の順番、スケジュールをどう考えるかなどについてマイクロソフトの協力も得ながら進めていった。

 「庁内にGSSを浸透させるために、ボトムアップ、トップダウンの両方からアプローチを行った。変革を行うにはトップの理解も必要となる。局長以上の幹部を巻き込み、活動を行った。さらに、活動全体の底上げも兼ね、操作説明会を実施するといった活動も行った。イノベーター理論を活用し、アーリーアダプターとしてアンバサダー制度を開始し、利用層を広げていった」(人事院・長谷川氏)。

チェンジマネジメント(ADKARモデル)等を活用したDX推進のフレームワーク

 また、人事院では担当する人事制度について、電話やメールで照会を受け付けていた。従来は制度担当が別々に受け付け、照会結果も別々に管理されていた。デジタルではなく、紙で管理されることも多く、人事院内での共有も十分に行われていなかった。

 「今回、代表的な事項についてはFAQ化して閲覧してもらう仕組みを作った。その結果、照会しなくても済ませるものと、それでもわからない場合には個別に質問フォームを通じ、質問を受ける仕組みを構築した。受けた質問を回答するまでの進捗状況、現在のステータスを人事院側、質問者側の両方がシステム上で確認できるようにしている。質問内容を蓄積していくことで、質問内容はPR不足で質問が来ているのか、そもそもの運用見直しが必要なのか、さらに制度そのものの見直しが必要なのかといった気づきを得る機会となることも明らかになり、人事制度の改善につなげることも視野に入れている。システム自身も昨年11月に本府省に接続し、今年4月からは各省庁、地方機関にも接続を開始している」(人事院・長谷川氏)。

DXを通じた制度照会対応業務の抜本的見直し

 3つ目のAIトランスフォーメーションの加速についてでは、政府情報システムにサービスを提供していくためにはISMAPの取得する必要があることから、Azure OpenAI Serviceは2024年2月、生成AIサービスとして初めてISMAPを取得した。Copilot for Microsoft 365についても、6月中の申請に向けて監査を実施中だ。

 また生成AIを活用することで、働き方改革につながることを数字で示しながら導入効果をアピールし、さらに5月20日には官公庁・独立行政法人向け生成AIイベントを開催した。このイベントには、135人の省庁職員が参加し、登壇省庁のAIに関する取り組みが発表された。Copilot for Microsoft 365等の体験機会も実施し、AI活用を説明した。

 どんな場面でAIを活用するのが効果的なのかについては、自治体向けのハッカソン・アイデアソンを実施しているほか、150社のパートナーと連携し、行政機関のAI導入を支援していく。

 すでにAI導入検証を行っている行政機関も多いが、新たに省庁への導入を前提としたCopilot for M365の検証環境を6月から提供することを計画している。まず、希望する省庁に導入し、徐々に導入先を増やしていく計画だ。

中央省庁向け生成AIイベントの開催

 導入自治体として東京都中野区の酒井直人区長が登壇し、AI活用状況について説明を行った。中野区はJR中央線で新宿駅から4分と、利便性が高い地域にある。人口は33万人だが、そのうち3割以上が20代から30代と若年層が多い自治体となっている。

 「2024年5月に新庁舎に移転したばかりだが、移転前からペーパーレスを推進し、紙文書を4割削減し、テレワークシステム導入、Microsoft 365のプレ導入、連絡手段を電話とメールからチャットへと移管を進めてきた。移転後はさらに、フリーアドレス&ユニバーサルレイアウト、部長席も課長席もなしというオフィスへと進化している。モバイルノートPCの導入、Microsoft 365の本格導入、電話とPCを統合したTeams電話、BYODの実施など、場所にとらわれず、生産的・効率的に働ける新しい働き方の実現を目指している。それを実現するデジタル基盤整備に向け、マイクロソフトとの連携協定を2022年7月に締結している」(中野区の酒井区長)。

中野区長の酒井直人氏

 AI活用にも積極的で、すでに全職員がブラウザベースのCopilotを利用できる環境を構築した。今後さらにCopilot for Microsoft 365導入に向けた準備が進んでいる。

 中野区の酒井区長は生成AIを高く評価し、「現在、推進室内でCopilot for Microsoft 365の試行が進んでいる。私もすでに使っていて、自分が出た会議や出られなかった会議の要約といった作業に利用している。Copilot利用で効率的になることが多いと実感している。今後の利用については、アイデアソン、ハッカソンでさまざまなアイデアが出ているところだが、生成AIを使うことでさらなる効率化ができるのではないか、業務効率化によって自治体職員が本来やるべき業務に時間を割けるようになるのではないかという期待がある。中野区ではトヨタの改善方式を取り入れた改善運動を進め、年に一度の発表会を実施しているが、生成AIの改善事例についても発表会を行い、良い内容については全国で共有することができるのではないかと期待している」と、生成AI活用の先進自治体となることに意欲を見せた。

Copilot for Microsoft 365(生成AI)の活用状況