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2026年はAI活用の「実行フェーズ」へ――日本マイクロソフト岡嵜禎氏が語る、全社規模の変革を支える新戦略

 「2026年は、AIやAIエージェントの活用を、よりスケールし、よりスピード感を高めていく1年になる」――。日本マイクロソフト 執行役員常務 クラウド&AIソリューション事業本部長の岡嵜禎氏は、同社の2026年の取り組みについて、こう切り出した。

 マイクロソフトでは、「Work IQ」、「Fabric IQ」、「Foundry IQ」の3つの新たなソリューションを発表。ソリューションのレイヤーを「インテリジェンス」へと高め、顧客に新たな価値を提供するという。さらに、Azure AI Foundryから名称を変更するとともに提供範囲を拡張した「Microsoft Foundry」や、新たに発表した「Agent 365」によって、2026年のAI戦略を強力に推進することになる。

 岡嵜執行役員常務に、2025年の日本における取り組みを振り返ってもらうとともに、2026年の方針について聞いた。

日本マイクロソフト 執行役員 常務 クラウド&AIソリューション事業本部長の岡嵜禎氏

2026年はAIを全社規模で活用し企業や組織を大きく変革する実行フェーズに

 日本マイクロソフトの岡嵜執行役員常務は、2025年の取り組みについて、「手応えを実感できた1年であった」と振り返る。

 「マイクロソフトのAIやAIエージェントを、お客さまに活用していただき、喜んでいただくことができた1年。いまから2年前、3年前は、AIの導入効果について説明することに時間を割いていたが、いまではAIを活用した成果について、多くの声をいただくことができるようになっている。AIが当たり前のように使われるフェーズに入ってきた」と語る。

 その一方で、「2026年は、AIやAIエージェントの活用を、よりスケールし、よりスピード感を高めていく年になる」とし、「AIを全社規模で活用し、それにより企業や組織を大きく変革するための実行フェーズに入ってきた。日本マイクロソフトでは、それを支援するための製品、ソリューション、サポートを提供することになる」と語る。

 2026年の日本マイクロソフトの方針を実行する上で見逃せないのが、2025年11月18日から21日にかけて、米国サンフランシスコで開催した同社年次イベント「Ignite 2025」で発表した数々の製品、ソリューション、プラットフォーム群の存在だ。会期中の新たな発表は70以上にも上った。

 Ignite 2025には、顧客やパートナー企業など、全世界から約2万人が来場し、オンラインを通じて約20万人が視聴。日本からも600人が現地参加した。前年にシカゴで開催した「Ignite 2024」の現地参加者が1万人と発表されていたことに比べると、参加者数は2倍規模になっており、AI時代におけるマイクロソフトへの関心が高まっていることを裏づけている。

 ここで掲げたのが、「Frontier Transformation(フロンティア組織への変革)」である。

 AIやAIエージェントの先進的な活用により、組織を変革していくことを支援するものであり、2025年春以降、同社が積極的に発信しているメッセージだ。

 岡嵜執行役員常務は、「AIに関するPoCを行ったり、一部に試験導入をしたりといった段階は終わり、企業が全社的に、あらゆる領域でAIを活用し、変革をしていく段階に入ってきた。経営に対するマインドセットの変革を進め、全社規模での活用を前提とした動きが始まる一方で、フロンティア組織になるために必要なプラットフォームや管理性、ユーザビリティの進化、ノウハウに注目が集まっている」とし、「Ignite 2025では、Frontier Transformationを実現するための製品群が出そろい、そのための方法論も提示することができた。企業においてAIを拡張するために必要な、AI時代の新たなエンタープライズアーキテクチャを提案できたともいえる」と語る。

フロンティア企業への成功フレームワークとアプローチ

 また、「現地参加した日本のお客さまやパートナーからも、自分たちが必要だと思っていた機能がそろってきたという声が上がったほか、AIエージェントの開発にも選択肢と柔軟性が生まれ、活用を促進できる環境が整ってきたという声が出ている。さらに『マイクロソフトの考え方に乗るのも悪くないと感じた』との声もあった。AI活用がスケールするフェーズに入る中で、日常的に使用しているOfficeの中にシームレスにAIが入っているというマイクロソフトの環境が有効である点も、多くの企業から評価されている」と語る。

 日本は、APAC地域において、最もFrontier Transformationが進展している国に位置づけられているという。これを示すように、Ignite 2025でも、ソフトバンク、富士通、NTTデータ、日本ビジネスシステムズ(JBS)、楽天グループ、日立製作所などが、AIを活用した先進事例を発表してみせた。また、Copilotの日本での利用は、米国に次いで世界で2番目に多いという実績があり、米国ではフォーチュン500の90%の企業でCopilotを利用しているのに対して、日本では日経225の85%の企業が利用。「大規模でのAI導入が増加しているのが、2025年の傾向だったといえる」と振り返った。

Ignite期間中の日本の顧客事例

フロンティア組織の実現に向けた3つのアプローチ

 では、日本マイクロソフトの2026年の取り組みにつながるポイントはどこにあるのか。

 それは、Ignite 2025で新たに打ち出したフロンティア組織の実現に向けた3つのアプローチにある。

 これらのアプローチは、これまで同社が、フロンティア組織への「成功のフレームワーク」として掲げていた「従業員エクスペリエンスの強化」、「顧客エンゲージメントの改革」、「ビジネスプロセスの再構築」、「イノベーションの加速」の4点を実現するための具体的な取り組みといえるものになる。

マイクロソフトのAI戦略ビジョン

 ひとつめは、「AI in the flow of human ambition(人間の目標達成のプロセスの中にAIを置く)」である。

 岡嵜執行役員常務は、「AIを活用する際に、中心となるのは人であり、人の意図をAIがくみ取ることが重要になる」とし、「ここでは、Work IQが果たす役割が大きい」と語る。

 Work IQは、仕事のために設計されたAIと位置づけられており、Copilotの有償版で利用できる。ファイルやメール、会議などの企業データや個人データなどによる「Data」、個人のスタイル、習慣、関係性、ワークフローなどによる「Memory」、データとメモリ全体から得られる文脈に基づいたインサイト、予測的アクションによる「Inference(推論、予測)」の3点から構成している機能で、ユーザーやユーザーの業務、ユーザーの企業のことを理解できるようにする「インテリジェンス レイヤー」と位置づけている。

Work IQ

 インテリジェンス レイヤーという表現が理解しにくいが、日本マイクロソフトでは、人の脳に例えて、次のように説明する。

 人間の脳は、触ったり、見たりしたものを感じ取る感覚の層、感じたものや認識したものを覚える記憶の層、感覚や記憶をもとに推論し、意思決定を行う層の3つに分かれている。Work IQも、これらになぞらえて、「Data」、「Memory」、「Inference」の機能によって、業務データや個人のスタイル、関係性などをもとに、論理的な意思決定を行えるというわけだ。

 「Work IQでは、昨日の会議のデータや、過去のやりとりなどをもとに、その日にやっておくべき作業を提案するといったことができる。マイクロソフトのOfficeアプリケーションは、多くの人たちが、日常的な業務で使用しており、多くのDataやMemoryが蓄積されている。Work IQがDataやMemoryのコンテキストを理解することで、すぐに新たな体験ができるようになる。そして、Work IQは、あらゆるエージェントへのアクセスの窓口になり、お客さま独自のエージェントやAIアプリケーションを開発することができる」とする。

 また、Work IQでは、コネクタにより、ほかのアプリケーションに蓄積したデータも利用できることも示した。

 さらに、マイクロソフトでは、Word、Excel、PowerPointにおいて、Agent Modeを追加することも発表。これを組み合わせることで、Copilotとの反復的な作業を通じて、高品質なOfficeドキュメント、スプレッドシート、プレゼンテーションを作成できるようになる。

 「Agent Mode in Wordでは、契約書テンプレートに基づいて、ドラフトを作成するといった指示ができるほか、メールを参照して自動的に請求書フォーマットに転記したり、会議のデータを参照し、自動的に議事録フォーマットに転記したりといったことができる。さまざまなフォーマットの書類を利用している日本のお客さまには最適な機能のひとつになる」とした。

Agent Mode in Word

 2つめは、「Ubiquitous innovation(組織全員が利用できる場所にAIを)」である。

 AIおよびAIエージェントを活用したイノベーションがあらゆるところで生まれることを前提にした取り組みで、「データとビジネスの現実世界を橋渡しして、分析し、推論し、新しいイノベーションを促進することができる」とする。

 ここでは、「Microsoft Foundry」が重要な役割を果たす。

Microsoft Foundry

 「Microsoft Foundry」は、これまでAzure AI Foundryと呼ばれていたもので、Azureの領域だけにとどまらず、開発者向けにはGitHub Copilot、ドメインエキスパートに対してはCopilot Studio、個人ユーザーであればMicrosoft 365 Copilot App Builderといった形で、幅広い領域からMicrosoft Foundryを通じてツールやサービスを提供する。なお、Microsoft Foundryでは、1万1000以上のモデルも選択可能になっているという。

あらゆるユーザーにAIアプリ・エージェント開発を

 また、モデルだけにとどまらず、エージェントサービス、IQ、ツール、機械学習、コントロールプレーンといった領域からも提供。これにより、あらゆるユーザーが、より高度なAIアプリケーションやAIエージェントを開発することを支援するという。

AIアプリとエージェント用の包括的な基盤

 Microsoft Foundryは、すでに全世界で8万社以上が活用している実績があるが、その中でも最大のユーザーのひとつがマイクロソフト自身であることに触れ、「Copilotの開発にも、Microsoft Foundryを活用している。実績を持つ、先進的なソリューションである」と定義した。

 Ignite 2025で大きな注目を集めたのが、Anthropicとの戦略的提携の拡大であるが、これに伴い、Microsoft Foundryを通じてAnthropicの最新モデルを選択できるようになったのも大きな動きのひとつだ。

 「お客さまやパートナーからは、驚きとともにポジティブな反応が出ている。モデルには、それぞれに得意不得意があるのに加えて、モデルそのものも日進月歩しているため、タイミングによって最適なものが変わる。お客さまにとって重要なのは、どのモデルを使うかではなく、なにができ、ビジネスにどう貢献するかという点である。Microsoft Foundryでは、そのための選択肢が広がることになる。現時点で、OpenAIの最新モデルのほかにAnthropicの最新モデルを選べるプラットフォームは、Azureだけである」と胸を張った。

 また、Microsoft Foundryでは、モデルルーターを通じて、クエリーに対する最適なモデルによる回答を行えるようにしているが、ここにもAnthropicのClaudeが加わることで、モデルルーターの価値を高めることにもつながっている。

 一方、AIエージェントの開発においては、構造化データと非構造化データの双方を理解する必要があるが、ここにも「インテリジェンス レイヤー」が重要な役割を果たす。

 マイクロソフトでは、構造化データおよび非構造化データを問わずに、あらゆるデータにアクセスできる領域として「インテリジェンス レイヤー」を設け、ここに、先に触れたWork IQだけでなく、新たに発表したFabric IQおよびFoundry IQも、「インテリジェンス レイヤー」を構成する要素に含めている。

 岡嵜執行役員常務は、「日々の業務に関するデータなどを取り扱うのがWork IQであるのに対して、意思決定などに必要な情報などを取り扱うのがFabric IQ、外部からの情報を取り入れたり、AIを実行したりする際のデータ統合についてはFoundry IQが役割を担うことになる」と語る。

インテリジェンス レイヤー

 Fabric IQはMicrosoft Fabricの中に位置づけられ、AIが理解しやすいデータ環境を整備し、データの意味をとらえたAI活用が可能になる。そのために、Semantic ModelsやOntology、Digital Twin Builder、Graph、Data Agents、Operations Agentsの機能を用意。ビジネスとデータの関連性を体系的に理解し、AIエージェントの精度改善や生産性向上を実現することができるという。

 「ライブで統合されたビジネスコンテキストを基盤に、業務アクションに結びつけることができる。従来のAIは、文脈がないテーブルをひとつずつ読み取り、データの意味を推測しながら動いていたが、Fabric IQにより、人が望むような回答をAIエージェントが出し、業務を支援できるようになる」とする。

 例えば、フライトの遅延が発生しても、AIはこの情報をもとに、どの顧客に対して、どのような影響が発生し、どう対応すべきかといったことはわからなかったが、Fabric IQを用いることで、顧客、予約、飛行機情報、運行状況、オペレーションといったビジネス上のロジックそのものをAIに渡すことができ、悪天候で遅延が発生すると予測した場合、影響する顧客の特定、代替案の提示、地上係員への通知まで、人間の判断を待つことなく、AIエージェントが指示することが可能になる。

 また、Fabric IQは、Microsoft Fabricの中に位置づけられるOneLakeとも連携しており、Amazon S3やGoggle BigQuery、Databricksなど、散在したデータも活用し、意味づけすることができる。

 「Microsoft Fabricによって、AI変革のための統合データプラットフォームを実現できる」とした。

AI変革のための統合データプラットフォーム

 一方、Foundry IQは、先に触れたMicrosoft Foundryの中に含まれるもので、Ignite 2025では、「Foundry IQ by Azure AI Search」として説明。データを取り込む際にはインデックス化を行い、データを統合し、すべてのデータをまたいでセマンティックリランキング(Semantic Reranking)を行い、ユーザーが必要な情報を取得する環境を構築できるようになるという。また、データ活用についても、Azure AI Searchが持つAgentic Retrievalの機能を活用する際に、LLMとの対話履歴をはじめとしたエージェントのスキルを適用。クエリーを分解し、書き換えて、適切な検索結果を導き出すことができるという。

 そして、3つめが「Observability at every layer(AIに関する全リソースを観測可能に)」である。強力なAIエージェントをしっかりと制御し、エージェントと人の共存を踏まえ、可視化し、管理、セキュリティ、ガバナンスをより強化することで、AI活用における攻めと守りを両立させることができるという。

 ここでは、Agent 365が重要な役割を果たす。すべてのエージェントのコントロールプレーンであり、エージェントを安心して管理、保護できるようにするための基盤となる。最適なAIエージェントを発見する機能のほか、そのAIエージェントが、どのデータにアクセスできるのかといった管理、AIエージェントごとの使用頻度のモニタリング、AIエージェントを不正に利用しようとする動きに対しても管理することが可能になる。また、企業の一部で問題となっている「野良AI」や「野良AIエージェント」の課題にも対応できる。

 「Copilot StudioやMicrosoft Foundryで開発したAIエージェントは、Agent 365に自動的に登録され、管理できる。また、ServiceNowやGoogleなど、他社のプラットフォームで開発したAIエージェントも管理でき、マルチAIエージェントの環境にも対応する」という。

全てのエージェントのITコントロール基盤

 Agent 365のベースになるのは、Microsoft Entra Agent IDであり、人のID管理と同じように、AIエージェントの管理と制御を行うことができる。これにより、人とAIエージェントが協調動作する世界を実現することが可能になるというわけだ。

Microsoft Entra Agent ID

 さらに、セキュリティにおいては、「エブリーロール、エブリーレイヤー」という考え方を打ち出し、CISOやセキュリティリーダー、セキュリティ部門においては「Security Dashboard for AI」、開発者にはMicrosoft Foundryによる「Foundry Control Plane」、IT部門やDX部門には「Agent 365」により、各役割に最適なダッシュボードを提供する環境を整えてみせた。

各役割に最適なダッシュボードを提供

 Microsoftでは、米国アトランタに、最新のAI専用データセンターを建設することも発表している。

 フットボール場に換算すると20個分の広さを誇り、NVIDIAの最新GPUであるGB200およびGB300を稼働。2階建て構造とすることで、屋内に敷設するケーブルの距離を短くし、世界で最もGPU密度が高いデータセンターを構築するのが特徴だ。また、AI WAN構想を採用し、複数のAIデータセンターを連携させた稼働を視野に入れている。さらに、循環型の液体冷却システムも採用している。

 「AzureによるAIサービスは、飛躍的なコスト削減を実現しており、2023年4月のGPT-4に比べて、2025年4月のGPT-4.1では93%のコスト削減につながっている。また、Azure Copilotでは6つのAIエージェント機能を追加し、AIエージェントのライフサイクルマネジメントを強力に支援することで、人は、より本質的な仕事に携われるようにシフトしている。世界最先端のAI専用データセンターにより、この動きはさらに加速する」と述べた。

最新のAI専用データセンターを建設

 日本におけるAI専用データセンターの建設計画は具体化していないが、マイクロソフトでは、日本国内のAIおよびクラウド基盤強化のために、2年間で約4400億円を投資することを2024年4月に発表。今後は、国内におけるAI専用データセンターへの取り組みも視野に入ってくることになりそうだ。次のステップの発表が気になるところだ。

 2026年の日本マイクロソフトの取り組みも、基本方針は、「フロンティア組織への変革」を支援することに変わりはない。

 岡嵜執行役員常務は、「マイクロソフト自身も、フロンティア組織への変革を進めている。AIのトップランナーを実現しながら、ビジネスを成長させていく。成長にあわせて人を増やすのではなく、AIやAIエージェントを活用することで、フロンティア組織への変革を進め、そこで得たノウハウを、日本の企業に還元していくことになる。日本におけるフロンティア組織への変革を支援していきたい」と抱負を述べる。

 2026年も、AIを主軸に据える姿勢は変わらないが、フロンティア組織への変革を支援するためのインフラやプラットフォームの構築、体制強化などに重点を置く1年になりそうだ。