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日本企業が生成AIを効果的に活用するには?――、日本マイクロソフトのパートナー戦略

 日本マイクロソフト株式会社は16日、生成AIの活用促進を目指したパートナー戦略について説明会を開催した。説明会では、日本マイクロソフト 執行役員 常務 パートナー事業本部長 兼 ISV ビジネス統括本部長の浅野智氏が、生成AIの現状と課題を説明。その上で、株式会社日立製作所(以下、日立) Generative AIセンターの吉田順氏と、株式会社ギブリー 取締役 Operation DX部門長の山川雄志氏が、それぞれ自社の生成AIに対する取り組みを紹介した。

日本マイクロソフト 執行役員 常務 パートナー事業本部長 兼 ISV ビジネス統括本部長 浅野智氏

 まず浅野氏は、生成AIついて「ChatGPTは登場からわずか2カ月で1億ユーザーを達成し、InstagramやTikTokを上回る驚異的な普及速度を見せた。人気の秘訣(ひけつ)は、人間の創造性や生産性、スキルを大きく補完する点だ」とした。

 浅野氏はさまざまなデータから、現在グローバルでは75%のナレッジワーカーが職場でAIを活用していることや、マイクロソフトのCopilotの利用者が1日の業務時間の30分を節約していること、65%の企業が生成AIをビジネスに取り入れていること、さらにはAIへの1ドルの投資が約3.5倍のリターンをもたらすとされていることなどを紹介した。

生成AIの現状

 一方で浅野氏は、PwCコンサルティングの調査を引き合いに出し、「日本での生成AIの利用率は9%にとどまっており、初動は速かったが現在は他国より利用率が低い」と指摘。また、生成AIの活用効果について「期待を大きく上回っている」と回答した日本企業がわずか9%であること、さらには日本企業が直面している課題が「スキルを持った人材の不足」(64%)「ノウハウの欠如」(49%)「ユースケースの不足」(45%)であることなども挙げた。

 このことから浅野氏は、「日本企業がAIを効果的に活用するには、具体的な活用方法やノウハウの蓄積、データとセキュリティの統合的アプローチが必要。また、AI活用の目的を明確にし、データ戦略を整え、推進計画とリソースを確保することが重要だ」と述べた。

生成AIの活用に必要なこと

日立が社内と顧客の事例を紹介

 続いて日立製作所の吉田氏が登場し、生成AIの導入事例を紹介した。吉田氏は、生成AIのニーズは全業種で広がっているものの、社内環境を整備しても実際の利用率は数割程度にとどまっているケースも多いことから、「ユースケース作りが重要だ」と主張する。

日立 Generative AIセンター 吉田順氏

 まず吉田氏が紹介したのは、日立社内のIT領域おける事例だ。Microsoft Azure OpenAIサービスやGitHub Copilotを活用し、「システム開発の生産性を30%以上向上した」と吉田氏。現在は、要件定義や保守を含むシステム開発工程全体へのAI適用を計画しているという。

 社内のコンタクトセンターでは、生成AIがオペレーターを支援。RAG(Retrieval-Augmented Generation)技術やAIエージェントを駆使し、複雑な問い合わせへの対応時間削減を図っており、「対応時間を最大75%短縮する見込みが立っている」(吉田氏)という。

 顧客事例としては、Azure OpenAIとAzure AI Searchを活用した事例を紹介。ある企業でシステムマニュアルや就業規則などの検索を効率化し、月間の情報収集時間を50時間から15時間に短縮したことや、製造業の顧客が熟練者のナレッジをAIに学習させ、仕様書作成時間を50%削減したことを紹介した。

 これらの事例をさらに推進するため、日立グループは2027年までに5万人の「GenAI Professional人財」を育成する計画を進めているという。「今後は、単なるユースケース作りから業務全体のDX推進へと発展し、投資対効果が高まるだろう。最終的には、マイクロソフトとともにさまざまな分野における人手不足の解消に取り組んでいきたい」(吉田氏)とした。

日立のさまざまな事例

生成AIを浸透させるメソッドとは

 次にギブリーの山川氏が、顧客事例と生成AIを浸透させるメソッドを語った。山川氏によると、すでに同社では生成AIの支援実績が500社以上にのぼっているという。その中で山川氏は、住友商事の事例を紹介した。

ギブリー 取締役 Operation DX部門長 山川雄志氏

 住友商事は、早期に約9000人の従業員にCopilotを全社導入した企業だ。しかし、導入初期には予想通りの効果が得られず、むしろ業務時間が増加するケースも見られたという。

 そこでギブリーでは、ユースケースを洗い出し、従業員が各自の業務でCopilotを効果的に使用できるようなプロンプトをまとめ、ゴールデンプロンプト集として配布した。

 そのひとつに、発言録や議事録の作成プロンプトがある。住友商事では、従来のTeams会議の要約機能だけでなく、詳細な発言録を効率的に作成したいと希望していたことから、ギブリーでは複数のCopilot機能を組み合わせた独自のワークフローを開発した。

 具体的には、Teamsでの文字起こしデータをCopilotのチャットで整え、Wordで編集、最終的にOutlookで共有するといった一連の作業を、プロンプトのコピー&ペーストで活用できるようにしたという。これにより、「従来4時間かかっていた議事録作成作業が2時間に短縮され、生産性が大幅に向上した」と山川氏は述べている。

ギブリーによる住友商事の事例

 山川氏は、社内に生成AIを浸透させるためのメソッドとして、「ユースケースの開発が重要なため、DXチームと現場のスタッフが協力し、どのようにAIを活用するかを特定、アンバサダーを設置して推進とモニタリング体制を構築する。その上で、実際の業務で使えるゴールデンプロンプトを作成、成果を社内で共有して新たなユースケースとしてナレッジ化し、定着を図ってもらいたい」と語る。

 また、経営陣のコミットメントも欠かせないとし、「生成AIの活用によって生産性向上に貢献した従業員を評価する報酬制度を整備することも重要だ」としているほか、「ユーザーのプロンプト作成スキルを向上させることや、AIが業務に溶け込むようなUI/UXの開発も必要だ」とした。

生成AI事業化支援プログラムが新たな段階へ

 最後に浅野氏は、日本マイクロソフトが生成AI活用の拡大を目指し、パートナー企業との協力を強化していることを強調。2023年10月から開始した「生成AI事業化支援プログラム」には、1年間で約160社のパートナー企業が参加し、4000人以上がAIスキルを習得、250を超える生成AI活用事例が生まれているという。

 今後1年間の第2期では、「参画企業を250社に拡大し、活用事例を300件増やすことを目指している。また、AIトレーナーの数を4000人から1万人に増やし、さらなる人材育成を通じて日本全体のAIスキル底上げを図りたい」(浅野氏)とした。

第2期生成AI事業化支援プログラムのゴール