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AIで3D CADを大衆化する! 仏ダッソー・システムズが年次イベントでビジョンを発表
3DEXPERIENCE World 2026基調講演レポート
2026年2月3日 12:25
仏ダッソー・システムズ(Dassault Systemes)は、2月1日(現地時間)から同社のSOLIDWORKS製品の年次イベント「3DEXPERIENCE World 2026」を、米国テキサス州ヒューストン市のジョージ・R・ブラウン・コンベンション・センターにおいて開催している。
実質的な初日となった2月2日には、基調講演に相当する「General Session」が行われ、ダッソー・システムズ CEO パスカル・ダロズ氏、ダッソー・システムズ R&D担当副社長 兼 SOLIDWORKS CEOのマニッシュ・クマー氏などが登壇した。
この中でダロズCEOは「AIはエンジニアを置きかえるものではない。AIはエンジンであり、コンパニオンだ」と述べ、同社がSOLIDWORKSなどに導入を進めている生成AIを活用した「バーチャルコンパニオン」は、デザイナーやエンジニアを置きかえるものではなく、人間が持つアイデアを効率よく形にするために手助けをするものだと強調。昨年は構想だけだったバーチャルコンパニオンのデモを行った。
こうしたバーチャルコンパニオンをSOLIDWORKS製品に実装していくことで、これまではハードルが高かった3D CADを、専門知識がないユーザーでも簡単に使えるようにすることで誰もが3D CADを活用して設計を行い、シミュレーションを活用できる世界観を実現していくと表明した。
エンタープライズ向けのCATIA、SMB向けのSOLIDWORKSなどの3D CADで知られるダッソー・システムズ
フランスのダッソー・システムズは1981年に創設されたソフトウェア企業で、CATIAと呼ばれる3D CAD(3D Computer Aided Design、3次元コンピューター支援製図)ツールを提供する企業として、航空宇宙産業を主要な顧客としてスタートした。その後、CATIAはエンタープライズ(大企業)向けの3D CADの事実上の標準のような存在になっており、今や航空宇宙産業だけでなく、自動車メーカーでも基本設計のツールとして使われるようになっている。
そうしたCATIAに対して、今回の3DExperience Worldの主要テーマであるSOLIDWORKSは、1993年に創業した同名の3D CADソフトウェアを販売する企業で、1997年にダッソー・システムズに買収されている(現在はダッソー・システムズの子会社となるDassault Systems SolidWorks Corporationが販売する形になっている)。CATIAが大企業向けとされているのに対して、SOLIDWORKSの方はSMB(中小企業)向けとされていることに特徴があり、多くのユーザーに利用されているのがCATIAとの大きな違いになる。
SOLIDWORKSは、基本的に、PC上のローカルアプリケーションとして永続ライセンスが販売されてきたが、近年はダッソー・システムズ全体が「3DEXPERIENCE」というブランドのもとでクラウドシフトを進めており、クラウドベースのアプリケーションとしてもライセンスが販売されている。ダッソー・システムズは3DEXPERIENCEにおいて、統一されたデータモデルを導入し、複数のアプリケーションから協調して編集を行う機能などの実装を進めており、SOLIDWORKSもそうした製品群の1つと位置づけられている。
同社の製品は、自動車メーカー、航空機メーカー、重機メーカーといった製造業のエンジニアが製品を設計し、仮想空間上でシミュレーションを行うのに使われている。例えば、自動車メーカーであれば、CATIAで設計した3Dデータを元に、シミュレーションで衝突試験や走行試験を行い、そうしたデータを元に実車の試作車を作成し、さらにそのデータをCATIAに戻して…といった、仮想空間と実空間を行ったり来たりする設計手法が今や一般的で、こうした開発手法は「デジタルツイン」と呼ばれている。CATIAやSOLIDWORKSなどの3D CADは、このようなデジタルツインの開発ツールとして使われているのだ。
AIは人間のエンジニアを置きかえるツールではなく、人間を助けるツールであると強調したSOLIDWORKS CEO
これらの製品を手掛けるダッソー・システムズが開催している年次イベントが、3DEXPERIENCE World 2026だ。
CATIAなど複数の製品が存在する3DEXPERIENCE製品の中でも、SOLIDWORKSに焦点を当てたイベントになっており、実質的な初日となった2月2日の基調講演に相当するGeneral Sessionには、ダッソー・システムズ CEO パスカル・ダロズ氏、ダッソー・システムズ R&D担当副社長 兼 SOLIDWORKS CEO マニッシュ・クマー氏などのダッソー・システムズの幹部が登壇し、同社のビジョンなどについて説明した。
クマー氏は「AIは人間を置きかえるものではない。あくまでAIはエンジンであって、それを操作するのはエンジニアだ」と強調し、昨今のAIの急速な普及などでささやかれている「AIは人間を置きかえる」という議論は間違っていると指摘した。
クマー氏は「AIはあくまでイノベーションを実現するための基礎部分にすぎない。例えば産業革命では蒸気機関が発明され、それから汽車が発明され、蒸気船が発明され…というイノベーションが起こった。AIも同様で、AIをベースにして今後新しいイノベーションが起こされていくのだ」と述べ、今後AIが物理的なデバイスを動かしたり、別の新しいアプリケーションが発明されたりして、イノベーションが起こっていくだろうと指摘した。
ダッソー・システムズは、昨年の3DEXPERIENCE World 2025において、同社が「バーチャルコンパニオン」と呼んでいるAIチャットボットを、SOLIDWORKSなどに実装していくことを発表している。昨年の段階では、一般向けのAURA、よりエンジニアに特化したLEO、科学者に特化したMARIEという、それぞれ得意分野の異なる3つのバーチャルコンパニオンを提供する構想が明らかにされていた。
そうした中で、クマー氏が何度も「人間を置きかえるものではない」と強調した背景には、同社の顧客から現在SOLIDWORKSを使っているエンジニアが不要になるのではないか――という懸念が寄せられたことに応える狙いがあったとみられる。クマー氏がAIはエンジニアを助けるものだと強調することにより、そうしたエンジニアの懸念を否定した形だ。
バーチャルコンパニオン「LEO」のデモを実施、PDFの2D図面から生成AIが3Dモデルを自動生成
そうしたクマー氏の後を受けて登壇したのが、ダッソー・システムズ CEO パスカル・ダロズ氏。ダロズ氏も「AIはエンジンであり、コンパニオンだ。すべてをエンジニアがコントロールする」と述べ、AIは人間を支援するものであり、人間がアイデアを出し、操作の指示を行い、決定は人間が責任を持って行う点を強調した。
その上で、同社の基本的なAIの考え方として「AI for Industry」(産業界のためのAI)や「Industry World Models」(産業世界モデル)という言葉を使いながら、信頼され、安全で、各国の事情に即したAIを提供し、産業界のニーズに応えていくことが同社の方針だと強調した。
さらにダロズ氏は「生成経済(Generative Economy)はバーチャルの経済とリアルの経済が統合されたものだ。それをわれわれはデジタルツインと呼んでいる。そうした世界ではエンジニアは毎日何かのIPを生み出しており、それが価値につながっている。われわれはそうしたエンジニアたちをサポートするために、デジタルツインを3D Universeへと進化させる。以前からわれわれが提供してきたモデリングやシミュレーションだけでなく、それらの作業をAIが支援する」と述べ、最近同社が積極的にマーケティング用語として使っている、AI支援のデジタルツインを意味する「3D Universe」を挙げ、コンピューターによるモデル作成やシミュレーションなどの作業をAIが支援するソリューションが3D CADの未来の姿だと訴えた。
その上で、同社が昨年発表した3Dモデルやシミュレーションを行う時にAIによる支援機能を提供する3D CAD専用の「バーチャルコンパニオン」(AIチャットボット)を紹介した。
前述の通り、同社のバーチャルコンパニオンには、一般的な作業を担当するAURA、作図などの支援を行うLEO、科学演算の支援を行うMARIEの3つがあり、名称はAURAが「Assisting You(U) Realize Ambitions」から、LEOは15世紀のイタリアの科学者で建築家のレオナルド・ダ・ヴィンチから、MARIEは19世紀から20世紀の科学者マリー・キュリー(日本ではキュリー夫人として知られる科学者)から取った名称になっている。
それぞれが得意分野を担当し、エンジニアが3Dモデルを作成する際に支援することで生産性を上げ、将来は3D CADの大衆化(誰もが使えるようになること)を実現していくと説明した。
その上で、再びステージに登場したクマー氏がLEOのデモを公の場では初めて行い、PDFから読み込んだ2Dの図面から、LEOが3Dモデルを生成し、それをSOLIDWORKSで編集する様子を公開した。
SOLIDWORKS CEOは将来は誰もが3D CADを使えるようにしたいとアピール
基調講演終了後に記者向けの説明会に登場したクマー氏は、AURA、LEO、MARIEという3つのバーチャルコンパニオンに関してさらに説明を行った。
こうしたバーチャルコンパニオンが3つに分かれている理由について「それぞれ得意分野があるからだ。AURAは一般的な作業に適しており、LEOはエンジニアでありビルダーで、MARIEは科学者でありリサーチャーだ。AURAはコンテキスト(文脈)を理解して答えを出し、LEOはモデルを構築してくれ、MARIEは科学的な問題に答えを出してくれる」と述べ、それぞれの得意分野があるため、3つのバーチャルコンパニオンに分かれているのだと説明した。
また、企業にとって重要なIP(知的財産)を学習に使われてしまうのではないかという恐れに関しても「基本的にわれわれのAIは、われわれが用意したデータだけで学習しており、顧客のデータは学習には使わない。今後、顧客が自身のデータでAIを再学習させ、カスタマイズしたいと考えた場合に限り、そのデータを利用可能にするが、その成果がほかの顧客に提供されることはない」と述べ、あくまで顧客のデータは学習に使わないので、自社のIPがほかの顧客のノウハウとして使われる心配などはないと強調した。
クマー氏は「SOLIDWORKSは、3D CADを誰でもデスクトップで使えるようにと30年前に創業した会社だ。今は、誰にとっても生成AIを活用すれば画像生成は容易になっており、もうPhotoshopを使いこなす必要がなくなっている。われわれがSOLIDWORKSとAIで実現したいと考えているのも、そういうこと。SOLIDWORKSを使えば、3D CADに深い知識がなくても、誰もが何かを設計したりできるようになるCADの大衆化だ」と述べ、バーチャルコンパニオンを利用してもらうことで、これまで3D CADを利用していなかったユーザーでも、簡単に3Dの製図をしたり、SOLIDWORKSのシミュレーションツールで動作をシミュレートしたりできるようになる世界を目指したいと強調した。


























