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キヤノンITS、「サービスシフトの加速」など3つの軸で長期ビジョン達成と中期経営計画の推進を図る
レガシーマイグレーションに関する事業戦略も説明
2024年10月29日 06:15
キヤノンITソリューションズ株式会社(以下、キヤノンITS)は28日、2025年度の事業戦略について説明。「サービスシフトの加速」、「システムインテグレーションの質的転換」、「エンゲージメント経営の強化」の3点に取り組み、2020年に策定した長期ビジョン「VISION2025」の達成とともに、2025年度を最終年度とする中期経営計画戦略を推進する考えを示した。
キヤノンITSの金澤明社長は、「2024年度は、SIおよびITインフラ構築の好調、文教市場での大型案件の獲得などにより、堅調な成長を続けており、2024年度の売上高は当初計画を上回る。2025年度には売上高1500億円超を目指す」と述べた。
2025年度には、全社売上高で2021年度実績の1.5倍(2021年度実績は976億円)を計画。そのうち、システムインテグレーションモデルの売上高は同1.3倍、サービス提供モデルの売上高では同2倍を目指す。ビジネス共想人材数では5倍の増員を目指すとした。
「売り上げを牽引しているのは、システムインテグレーションモデルである。だが、サービス提供モデルは高い目標を立てており、WebPerformer-NXなどの新たなサービスを、より大きく花開かせるとともに、現在準備しているサービスの種を確実に成長させ、既存サービスの強化と新たな市場の獲得に取り組む」と抱負を述べた。
キヤノンマーケティングジャパン(キヤノンMJ)グループでは、2025年度にITソリューション事業で売上高3000億円を掲げているが、これを1年前倒しで達成する見込みを明らかにしている。好調なグループ全体のITソリューション事業の牽引役を担っているのが、キヤノンITSとなる。
なおキヤノンMJでは、同社が買収したTCS株式会社を、2025年7月1日に、キヤノンITSに統合することを発表している。ITインフラの設計や構築、システム保守や運用、データセンターに関する技術や人材を統合し、ITプラットフォーム事業の強化と拡大を図る考えだ。
3つの事業モデルで成長を図る
キヤノンITSでは、「サービス提供モデル」、「システムインテグレーションモデル」、「ビジネス共創モデル」の3つの事業モデルを推進するとともに、重点事業領域として、クラウドセキュリティ、データセンター、スマートSCM、エンジニアリングDX、車載(CASE)、金融CX、アジャイル開発プラットフォームを掲げている。2025年度売上高の25%以上を、重点事業領域で占める目標を掲げており、その達成が視野に入っているという。
「サービス提供モデル」では、ローコード開発プラットフォームの「WebPerformer-NX」や、クラウドベースの次世代EDIサービス「EDI-Master Cloud」に力を注ぐほか、クラウドセキュリティのラインアップを強化し、年内にも複数のサービスを提供する考えを示した。また、教職員の業務を効率化する「in Campus School IS」により、新たに小中学校向けビジネスに注力するほか、画像解析AIシステムの開発を支援する「Bind Vision」を通じてAIの活用支援にも取り組んでいくという。
「業種や業界に特化したサービスの提供や、自社データセンターを活用したサービスの提供により、ストックビジネスの比率を向上させていきたい」と述べた。
「システムインテグレーションモデル」については、従来型SI開発において、SIモデルの質的転換を推進。個別システムの構築にとどまらず、業務領域全般のシステムデザインや、IT戦略や事業戦略を支援するパートナーとして、課題への対策を検討する「課題解決型SI」を進めていくことになる。具体的には、物流の2024年問題に対応するためにスマートSCMによるサプライチェーン支援を推進。数理技術を活用することで、生産、在庫、物流、販売などのプロセスを適切に計画、管理し、意思決定をサポートし、社会課題への対応を図っていくという。
「システムインテグレーションモデルの売り上げは、年初計画通りに進捗している。ITライフサイクルをフルにサポートする案件が増えている。また、ITに関する課題に限らず、事業戦略全体にひもづく課題解決に向けた提案依頼が増えている。これにより、上流領域へのシフトが進み、案件の大型化が進んでいる」という。システム化の企画段階から参画した事例や、車載領域でのビジネスの拡大といった動きが増加していることも示してみせた。
「ビジネス共創モデル」においては、同モデルの累計案件数が、2021年から10倍になっているのに合わせて、ビジネス共想人材を計画的に育成していることを強調。「DX戦略の策定支援や、数理技術を活用したコンサルティングなどにより、真のDXである事業拡大や競争優位性の獲得といった点でのサポートが増えている。専門人材によるコンサルティングが評価されており、システムの企画、設計、構築につながる案件が増加している。ビジネスデザイナーとビジネスサイエンティストを増やすことで、より多くの顧客のDXの推進に伴走していきたい」と語った。
また研究開発組織のR&D本部では、数理技術やソフトウェア技術、言語処理技術、映像解析技術に取り組み、ソリューションやサービスを創出。AIに関しては、特に注力している分野とし、言語生成AIでは、外部の生成AI実用化推進プログラムに参加し、対外活動も活発化させていることを紹介した。ここでは、顔映像解析により、メンタルヘルス状態を推定する技術を学会で発表したことも報告した。
さらに、人材育成では、AIやデータサイエンス、クラウド、セキュリティといった高度IT人材に注力。先端技術や時流に沿った領域を強化している。中でも、AIおよび生成AIの領域では、ビジネスへの活用を促進することを目的とした専門組織を新設。「提供価値を収益に転換し、人やモノへの積極的な投資を進めていく」としている。
キヤノンITSが取り組んでいる長期ビジョン「VISION 2025」では、「先進ICTと元気な社員で未来を拓く共想共創カンパニー」を目指す姿に掲げ、「戦略志向で事業モデルの転換に挑戦する」、「お客さまとの信頼関係を深める」、「社員と会社の絆を強める」の3点を変革の方向性に位置づけている。
「VISION 2025に向けて、順調に成長を続けているが、達成に向けては重点的に取り組むべきテーマがいくつかある。サービスシフトの加速では、新たなサービスの創出やストックビジネスの強化が進むものの、既存事業におけるサービス提供型ビジネスの拡大がこれからは重要になる。システムインテグレーションの質的転換では、お客さまにとって替えが効かないITパートナーとなるために、人材や体制の強化、開発の生産性向上、品質管理を徹底する必要がある。さらに、エンゲージメント経営の強化として、現在の取り組みを着実に進めながら、社員とお客さまに寄り添う会社として、さまざまな施策に挑戦していく」と述べた。
マイグレーション事業の強化を図る
一方、説明会では、マイグレーション事業戦略に関する説明に時間を割き、2027年度には、2023年度比で約4倍の事業規模に拡大すること、生成AIを活用したマイグレーション事業の生産性向上を図る考えなどを明らかにした。また、富士通製メインフレーム向けマイグレーションツールの機能拡充を図ることなども発表した。
金澤社長は、「『2025年の崖』を目前にし、レガシーシステムへの対応は、時間との勝負になっているが、その対処は道半ばだと認識している。当社の30年におよぶマイグレーションの実績と経験を生かし、DXに向けた土台づくりを支援する」とした。
同社の調査によると、マイグレーションについて検討段階、未検討の企業は、依然として65%以上を占めているという。
マイグレーションには、リホスト、リライト、リビルドの3つの方法があるが、キヤノンITSでは、リホストの提案に力を注ぐという。
キヤノンITS 常務執行役員 デジタルイノベーション事業部門担当の村松昇氏は、「メインフレームユーザーは、メインフレーム技術者の不足、システムの複雑化やブラックボックス化、そして、メインフレームの維持費が高額であるという三重苦に加えて、システム更新の期限が迫っているという課題がある」と前置き。
「リホストによって、短期間に安心、安全な移行が可能になり、現行業務を解析せずにツールを使った移行が可能である。そして、リホストによる最大のメリットはコストダウンにつながる点である。システムが大規模であるためリビルトではメインフレームの更改までに間に合わない企業、社内のITリソースやスキルが限られる企業、低コストで短期間に移行し、ROIを安定的に確保したい企業に、リホストは適している。まずはDXレディの状態を作ることが肝要であり、リホストにより2年程度で一時コストを回収し、3年目以降でDXに戦略的に投資ができるようになる」とした。
キヤノンITSでは、リホストの提案において、同社独自の言語変換ツール、データ変換ツールなど、100%自動変換を追求したツールの提供によって、テスト工数の大幅な削減とともに、資産凍結期間の極小化を実現できるとし、多くの移行方式のなかから顧客に最適な移行技術を提案できると述べた。
また、キヤノンITS社内にマイグレーション専門組織を設置し、ITコンサルタントやプロジェクトマネージャー、エンジニアが三位一体で対応できる体制を整えており、マイグレーション特有のプロジェクトの進め方を熟知し、レガシーとオープンの両方の知識や技術も蓄積。プロジェクトの企画段階から、サービスインまで、寄り添いながらプロジェクトを推進できるとした。
さらに、大規模メインフレームからの移行をはじめとして、1992年以降、約30年間で120件のマイグレーション実績を生かせる点も強みになると述べた。
キヤノンITS ビジネスソリューション第二開発本部長の山口富氏は、「前身の住友金属システム開発の時代から、鉄鋼メーカーのメインフレームを対象にしたマイグレーションを出発点とし、業種やシステムの種別を問わずに多くの実績を積み上げてきた。実績の主体は、数100万ステップ以上の大規模案件であり、移行元メインフレームと、移行先オープンシステムは多様な組み合わせを経験している。マイグレーション特有のプロジェクトマネジメントを確立し、独自のツールも磨き上げてきた。これにより、落とし穴や無駄なプロセスを回避し、成功への最短ルートを取りながら、安心、安全、確実なマイグレーションを実現できる」と自信をみせた。
今後のマイグレーション戦略についても言及。キヤノンITSの山口本部長は、「現在は、変換ツールによるマイグレーションが主流だが、現状の変換ツールでは、オープンCOBOLや、COBOLの概念を引きずったJavaである“JaBOL”への変換にとどまる。今後は生成AIの活用を進め、COBOLからピュアJavaへの移行を進めることができる。この技術を大規模システムにどう適用していくかが、これからのポイントになる。さらに、RAG活用によるマイグレーション作業の生産性と品質の向上、若手技術者のスキル補完にも活用したい」と述べた。
なお、キヤノンITSでは、富士通製メインフレーム向けのツールの機能拡充を発表した。販売終了を公表している富士通製メインフレームから、オープンシステムへのマイグレーションを検討するユーザーが増加していることを受けた措置で、オンラインやデータベース、言語変換ツールの機能を拡充。富士通のMSP特有の言語記述や特別な機能にも広く対応し、オープンシステムへの移行性を高める。
「特に、AIM/DCやデータベースからの移行性を高めている。高品質で、リスクの低いマイグレーションを提供できる」としている。
また、メインフレームと高い互換性を持つオンライン基盤ソフトウェアを提供することも発表。CICSやIMSなどのオンライン制御機能をオープンシステム上で代替し、多重実行制御や端末管理などのプログラムの修正を最小限にとどめ、メインフレームと同等の処理を実現する。オンライン基盤ソフトウェアは、運用開始後も保守サポートを提供し、最新OSにも対応。安心、安全な運用を支援する。