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キヤノンITS、中期経営計画の進捗状況を説明 全社売上高は2023年度見通しでは1.3倍に到達

 キヤノンITソリューションズ株式公開(以下、キヤノンITS)は17日、2025年を最終年度とする中期経営計画の進捗状況について説明。2025年度の全社売上高は、2021年度比で1.5倍の目標としているが、2023年度見通しでは1.3倍に到達。サービス提供モデルの売上高は、2.0倍の目標に対して1.3倍に、ビジネス共創人材は5.0倍の目標に対して1.8倍といった進捗状況にあることを報告した。

 キヤノンITSの金澤明社長は、「中期経営計画の初年度となる2023年度は、売り上げ、利益ともに計画を上回る見通しである。大規模プロジェクトをはじめとしてSIビジネスが活況であり、システム稼働もスムーズに行うことができた。一方で、サービス提供モデルは、想定の売り上げには達しているが、新たなサービスの立ち上げには課題が残った。サービスの発掘やこれを作り上げるスピードをさらに速めること、それに取り組む人材の強化などに取り組んでいきたい」と述べた。

キヤノンITS 代表取締役社長の金澤明氏

 同社では、以前から得意とする「システムインテグレーションモデル」、蓄積した技術やノウハウを活用してサービスを提供する「サービス提供モデル」、顧客と新たなビジネスを創出する「ビジネス共創モデル」の3つの事業モデルを軸に展開。また、業種別事業部門として、製造・流通ソリューション事業部門と、金融・社会ソリューション事業部門で組織を構成するとともに、横断型事業部門として、ITプラットフォーム事業部門とデジタルイノベーション事業部門を設置している。2023年10月には、財務会計および人事ソリューションを開発するグループ会社のスーパーストリームを、デジタルイノベーション事業部門に吸収。関連技術や人材を集結することで開発体制を強化し、成長戦略を加速する考えを示した。

VISION2025
事業を展開する組織体制

 3つの事業モデルのなかで最も力を注いでいる「サービス提供モデル」では、付加価値が高く、使いやすいICTサービスを幅広い顧客に提供していると述べ、2023年度の売上高は前年比22%増の見通しになることを公表。当初計画を5%上回ることになるという。データマネジメントやデータセンターサービスの引き合いが活発であることが要因で、2025年度に向けて、年平均成長率16.3%増という高い伸びを見込んでいる。

 2023年度は、市場訴求力の強化に向けて、ITインフラサービスである「SOLTAGE」のリブランディングを実施し、企業ITにトータルで貢献できる提案を加速。新たなサービスとして、ゼロトラストセキュリティに対応した「ゼロデイ攻撃対策サービス」、「UTMセキュリティ運用支援サービス」、データ暗号化ソリューションの「Cipher Security Service」など、セキュリティサービスを拡充した。今後、認証基盤サービスや脆弱性対応サービスを提供する計画も明らかにした。

サービス提供モデルの進捗

 また、大学への導入実績を生かして開発した小中高向けサービス「in Campus School IM」により、教育DXを推進。AIや画像解析技術を生かして災害対策につなげる「煙検出AI連携サービス」、AIを活用して業務負荷を軽減する検査プラットプラットフォーム「Visual Insight Station」を提供したほか、EDIサービスやローコード開発プラットフォームである「WebPerformer」などの既存サービスも、導入が着実に進んだという。

 「業種や業界に特化したサービスの提供や、自社データセンターを活用したサービスの提供により、ストックビジネスの比率を高めている。また、新たな市場に向けたサービスの創出にも取り組んでいる。また、事業拡大に向けた事業投資も行っている」と述べた。

 同社では、小中高向けICT 事業の強化では2022年12月にチエルと資本業務提携を発表。デジタルヘルスサービス事業の強化では、2023年8月にドクターズと資本業務提携を結んでいる。

事業拡大に向けた事業投資

 「システムインテグレーションモデル」は、課題解決型SIを起点として、顧客のITライフサイクルをフルサポートするビジネスと位置づけている。

 2023年度の売上高は前年比14%増になる見通しで、計画を4%上回る進捗となっている。2025年度に向けて年平均成長率7.0%を見込んでいる。

 具体的な事例として、大手製造業では既存事業の設計や開発スピードの迅速化と、新規事業への対応に備えるために基幹システムの刷新を実施。流通業ではシェア拡大のために、業界内他社やその顧客も利用できるプラットフォームをシステム化する案件を担当。物流危機や環境負荷の低減につながる提案を支援したという。

 「顧客深耕への取り組みにより、案件の大型化が進んでいる。システム開発のみならず、企画や設計などの上流領域に加え、運用や保守にも対応し、ITライフサイクルのフルサポートでも実績を積み重ねている。大型案件にも対応できる企業としての認知が広がっている実感がある。また、プロジェクト管理や品質管理への継続的な取り組みが評価されている」と自信をみせた。

 また、社内に開発業務改革委員会を新設し、標準開発プラットフォームの開発や、開発パートナーとの戦略的関係構築に取り組んでいることも示した。

システムインテグレーションモデルの進捗

 「ビジネス共創モデル」では、データドリブン経営の実践や、事業拡大や競争優位性の確立に向けたDX支援を行うビジネスと位置づけ、2021年度から、専門組織により事業を本格化している。「DXビジョン策定」、「DX実践・展開」、「DX定着化・CX改善」の3つの観点からDXを推進しており、案件規模は年々拡大傾向にあるという。2023年度の売上高は2021年度の約6倍に拡大する見通しだ。

 「共想共創活動の実績の積み上げを通じて進化する多様なサービスによって、当社ならではの価値を提供している。当社の強みである数理技術者によるコンサルティングがお客さまに響いており、その手応えを感じている。さらなる体制強化を急いでおり、ビジネス共創人材の育成にも取り組んでいる」とした。

ビジネス共創モデルの進捗

 さらに、中期経営計画では、重点事業領域として、スマートSCM、エンジニアリングDX、車載(CASE)、金融CX、アジャイル開発プラットフォーム、クラウドセキュリティ、データセンターの7つをあげ、「重点事業領域は、継続的な収益向上を期待する領域と、当社の強みを生かす領域であり、2025年度には売上高の25%をこれらの事業で占めることになる」との計画も示した。

重点事業領域

製造・流通ソリューション事業部門の事業戦略

 今回の説明会では、製造・流通ソリューション事業について、時間を割いて説明した。

 キヤノンITS 取締役常務執行役員 製造・流通ソリューション事業部門担当の大久保晴彦氏は、「システムインテグレーションモデルを主軸としながら、お客さまとともに DXを実現するビジネス共創モデルと、新たなサービスを創出するサービス提供モデルを拡大しているところである。ビジネス共創で業務改革や潜在課題の顕在化を図り、システムインテグレーションにより最適なシステムを提供する。さらに、プラットフォームをもとにビジネスサイエンスの観点から、新たなサービスを創出し、より多くのお客さまに事業価値提供を行っていくことを目指している」と説明。

 「新たな事業価値を共想共創で生み出すこと、お客さま固有の課題に対して、最適なシステムの提供により解決すること、業種や業務の共通課題を解決する新たなサービス提供モデルの創出することが、製造・流通ソリューション部門における事業戦略の柱になる」と位置づけた。

キヤノンITS 取締役常務執行役員 製造・流通ソリューション事業部門担当の大久保晴彦氏

 製造・流通ソリューション事業においては、業務知見、数理技術、IT基盤技術に強みがあると強調。独自ソリューションを通じて価値提供が行えることを訴えた。

 だが、「SEに依存するシステムインテグレーションモデルからの転換は一部必要であると考えており、業務標準化に向けたテンプレートの品ぞろえを強化している。新規サービスの展開に向けて、プラットフォームの創出を目指している」と述べた。

製造・流通ソリューション事業部門の強み

 製造・流通ソリューション事業の主力製品が、基幹業務トータルソリューション「AvantStage」である。

 ベストオブブリード型で提供するSCM/ERP基幹業務トータルソリューションであり、各業務システムは、多くの企業への導入実績と高い評価を受けているソリューション群で構成。旧住友金属システムソリューションズ時代から約60年に渡って蓄積してきた数理技術やR&D技術を活用。さらに、AIを組み合わせることで、差別化したソリューションを提供することができるという。

 2025年には、AvantStageによるビジネス全体で100億円超を目指す考えも示した。

基幹業務トータルソリューション「AvantStage」

 AvantStageファミリーの新たなソリューションとして、サプライチェーン計画ソリューション「SCPlanet」を発表した。これは、中期経営計画の重点事業領域のひとつである「スマートSCM」に向けたソリューションとなる。

 生産計画や物流計画をはじめとしたサプライチェーン計画全体を最適化し、サステナブルで、強靭なサプライチェーン構築を支援。同社が培ってきた計画系システム開発の経験や技術、ノウハウを共通フレームワークとして構築。独自の数理技術を活用することにより、多段階や多拠点の生産、物流工程における生産状況、販売の計画、在庫の状況を把握し、各拠点や各工程における生産と補充のタイミングを自動的に決定できる。

「SCPlanet」の紹介

 キヤノンITS 製造・流通ソリューション事業部門製造ソリューション事業部の岩男公秀事業部長は、「サプライチェーン計画においては、計画業務のサイロ化、計画担当者の属人化や職人化による過負荷、芸術の域達したExcelによる計画の立案といったように、極めてベーシックな課題が存在している。こうした課題を解決するのが計画ソリューションのSCPlanetであり、数理技術による長年の研究の成果をもとにしたオリジナル技術によって、課題解決を実現する」と述べた。

 対象となるのは、年商500億円規模を超える企業であり、すでに素材製造業、化学製造業、電子部品製造業などで先行導入が行われている。パッケージではなく、ライブラリーで構成したフレームワークソリューションとして提供するため、価格は個別見積もりとしている。

キヤノンITS 製造・流通ソリューション事業部門製造ソリューション事業部の岩男公秀事業部長

キヤノンMJグループ全体におけるITソリューション事業の牽引役に

 なおキヤノンITSは、キヤノンマーケティングジャパングループの1社であり、同グループ入りから20年目の節目を迎えているという。キヤノンMJグループが掲げる2025年度のITソリューション事業の売上高3000億円の実現に向けて、中核的役割を担っている企業だ。

 キヤノンITSの金澤社長は、「大手企業や準大手、中堅企業を対象にしたエンタープライズセグメントにおいて、業種ごとに異なる経営課題の解決や、社会課題の解決への貢献が役割であり、お客さまに最適なITソリューションを、パッケージやシステムインテグレーション、サービスで提供するビジネスを担っている。キヤノンMJグループ全体におけるITソリューション事業の牽引役としての役割が期待されている」とコメント。「2025年度までの売上高年平均成長率は13.5%となっている。達成は簡単ではないが、いまの勢いを引き継ぎ、利益ある成長を続ける。さらに、M&Aや資本業務提携などを含め、市場への提供価値の拡大を継続し、キヤノンMJグループ内でのキヤノンITSの売上構成比を高めていく」と述べた。

 人材への投資として、ビジネス共創人材、サービス創造人材、SI共創人材の育成を加速。データサイエンティストやセキュリティアナリストなどの高度IT人材の育成も推進しているという。

変革と継続的な成長を実現するための投資

 キヤノンITSでは、2020年に策定した長期ビジョン「VISION2025」において、「先進ICTと元気な社員で未来を拓く共想共創カンパニー」を目指す姿に掲げ、「戦略志向で事業モデルの転換に挑戦する」、「お客さまとの信頼関係を深める」、「社員と会社の絆を強める」の3点を変革の方向性に位置づけている。また、「顧客とともに考え、顧客とともにビジネスを作りだせる企業を目指している」との方針も打ち出している。

 さらに、エンゲージメント経営として、2023年4月に、顧客ロイヤルティ向上に取り組む専門組織を新設。顧客接点の多様化と相互コミュニケーションの強化を推進しているところだ。

VISION2025で打ち出している3点の変革の方向性

 キヤノンITSの金澤社長は、「お客さまと、より深く長くお付き合いすることで、お客さまの生涯価値をあげるとともに、お客さまとの接点強化により新たなビジネス機会を創出していく」と述べた。

 さらに、2023年度からサステナビリティ戦略を刷新。「ICTを通じた社会への価値提供」と「社会からの要請および期待への対応」の観点から、8つの戦略をまとめたことも紹介した。なお、同社の西東京データセンター2号棟が、東京都環境局による「優良特定地球温暖化対策事業所」に認定されたことも報告した。西東京データセンター1号棟は2020年に同認定を取得している。

サステナビリティへの取り組み:西東京データセンター