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生成AI活用で日本は効率性向上、米国は競争優位性向上を目指す段階へ――、PwC Japanグループ調査
2024年10月7日 12:00
PwC Japanグループは4日、同社が実施した生成AIに関する実態調査について説明会を開催した。PwCコンサルティング 執行役員 パートナーの三善心平氏によると、これまで日本は生成AIの業務活用において他国を先行していたが、今では米国に追い抜かれているとし、その現状と日本企業に求められることについて語った。
日本が生成AIの活用で他国より進んでいた理由について三善氏は「これまで日本ではDXで大きな成果を出している企業が少なく、ビジネスの存続可能性について強い危機感があったため、生成AIに飛びついた。また、ドキュメントを多く扱う日本独自の文化と生成AIとの親和性が高かったことも要因だろう」との見解を示す。実際に、生成AIの具体的なユースケースや技術検証も、米国やほかのアジア諸国よりも日本での件数が多かったという。
ただし、それは去年までのことだ。今年4月に日本、そして5月に米国で実施した調査にて、生成AI活用の推進度合いを調べたところ、日本では「活用中」が43%、「推進中」が24%と、合計67%が推進中以上と回答した一方で、米国では「活用中」は日本と同じ43%だったものの、「推進中」が48%にのぼり、合計91%が推進中以上と回答、日本を大きく抜く格好となった。
生成AI活用での課題と期待
生成AIの活用にあたっての課題についても、日米で差が見られると三善氏は言う。日米ともに、スキルを持った人材が不足していることがトップに挙げられているものの、次いで挙げられた課題が日本では「ノウハウ不足」や「活用のアイデアやユースケースがない」など、知識不足が中心である。これに対し、米国では技術活用のリスクが大きいことや、周囲からの理解を得ることが難しいといったように、実行面や運用面に近い課題を挙げている。このことからも、「日本はまだ初期の検討段階や企画段階で試行錯誤しているのに対し、米国は実際の業務活用における具体的なリスクや周囲からの理解を得る段階に進んでいるため、課題感の違いが生じている」と三善氏は指摘する。
生成AIの活用効果に対する期待について聞いたところ、効果が期待を大きく上回っていると答えた企業は、日本では9%にとどまったが、米国では33%にのぼった。PwCコンサルティング シニアマネージャーの上野大地氏は、「期待を大きく上回ると答えた企業は、テキスト系のみを活用するのではなく、画像や音声、また新規ビジネス開発において、期待値未満の企業よりも多く生成AIを活用している」と分析する。
日本と米国を比較した場合、日本では、期待値を大きく上回っている企業が期待値未満の企業よりも平均でプラス11ポイント、テキスト以外の用途に生成AIを使っていた。一方、米国ではその平均値がプラス23ポイントで、期待を大きく上回っている企業が、より広範囲のユースケースに生成AIを活用していることが明確に示された。
また上野氏は、米国では生成AIの活用とガバナンス整備が両輪で推進されている点を指摘する。期待の高さやユースケースの幅広さに比例して、ガバナンスの整備が必須となるためで、「期待を大きく上回る企業は、事業部門や管理部門、IT部門を交えたガバナンスの中央組織を整備していることが多く、その割合は米国の方が高い」としている。
生成AIのリスクに対しても、米国は具体的な対応策を導入している割合が高い。ここで上野氏が注目したのは、「対応策を実施していない」という回答が、米国は3%だったのに対し、日本では20%にのぼっていることだ。上野氏はこの点について、「米国では社外に対しても生成AIを活用しており、リスク対策やガバナンス整備が必須になっている。日本では、生成AIの活用が社内に限られているケースが多いことが、対応策を実施していないことにつながっているのではないか」としている。
生成AIの活用効果については、「社員の生産性」を指標として評価している割合が日米ともに最も多かった。次いで日本では、生成AIを活用することで工数やコストがどれだけ下がったかを重視する企業が多かった。一方、米国が生産性の次に重視していたのは「顧客満足度」だ。上野氏は、「米国では生成AIを活用することで、顧客満足度や顧客エンゲージメントの向上、将来的なアップセルにつながるかどうかを評価指標としてとらえている」と述べた。
日本企業に求められる変化
これらの調査結果から、三善氏は日本の状況について、「生成AIの活用は主に既存の社内業務に集中しており、企画や技術検証の段階で止まっている企業が多い」と指摘する。「保守的な文化が障害となり、実装や運用改善に進む際の具体的なリスク対策が進んでいないようだ。ガバナンスもガイドラインやポリシー策定にとどまり、具体的なリスク対策が不足している。コスト削減や生産性向上を狙う一方で、低リスクな業務にユースケースを絞るため、大きなインパクトが得られにくい」と三善氏。
一方、米国については、「生成AIの活用が、新規かつ社外向けの用途にも広がっている。コスト削減だけでなく、新たな顧客体験や顧客満足度の向上を重視しているのが特徴だ」と話す。「米国は生成AIによる競争優位性や企業価値創造を意識し、具体的なリスク対策を講じながら活用のサイクルを回し続けている」(三善氏)。
こうした日本の現状から三善氏は、「生成AIの活用によって中長期的な成長や競争優位性を確保するには、従来のアプローチでは不十分」と述べ、日本企業に求められる変化について3点を提言した。
1点目は、挑戦する意欲のある人材に予算と権限を委譲し、活用を推進することだ。「これまでの進め方では、活用サイクルがいつまでも回らない」と三善氏は言う。
2点目は、AIに完璧な精度を求めず、適切なリスク分析と具体的な対策を検討することだ。日本では間違いを許容できない文化が根強いが、「100点の精度でなくとも、70点であれば7勝でプラスになるはず。使わないことによる機会損失やノウハウが蓄積できないことの方がリスクが大きいと考えてもらいたい」と三善氏。また、リスクが少ないユースケースでは大きなインパクトは生まれないため、「リスク対策を検討した上で、新しいサービスや新しい顧客体験を実現してもらいたい」とした。
3点目は、生成AIを活用することで、マネジメント層が本来リソースを割くべき戦略立案などの高付加価値業務にシフトすることだ。三善氏は、「マネジメント層が計数や人員の管理業務に多くの工数を割いている現状では、短期的な企業価値の維持にしかつながらない。生成AIを積極活用することで、企業変革やイノベーションに本気で向き合い、中長期的な価値創出に取り組むべきだ」と語った。