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「生成AIの活用成果に二極化の兆し」、生成AI実態調査でPwCが指摘
2024年6月19日 06:00
PwCコンサルティング合同会社は17日、メディアセミナーを開催し、同社が実施した生成AIに関する実態調査について解説した。
この調査は、同社が2023年4月に1回目を、2023年10月に2回目を実施しており、今回で3回目となる。PwCコンサルティング 執行役員 パートナーの三善心平氏は、同調査について、「売上高が500億円以上の日本国内の企業を対象としている。また、AIの導入に関与している管理職以上の人を対象に調査したことが特徴だ」と説明している。
生成AIの普及度が上昇
今回の調査から、「生成AIの普及度が着実に上昇している」と三善氏は言う。というのも、2023年春の調査では、約80%の企業が生成AIの活用について「未着手・断念」と回答していたのが、その半年後には9割近い企業が「検討中」「推進中」「活用中」のいずれかの段階に入っているためだ。今回の調査ではさらに、「活用中」と答えた企業が半年前の34%から43%に増加した。
ただし三善氏は、テクノロジ業界や通信業界などのパイオニア層では生成AIの推進度に変化が見られないものの、「ヘルスケア/病院/医薬/医療機器といった業界や、自動車、運輸/物流などの業界で、去年の秋から推進度が停滞傾向にある」と指摘する。これについて三善氏は、「顧客向けサービスを中心に生成AIの活用余地を検討していたが、業務特性上100%の精度を求められる傾向にある業界のため、生成AIに適した利用法を再度模索しているのではないか」と分析している。
生成AIの活用成果が二極化か
今回の調査では、生成AIの活用の効果についても質問項目を設け、その効果が期待を上回っているかどうかを調べている。その結果、「期待通りの効果があった」との回答が48%で、「期待を大きく上回っている」との回答も9%にのぼった。その一方で、「やや期待を下回る」(17%)「期待とはかけ離れた結果になった」(1%)との回答もあったことから、三善氏は「生成AIの活用の成果に二極化の兆しが見られる」とした。
両者の差を深堀りしたところ、期待を大きく超えると答えた企業は、「情報検索みならず、施策検討や意思決定まで踏み込んだ利用を検討し、テキスト以外の生成AIを使ったユースケースもすでに検討しているという特徴があった」(三善氏)という。
また、導入対象の部署に関しても、「期待を上回っている企業は全社の共通基盤として生成AIを導入し、社員が自由に使える環境を提供、その上で業務に特化した利用を推進している」と三善氏。さらに、そのような企業は生成AIのとらえ方にも特徴があり、「業界構造を根本から変える可能性のある技術と認識し、経営アジェンダとして取り組んでいる」という。
一方で、効果が期待未満だと答えた企業については、「足元の業務効率化を実現するために生成AIを利用しているケースで、期待を下回っている傾向にある」としている。
生成AIで得られた効果による業務の変化
こうして生成AIによる変革を実現したことで、社員の業務はどう変化するのだろうか。その回答として特に多かったのは、「社員はより上流かつ創造的な業務または新規事業にシフトする」(55%)、「人手不足が解消する」(45%)というものだった。
業務シフトの例としては「研究開発」が平均より17ポイント高く、人手不足の例としては「サービス・接客業」が平均より10ポイント高かったと三善氏。また、「生成AIの活用によって新たに生まれた仕事にシフトする」との回答も27%にのぼった。
一方で、「生成AIによって社員の仕事は奪われ人員が削減される」という回答も30%にのぼり、主に「コーポレート/バックオフィス」部門における導入や、「画像/音声系」のユースケースでその傾向が高いという結果が出た。
生成AIでの変革に伴う課題
最後に三善氏は、生成AIを経営資源に据えた変革を実現するにあたって、いくつかの課題に直面する可能性があると話す。
そのひとつは、企業が自社のコアコンピタンスについて再考するよう求められるのではないかという点だ。「生成AIを活用するうえで、企業独自の価値をあらためて再認識させられるだろう」と三善氏は述べている。
また三善氏は、「ドラスティックな経営変革に最も必要な要素は、生成AIを組み込んだ経営ビジョンと、その変化に挑戦するカルチャー変革ではないか」とした上で、「生成AIを持続的に活用し、業務変革につなげるには、組織や人材、コスト、インフラ、リスク管理など、新たな基盤を整備する必要がある」と話す。「これはトップダウンで実行しないと難しいだろう」というのが三善氏の見解だ。
さらに三善氏は、「人と生成AIの関係性構築に伴い、人事戦略やキャリア形成に影響があるのではないか」と語る。つまり、経営層は生成AIを経営リソースととらえ、人と生成AIの配置検討といった新たな人事制度改革を迫られる可能性があり、従業員も生成AI時代に求められる新たなキャリア形成を模索することになるかもしれないということだ。
生成AIの推進にあたっては、それぞれの立場におけるこうした課題も念頭に置いた上で取り組むべきなのかもしれない。