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主要各国より生成AIの業務活用が進む日本、その背景には危機感が――PwC調査
2024年3月21日 06:15
PwCは19日、同社が実施した「第27回世界CEO意識調査」の結果に基づき、生成AIの活用状況と傾向に関するメディアセミナーを開催した。
この調査は、PwCが2023年10月から11月にかけ、世界105の国と地域のCEO 4702人を対象に、世界経済の動向や経営上のリスクとその対策などについて認識を聞いたもの。日本からは179人のCEOが調査に参加した。
日本での生成AIの活用について解説したPwC Japanグループ データ&アナリティクス/AI Lab リーダー 兼 PwCコンサルティング合同会社 上席執行役員 パートナーの藤川琢哉氏は、「日本は生成AIの業務活用が主要各国より進んでいる」と述べた。
その背景には、既存ビジネスの存続可能性や、DX推進の出遅れに対する強い危機感があるという。藤川氏は、日本のCEOが「現在のビジネスのやり方を変えなかった場合、10年後に自社が経済的に存続できない」と回答した割合が64%にのぼり、他国のCEOと比較して非常に多かった点を指摘する。
また、もうひとつの理由として藤川氏は、「ドキュメントを多く扱う日本独自の文化は、サイロ化されたデータや非構造データに強い生成AIとの親和性が高い」と述べている。
このように、活用は進んでいる日本だが、生成AIによって売上や収益の向上につながると考えている割合は他国よりも圧倒的に低いという。この点について藤川氏は、「生成AIの活用が進み、できることとできないことが明確になったことで、いち早く幻想から脱却したと考えられる。また、過去の経験から、AI投資に対する投資対効果(ROI)が得られていないことも、生成AIに対して過度な期待が持てない原因だろう」とした。
事実、2023年にPwCが実施した「2023年AI予測」では、どの領域においても日本は米国に比べてROIを得ていると感じていないことが明らかになっており、「AIの性能を監視しビジネス効果を出している企業は、米国では61%だが、日本は17%にすぎない」と藤川氏は指摘した。
生成AIによるリスクについても調査したところ、日本のCEOは世界全体と比較して、サイバーセキュリティのみならず、誤情報の拡散や風評リスクなど、多様なリスクに高い懸念を持っていることが明らかになった。
このことについて藤川氏は、日本企業でAIリスクに対するガバナンス施策が進んでいないことを指摘。「施策が進んでいないことで漠然とした不安感を抱き、生成AI活用の足かせとなっている」と述べ、「積極的にAIガバナンス施策を講じ、安心・安全な状態でAIが使える環境を構築してさらなる活用を進めていくべきだ」とした。
業界別ではヘルスケアや製造業での生成AI活用が盛ん
業界別に生成AIの活用状況を見ると、「テクノロジー」「通信」といった業界での活用度が高い点は世界共通だったが、日本では「ヘルスケア・病院・医薬・医療機器」「自動車」「重工業・産業機械・家電」の業界で生成AIの活用が進んでいることがわかった。
ヘルスケア業界で生成AIの活用が盛んな理由のひとつとして、藤川氏は日本政府主導による医療業界全体でのDX推進を挙げる。日本は世界と比べてDX化が遅れていることに対する強い危機感があり、「そのような状況の中で生成AIが登場したことから、活用が一気に進んだ」と藤川氏は話す。
また、ヘルスケア業界の独自ルールによってデータがサイロ化し、多数の非構造化データが存在することも背景にあるという。「生成AIはサイロ化されたデータに強いことから、活用のドライバーになったと考えられる」と藤川氏。このほかにも、特に製薬業界はグローバル企業が多いため、「翻訳にAIを活用している企業が多いのではないか」とした。
製造業では、テキスト生成以外にも、デザインや設計・開発工程における生成AIの活用が積極的に検討され、実用化されているという。例えば、自動車業界で検討されている生成AIのユースケースとしては、「イメージに沿ったイラストのデザインや画像の生成」「プログラムコードの生成」「データ収集や調査・リサーチ」などの分野が上位に挙がっている。
PwCグローバル AIおよびイノベーションテクノロジーリーダー 兼 PwC米国 パートナーのスコット・ライケンス(Scott Likens)氏は、今後世界全体で注目すべきAIのトレンドとして6つを挙げた。それは、正しいAIの選択が企業に大きな優位性をもたらすこと、生成AIが従業員だけでなくリーダーの仕事も再定義すること、AIへの信頼が間もなく確立されること、生成AIがデータのミッシングリンクになること、生成AIが変革そのものに変革をもたらすこと、そして生成AIが新たなカテゴリーの製品とサービスを生み出すことだ。
「PwCは世界で20億米ドルをAIに投資しており、自らが『Client Zero』(最初の顧客)となって、生成AIによるビジネスの最適化を進めている。生成AIへの期待は非常に大きく、今年はAIを使ったさまざまなプロダクトやサービスが登場することが見込まれる。今後もAIによって新たな変革がもたらされるだろう」とライケンス氏は述べた。