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IBM、エンタープライズAIを大規模に推進するwatsonxの新機能を発表

 米IBMは現地時間21日、同社の年次イベント「THINK」において、発表から1年を迎えるwatsonxプラットフォームの新たなアップデートと、AIをよりオープンで、コスト効率に優れ、企業にとって柔軟なものとするために設計された、データおよびオートメーション機能を発表した。

 基調講演では、IBM会長兼最高経営責任者(CEO)のアービンド・クリシュナ氏が、IBMの戦略の中核として、オープンソースAIコミュニティーへの投資、構築、貢献を行う当社の計画を発表する。

 クリシュナ氏は、「IBMは、AIにオープン・イノベーションをもたらすことを確信しています。LinuxとOpenShiftで成功したことを、オープンソースの力を使ってAIで実現したいのです。オープンとは、選択肢があることを意味します。オープンとは、コードがより多くの目に触れ、課題により多くの知恵が注がれ、解決策により多くの手が差し伸べられることを意味します。どのような技術であれ、速度を上げ、ユビキタスになるためには、競争、イノベーション、安全性という3つのバランスを取る必要があります。オープンソースは、この3つを達成するための素晴らしい方法なのです」と述べている。

 IBMは、オープンソースのAIエコシステムへのコミットメントをさらに強化するため、先進的でパフォーマンスの高い言語およびコード用Graniteモデルのファミリーをオープンソース化した。これらのモデルをオープンソース化することで、IBMは、顧客、開発者、グローバルな専門家がこれらのモデルの強みを生かして、AIがエンタープライズ環境で達成できることの限界を押し上げていくとしている。

 オープンソースのGraniteモデルは、開発プロセス、品質、効率性といった特長を備えており、Apache 2.0ライセンスの下、HuggingFaceとGitHubで利用できる。Graniteコードモデルには、3Bから34Bまでのパラメーターによるバリエーション、基本モデルと命令追従モデルのバリエーションがあり、複雑なアプリケーションのモダナイゼーション、コード生成、バグの修正、コードの説明と文書化、リポジトリーの管理などのタスクに適していると説明。116のプログラミング言語で学習されたコードモデルは、さまざまなコード関連タスクにおいて、オープンソースのコードLLMの中で常に最先端の性能を達成しているとしている。

 IBMによるテストでは、Graniteコードモデルは、すべてのモデルサイズにわたってベンチマークで全体的に非常に優れたパフォーマンスを示し、Graniteと比較して2倍の規模のオープンソースのコードモデルを度々上回ったと説明。IBMが実施した、HumanEvalPackやHumanEvalPlusのベンチマーク、GSM8Kの推論ベンチマークでは、Graniteコードモデルは、Python、JavaScript、Java、Go、C++、Rustなど、主要なプログラミング言語のほとんどにおいて、コードの生成、修正、説明、編集、翻訳において優れたパフォーマンスを発揮することが示されたとしている。

 20BパラメーターのGraniteベースコードモデルは、現在利用可能な特定領域向けIBM watsonx Code Assistant(WCA)の学習に使用された。また、このGraniteモデルは、企業がモノリシックなCOBOLアプリケーションをIBM Zに最適化されたサービスに変換できるように設計された製品である、watsonx Code Assistant for Zにも使用されているという。

 20BパラメーターのGraniteベースコードモデルは、構造化されたデータを変換し、そのデータから洞察を抽出することができるように、自然言語の質問からSQLを生成するようにチューニングされた。IBMは、実行精度(EX)と有効効率スコア(VES)に従ってモデルをランク付けするBIRDの独立したリーダーボードによるベンチマークで、業界の重要なユースケースである自然言語からSQLへの変換においてリーダーシップを発揮したとしている。

 また、IBMとRed Hatは、InstructLabの提供を開始した。これは、LLMに関する真のオープンソースイノベーションを前進させる画期的なアプローチだとしている。

 InstructLabの手法により、ソフトウェア開発が何十年にもわたってオープンソースで機能してきたように、絶え間ない漸進的な貢献を通じ、基本モデルを継続的に開発することが可能になると説明。InstructLabを使用することで、開発者は、自身のビジネス領域や業界に特化したモデルを自分のデータで構築することが可能となり、モデル提供者だけが価値を得るのではなく、開発者がAIの直接的な価値を確認することができるとしている。IBMは、watsonx.aiや新しいRed Hat Enterprise Linux AI(RHEL AI)ソリューションとの統合を通じて顧客にさらなる価値を提供できるよう、このようなオープンソースの貢献を活用する。

 RHEL AIは、InstructLabのエンタープライズ対応版、IBMのオープンソース化したGraniteモデル、そして世界有数のエンタープライズLinuxプラットフォームで構成されており、ハイブリッドインフラストラクチャー環境でのAI導入を簡素化できる。

 IBM Consultingはまた、顧客が独自のデータでInstructLabを活用し、企業のビジネスニーズに適したコストやパフォーマンスの要件に合わせて拡張可能な、目的別のAIモデルを学習できるよう支援するプラクティスを開始する。

 IBMでは、このAIイノベーションの新潮流は、産業全体で年間推定4兆ドルの経済的利益を引き出す可能性を秘めていると説明。一方で、IBMが毎年発表している「世界のAI導入状況(Global AI Adoption Index)」によると、調査対象となったエンタープライズ規模の企業(従業員数1000人以上)の42%がAIをビジネスに導入している一方で、AIの活用を模索または実証実験を行っている企業の40%は、まだAIモデルを導入していないと回答しているという調査を紹介。サンドボックスから抜け出せない企業にとって、2024年はスキルギャップ、データの複雑さ、そして最も重要な信頼といった壁を克服する年になるとしている。

 こうした課題に対処するため、IBMは、顧客がドメイン横断的に独自のAIアシスタントを構築できるようにする、watsonx Orchestrateの今後の新機能などを含む、watsonxアシスタントファミリーに関する今後のアップデートおよび機能強化について発表した。

 新しいAIアシスタントには、watsonx Code Assistant for Enterprise Java Applications(2024年10月提供開始予定)、知識や専門性を迅速に伝達できるようにユーザーとシステムとの関わり方を変革するwatsonx Assistant for Z(2024年6月提供開始予定)、コードの解説を加え、自然言語による解説を通じて顧客がアプリケーションを理解、文書化できるように支援するwatsonx Code Assistant for Zサービスの機能拡張(2024年6月提供開始予定)が含まれる。

 また、IBMは、NVIDIAのGPUオファリングを拡大し、NVIDIA L40SおよびNVIDIA L4 Tensor Core GPUsを提供開始するほか、Red Hat Enterprise Linux AI(RHEL AI)およびOpenShift AIをサポートし、企業や開発者がAIやその他のミッションクリティカルなワークロードのニーズに対応できるようにする。さらに、顧客がAIによる価値実現までの時間を短縮できるよう、watsonxにデプロイ可能なアーキテクチャーを採用している。これにより、AIの迅速なデプロイを可能にするとともに、企業がデータを保護し、コンプライアンス要件を管理できるようにセキュリティとコンプライアンス機能を強化している。

 さらにIBMは、AIワークロード向けに、堅牢化、複雑化するデータを組織が監視、管理、最適化する方法を強化できるよう、IBM Data Product Hub(2024年6月提供開始予定)やData Gate for watsonx(2024年6月提供開始予定)、watsonx.dataの最新および計画中のアップデートなど、生成AIを活用したデータ製品や機能を新たに発表した。

 ハイブリッドクラウドで複雑化するIT環境の運用に向けては、CIOがIT環境のプロアクティブな管理からAIを活用した予測的な自動化へと移行できるようにする、一連のAIを活用したオートメーション機能を提供すると発表した。

 IBMは、TerraformやVaultなどの主要製品でクラウドインフラストラクチャーの自動化を手がけるHashiCorpを買収する意向を発表した。HashiCorpの製品を利用することで、顧客はインフラストラクチャーやアプリケーションに依存することなく、より簡単にクラウドに移行できるとしている。

 また、IBMは、オートメーションポートフォリオにおける最先端技術を継続的に進化させており、THINKでは、2024年6月に提供開始予定の「IBM Concert」と呼ばれる新しい生成AIを搭載したツールをプレビューする。IBM Concertは、企業のテクノロジーとオペレーションの「中枢」として機能するとしている。

 watsonxのAIを搭載したIBM Concertは、顧客のアプリケーションポートフォリオ全体にわたって、問題を特定、予測、修正を提案するための生成AI主導の洞察を提供する。この新しいツールは顧客の既存システムに統合され、生成AIを使用して、クラウドインフラストラクチャー、ソースリポジトリー、CI/CDパイプライン、その他の既存のアプリケーション管理ソリューションからのデータに接続し、接続されたアプリケーションの詳細なビューを構築する。

 IBM Concertは、顧客が不要なタスクを排除し、その他のタスクを迅速化できるようにすることで、チームがより多くの情報を入手し、問題への対処や問題の事前解決に迅速に対応できるように設計されていると説明。IBM Concertはまず、アプリケーション所有者、SREやITリーダーが、アプリケーションリスクやコンプライアンス管理に関する問題について洞察を深め、先手を打ち、より迅速に対処できるよう支援することに重点を置く予定としている。