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富士通と理研、超伝導量子コンピューターを開発し、量子シミュレーターと連携可能なプラットフォームを提供

 富士通株式会社と国立研究開発法人理化学研究所(以下、理研)は5日、2021年に共同で設立した「理研RQC-富士通連携センター(以下、連携センター)」において、理研が2023年3月に公開した国産初号機となる64量子ビット超伝導量子コンピューターの開発ノウハウをベースに、新たな64量子ビットの超伝導量子コンピューターを開発したと発表した。

 富士通と理研では、量子コンピューターの実用化が期待されており、さまざまなアーキテクチャの量子コンピューターの開発が進んでいるが、NISQ(Noisy Intermediate-Scale Quantum device)と呼ばれる現状の量子コンピューターで扱える量子回路はノイズの影響を除去しきれず、実用的な問題を解くにはさまざまな課題があると説明。

 正確に計算できる実用的な誤り訂正量子コンピューター(FTQC:Fault Tolerant Quantum Computer)の実現には、十数年以上を要すると予測されており、FTQCの実現と同時に量子コンピューターをすぐに実用化するには、現時点から量子アプリケーションの開発を並行して進めることが重要だが、現状の量子コンピューターは量子ビットエラーなどの問題があり、長いステップの計算が正確に行えない難題があるという。

 一方、量子シミュレーターは、エラーの問題がないため長いステップの量子計算シミュレーションが実行可能だが、従来型のコンピューター上で量子計算を模擬するシステムであり、量子コンピューターの実現により期待されている計算の加速、いわゆる、量子加速は実現できないという問題がある。

 富士通と理研は、連携センターにおいて協力して超伝導量子コンピューターの開発を進めているが、量子コンピューターの活用やアプリケーション開発を進める上では、量子シミュレーターとも併用できる環境が必要であると考え、開発に至ったとしている。

連携センターで開発した超伝導量子コンピューター

 開発した超伝導量子コンピューターは、理研が、文部科学省光・量子飛躍フラッグシッププログラム(Q-LEAP)「超伝導量子コンピューターの研究開発(研究代表者:中村泰信)Grant No.JPMXS0118068682」の助成を受けて、2023年3月に公開した国産初号機となる64量子ビット超伝導量子コンピューターをベースに、日本電信電話株式会社(以下、NTT)の協力も得て、連携センターで開発した。

 量子コンピューターの演算機能の中心を担う64量子ビット集積回路チップには、理研の量子コンピューターと同様の垂直配線パッケージを採用し、将来的な規模の拡大に適用可能な拡張性を備える。また、NTTの構築した量子ビット制御ソフトウェアを用いて、量子ビットの高精度な制御を実現している。理想的には最大で2の64乗個の状態の重ね合わせ計算が可能になり、従来のコンピューターでは困難な問題の求解が期待できる。

 富士通と理研は、量子コンピューターとHPCを連携させて問題を解く、ハイブリッド量子アルゴリズムの開発にも取り組んでいる。今回、量子コンピューター向けアルゴリズムの計算の一部を量子シミュレーターが担うハイブリッド量子アルゴリズムを開発した。具体的には、大きな分子を複数の小さなフラグメントに分割する量子化学計算手法Density Matrix Embedding Theory(DMET)と、量子アルゴリズムを利用して、大規模な分子を高精度に計算する。

 分割計算した個々のフラグメントの結果を結合する量子計算においては、計算量が小さい特長に着目し、結合計算に部分的に量子シミュレーターを用いることで、ノイズ影響の大幅な軽減が求められる中でも計算時間の増大を抑えつつ、高い精度を得られるようになる。同アルゴリズムをH12(水素原子12個からなる水素鎖)の基底エネルギー計算に適用し、量子コンピューターのノイズ影響を軽減するAIによる量子計算補正技術と組み合わせることで、既存の古典アルゴリズムを上回る精度でエネルギー計算が実行できることを世界で初めて確認した。

 同技術を、今後ハイブリッド量子コンピューティングプラットフォーム上で提供していくほか、富士通では技術のノウハウを応用し、さまざまなコンピューティングリソースおよび種々のアルゴリズムを自動で組み合わせて、最適計算を可能にするソフトウェア構想「Computing Workload Broker」の確立を目指す。

 富士通は、量子アプリケーションの研究開発をさらに加速し、量子コンピューターによる社会課題の解決を早期に実現するために、量子コンピューターとのインターフェイス構築において理研の協力を得ながら、量子コンピューターと量子シミュレーターのシームレスな操作を実現するハイブリッド量子コンピューティングプラットフォームを開発した。

 プラットフォームは、Amazon Web Services(AWS)のサーバーレスコンピューティングサービスAWS Lambdaなどを活用した、スケーラブルなクラウドアーキテクチャを実装しており、量子コンピューターと量子シミュレーターに対して共通のAPIを介したシームレスなアクセス環境を、富士通と理研との共同研究を通して、企業や研究機関に提供する。

 これにより、特に、量子化学計算における分子エネルギー計算のためのVQE(Variational Quantum Eigensolver)や、金融分野における量子機械学習アルゴリズムなど、従来のコンピューターと量子コンピューターが連動するアルゴリズムの開発において、量子コンピューターと量子シミュレーターを状況によって使い分ける技術のほか、将来的には、本プラットフォームと外部の量子化学計算ライブラリなどの連携機能も期待されるとしている。

ハイブリッド量子コンピューティングプラットフォームの概要

 連携センターでは今後、さらに大規模な1000量子ビット級の量子コンピューターの実現を可能とする技術開発に取り組み、開発した技術は順次、本プラットフォームを通じて展開していく計画。富士通と理研は、量子コンピューターの実応用に向けた連携体制を強化し、量子計算シミュレーション技術の研究開発や、量子コンピューターとHPCの連携のためのソフトウェア技術の研究開発も推進していく。