ニュース

理研など、量子コンピューターを利用できる「量子計算クラウドサービス」を提供

 理化学研究所(以下、理研)、産業技術総合研究所(以下、産総研)、情報通信研究機構(以下、NICT)、大阪大学、富士通株式会社、日本電信電話株式会社(以下、NTT)は24日、6者の共同研究グループが、3月27日に量子コンピューターを理研からクラウド公開し、外部からの利用を開始すると発表した。

 今回公開する超伝導量子コンピューターは、量子ビットを64個並べた64量子ビットの集積回路が用いられる。装置には、「2次元集積回路」と「垂直配線パッケージ」という二つの特徴がある。

 2次元集積回路の上では、正方形に並べられた4個の量子ビットが、それぞれ隣り合う量子ビットをつなぐ「量子ビット間結合」で接続されており、正方形の中に「読み出し共振器」「多重読み出し用フィルタ回路」などが配置されている。この4量子ビットからなる基本ユニットを2次元に並べることにより、量子ビット集積回路を作ることができる。今回の64量子ビット集積回路は、16個の機能単位から構成され、2cm角のシリコンチップ上に形成されている。

 また、量子ビットと同じ平面上で配線を行う場合、チップ内に並ぶ量子ビットの数に対して、配線を外部へ取り出すための辺の長さが不足してしまうため、個々の量子ビットに対する制御や読み出し用の配線の取り回しにも工夫が必要になる。

 この課題に対しては、2次元平面に配置された量子ビットへの配線をチップに対して垂直に結合させる垂直配線パッケージ方式を採用。さらに、量子ビット集積回路チップへの配線を一括で接続できる配線パッケージも開発した。

 これらの特徴的な「2次元集積回路」と「垂直配線パッケージ」は、容易に量子ビット数を増やすことを可能にする高い拡張性を備えたシステム構成となっており、これにより、今後の大規模化に際しても基本設計を変えることなく対応できるとしている。

 また、量子ビットを制御するための信号には、マイクロ波の周波数(8~9GHz)で振動する電圧パルスが用いられる。しかし、量子ビットごとに異なる周波数のマイクロ波が必要となることから、共同研究グループは高精度で位相の安定したマイクロ波パルス生成が可能な制御装置および、これを用いて量子ビットを制御するソフトウェアを開発した。

 理研では、今回開発した超伝導量子コンピューターをどこからでも利用できるよう、「量子計算クラウドサービス」を提供する。量子計算などの研究開発の推進・発展を目的とした非商用利用であれば、いずれの研究・技術者でも利用申請できる。ただし、当面は、理研との共同研究契約を通じて利用手続きを行う形となる。ユーザーは、理研外のクラウドサーバーに接続することで、超伝導量子コンピューターへのジョブ送信や計算結果の受信が可能となり、共同研究の目的に合致した用途であれば、超伝導量子コンピューターを利用できる。

 共同研究グループは、さらに多くの量子ビットでの量子計算動作を可能にするため、希釈冷凍機内の配線の高密度化など、さらなるシステム開発を進めており、また、超伝導量子コンピューターをNISQ応用プラットフォームのテストベッドとして提供しつつ、ユーザーのニーズなどを踏まえ、公開装置についてもさらなる高度化に向けた必要な研究開発を進めていくと説明。今回の量子計算クラウドサービス公開を通じて、量子ソフトウェア開発者や量子計算研究者および企業開発者との協力を深めることで、量子コンピューター研究開発を一層加速するとしている。

超伝導量子コンピューターへのユーザーアクセス概念図