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大阪大学を中心とした共同研究グループ、超伝導量子コンピューター国産3号機のクラウドサービスを開始

 富士通株式会社は20日、大阪大学を中心とする共同研究グループが、国産3号機となる超伝導量子コンピューターのクラウドサービスを12月22日に開始すると発表した。

 共同研究グループは、大阪大学(阪大)量子情報・量子生命研究センターの北川勝浩センター長(大学院基礎工学研究科 教授)、阪大の根来誠副センター長・准教授、理化学研究所(理研)量子コンピュータ研究センターの中村泰信センター長、産業技術総合研究所(産総研)先端半導体研究センター3D集積技術研究チームの菊地克弥研究チーム長、情報通信研究機構(NICT)超伝導ICT研究室の寺井弘高上席研究員、アマゾンウェブサービスジャパン合同会社 スタートアップ事業本部シニアスタートアップ機械学習・量子ソリューションアーキテクトの針原佳貴氏、株式会社イーツリーズ・ジャパンの三好健文取締役、富士通株式会社量子研究所の佐藤信太郎所長、日本電信電話株式会社(NTT)コンピュータ&データサイエンス研究所の徳永裕己特別研究員、キュエル株式会社の伊藤陽介代表取締役、株式会社QunaSysの菅野恵太CTO、株式会社セックの内田諒主任など。

 今回、大阪大学を中心とする共同研究グループは、量子コンピューターを超伝導量子ビットにより構築し、クラウド経由で利用できるサービスとして公開した。これにより、研究者が遠隔地から量子アルゴリズムを実行したり、ソフトウェアの改良・動作確認をしたり、ユースケースを探索できる環境を実現した。

 超伝導量子コンピューター国産3号機では、理研から提供された64量子ビットチップを用いている。これは、2023年3月27日にクラウド公開された、理研の超伝導量子コンピューター初号機のチップと同じ設計で製造されたもので、当初、3号機には理研から提供された16量子ビットチップが装着されていたが、11月3日に64量子ビットチップのインストールを行い、その作業状況を一般公開した。

11月3日に量子ビットチップのインストールを一般公開した時の様子

 3号機は、初号機で海外製の部品が使われていた箇所をできるだけ国産部品に置き換えており、「テストベッド」としての役割を果たしており、冷凍機以外の多くの部品を置き換えても十分高い量子ビット性能を引き出せることが確認されたとしている。

 また、今回公開する3号機では、量子コンピューターの活用性を高めるため、制御装置やシステムを大きく改善している。量子ビットを制御するためには、マイクロ波信号を送受信する「制御装置」が必要となる。制御装置の設計・開発は、阪大とイーツリーズ・ジャパンが行った。理研に設置されている初号機にも同設計の装置が用いられている。

 ユーザーが作成したプログラムを実際の量子コンピューターで実行するには、量子ビットチップの制約などを考慮した変換処理を行って(トランスパイラ)から、計算を実行する必要がある。また、量子コンピューターをクラウドサービスとして公開し、利用できるようにするには、ユーザー認証やジョブスケジューリング、実行結果を確認するインターフェイスなども必要となる。

 共同研究グループは、量子コンピューターに必要なさまざまなレイヤーのソフトウェアを開発し、量子コンピューターを研究室内部で利用する実験装置ではなく、システムとして外部へ提供できるようにした。

 量子コンピューターシステムは、現在42機関が参画する「量子ソフトウェアコンソーシアム」のグループワークに参加する受講者を対象に、12月22日にサービスを開始する。量子コンピューターのユースケース探索をはじめ、ユーザーのニーズや意見を反映しながらシステムの開発・改良を続けていく予定。まずは、17~42マイクロ秒のコヒーレンス時間を持つ相互接続した8量子ビット分を使い、小規模な既存アルゴリズムの試験などから始める。当面の間は、量子ソフトウェアコンソーシアム内での利用提供に限定するが、順次、大規模かつ新規性を有するさまざまな産学連携プロジェクトの実験的研究へと進めていきたいとしている。