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IIJ、改正省エネ法対応で必要となる脱炭素化を支援するサービスを提供

 IIJは4月24日、自社のデータセンター利用者に非化石証書付き電力を提供することによる、環境価値の提供をサービス化すると発表した。

 省エネ法の改正で、マシン室全体をハウジング/コロケーション利用している場合は、その室を当該事業者の事業場とすることになった。今まで報告対象ではなかったサーバの電力が、自社のエネルギー使用量に算入されるケースが出てくるということだ。さらに、今年度分の報告からは、非化石エネルギー転換についても対応が求められるようになっている。新サービスは、これらの法制度整備に対応し、データセンター利用者の脱炭素化を支援する取り組みだ。

省エネ法改正で非化石エネルギーへの転換が必要に

 省エネ法が改正され、2023年度分から報告書の内容が変更になる。変更内容は大きく分けて2つ。報告対象エネルギーの変更と、非化石エネルギー転換への対応だ。

①報告対象エネルギーの変更点

  • これまで非化石エネルギーは報告対象から除外されていたが、非化石であっても自社使用エネルギーに含める
  • これまで自社サーバをデータセンターに預けている場合、そこで使われている電力は報告対象ではなかったが、自社のエネルギー使用量に算入するケースが出てくる

②非化石エネルギー転換への対応

  • 非化石エネルギー転換の中期計画を提出し、実施状況を定期報告に入れる

 IIJでは、従来からカーボンニュートラルへの取り組みを進めており、自社資産で運営している松江データセンターパークでは2022年に電力会社の再エネメニューに切り替え、100%非化石を達成。白井データセンターキャンパスでは、手っ取り早く非化石化できる証書の購入のみに頼らず、オンサイトの太陽光発電を大規模に導入し、外部の非化石発電所からの電力調達も進めている。

 「非化石証書の価格は、2022年度の第3回オークションでは、前回0.6円だったものが上限価格の1.3円に上昇した。省エネ法の改正でニーズが増えることから、今後も上昇すると考えられ、証書のみに頼らない非化石化が重要と考えている」(IIJ 基盤エンジニアリング本部 基盤サービス部長 久保 力氏)

オンサイト太陽光発電設備
IIJ 基盤エンジニアリング本部 基盤サービス部長 久保 力氏

環境価値付き電力の提供で脱炭素化を支援

 データセンター業界としては、事業者自身は非化石化を進めているものの、利用者にその環境価値を提供する方法が確立されていない。というのは、以前は非化石証書は小売り電力会社からしか買えなかったし、電力会社から買った証書は再販(転売)できないからだ。

 電力会社以外から電力を調達する方法として、日本卸電力取引所(JEPX)がある。これは、電力自由化の一環で設立された、電力の売買を行う日本で唯一の会員制市場である。企業などの需要家は、電力会社以外にこの取引所で電力を調達できるが、このJEPXに2021年11月に再エネ価値取引市場が創設された。ここで調達する電力の場合は、非化石証書の仲介が可能となっている。

 IIJは、2023年4月にJEPXの会員となり、データセンター利用者の脱炭素化を支援するサービスとして、環境価値付き電力(非化石証書付き電力)の提供を、この夏から開始する予定だ。個別の企業が非化石証書付き電力を調達するのは、柔軟性や手間の点でハードルが高い。IIJでは、データセンターの利用料金の一部として、非化石電力オプションのような形で環境価値付き電力を購入できるようにする。

再エネ由来電力の供給サービスに向けて

 JEPXから調達した非化石証書は、データセンター利用者名が明記され、環境価値の帰属先を確定できるのが大きなポイント。また、非化石証書調達オークションが事後なので、実績に応じた調達が可能でコストを抑制できる。扱うのは「FIT非化石証書」(電気料金に含まれる「再生エネルギー賦課金」が使われるため、大きく価格変動しない)なので、現時点では低コスト化が期待できる。

 「現状は、法制度の改正が続いていたり、報告対象の内容の整理が進められている中で、各社の具体的な対応が定まっていないところが多い。我々としては、この仕組みですべてのユーザーに現時点でマッチすることを目指すというより、利用者の再エネ利用を確立させることを重要視して取り組みをリリースした。利用者側と協議を進めながら、より実効的なサービスメニューの実装に向けて検討していく」(IIJ 基盤エンジニアリング本部 基盤サービス部 データセンター基盤技術課長 堤 優介氏)

IIJ 基盤エンジニアリング本部 基盤サービス部 データセンター基盤技術課長 堤 優介氏

電力需給マッチングプラットフォームの導入

 中長期の取り組みとして、IIJでは電力需給マッチングプラットフォームの構築も進めている。

 環境価値についてのニーズは、利用者ごとに違う。自社の再エネ利用率100%を目指していて、データセンター内で使う電力もすべて再エネにしたいという事業者もあれば、環境価値よりも、とにかく安価の電力が必要という事業者もあるだろう。あるいは、継続的なサーバ増強が予定されており、非化石証書の価格高騰の影響を受けない、拡張性の高い再エネを希望するというケースもありそうだ。

 このようなニーズの違いに応じて、さまざまな電力をフレキシブルに提供できるようにするために考えられたのが、電力需給マッチングプラットフォームである。その実現のためには、どのようにして発電した電気かという識別情報が必要であり、どの電気をどこへ提供したのかトラッキングできなければならない。これらの仕組みを、関西電力で開発が進んでいる「電力・環境価値P2Pトラッキングシステム」を活用することで実現する。このシステムでは、P2Pによる情報管理や、改ざん困難な仕組みとしてブロックチェーンを利用している。

電力需給マッチングプラットフォーム

 2022年には、複数種類の電源を使っている白井DCCの実データを使って技術検証を実施。利用者ニーズに沿った割り当てが可能であること、調達量の最適化や管理コスト削減にも貢献できることを確認した。2023年度は、システムを仕上げるとともに第三者認証のスキームについても並行して検証し、2024年度には商用サービス化したいと考えている。

 「このプラットフォームを利用することで、データセンター利用者間で環境価値を融通し合う仕組みを考えている。データセンター事業者から利用者へという一方通行とは違う、新しい流れを作るアプローチとして検討を進めている」(堤氏)

 余剰分をデータセンター内で別の利用者に譲る以外にも、余剰の環境価値をIIJのサービス購入に使う取り組みがある。これは、IIJのグループ会社であるディーカレットDCPが進めているデジタル通貨DCJPYを利用し、貨幣(円)を使わずにネットワークサービスなどIIJの別のサービスを購入できる、といったものになる予定。DCJPYは、環境価値に対して貨幣価値との連動が実証済みであり、環境価値そのものをサービス購入に使うという発想だ。

 「IIJでは、従来型データセンターを脱却し、カーボンニュートラルデータセンターを実現していく。そのリソースを活用して新たな価値を顧客と社会に還元していく取り組みを、引き続き進めていきたい」(堤氏)