2023年3月31日 06:00
弊社開催イベントの参加者向けに配布しました、「クラウド&データセンター完全ガイド データセンター・イノベーション・フォーラム 2022特別編集号」より、特集「データセンター事業者に求められる再エネ・省エネ施策」から記事を抜粋してお届けします。
データセンター業界のトレンド
かつて「データセンターの消費電力が、2030年までに世界の電力消費の51%に達する」と問題視されていた。しかしIEA(国際エネルギー機関)の統計によれば、インターネットトラフィックの伸び率が2010年からの10年で16倍なのに対して、電力消費の伸び率は6%と、かなり小さい。これは、従来型のコロケーションより少ない消費電力で多くの処理が可能なハイパースケールの利用が増え、電力消費が抑えられているためだ。
IIJでも、ハイパースケールシフトへの対応を行っており、2019年に千葉県の白井データセンターキャンパス(白井DCC)をオープンしている。また、島根県の松江データセンターパーク(松江DCP)でも、白井と同様のシステムモジュール棟を新設し、2025年5月からの運用を予定している。データセンターのコストの大部分は電力なので、IIJではこれまでさまざまな省エネの取り組みを継続して行ってきた。そして現在、カーボンニュートラルリファレンスモデルを策定し、技術実証を進めながら、自社データセンターの構築・運営を行っている。
外気冷却を活用した省エネ施策
IIJにおけるカーボンニュートラルへの取り組み施策は2つある。ひとつは「エネルギー効率の向上」で、「2030年度までに技術革新の継続により、データセンターのPUEを世界最高水準の数値以下にする」ことを目標としている。
IIJではこれまで、直接外気冷却空調方式コンテナモジュール(松江DCP)や、外気冷却を利用したシステムモジュール構造(白井DCC)など、自社データセンターの省エネ・グリーン化に継続的に取り組み、成果を上げている。白井DCCでは、AIによる空調制御も実装し、IT機器の負荷に応じた熱源水温やファンの消費電力などの最適な制御を検証中。2022年度には効果が確認できている。
2022年度時点で、松江DCPはPUE1.2を継続して達成しており、白井DCCも稼働率が向上する2022年度には1.3を達成する見込みという。「エネルギーの使用の合理化等に関する法律(省エネ法)」では、PUE1.4が達成すべきベンチマーク指標となるが、期限(2030年度)を待たず実現している状況だ。
非化石証書付き電力の購入
IIJのもうひとつの施策は、「再生可能エネルギーの利用」で、「2030年度におけるデータセンター(Scope1,2)の再生可能エネルギー利用率を85%まで引き上げる」ことを目標としている。それが早期に実現できる最も簡単な方法は、環境由来電力/環境価値証書(非化石証書)の購入だ。
そこでStep1として、松江DCPでは2022年2月に電力会社のトラッキング付きFIT非化石証書による再エネメニューに切り替え、再エネ率100%を達成している。現状では、非化石証書が供給超過のため0.3円/kWhと価格が抑えられている。このため、短期的には有効な手段で、白井DCCでも2023年度以降の導入を検討中という。
IIJの久保 力氏(基盤エンジニアリング本部 基盤サービス部長)によれば、「これまでは、非化石証書は直接は買えなかった(電力会社が買って、電力会社がメニューとして提供しているものを需要家が買う)が、2021年後半から直接買えるようになった。選択肢が増えたので、それも検討している」とのことだ。
ただし、いつまでも供給過剰のままではないはずなので、証書以外の方法も検討が必要となる。
太陽光発電設備の設置(オンサイトの再エネ発電設備)
非化石証書以外では、太陽光発電設備の導入が比較的取り組みやすい。そこでStep2として、松江DCPと白井DCCで段階的に導入を進めている。白井DCCの1期棟の屋上には太陽光発電パネルの設置が完了し、2022年12月に約400kWの発電を開始する。また、松江DCPにも設置を進めていて、こちらは2023年2月に運用開始予定。
太陽光発電のコストは低下しており、再エネ賦課金や燃料調整費用などの負担もない。オンサイトの発電コストは10円台とのことで、電気料金が上昇していることもあり、現状では電力会社から調達するよりも安い。「経済合理性に基づいて、どんどん導入していく」と久保氏は言う。
とはいえ、オンサイトの設備で発電できる電力量は、データセンターで必要な電力の数%に過ぎないので、それ以外の取り組みも進める必要がある。
オフサイト電源からの再エネ調達の課題
白井DCCについては、再エネ発電事業者からの電力調達についても協議を進めているが、いくつか課題があるという。ひとつは、再エネ発電事業者と供給の合意ができても、電力小売事業者との協議が必要な点。非化石証書は市場から直接買うことができるようになったが、電力購入は小売事業者経由でなければならないため、その調整に時間がかかる。
もうひとつの課題は、再エネ事業者との契約は、15~20年の長期契約になるという点。設備投資の回収にそのくらいかかるという事業モデルなのでやむを得ないが、それだけの期間事業を継続して電気を買い続けるというのは、一般的には高いハードルになるだろう。データセンターの場合は、事業の性格上その程度の期間は継続すると考えられるが、絶対ということはないので、気軽には決断できない。
さらに、「自社で発電所を持つというのも、次のステップとして考えられるが、用地確保を含めて時間がかかるため、長いスパンで考える必要がある」とIIJの堤 優介氏(基盤エンジニアリング本部 基盤技術部 データセンター基盤技術課長)は言う。
ただ、データセンター利用者からの再エネに関する問い合わせは、昨年度に比べれば増えているとのことで、利用企業の意識は間違いなく高まっている。省エネ法の改正によってサーバ利用者側の報告義務が始まれば、ニーズがさらに高まると予想できる。それに伴って、再エネ電力を使っているという証明書のようなものの発行が必要になることも考えられる。現時点では、「費用負担に関する意識がまだ見極められていない」(久保氏)という状況のようだ。
蓄電池を利用したピークカットとVPP事業への参画
白井DCCでは、空調用設備のバックアップ電源として、蓄電池の運転制御機能を持つテスラ社製産業用蓄電池Powerpackを導入している。
2019年11月に導入後、バックアップ機能だけでなく、夏場の空調用電力の平準化に活用することを目的に検証を進めてきた。その結果、2020年夏期のピーク日において、データセンター全体の電力需要に対し、10.8%のピークカット効果を実測した。
ピークカット制御を実装することで、外気冷却空調の課題であった、夏場のピーク電力を低減できる。電力料金の基本料は、ピーク時の電力量で決まるため、ピークを低く抑えることで、電気料金を抑制できる。
また、今年の東京電力管内の電力受給逼迫に伴う節電要請にも、蓄電池からの放電を6時間程度利用することで対応した。この使い方は、当初想定していなかったものだという。
さらにIIJでは、この蓄電池を活用し、関西電力をアグリゲーターとするVPP(Virtual Power Plant=仮想発電所)事業への参画も発表している。ピークカットの必要がない夏期以外の蓄電池の余力と、オンサイト太陽光発電電力を組み合わせて、年間100kW規模の電力を、需要家として容量市場に供給し、電力の安定供給に貢献する。
VPPは、企業や自治体が所有する蓄電池や小規模発電施設など、地域に分散した電源設備を、アグリゲーターと呼ばれる事業者が統合的に制御する仕組み。需給が逼迫した際に、アグリゲーターが需要家に電力使用の抑制を要請し、報酬を支払う。
白井DCCでは、2022年7月から実効性テストを行い、来年度以降の実事業参加の準備が整ったという状態。蓄電池のピークカット効果とVPPの報酬により、蓄電池設置コストの40%程度の回収を目指しているという。
将来的には地域のインフラ強靱化に貢献も
蓄電池の活用は、現時点ではピークカットのために利用しているが、今後はピークシフトでの利用も考えている。「今の電気代は、昼が高くて夜は安い。しかし、太陽光発電が普及すると、太陽光で発電できる昼が安く、夜が高くなる。安い昼間に蓄電して、高い夜間はそれを放電して使うことも考えている」(堤氏)。
また、松江DCPはソフトビジネスパークという工業団地内に立地している。そこで、自治体やビジネスパーク内の多様な企業と連携して、パーク内での電力地産地消やマイクログリッド構築の構想もある。これにより、地域の電力の安定化や、カーボンニュートラルという社会課題解決を目指すという。
それができれば、データセンターが単なる電力を大量消費するデジタルインフラではなく、地域全体のエネルギー安定化に貢献する未来も考えられる。まずは、再エネ活用についても、省エネと同様に継続的に愚直に取り組みを継続していくというのが、IIJの方針だ。