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日立の2022年度連結業績は増収増益、来期は日立Astemoの再編影響により減収減益を見込む

2024中期経営計画の進捗状況も説明

 株式会社日立製作所(以下、日立)は27日、2022年度(2022年4月~2023年3月)の連結業績を発表した。

 売上収益は前年比6.0%増の10兆8811億円、調整後営業利益は同1.3%増の7481億円、Adjusted EBITAは同3.4%増の8846億円、税引前利益は同2.3%減の8199億円、当期純利益は同11.3%増の6491億円となった。

実績ハイライト

 日立 執行役副社長兼CFOの河村芳彦氏は、「すべての項目で目標をクリアした。デジタルシステム&サービスは、為替影響やLumada事業の拡大により増収増益となった。一方で、半導体不足や部材価格の高騰などの影響は継続している。特に自動車分野向けのロジック、アナログ、ディスクリートの一部半導体が不足している。ITプロダクツやATM向け一部部部材の価格高騰が継続している」などとした。

日立 執行役副社長兼CFOの河村芳彦氏

 Lumada事業の売上収益は前年比42%増の1兆9600億円、Adjusted EBITA率は約14%となった。「売上収益が高い成長率となったのは、為替とGlobalLogicの連結がポジティブに影響している」という。

 Lumadaの売上収益の内訳は、マネージドサービスが前年比29%増の6490億円、コネクテッドプロダクトは同62%増の6300億円、システムインテグレーションは同27%増の4660億円、デジタルエンジニアリングは売上収益が同81%増の2150億円となった。

 2023年度のLumada事業の通期見通しは、売上収益は前年比16%増となる2兆2800億円、Adjusted EBITA率は約15%を見込んでいる。マネージドサービスは前年比3%増の6700億円、コネクテッドプロダクトは同32%増の8300億円、システムインテグレーションは同9%増の5100億円、デジタルエンジニアリングは売上収益が同26%増の2700億円としている。

Lumada事業

 2022年度のGlobalLogicの業績は、売上収益が前年比84%増の2073億円、Adjusted EBITAは前年より203億円増の452億円。EBITDAマージンも22.1%となっている。

 GlobalLogicは、スペインやメキシコに新たなデジタルエンジニアリングセンターを開設したこと、ルーマニアやウルグアイのデジタルエンジニアリング企業の買収を完了するなど、グローバルにフットプリントを拡大したという。

 全社の地域別業績では、日本の売上収益が前年比2%減の4兆1182億円となり、構成比は38%。海外は前年比11%増の6兆7629億円で、構成比62%となった。海外のうち、中国が同1%増の1兆3452億円で構成比は12%。ASEAN・インド他が同9%増の1兆2898億円で、構成比は12%。北米が同21%増の1兆8779億円と大きく成長し、構成比は17%に拡大。欧州は同18%増の1兆5359億円となり、構成比は14%となった。

 セクター別では、デジタルシステム&サービスの売上収益は前年比11%増の2兆3890億円、Adjusted EBITAは123億円増の2937億円となった。また、受注高は前年比16%増の2兆5295億円と、堅調に受注を獲得。そのうち、フロントビジネスは同12%増の1兆1341億円、ITサービスは同8%増の9470億円、サービス&プラットフォームは同21%増の9381億円となっている。

 グリーンエナジー&モビリティの売上収益は前年比22%増の2兆4925億円、Adjusted EBITAは前年から404億円増の1327億円。そのうち、日立エナジーは、売上収益が前年比31%増の1兆4139億円、Adjusted EBITAは前年から357億円増の1010億円となった。

 コネクティブインダストリーズの売上収益は前年比8%増の2兆9752億円、Adjusted EBITAは前年から543億円増の3121億円となった。

セクター別の状況

 一方、2023年度通期業績見通しは、売上収益が前年比19.1%減となる8兆8000億円、調整後営業利益は同9.8%減の6750億円、Adjusted EBITは同5.6%減の8350億円、税引前当期利益は同14.0%減の7050億円、当期純利益は同23.0%減の5000億円とした。日立Astemoの再編影響によって、減収減益を見込んでいる。

 だが、連結事業(持分法適用などを除く)としては、売上収益は3%増の7兆8400億円、Adjusted EBITは751億円増の8000億円とし、増収増益を見込んでいる。

2023年度の見通しハイライト

 セクター別では、デジタルシステム&サービスの売上収益は前年比3%増の2兆4500億円、Adjusted EBITAは142億円増の3080億円とした。そのうち、フロントビジネスの売上収益が前年比5%増の1兆300億円、Adjusted EBITAは前年から177億円増の1120億円。ITサービスの売上収益は前年比4%増の9190億円、Adjusted EBITAは前年から52億円増の1055億円、サービス&プラットフォームは売上収益が前年比3%増の9780億円、Adjusted EBITAは前年から165億円増の955億円となった。

 交通や電力分野を中心とした投資抑制影響の継続を見込んでいるが、国内外のデジタル需要を刈り取り、システムモダナイゼーションやクラウドやセキュリティ関連サービスなどの成長を見込んでいるほか、Lumada事業の拡大によって増収増益を見込む。また、GlobalLogicは、20%超の高い成長を継続すると想定。他セクターとのシナジーも加速すると見ている。

 また、グリーンエナジー&モビリティの売上収益は前年比4%増の2兆5800億円、Adjusted EBITAは前年から94億円増の1730億円。コネクティブインダストリーズの売上収益は前年比1%増の3兆円、Adjusted EBITAは前年から178億円増の3300億円とした。

セグメント別の見通し

2024中期経営計画の進捗状況

 今回の決算会見では、日立 執行役社長兼CEOの小島啓二氏が、2024中期経営計画の進捗状況について説明した。

日立 執行役社長兼CEOの小島啓二氏

 今回の説明では、2024中期経営計画において、上場子会社と日立Astemoが非連結化することに伴い、3年累計のコアフリーキャッシュフローを1兆4000億円から1兆2000億円に修正。株主還元についても変更した。なお、売上成長の5~7%、Adjusted EBITAの12%、ROICの10%、EPS成長の10~14%は維持する。

2024中計の主要KPIについて

 2024年度の連結事業の売上収益は8兆円、Adjusted EBITAは9600億円を目指している。

 小島社長兼CEOは、「2024中期経営計画は、日立にとって大きな転換点である」と前置き。「日立は、リーマンショック後の経営危機を経て、社会イノベーション事業への集中を決断するとともに、社会イノベーション事業のグローバルリーダーを目指し、10年以上に渡り、事業ポートフォリオの改革に取り組んできた。その結果、2022年度には上場子会社はゼロとなり、日立AstemoもIPOを目指した非連結化を発表した。これによって、事業ポートフォリオ改革は、ひと区切りがつき、今後はサステナブルな利益成長へと経営の主軸を切り替えることになる。2024中期経営計画は、事業ポートフォリオ改革から、オーガニックな成長へとモードを変えて、One Hitachiで企業価値の向上を加速させるための重要な転換点と位置づけている」と述べた。

 2013年度から2021年度までに獲得したアセットの売上合計は約3兆1000億円であり、譲渡アセットの売上合計は約5兆円規模となる。これらの事業ポートフォリオ改革の結果、事業アセットは大きくグローバル化しており、欧州では電力や鉄道などのグリーン分野を増強。北米ではデジタル分野、グリーン分野、産業分野で資産を増強したことを強調した。

これまでの事業ポートフォリオ改革

 「日立ハイテクは過去最高益を達成し、日立エナジーはGX市場に追い風により受注が大幅に拡大。GlobalLogicはDXにより高い成長率を維持している。これらの大型買収により獲得、統合した事業アセットは、グローバルの成長エンジンとして機能しており、今後の成長に向けて投資を拡大していくことになる」とした。

大型M&Aアセットの統合

 また、これまでの構造改革のフェーズにおいては、大型資産の売却からの一過性利益や、事業徹底に伴う損失などの影響があり、ボトムラインが不安定であったが、今後は、こうした影響が減少。パンデミックや地政学リスクの顕在化に対応するために、リスクマネジメントを強化する姿勢も示した。

 日立の社会イノベーション事業は、「日立のIT、OT、プロダクトを活用して、顧客とともに社会課題を解決する事業」と定義している。

 「データとテクノロジーで顧客と共にサステナブルな社会を実現し、人々の幸せを支えることに加えて、社会と産業を大きく変える3つの潮流であるデジタル、グリーン、コネクティブをドライバーとして、多様な業種で社会イノベーション事業を拡大することを目指している。そして、社会イノベーション事業を推進するための顧客協創フレームワークがLumadaであり、これをグローバルに展開することになる」と発言。

 「大型買収で獲得した人材や、お客さまのフットプリントを生かし、日立の多様なケーパビリティを使ったOne Hitachiの取り組みによって、Lumada事業を拡大することになる。ここまでIT、OT、プロダクトがそろっている企業はないと考えており、やればやるほど差別化になる。DXやGXに対してもトータルでの商談が増えているのはそのためだ。各地域において、優先度が高い課題を、顧客と一緒になって解決することで、社会イノベーション事業のグローバル成長が実現できる」などとした。

日立の社会イノベーション事業とは
社会イノベーション事業のグローバル成長

 また、小島社長兼CEOは、「Lumada事業の拡大が、日立全体の売上収益と利益の成長を牽引する」と位置づけ、「LumadaはDX市場の拡大を追い風にして事業を成長させ、Lumadaの顧客協創フレームワークによって多くのユースケースを生みだし、そこからソリューションを創出。これを再利用することで、日立全体の利益率向上につなげることができる」とした。

 Lumada事業は、2024年度には2兆6500億円となり、全社売上収益の33%を占める予定であるほか、Adjusted EBITAでは4300億円となり、44%を占める計画を示している。「上流工程となるデジタルエンジニアリング、リカーリング率の高いマネージドサービスの拡大も、利益向上に貢献することになる」とし、LumadaのAdjusted EBITA率が16%に達していることや、Lumadaユースケースの登録数が1330件に達していること、Lumadaソリューション登録数が202件に達ししていることなども示した。

Lumadaがドライブする売上と利益の成長

 一方、サステナブル経営についても説明。人的資本の強化では、2024中期経営計画において、デジタル人材の獲得と育成、DEIの推進、エンゲージメントの向上に取り組んでおり、「デジタル人材に育成については、GlobalLogicの採用および育成スキームを活用することで順調に進んでおり、2024年度には9万7000人のデジタル人材の体制になる」と述べた。

 カーボンニュートラルについては、CO2排出量削減への取り組みが、中期経営計画の目標を上回るペースで進捗。2024年度には64%の削減を達成する見通しであるほか、エネルギー転換や省エネ、電動化といった事業を通じた脱炭素化への取り組みによって顧客を支援。年間1億トンのCO2排出削減貢献量の目標に対して、年間1億2610万トンに達する見通しも明らかにした。

 さらに、サーキュラーエコノミーに対する社内外での取り組みを推進。2022年10月には、日立-産総研サーキュラーエコノミー連携研究ラボを設立し、ルール形成や社会実装に挑戦していることや、日立グローバルライフソリューションズが2022年8月に発売した掃除機では再生プラスチックの利用率を40%に高めているといった取り組みを紹介した。

人的資本の活性化
脱炭素社会への貢献

 また、ガバナンスの強化として、ダイバーシティに富んだ取締役会との活発な議論を通じて、グローバルでの経営改革を加速。現在、取締役会では社外取締役比率が75%、外国人比率が42%、女性比率が17%となっていること、株主価値向上に連動した役員報酬制度を新たに導入したことなどに触れた。