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レッドハットが2023年度の事業戦略を説明、コアビジネスやクラウドに加え「エッジビジネス」への取り組みを加速

 レッドハット株式会社は25日、2023年度の事業戦略に関する記者説明会を開催。レッドハット株式会社 代表取締役社長 岡玄樹氏は、2023年のレッドハットの戦略として、従来の「コアビジネスの拡大」、現在重要な「クラウドサービスの確立」、これからの「エッジビジネスの基盤を構築」の3つを挙げた。

 記者説明会にはゲストとして、クラウド分野での事例として三菱UFJインフォメーションテクノロジー株式会社が、エッジ分野での事例としてオムロン株式会社が登場し、それぞれの取り組みを紹介した。

 また同日には、オムロンがレッドハットのReadyビジネスパートナーに認定されたことも発表された。オムロンでは産業用システムでRed Hat OpenShiftを採用し、エンジニアの育成や検証と開発を進めてきた。パートナープログラムに参加することで、その経験とノウハウを外部に展開していく。

右から、レッドハット株式会社 岡玄樹氏、三菱UFJインフォメーションテクノロジー株式会社 千野修平氏、オムロン株式会社 夏井敏樹氏、レッドハット株式会社 三木雄平氏

2023年の戦略「コアビジネスの拡大」「クラウドサービスの確立」「エッジビジネスの基盤を構築」

 岡氏は冒頭で「25」という数字を提示した。この数字の意味は、企業のIT資産のクラウド移行はまだ25%未満であるということであり、ハイブリッド市場の市場は年間25%の成長ということでもある。

 そのうえで2023年のレッドハットの戦略として、Red Hat Enterprise Linux(RHEL)・Red Hat OpenShift・Red Hat Ansibleといったソフトウェアの「コアビジネスの拡大」、そうした製品のサブスクリプションとクラウドサービスを両立したうえでの「クラウドサービスの確立」、通信事業者や自動車などの「エッジビジネスの基盤を構築」の3つを掲げた。

 それに加えて、日本市場独自の施策として、アジャイルのコンサルティングの「Open Innovation Labs」への取り組みについても挙げた。

レッドハット株式会社 代表取締役社長 岡玄樹氏
「25」という数字の2つの意味
2023年のレッドハットの戦略「コアビジネスの拡大」「クラウドサービスの確立」「エッジビジネスの基盤を構築」

コアビジネス:RHELに加えてOpenShiftとAnsibleもコアビジネスに

 コアビジネスでは、まずはRHELだ。「今も安定的に成長しており、われわれのビジネスの屋台骨」と岡氏。ディストリビュータやOEM、クラウドプロバイダーなど、あらゆる選択肢で顧客を支援するという。

 その1つとして、2月にOracle Cloud Infrastructure(OCI)上でRHELを利用できる「Red Hat Enterprise Linux on OCI」を開始したことを岡氏は取り上げ、「選択肢が増えたことをうれしく思う」と語った。

RHEL:あらゆる選択肢で顧客を支援

 RHELに加えて、コンテナプラットフォームの「Red Hat OpenShift」と、構成管理ツールの「Red Hat Ansible」も、急成長によりコアビジネスに加わった。

 OpenShiftについては、2022年に10億ドルの経常収益を達成したことを岡氏は紹介した。さらに、Kubernetesディストリビューションの中で最長の24カ月サポートという特徴や、グローバルでのNECとのミッションクリティカル領域での協業などを、大きな動きとして語った。

OpenShiftの成長

 Ansibleについては、フォレスター・リサーチのレポートでインフラ自動化のリーダーポジションとして評価されたことを岡氏は紹介した。

 Ansibleについては新機能追加が盛んだと岡氏は言う。その例として氏は、Ansibleの設定内容を、プログラミング言語におけるGitHub Copilotのように自然言語から提案してくれる「Project Wisdom」を紹介した。「IBMの生成エンジンを利用したもので、IT管理者のスキル不足を補填することもできる。これが今年後半」(岡氏)。

 レッドハット株式会社 常務執行役員 パートナーエコシステム事業本部長 三木雄平氏も「Ansibleの設定は、YAMLという自然言語に近い形なので、生成AIと相性がよく、かなりの精度が出てくるのではないかと思う」と語った。

 Ansibleについてはそのほか、データ収集・イベント駆動の機能の追加や、HPE GreenLakeおよびNEC Exastroにおける従量課金モデルでの提供を岡氏は挙げた。

Ansible:インフラ自動化のリーダーポジションとして評価される。新機能や従量課金モデルも
レッドハット株式会社 常務執行役員 パートナーエコシステム事業本部長 三木雄平氏

クラウドサービス:OpenShiftマネージドサービスの日本企業ユーザーが100社を超える

 岡氏が「2023年度の事業戦略で最も重要なもの」とするのが、「クラウドサービスの確立」だ。

 Red Hatのビジネスは、RHELのサブスクリプションから製品のクラウドからの提供へと進み、ミドルウェアもクラウドから提供している。

 そして今最も目覚しいのが、OpenShiftのマネージドサービスを、クラウドサービスとして展開していることだと岡氏は言う。AWSやAzure、IBMなど国内外のクラウド上で提供している。その日本企業のユーザー数も100社を超えたことを氏は紹介した。

 さらに「クラウドサービスが立ち上がるほど重要になるのがオンプレミスのソリューション。両方の環境が整備されたのがまさに今だと考えている」と述べ、岡氏はRed Hatにとってのハイブリッドクラウドの重要性を強調した。

製品のクラウドからの展開へと発展
OpenShiftをクラウドからもオンプレミスからも

エッジ:2024~2025年ごろに本格化と予測

 3つ目のエッジについては、岡氏は「今ではないが、2024~2025年ごろに本格化するだろうと考えている」と語った。

 Red Hatが成長を続けるために中長期的には、クラウドで開発し、エッジにデプロイし、継続的にアップデートする仕組みを作っていきたいと氏は語る。今回発表されたオムロンとの協業もその1つにあたる。「エッジにソフトウェアをデプロイするプラットフォームとしてOpenShiftを使う」とレッドハット株式会社 APAC Office of Technology GTMストラテジスト 岡下浩明氏は説明した。

 エッジ分野についてはそのほか、車載のRed Hat In-Vehicle Operating Systemについても岡氏は言及した。「自動車のプロダクトライフサイクルからして、すぐに収益化がみこめるジャンルではない。しかし、2026年ごろに本格化し、2030年ごろには大規模なビジネスになるためには、今から取り組まなくてはいけない」(岡氏)

 なお、上述した「(エッジが)2024~2025年ごろに本格化」という見込みについて岡氏に質問したところ、今Red Hatがエッジで強みを見せているのがモバイルなどの通信事業者(テレコム)分野であり、そうした通信事業者が2024年をロードマップに上げていることによるとのことだった。

エッジビジネスの基礎を構築
レッドハット株式会社 APAC Office of Technology GTMストラテジスト 岡下浩明氏(リモートから説明)

日本ではアジャイルコンサルティングも好調、コミュニティも今夏立ち上げ

 この3つに加えて、日本市場独自の状況として、アジャイルのコンサルティングの「Open Innovation Labs」が好調であることも岡氏は取り上げた。Red Hat社内でも日本のOpen Innovation Labsは注目されており、「2022年にはグローバルで3本の指に入る成長率で、今年に入っての成長率はグローバルNo.1になるだろうという勢い」と氏は言う。

 Open Innovation Labsについては、富士通とのパートナーシップによるリーチ拡大を岡氏は紹介。さらに、会社全体でアジャイルを展開していくための「Scaled Agileフレームワーク」を日本で展開拡大していきたいと語った。

 もう1つ、「われわれが得意とするのはコミュニティの運営。そこで、アジャイル支援のコミュニティを今年の夏に立ち上げる」と岡氏は明らかにした。これは日本独自の取り組みだという。特に、「経営層に覚悟・理解してもらうこと」「予算管理のやりかた」のようなビジネス側をいかにまきこむかなどについて、共通するベストプラクティスを企業間でシェアしていくとのことだった。

Open Innovation Labsの好調と、アジャイル支援のコミュニティの立ち上げ

オムロンの事例:OpenShiftで制御をソフトウェアドリブンに

 ゲスト1社目としては、オムロン株式会社の事例について、同社 インダストリアルオートメーションビジネスカンパニー コントローラーPMグループ 経営基幹職 夏井敏樹氏が紹介した。

 オムロンでは、ビジネスの57%がインダストリアルオートメーションビジネス(IAB)だという。その中にIPC(industrial PC)事業がある。IPCとはPCアーキテクチャをベースに作られているが、それに加えてフィールドの機器をダイレクトにつないで制御できるコントローラーの機能を持ったものだ。

オムロン株式会社 インダストリアルオートメーションビジネスカンパニー コントローラーPMグループ 経営基幹職 夏井敏樹氏

 夏井氏は、日本は工場の生産性は世界トップレベルだが、成長率が低いと指摘。その原因はデジタル化の遅れにあると語った。そして、これまでハードウェアで提供していた機能をソフトウェア化し、コントローラーを集約し、データ活用により生産性を上げるソフトウェアドリブンの必要性を説いた。

 そのソフトウェアをどう現場に投入するかについて、オムロンではDocker/Kubernetesを採用した。「これまで現場でオペレーターが動きまわっていたことが、指先ひとつでできるようになる」と夏井氏は言う。

 その具現化に向けて、いろいろな会社の協力を募る中で、コンテナプラットフォームとしてRed HatのOpenShiftを選定した。エンタープライズクラスの顧客の声や、産業用途では商用ベースが求められることなどによるものだという。

 このPoCが「MWC Barcelona 2023」で発表された。クラウドからデプロイされたコンテナがIPC上で動き、人の手のジェスチャーに応じて機器を制御するというものだ。

デジタル化とソフトウェアドリブンの必要性
Docker/Kubernetesを採用
現場でオペレーターが動きまわっていたことが、指先ひとつに
「MWC Barcelona 2023」でのPoC発表

 続く2023年度の取り組みについては、「オペレーターから見てどう見えるかに焦点を移す」と夏井氏は説明。管理のGUIツールや、スケーラビリティ、現場でのリアルタイムのための時刻同期、セキュリティなどを挙げた。

2023年度の取り組み:管理のGUIツールや、スケーラビリティ、現場でのリアルタイムのための時刻同期、セキュリティ

三菱UFJインフォメーションテクノロジー:金融でROSAを採用するためにしたこと

 ゲスト2社目としては、三菱UFJインフォメーションテクノロジー株式会社によるRed Hat OpenShift Service on AWS(ROSA)採用事例を、同社 ネットワーク・クラウドサービス部 シニアアーキテクト 千野修平氏が紹介した。

三菱UFJインフォメーションテクノロジー株式会社 ネットワーク・クラウドサービス部 シニアアーキテクト 千野修平氏

 三菱UFJインフォメーションテクノロジーは、三菱UFJフィナンシャルグループのIT・デジタル戦略を先導する役割にある。その基盤プラットフォーム改革における、プラットフォームの考えの変化を千野氏は説明した。当初はオンプレミスをクラウドにリフトするだけで理想から遠いものだったが、さまざまな開発を進化させる試みに変化し、ROSAもそのひとつだという。

 ROSA採用の理由として、まずランニングコスト軽減やマネージドサービスであることというわかりやすい恩恵を千野氏は説明。それに加えて、コンテナだけでは完結せず、ロギングやモニタリングなどさまざまなコンポーネントが必要となる中で、それらすべてのサポートをRed Hatに一元化できることをメリットとして挙げた。

ROSA採用の理由

 また、金融業で採用するために評価と実装を積み上げるためにしたことも千野氏は紹介した。まずは、一時的な認証トークンを発行する「Creating a ROSA cluster with STS」機能など、ROSA側のセキュリティのアップデートがある。

 そのほか、クラウドやコンテナのセキュリティ基準への対応や、Managed OpenShift側の統制の確認などを行った。

金融業で採用するために評価と実装を積み上げた経緯

 ROSAに移行したことで、プラットフォームチームの仕事は、ゲストチームの支援がメインの業務になったという。コンテナプラットフォームで提供されているコンポーネントやコンテナの手法を適用する支援などだ。

プラットフォームチームの仕事はゲストチームの支援へ

 2022年にプロダクションリリースして、今のところ大きな問題は起こっていないという。今後の活動としては、システム構成の標準化とアプリ開発者の支援を進めてファンを増やすことや、ROSAのBlue-Green Deploymentなどシステムの安定や安心のための武器を増やして発展につなげることを、千野氏は挙げた。

今後の展望