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レッドハットが2025年度の事業戦略を説明、JRAによるOpenShiftの採用事例も

仮想化・クラウドネイティブ・AI間で“時代の摩擦をつなぐ”基盤を提供する

 レッドハット株式会社は、事業戦略に関する記者説明会を7月1日に開催。2024年度の事業状況の報告と、2025年度の事業戦略を説明した。

 また、Red Hatのコンテナプラットフォーム製品「Red Hat OpenShift」の顧客事例として、日興システムソリューションズ株式会社(NKSOL)と日本中央競馬会(JRA)が登壇し、自社の導入事例を語った。

左から、日本中央競馬会 尾崎準一氏(情報システム部 統合情報システム課 課長)、レッドハット株式会社 三浦美穂氏(代表取締役社長)、日興システムソリューションズ株式会社 三田徹氏(基盤システム担当 執行役員)

2024年度のトピックは、OpenShiftでの仮想マシン、RHEL 10、車載OS

 レッドハット株式会社 代表取締役社長の三浦美穂氏は、まず、2024年度の事業ハイライトを説明した。グローバルで売上高が11.4%増の成長で、「日本はこれ以上の数字」(三浦氏)だという。

 4つの柱となる事業ごとに見ると、Red Hat Enterprise Linux(RHEL)はグローバルで8%成長で、日本は2桁成長だった。比較的新しいRed Hat OpenShift(OpenShift)とRed Hat Ansible Automation Platform(Ansible)は、いずれもグローバルで2桁成長し、日本も同様の傾向があるという。

 新しい事業であるRed Hat AIも堅調な成長とのことで、「ビジネスの大きさはRHELよりはまだ小さいが、成長は大きい」と三浦氏は説明した。

レッドハット株式会社 代表取締役社長 三浦美穂氏
2024年の事業ハイライト

 トピック別に見ると、まずは、OpenShiftで仮想マシンを動かす「Red Hat OpenShift Virtualization Engine」が前年比で2.8倍成長した。要因としては、三浦氏いわく「次世代の仮想化をどうするかが議論になっている」とのことで、脱VMwareの動きを指すと思われる。ただし、日本企業はすぐにシステムを更改するというより、まず時間をかけて検証している段階とのことで、「今年や来年もまだまだ成長が続くと思っている」と同氏は語った。

 RHELでは最新版の「RHEL 10」がリリースされた。「開発チームいわく、10年に一度の大な機能成長」と三浦氏は紹介した。特に目玉機能として同氏が取り上げたのが、OSのインストールイメージを特殊なコンテナにして適用する「イメージモード」で、OSをアップデートして問題が出たらロールバックできるなど、運用管理やメンテナンスが飛躍的に簡単になると語った。

 新しい分野では車載OS「Red Hat In-Vehicle OS」を三浦氏は取り上げ、5月に安全認証のISO 26262 ASIL-B認定を受けたことを紹介した。これに合わせ、日産自動車がSDV(Software Defined Vehicle)に向けてRed Hatと提携するエンドースメントを発表している。

トピック1:Red Hat OpenShift Virtualization Engine
トピック2:RHEL 10
トピック3:Red Hat In-Vehicle OS

2025年度は仮想化・クラウドネイティブ・AIの間の「時代の摩擦」なく使えるプラットフォームを提供

 続いて2025年度の事業についてのメッセージだ。三浦氏はまず、RHELだけでなくOpenShiftやAnsibleも含め、Red Hatのリリースするソフトウェアが金融、通信、医療などの社会基盤を支えるものになっていると語った。

 そして1年前の戦略について、仮想化、クラウドネイティブ、AIのそれぞれの時代に合ったプラットフォームを提供する、と説明したことをふり返った。

 ただし、これについては課題として、それぞれの時代の間に“摩擦”があることが顕在化してきたと三浦氏は言う。例えば、長くRHELを管理してきたチームと、コンテナでアジャイル開発というチームとで摩擦がある、というようなことだ。

 そこで今年の戦略として三浦氏は「縦に割る(時代ごとに分ける)のではなく、ミルフィーユ状に積み重ねる。それを総合的に管理し、総合的に使うという時代が来る。そこをわれわれは、摩擦なく無理なく使えるプラットフォームを提供して、支えていく」と語った。

2024年のメッセージ。ただし時代間の摩擦がある
2025年のメッセージ。ミルフィーユ状に積み重ねて総合的に管理し使う

企業の自社AI利用が推論にシフト、そこに選択肢を提供する

 そうした時代の変化の中でも「AIの進化が思っていた以上に速い」と三浦氏は言い、AIビジネスの“次の一手”について語った。

 三浦氏は、企業のAI利用について、クラウドのAIサービスを利用する場合と、自社専用のAIサービスを利用する場合を取り上げた。何でも知っているクラウドのAIサービスと、自社の重要なデータを持ち出さずに使える自社専用のAIだ。

 Red Hatは後者を支援するが、企業は両者を適材適所で使うハイブリッドになるだろうとして、「そういうAIの世界をお支えしたいと思っている」と同氏は語った。

 また、自社のAIを使う場合には、コンピューターのリソースを学習と推論とで分け合うことになる。そのバランスが最近では、AIモデルが学習を重ねて賢くなってきたため、推論にシフトしてきたと三浦氏は言う。

クラウドのAIサービスの利用と、自社専用AIサービスの利用
企業のAI利用がより推論にシフト

 そこに向けてRed Hatが発表したのが、AI推論プラットフォーム「Red Hat AI Inference Server」だ。OpenShiftの上で、AI推論エンジン「vLLM」や、AIモデルの量子化(軽量化)技術などを備えたプラットフォームである。特徴として、精度を下げずにコストを削減してパフォーマンスを上げること、OpenShiftベースのため、ほかのシステムと同様のプラットフォームで活用できること、あらゆる言語モデルやアクセラレーター、クラウドに幅広く適用できること――、の3つを三浦氏は挙げた。

 特に3つめの点について、三浦氏は「それがオープンソースの役割」として、柔軟性の必要性を強調。「予測できない未来にこそ柔軟に選択できるプラットフォームを」という言葉とともに、「プロプライエタリなものも含め、お客さまに選択肢を広げていただく。そのプラットフォームを提供するのがわれわれの使命」と語った。

AI推論プラットフォーム「Red Hat AI Inference Server」
言語モデル、アクセラレーター、クラウドの選択肢を提供

日興システムソリューションズ、共通基盤をOpenShiftでモダナイズ

 日興システムソリューションズ株式会社(NKSOL)のOpenShift事例は、同社 基盤システム担当 執行役員の三田徹氏が解説した。同社は、SMBC日興証券向けのシステムインテグレーターだ。

 背景としては、まず、中には四半世紀運用している部分もあるなど脈々と機能を増強してきた結果、システムが大きく複雑になり、稼働確認などに時間がかかり、増強しても効率的にできているかもあやしい状況だったという。さらに、昨今ではセキュリティパッチを迅速に当てる必要もあった。そのほか、共通基盤化を進めたが、運用負荷が軽減できていなかったのを改善したかったという。

 そこで、Red Hatとともに数年後のロードマップを作ってコンテナ化を進め、ちゃんと使われるシステムを目指した。

 構築したコンテナ基盤のポイントは、まずは金融業なので堅牢性を重視した。また、内製化と自動化、コスト最適化を意識した。

 さらに、OpenShift利用は後発なので、先行しているところの知見を取り入れることができたという。例えば、OpenShiftのコントロールプレーンをOpenShiftのPodとして動かす「Hosted Container Plane」は先進的に採用した。

 今後、本番システムは年末ごろから一部展開開始し、全展開は2026年度を予定。さらなる利用としては、仮想マシンをRed Hat OpenShift Virtualization Engineで動かせないか、またAIなどもできないか、検討していきたいと三田氏は語った。

日興システムソリューションズ株式会社 基盤システム担当 執行役員 三田徹氏
構築したコンテナ基盤のポイント
技術的な特徴
今後の展望

JRA、OpenShiftを採用して高負荷対応や安定したリリースを実現

 日本中央競馬会(JRA)の事例は、情報システム部 統合情報システム課 課長の尾崎準一氏が解説した。

 JRAでは2014年に仮想化技術を用いて統合IT基盤を構築して運用開始し、公式Webサイトもそこに置いた。それをさらに2022年にコンテナ化の検討を開始し、2024年にコンテナ化した公式Webサイトをオープンした。

 尾崎氏は背景として、JRA公式Webサイトへのアクセス特性を紹介した。アクセスが土日に集中し、有馬記念では1日で5000万ページビューになる。しかも、レース締め切り直後は皆レースを見るためいったんアクセスが下がって、レース後には皆でリロードして一気に上がるという。

 こうした負荷に耐えて安定稼働するシステムとして、コンテナ化した基盤が計画された。従来の仮想化した基盤の課題として、アクセスが増えたときの対応に時間がかかること、リリース作業で不具合が紛れこむ可能性があること、リリースに時間がかかること、昨今のセキュリティ対策に迅速に対応できる必要があることがあった。

 これを、コンテナ化を導入することで、本番リリース作業が5時間から1時間に短縮し、脆弱性対応頻度が6か月ごとから2か月ごとになり、リリースの不具合がゼロになり、高負荷でも安定して稼働していると尾崎氏は語った。

日本中央競馬会 情報システム部 統合情報システム課 課長 尾崎準一氏
JRA公式Webサイトのアクセスパターン
従来の基盤の課題
コンテナ化の効果