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AWS、金融領域における2023年度の取り組み方針を説明 オペレーショナル・レジリエンスの確保に向けた支援を強化

 アマゾン ウェブ サービス ジャパン株式会社(AWSジャパン)は22日、金融領域に向けた、Amazon Web Services(AWS)の2023年度の取り組み方針について説明。「AWSは金融インダストリーの事業変革を支援する戦略的パートナーとして、オペレーショナル・レジリエンスをはじめとするインダストリー特性への深い理解に基づき、AWSを活用するビジネスパートナーとともに、日本の金融の成長戦略に貢献していく」などとした。

 AWSは2021年に、金融ビジネス戦略である「Vision2025」を打ち出し、「金融ビジネスを変革するパートナー」を目指す方針を示している。ここでは、「既存ビジネスの枠組みを超えたビジネスモデルへの挑戦」、「新生活様式を織り込んだ顧客との関係構築」、「予測できない未来に耐えうる回復力の獲得」、「変革を実現する組織と人材の育成」の4点から金融市場に対する提案を加速。「金融機関における生産性を高めるとともに、スピードやアジリティを上げ、お客さまの成長戦略を支援する」(AWSジャパン 執行役員 エンタープライズ事業統括本部金融事業/ストラテジックアカウント/西日本事業本部 統括本部長の鶴田規久氏)と述べた。

インフラプロバイダーから金融ビジネス変革のパートナーへ
AWSジャパン 執行役員 エンタープライズ事業統括本部金融事業/ストラテジックアカウント/西日本事業本部統括本部長の鶴田規久氏

 また日本においては、メガバンクや信金大手での採用が進むなど、AWSの導入実績が増加していることや、2022年10月に、日本の金融業界における高信頼性を担保するためのフレームワークとして「金融リファレンスアーキテクチャ日本版」を発表し、金融分野に求められるセキュリティやレジリエンスを提供するとともに、金融ワークロードのベストプラクティスを提供していることなどを示した。

「金融リファレンスアーキテクチャ日本版」の発表

既存ビジネスの枠組みを超えたビジネスモデルへの挑戦

 「既存ビジネスの枠組みを超えたビジネスモデルへの挑戦」(Business Model Reinvention)では、プラットフォームのなかで、デジタルアセット、データビジネスなどを提供。三菱UFJ信託銀行は、AWSを活用してデジタルアセットの発行・管理基盤である「Progmat(プログマ)」を、要件定義から約6カ月で開発したという。

 また、日本取引所グループ(JPX)では、カーボン・クレジット取引の実証市場の開発を3カ月半で完了。GXリーグ賛同企業を含む183の企業や自治体が参加していると説明した。

日本取引所グループの事例

 会見に参加した日本取引所グループ 執行役員 田倉聡史氏(4月1日付で、同社執行役CIO、IT企画担当に就任予定)は、「JPXは、カーボン・クレジット市場の技術的実証等事業を受託し、2022年6月から、カーボン・クレジットの価格が公示される形で広く取引される市場構築のための実証事業を開始している。これまでのJPXグループのシステム開発手法は、がっちりと要件定義を行い、そこに書かれていないことはやらないガチガチのウォーターホール手法を取ってきたが、今回のカーボン・クレジット市場システムの開発プロジェクトは、経済産業省も開発を走らせながら考えることに決め、作り始めてからも要件が次々に変わったり、機能が追加されたりしている」と発言。

 「2022年6月の委託事業の開始から、2022年9月には取引を開始するという短期間で、システムを構築した。それを実現したのがAWSの環境であった。AWSが提供するマネージドサービスをフル活用することで、JPXは、アプリケーションの開発に専念。インクリメンタル開発手法を採用することで、要件が固いところは先行開発し、完成したところからテストを行って組み合わせていくことで、開発期間の圧縮を実現し、カーボン・クレジット市場の短期間での立ち上げに貢献した。将来的には、グローバル取引にまで拡張したい」と述べた。

「カーボン・クレジット市場システム」の開発プロジェクト
AWS活用による効果と実証の成功

 今後もAWSとの協業を加速する姿勢を示しており、JPXの共通基盤プラットフォームである「J-WS」をAWS上に構築し、データ・デジタル事業分野のサービスを安定的に運用。「AWS上のプラットフォームに関しては、セキュリティや監査対応、アクセス制御、ライブラリ管理などをJPXグループのポリシーに準拠させ、AWS上であれば、ポリシー違反がない状態で効率よく開発を進めることができるようにする」(同)とした。また、よりミッションクリティカルな分野へ広げていくことを視野に入れ、JPXとAWSがタスクフォースを共同で設置し、協業を進めていることも紹介した。

J-WSの構築とタスクフォースの組成
日本取引所グループ 執行役員 田倉聡史氏

各分野での最新事例

 2つめの「新生活様式を織り込んだ顧客との関係構築」(Engagement in New Normal)では、データアナリティクスと機械学習によるパーソナライゼーションを提供。野村ホールディングスでは、顧客エンゲージメントのデジタル化を促進するために、AWS上にデジタルプラットフォームを構築し、従来は数カ月間を要していた機能改善サイクルを2週間に短縮したという。

 また15行の地方銀行では、AWSのクラウド型コンタクトセンターソリューションであるAmazon Connectの導入プロジェクトがスタート。今後は30行での導入を目指すという。

新生活様式を織り込んだ顧客との関係構築

 3つめの「予測できない未来に耐えうる回復力の獲得」(Resiliency for the Future)では、東京と大阪の国内2つのリージョンを活用することで、データ保護や高可用性の担保、障害からの早期回復などにより、堅牢性と俊敏性を両立するインフラストラクチャを提供。これにより、AWSの複数リージョンを活用して、レジリエンスの向上に取り組む金融機関が増加していることを示した。大手損保の採用事例を近いうちに発表できるとしている。

予測できない未来に耐えうる回復力の獲得

 4つめの「変革を実現する組織と人材の育成」では、顧客起点のサービス開発を実践するデジタル人材を確保するため、エグゼクティブワークショップの開催や、組織に対応した人材育成計画の提案、標準化されたプログラムと認定制度を提供しているという。

 みずほフィナンシャルグループでは、グループ全体で延べ約1500人がAWSトレーニングを受講しグループ会社であるみずほリサーチ&テクノロジーズでは、900人を超えるAWS有資格者を育成したという。金融機関では最大規模のAWS有資格者が在籍していることになる。

金融機関におけるオペレーショナル・レジリエンスの確保に向けた支援を強化

 一方、今後の取り組みとして、金融機関におけるオペレーショナル・レジリエンスの確保に向けた支援を強化することを示した。いう。

 AWSジャパンの鶴田執行役員は、「未然防止策を尽くしても、なお業務中断が生じることを前提に、利用者目線で、早期復旧、影響範囲の軽減を確保する枠組みである『オペレーショナル・レジリエンス』が重要されている。AWSでは、高可用性の実現、ディザスタリカバリーによるレジリエンスの実現、そして、継続的な改善を進めている」と説明。

 クラウドでセキュアなシステムを構築するために日常常務を管理する「AWS Well Architected Framework」、FISC対応を中心に、日本の金融機関に求められるセキュリティや可用性を実現するフレームワーク「金融リファレンスアーキテクチャ日本版」、システムアーキテクチャだけでなく、障害テスト設計と実行を含むレジリエンス向上を目的としたアセスメントである「Resilient Application Readiness Assessment(RA2)」を提供。ワークロードを対象とした机上演習によって、インシデント対応の準備状況を判断し強化する「Incident Management Workshop(Enterprise Support)」を日本市場向けに提供することも示した。

クラウドにおけるレジリエンシー向上へ向けたAWSの支援

 また、Amazonのイノベーションメカニズムを活用したサービスデザインワークショップである「Digital Innovation Program」を提供。3年間で、35件の活用があり、ワークショップの内容を実際のプロジェクトに展開した比率は40%に達しているという。

 Digital Innovation Programを活用した東京海上グループでは、イーデザイン損保や東京海上あんしん生命などが、同プログラムにより、新たな商品やサービスの開発を進めているとのこと。

Digital Innovation Program

 このほか、金融領域におけるパートナー戦略についても説明。AWSジャパンの鶴田執行役員は、「金融領域におけるユーザーが増加するのに従って、AWSと一緒にビジネスをしたいというパートナーの表明が増えている」とコメント。「メインフレームモダナイゼーションのプロジェクトも稼働しており、アクセンチュア、富士通、日立、SCSK、日本IBM、キンドリルなどのパートナーと協業しながら、メインフレームのアプリケーションをAWS上に移行している。さらに、QUICKやシンプレクスなど、金融ビジネスプラットフォームにAWSを活用するプラットフォーマーがあり、ここの支援にも力を注いでいく」と語った。

メインフレームモダナイゼーションの支援
金融ビジネスプラットフォームの構築

 静岡銀行と日立製作所は、Linuxで構築したオープン勘定系システムのクラウド化に向けて、AWS移行に関わる技術検証に着手。2027年の稼働に向けた準備を進めているところだ。

 「静岡銀行、日立製作所とのパートナーシップにより、クラウド環境上でのフルバンキングシステムを構築することになる。既存の基幹システムの維持に7~8割が使われているという環境を日本の現状を変えたい。そこを変えなければ、日本の金融機関の競争力は上がっていかない。その点でも、このプロジェクトは大きな意味を持つ。技術的にはできると考えている。それをどう実現するのか、という段階に入っている」と述べた。

静岡銀行と日立製作所の取り組み