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AWS、金融市場向け新戦略で日本社会・経済の安定基盤の提供を目指す

 アマゾンウェブサービスジャパン合同会社(以下、AWSジャパン)は、金融向け戦略説明会を開催。2021年に発表した「Vision 2025」では、「インフラプロバイダーから金融ビジネス変革の戦略パートナーへ」という戦略を発表していたが、今回はそれに続く「Vision 2030」となる、「インフラプロバイダーから金融ビジネス変革の戦略パートナーへ」の詳細を説明した。

 同社はパートナー企業とともに、「戦略領域への投資拡大」「新規ビジネスの迅速な立ち上げ」「イノベーション人財の育成」「レジリエンシーのさらなる強化」という4つの戦略を実践していく。

Vision 2030へ向けた取り組みについて

 AWSジャパンの常務執行役員 金融事業統括本部 統括本部長、鶴田規久氏は、「新しいVision2030では、日本社会、経済の安定した基盤を私どもが提供するという方針を打ち出し、そこに向け4点に焦点を当て、活動を実施していく」と説明した。

アマゾンウェブサービスジャパン合同会社 常務執行役員 金融事業統括本部 統括本部長の鶴田規久氏

 また説明会には、みずほフィナンシャルグループ執行役員グループ副CIO兼みずほ銀行執行役員副CIOが登壇し、基幹システムMINORIの一部にAmazon Web Services(AWS)を採用していることを明らかにした。

 Vision 2030を実践するにあたり鶴田常務執行役員は、「金融機関向けアンケートをとったところ、日本の金融産業における、戦略投資の比率は10.6%にとどまった。この投資比率を、我々の提供するサービスを使ってもらうことで変えていきたい。より戦略的なエリアに、投資を振り向けるような環境を作っていきたい」と述べ、金融機関が変革することを支援していく姿勢を強調した。

 注力ポイントの1点目である「戦略領域への投資拡大」としては、生成AIなどの開発ツールの活用により、IT資産のモダナイゼーションを加速と金融リファレンスアーキテクチャの開発による、ベストプラクティスの共有などを実践していく。トレーニングと推論のためのインフラ、アプリ開発ツールに加え、構築済みアプリケーションのモダナイズを支援するAmazon Q Developerなど、さまざまなツールを提供している。

 「既存のシステムに対しては、例えば30年前、40年前にCOBOLで開発された勘定系システムの仕様が全く分からない、中身を分かっている人材がほとんどいなくて手をつけられないという金融機関も多いようだ。その場合、Q Developerを導入することで、既存システムを自動的に解析し、解析結果を吐き出し、最終的にJavaコードに変換するところまでサポートしていくことができる。既存システムをモダナイゼーションする際の大きな武器となる」(鶴田常務執行役員)。

AWSの生成AIサービスを活用し、金融のIT資産のモダナイゼーションを加速

 日本総研ではAmazon Q Developerを導入し、現在はJava 8のモダナイゼーションの基礎検証を終え、試行を開始しているという。今後、大規模メインフレーム上で稼働中のCOBOLプログラム資産について、将来的なJavaへの移行とマイクロサービス化への展開を計画している。

生成AIを活用したモダナイゼーションへの取り組み

 2点目の「新規ビジネスの迅速な立ち上げ」は、生成AIを始めとする、240を超えるAWSのサービスを提供するための開発スピードを向上させ、アマゾンのイノベーションメカニズムを活用した、顧客起点のサービスの開発を支援する。アプリ開発ツールであるAmazon Bedrockは、2月20日から東京リージョンだけでなく、大阪リージョンでも利用が可能となった。

 「生成AIを活用したビジネス変革への取り組みとして、既に多くの金融機関が、AWSの生成AIサービスを、カスタマーサポート、営業支援、投資調査、社内業務効率化、コンプライアンス、データ分析など、金融ビジネスのさまざまな業務へ適用を進めている。公表しているのは、本当に一部のお客さまで、さらに多くのお客さまが利用を始めている」(鶴田常務執行役員)。

240を超えるクラウドサービスをビルディングブロックとして生産性を向上

 3点目の「イノベーション人財の育成」では、組織の成熟度に対応した、実践的なデジタルスキル獲得の支援と顧客起点で発想する、組織・カルチャーの変革プログラムの提供を行う。

 「人材については、技術的な支援のみならず、伴走型支援として特に顧客設計計のシステム、内製化されるお客さまが非常に増えていることから、私どもの技術者が伴奏させていただいて、横に座ってご一緒に開発をさせていただくケースも出てきている。ユニークな事例としては、りそなホールディングスでは、新任役員の必須研修として、弊社のトレーニングプログラムを実施し、顧客起点の組織への変革をトップ自ら推進する体制を作っている」(鶴田常務進行役員)。

変革を推進するイノベーション人財の育成を支援

 4点目の「レジリエンシーのさらなる強化」としては、AWSのインフラストラクチャとサポートによるレジリエンシーの向上と、AWSの脅威インテリジェンスとサービスによるサイバーセキュリティ対策の強化を挙げている。

 金融リファレンスアーキテクチャ日本版2025年の取り組みとしては、サイバーレジリエンス(ベストプラクティスと実装リファレンスの提供)、ミッションクリティカル(設計・開発・テスト・運用の全体をカバーするリファレンスの提供)、生成AIガバナンス(金融向けガバナンスの実装と実務ユースケースのリファレンスの提供)、金融リファレンスアーキテクチャの更新(FISC13版への対応、現行ワークロードと実装ガイドのさらなる拡充)――などを提供しているという。

金融リファレンスアーキテクチャ日本版2025年の取り組み

 また、ユーザー側がAWSのレジリエンシーへの理解を深めるために、インタラクティブなセッションとして、「AWS オペレーショナルレジリエンス・ワークショップ」を提供。レジリエントな仕組みと設計思想などを学ぶ内容になっている。

AWS オペレーショナルレジリエンス・ワークショップ

 このほか、エンタープライズサポートのオプションとして、クリティカルワークロードを対象としたサポートの強化を行った。「AWS Incident Detection and Response」は、インシデント解決を加速するプロアクティブな監視と5分以内の初期応答、AWSの大規模障害を含む、インシデント対応支援によるレジリエンシー向上などを支援するもの。2024年10月1日より、日本語によるサポート提供を開始している。

 一方の「AWS Countdown/Countdown Premium」は、移行やピーク対応など、重要なシステムイベントのサポートをするもの。イベント前後に加え、Premiumサービスでは計画段階から安定運用までを支援している。

 なお、ITシステムは従来、「(トラブル等によって)止めない」とされてきたが、AWSでは、「最終的なゴールは、止まらないシステムではなく、ユーザーに迷惑をかけないシステム――という話を今一生懸命している」(鶴田常務執行役員)という。

 「システムを止めない、99,999%という高可用性は、技術的には(AWSのクラウドでも)もう可能となっている。これまで、日本の大手企業のITシステムは、数千億円単位で“止まらないシステム”に対してお金が投下されてきた。しかし、どれだけ高可用性を追求しても、トラブルをゼロにすることはできない」と前置き。

 「これを、システムを二重化することで、何らかのトラブルが起こってもサブシステムでカバーし、メインシステムも5分で復旧できる体制とするなど、ユーザーに迷惑をかけないシステムとすることが目指す方向ではないか。我々としては、先ほどこの4年間で実現したシステムをばーっと並べて説明したが、やはり実績を示すしかないと思っている。公表できないものの、ミッションクリティカルな巨大システムが動いている例もあり、こうした実績を作りながら、何か起きても即座に回復するといった実績も積むことで、お客さまからの信頼を得ていきたい」(鶴田執行役員常務)。

 加えて、サイバーセキュリティ対策の強化を支援も実施し、AWSのグローバル規模のインサイトを顧客の保護、脅威の排除などに活用。インシデント対応ソリューション、サイバーセキュリティに対応するAWSのサービス群、AWSのグローバルスケールを活用した脅威検知と防御などを提供している。

 また、国内でサイバーセキュリティサービスを提供するパートナー企業との連携を強化し、金融機関向けサイバーセキュリティ対策の強化も行っているとのこと。

サイバーセキュリティ対策の強化を支援

 なおVision 2030の前に、AWSが2021年に発表したVision 2025は、金融向け戦略の第3ステージとなる。2011年に発表した第1ステージでは、「ノンクリティカル・システムのための低コストインフラ」、2017年に発表した第2ステージでは「金融ITを効率化するインフラプロバイダー」、第3ステージではインフラプロバイダーから金融ビジネス変革の戦略パートナーへとして、次の4点を実施していくことを発表していた。

 Vision2025では、「Business Model Reinvention 既存の枠組みを超えたビジネスモデルへの挑戦」、「Engagement in New Normal 新生活様式を織り込んだ顧客との関係構築」、「Resiliency for the Future 予測できない未来に耐え得る回復力の獲得」、「Organization and People to Drive Transformation 変革を実現する組織と人材の育成」という4点の目標を掲げていた。

Vision 2025までの3つのステージ

 成果としては、東京証券取引所が2023年10月に開設したカーボン・クレジット市場を3カ月で立ち上げ、横浜銀行がスマホアプリ「はまぎん365」で実現したパーソナライズ、NTTデータが運営するキャッシュレス決済プラットフォーム「CAFIS」は月間1億トランザクションをAWS上にて処理、みずほフィナンシャルグループのAWSを活用したデジタル人材の育成などを挙げ、多くの金融機関での実績が出ているとアピールした。

新基幹システムMINORIへのAWS採用

 説明会には、AWSを利用する金融機関として、みずほフィナンシャルグループ 執行役員グループ副CIO 兼 みずほ銀行 執行役員副CIOである山本健文氏が登壇し、みずほフィナンシャルグループのAWS活用を紹介した。

みずほフィナンシャルグループ 執行役員グループ副CIO 兼 みずほ銀行 執行役員副CIOの山本健文氏

 同行は現在、中期経営計画を実施中で、ITシステムについては新基幹システム「MINORI」が稼働している。同システムは2011年から検討を開始し、2019年に移行を完了。みずほフィナンシャルグループとして統合される前から稼働していたシステムの統合によるシステム一元化、レガシーからの脱却、保守性の向上によって新しい金融を支えるPlatformへの変革実現を目指した。そのために、開発期間8年、開発工数35万人月、開発コスト4000億円なかば、パートナー1000社が関わったという。

 MINORIの特徴は疎結合であることと、基幹システムにメインフレーム、オープンシステムの両方を採用。大量処理はメインフレームで行い、それ以外はオープンシステムを採用していることだ。

基幹システム-MINORI-の狙い・プロジェクト概要
基幹システム-MINORI-のシステム概要

 その後、2024年から基幹システムの一部機能・開発環境をAWSに移行している。オープンシステムを採用していた中から、計表、日計、データマート(情報提供機能)にAWSを採用した。

 「MINORIの特徴は、メインフレーム系とオープン系を組み合わせたハイブリッド環境。今回AWSへの移行は、オープン系を中心としたところから始めている。マルチクラウドを指向する中、なぜ、AWSを選択したのかは、長年にわたるパートナーシップがあったことも要因のひとつだが、レジリエンシーの向上、メンタルモデルの転換、外部リソース活用が要因となった」と山本副CIOは説明する。

パブリッククラウドの利活用
基幹システムにおける取り組み -AWS適用-

 レジリエンシー向上とメンタルモデル転換は、「我々、障害対応については多くの方に非常にご心配をかけた経験もあり、メインフレームの世界でいえばシステム障害を起こさない、ゼロにするというチャレンジを続けてきた。しかし、ハイブリッドクラウド環境においては、障害はどうしても将来は起きるものという前提で、どうやってお客さまサービスを継続していく上で対応ができるかを考えるというメンタルモデルを転換し、考えて行くことが必要となる」と全く違う考え方が必要になるという。

 また、「日本の人口が減ってきている中、どうしてもIT人材あるいはDX人材を確保していくために、自前の技術者だけでは対応しきれなくなっている。将来的な話も含め、外部人材の活用も必要になる」と外部リソース活用も進めていく。

 なお、最初のパブリッククラウド導入にあたっては、「最初はセキュリティがやはり非常に心配だった。これまでオンプレミス、データセンターも含めてセキュリティ確保してたものが、パブリックラウドを利用するときにどうしたらいいんだろうか?と考え、セキュリティ対策中心にまずは体制を整備し、共通基盤を構築して進めてきた」と、最大の懸念材料がセキュリティ確保だったと山本副CIOは明らかにした。