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HashiCorp、国内リージョンでHashiCorp Cloud Platformを提供へ 2022年秋の提供開始を予定

まずは「HCP Vault」「HCP Consul」の両サービスから

 クラウド管理ツールを開発する米HashiCorp社は3日、同社のソフトウェアをクラウド上のマネージドサービスとして提供する「HashiCorp Cloud Platform(HCP)」を、日本リージョンで一般提供することを発表した。2022年10月末~11月頭の提供開始を予定している。

 認証情報などの機密情報を管理するVaultのクラウド版である「HCP Vault」と、サービスメッシュのためのConsulのクラウド版である「HCP Consul」の2サービスを提供する。Amazon Web Services(AWS)の東京(ap-northeast-1)および大阪(ap-northeast-3)リージョン上で動作する(管理対象はAWSには限らない)。

 日本リージョンでの提供により、日本の利用企業のレイテンシ(遅延時間)やデータの国内所在についての要件に答える。

 サービス開始にともない、早期申し込み導入支援キャンペーン「HCP Jumpstart」も開催する。申込期間は8月3日~10月31日で、限定特別ライセンス価格での提供や、テクニカルトレーニング、利用開始支援、導入後フォローアップ、資格試験対策講座が含まれる。

HashiCorp Cloud Platform(HCP)の日本リージョンでの一般提供開始

 発表にあわせて、日本法人のHashiCorp Japan株式会社が、HashiCorp製品の日本市場での状況や顧客事例などについて記者説明会を開催した。

マルチクラウドによるサイロ化を防ぐ統一コントロールプレーン

 HashiCorp Japan株式会社 カントリーマネージャーの花尾和成氏は、HashiCorp製品と日本での市場動向について説明した。

 まず、企業がデジタルシフトを進めるようになり、81%の企業が複数のマルチクラウドを採用し、90%の企業がマルチクラウドは機能しているという調査結果を花尾氏は紹介した。

 しかし、ボトムアップのクラウド運用モデルでは、サイロ化が進んでしまうことがあると指摘。そこで、間にHashiCorp製品が入ることで統一インターフェイスとなるコントロールプレーンを作り出し、運用効率と開発生産性を向上させると、HashiCorp製品の意義を説明した。

ボトムアップのクラウド運用モデルではサイロ化が進んでしまうことがある
間にHashiCorp製品が入ることで統一コントロールプレーンを作り出す

 ここで花尾氏は、HashiCorpの各領域の自動化ソリューションを紹介した。プロビジョニングでは、構成管理ツールのTerraformや、仮想マシンイメージを作るPackerなどがある。ネットワーク(サービス間通信)ではConsulなどがある。セキュリティでは、Vaultやリモートアクセス管理のBoundaryなどがある。アプリケーションプラットフォームには、ワークロードオーケストレーションのNomadや、デプロイ自動化のWaypoint、開発環境構築のVagrantなどがある。

 これらは、利用者が自前で動かす形式のほか、HCPのようにHashiCorpのクラウドで提供するものがあるという。

HashiCorpの各領域の自動化ソリューション

国内でのビジネスは堅調

 次に花尾氏は、国内でのビジネス状況を1年前と比較して報告した。全体的にビジネスは堅調だという。

 顧客数は130%以上成長。これはWeb系だけでなく、DXによる内製化に取り組む従来企業での導入が進んでいることにもよるという。さらに、複数の製品を採用するところも多いと花尾氏は語った。

 1年前にはエンタープライズ市場への本格参入を掲げており、実際に大手SIパートナーとの契約を増やしたと花尾氏は言う。

 それらにともない、日本オフィスを拡大。営業やプリセールスに加え、マーケティング、カスタマーサクセス、デベロッパーリレーションなどを拡充し、12名から20名に増えた。これからも拡大していくという。

国内でのビジネス状況

Yahoo! JAPAN、マネーフォワード、アイシンの導入事例

 続いて、日本における事例について、HashiCorp Japan株式会社 SE Directorの小原光弥氏が紹介した。

 Yahoo! JAPANでは、広範なITインフラを管理するための機密情報の管理のため、HashiCorp Vaultを採用した。Vaultの採用理由として、さまざまな認証パターンに対応していること、HashiCorpの思想や開発者とのディスカッションを通じたHashiCorpへの信頼、サポート対応を小原氏は挙げた。

 マネーフォワードでは、もともと個人環境からOSS版Terraformを実行していた。ここにクラウド版であるTerraform Cloudを採用することで、権限委譲に関するセキュリティ管理や、自動化による生産性向上などを果たしたという。

 もう1つ、自動車部品の株式会社アイシンでの採用事例を、同社CSSカンパニー コネクティッドソリューション部の福元将高氏が登壇して語った。

 福元氏の所属する部署では、CSS(コネクティッド&シェアリングソリューション)の中で、ビッグデータのクラウドプラットフォーム「Tatami」を企画、開発、テスト、監視機能開発、保守、運用している。

 人数は6名で、AWSで2000以上のリソースを管理している。これはWebコンソールでは無理で、IaC(Infrastructure as Code)による管理が必須だという。これをTerraformで管理。AWS自体のほか、監視のDatadogもTerraformで管理している。

 以前はOSS版Terraformを利用していたが、個人のPCにインストールして実行するとガバナンスが効かないこと、一方でサーバーを立てるのは6名では管理負荷が大きくメリットがないことから、Terraform Cloudを採用。やりたいことに集中できるようになったと福元氏は語った。

 Terraform Cloud導入にあたっては、そのままでは右往左往してしまうところを、サポートを受けたことにより1か月で移行できたという。

 Terraform Cloud独自の機能については、プロビジョニングしたものと定義とが一致しているかの定期的チェックの機能に期待しているという。また、Tatamiだけでなく全社に広げたたい、そのためにHashiCorpとうまくやっていきたい、と福元氏は語った。

アイシンの位置情報活用プラットフォーム
アイシンのTerraform事例

パートナー企業との連携やコミュニティの拡大に注力

 最後に花尾氏が、国内における今後の注力活動について説明した。

 1つめは、企業のクラウド運用モデルやDevSecOps推進を支援する。1年前には「ゼロトラスト」という言葉を使っていたが、それを含めてより広義で取り組むという。具体的には、ポリシーガイドライン策定と運用コストの効率化の支援、ゼロトラスト運用とDevSecOpsの推進支援がある。

 2つめは、パートナー企業との連携を強化する。「ご存じのとおり、日本でパートナー企業は重要」と花尾氏。例えば、「製品のよさは自負しているが、それだけでは導入できない」(花尾氏)として、導入アセスメントをはじめとしたソリューション開発で連携する。また、CSPやリセラー各社との共同プロモーションや、HashiCorp製品の特徴とする連携においてテクノロジーパートナーとの連携シナリオを進める。

 3つめは、マーケティング活動の強化とコミュニティの拡大。HashiCorpユーザーグループを作っていきたいという。また、各製品コミュニティの拡大として、特にTerraformやVaultといったOSS版が広く使われている製品の啓発活動を進める。

 この3つに加えた注力ポイントとして、今回の発表であるHCP国内展開も花尾氏は挙げた。「これまでのセルフマネージドに加えて、選択肢を提供する。かつ、マネージドサービスで、運用負荷から顧客を開放したい」と花尾氏は語った。

国内における今後の注力活動