ニュース
グーグル・クラウド、企業のシステム内製化促進を支援する「TAP」専用エリアを六本木にプレオープン
株式会社カインズによる事例も紹介
2022年9月28日 06:15
グーグル・クラウド・ジャパン合同会社は27日、エンドユーザー企業のシステム内製化を支援する「Tech Acceleration Program(TAP)」のための専用エリアを、同社の六本木オフィスにプレオープンしたことを発表した。
一般にDXの一要素として、ユーザーの要望や反応を迅速にシステムに反映するために企業がシステムを内製することが言われる。こうしたクラウドネイティブなシステムをGoogleのクラウド上で内製化することを支援するのがTAPだ。すでにいくつかの企業が利用し、内製化につなげているという。
同日開催された記者説明会では、そうした企業の1つとして、ホームセンターの株式会社カインズの事例も紹介された。
内製化の課題は、成功体験の不足、人的リソース不足、最適なサービスの把握
内製化のニーズについて、スマートフォンの普及やコロナ禍により顧客接点がデジタル化し、顧客ニーズへの迅速な対応が求められるようになったことを、グーグル・クラウド・ジャパン合同会社 執行役員 ソリューションズ&テクノロジー担当の菅野信氏は理由に挙げた。
菅野氏は、米国での内製化率が60.20%に対して日本は19.30%というIPA「DX白書2021」の数字を紹介しつつ「日本における内製化の流れは強まっていくと思われる」と語った。
一方で企業が内製化するための課題として、成功体験の不足によって組織としてコミットできないこと、人的リソースの不足、どのようなサービスやツールを選んだらいいかわからないという最適なサービスの把握の3つを菅野氏は挙げ、「TAPではこういった課題の改善に取り組む」と述べた。
そのため、TAPでは「伴走して成功体験を作っていただくのが目的」だと、グーグル・クラウド・ジャパン合同会社 技術部長(インフラ、アプリケーション開発)の安原稔貴氏は語った。
数日間でプランやトレーニング、設計、開発を実施
TAPには大きく分けて、開発を支援する「ソフトウェアプロトタイピングサポート」と、設計を支援する「アーキテクチャ設計サポート」の2つのメニューがある、と安原氏は説明した。
ソフトウェアプロトタイピングサポートは、エンジニアや、アプリケーション基盤の意思決定者、テックリードが対象。アプリケーションのプロトタイプをGoogle Cloudのエンニアが支援して開発するとともに、実際にGoogle Cloudにデプロイして動くところまでをサポートする。
アーキテクチャ設計サポートは、アーキテクトが対象。ビジネス課題や実現したいことをヒアリングし、既存ワークロードのGoogle Cloud移行や既存Google Cloudワークロードの再設計などを含め、改善に取り組む。
このうちソフトウェアプロトタイピングサポートの実施スケジュールを例にとると、事前準備のDay 0と、実行するDay 1~4からなる。
Day 0(Planning)では、ビジネスとしてどんなことをやりたいか、何を改善したいかなどを、Google Cloudのカスタマーエンジニアといっしょにアーキテクティングする。ビジネス面でステークホルダーとの調整なども行う。
Day 1(Training)は、Googleプロダクトの説明やハンズオンを含めたトレーニングを実施する。さらに、CI/CDやSREなど、製品に必ずしもひもづいていないことについても、要望があればトレーニングする。
Day 2(Service Design & Architect)は、顧客が自分でアーキテクティングできるようにするたに、ディスカッションしながら設計をする。例えば、マイクロサービスが向いている顧客ではビジネスドメイン分析などを行う。必要に応じて、データ移行やCI/CDまで検討する。
そして、Day 3~4(Develop Prototype)は、顧客とGoogle Cloudのカスタマーエンジニアとでいっしょに実際のアプリケーションを作っていく。動いたらいいというわではなく、今後改善し続けるのが目的なので、CI/CDやテスト自動化なども目的に応じて組み込む。
さらに実施後には、プログラムのふりかえり(Retrospective)として成果報告会を実施する。参加者へのアンケート結果や実施してわかった課題などから、今後の取り組みと継続した支援も提案する。
そのほか、内製化支援パートナーのサポートプログラムも用意しており、「3人4脚で内製化を進めることができる」と安原氏は説明した。
ホームセンターのカインズのTAP参加事例
株式会社カインズの事例については、同社 デジタル戦略本部 システム統括 統括部長の長尾秀格氏と、デジタル戦略本部 システム統括 プロダクト開発部 部長の菅武彦氏が登場して説明した。
カインズは2018年にIT小売業宣言をし、2019年中期経営計画で「PROJECT KINDNESS」を打ち出して、デジタル戦略を進めた。
両氏の所属するデジタル戦略本部も、この2019年に設立された。目的は、デジタル人材採用強化や、オフショアパートナーシップ、グループ会社IT部門との統合。現在200名が所属する。
TAPに参加した背景として、菅氏はまず当時の課題を紹介した。人員も増えてプロダクト数も増えたことにより、現場からは「どこに作ればいいかわからない」「どこにデータがあるかわからない」「担当者が誰かわからない」という声が増えたという。さらに、機能やデータの重複や、コミュニケーションコストによる横断プロジェクトの遅延、増え続けるシステムコストも問題となっていた。
そうしたとき、もともとGoogle Cloudを使っていたことからTAPを紹介され、参加したという。
カインズの本庄本社でシステムや業務を“健康診断”
TAPには2つのシステムで参加した。1つめはECのシステムだ。「なんとかリリースしたが、リリースしてみると課題が見えてきた」と菅氏は言う。
そこで、Googleのエンジニアなどが埼玉県本庄市にあるカインズの本社オフィスに集まり、フローを図に描いたりしながら“健康診断”を行った。
ここで、もっと全体最適の余地があるというシステム設計のクセを指摘され、コンウェイの法則の考えを教わった。また、マイクロサービス設計にも一部取り組んでいたが、「全然できていなかった」(菅氏)とのことで、全体を見てのマイクロサービス設計を教えてもらったという。さらに、マイクロサービスするうえでのチームの役割についても指導を受けたとのことだった。
2つめのシステムは需要予測だ。これは、プロジェクトを立ち上げようとしていたが、データサイエンティストやデータエンジニアがいなかったため、実際に動いていなかった。
そこでTAPのワークショップを開いてアーキテクチャ設計やプロトタイピングを学び、実際にプログラミングして稼働するところまでたどりついた。
TAP参加で問題意識が変わった
需要予測のプロジェクトでは2021年12月に、ECのプロジェクトでは2022年1月にTAPに参加した。
TAP受講後の効果として菅氏は「問題意識が変わった」ことを挙げた。まずグランドデザインを作ったり、ドメイン分割やデータモデリングについてディスカッションしたり、さらにはマネジメント層に課題感を提起して、あるべき組織を提案したりするようになったという。
その結果、需要予測のプロジェクトは本稼働に進み、発注予測に活用している。一方、ECのプロジェクトはまだ途中段階で、モノリスを分解してマイクロサービス化しているところだ。なお、実組織もマイクロサービスアーキテクチャに合わせて再編成しているところだという。
そのほか、グループ会社のカインズ、ワークマン、ベイシア横断で、Google Cloudスキルチャレンジプログラムにも参加している。総勢155名でGoogle Cloudのサービスを学び、資格をのべ43名が取得したという。
最後に菅氏は、「カインズとしては、ビジネスを進めるうえでGoogleの力を借りていき、新しいビジネスをITの力によって作っていくことにも取り組んでいきたい」と語った。