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日本IBMが次世代メインフレーム「IBM z16」発表、AI推論を利用したリアルタイムでの洞察獲得に対応
2022年4月7日 06:30
日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、日本IBM)は6日、IBM Telumプロセッサーを搭載した新メインフレーム「IBM z16」を発表した。2022年5月31日から出荷を開始する。
意思決定の速度を高めるAI推論と自動化、サイバー攻撃に対応できるセキュアなシステム、ハイブリッドアプローチによるモダナイゼーションの推進といった3つを特徴にしており、「新たな未来を創造するシステム」と位置づけている。
また、IBM zSystemsを利用している日本の顧客に対して、アプリケーションやデータ、プロセスのモダナイゼーションを加速するためのツール、技術資料、研修などを一括して提供する「IBM Z and Cloudモダナイゼーション共創センター」を、4月6日に開設したことも発表した。
1日に3000億回のAI推論を処理できる新メインフレーム
IBM z16は、AI専用エンジンをチップ上に搭載したIBM TelumプロセッサーによるAI推論と、高い安全性と信頼性を備えた大量のトランザクション処理の融合を実現。1ミリ秒でAI推論処理を実行し、1日に3000億回のAI推論を処理できるという。
金融機関などにおいては、トランザクション中に、不正を大規模に分析できるようになり、クレジットカードの不正取引に対応するための時間や労力の軽減につながるほか、ビジネスローンや消費者ローンの審査の迅速化、決済前に高いリスクにさらされる取引やトランザクションの特定、小売業における詐欺や盗難に対するリスクを適切にモデル化――、といったことが可能になり、年間100億円単位の不正取引を未然に防ぐことができると試算している。
- 初出、「年間1000億円単位」としておりましたが、日本IBMより数字の訂正がありましたので、記載をあらためました。
日本IBM 執行役員 テクノロジー事業本部の渡辺卓也氏は、「AIは企業の競争力を高める鍵になるが、スピードや遅延の制約から、部分的なAIしか利用できていないという課題がある。IBM z16は、メインフレーム上で発生するすべてのトランザクションに対して、リアルタイムにAI推論を実施することができる。取引における不正検知という使い方ではなく、不正の予防が可能になる。また、AIOpsの活用では、AIによる問題検知、判断、アクションの自動化、早期回復、安定稼働に貢献できる」とした。
日本IBM 技術理事 テクノロジー事業本部の川口一政氏は、「リアルタイムAI推論は、銀行ではローン承認や利率の決定への適用、貿易では支払い決済、保険では保険請求の適性検査などへの適用が可能であり、あらゆる業種での活用が考えられる。また、IBM Db2では、AIの利用により、マネーロンダリングの実態を把握するために類似した特性を持つ顧客をあいまいな検索条件で特定したり、類似した利用状況の口座を明らかにしたりでき、問題をリアルタイムに分析して、プロアクティブな対応ができる。問題解決までの時間を最大42%短縮できる。ここにもメインフレームならではのIBM z16の特長を生かすことができる」とした。
IBM z16の筐体は、前世代となるIBM z15から採用した19インチフレームラックを継続。最大4ラックまでの拡張が可能であり、最大400個のコアと最大40TBのメモリ搭載が可能だ。
IBM Telumプロセッサーは、7nmテクノロジーにより、消費電力を抑え、CO2排出量の削減にも貢献している。動作速度は5.2GHzであり、CPUコアあたり11%のパフォーマンス改善を実現したという。また、CPUコアと同じチップ上にはAI推論を実行する専用ハードウェアであるオンチップAIアクセラレータ(AIU)を世界で初めて搭載している。
また、FICON Express 32により、32Gbpsの高速データ転送も可能にしている点も特徴のひとつだ。
セキュリティについては、アプリケーションデータの包括的で透過的な暗号化を実現する全方位型暗号化や、企業内の機密データをすべて暗号化し、集中的にコントロールするHyper Protect Data ControllerといったIBM のテクノロジーを採用。さらに、業界初となる耐量子暗号システムを採用。将来の脅威からも保護し、サイバーレジリエンシーを高めているという。
耐量子暗号システムは、Crypto Express 8Sでサポートし、現在および将来の脅威から、データとシステムを保護することができる。
「いまは解読不可能な暗号化技術であっても、将来、量子コンピュータ技術が悪用され、解読されることが想定される。その時期を見越して、データが盗まれているのが現状だ。耐量子暗号システムによる高度な暗号化によって、将来に渡って高いセキュリティを実現することができる」(渡辺執行役員)という。
そのほか、本番環境で稼働している能力を、ほかのIBM z16に移行させて利用でき、緊急時のデータセンターなどの切り替えなどにも対応可能なIBM Z Flexible Capacity for Cyber Resiliencyなども提供する。
ハイブリッドクラウド環境に最適化
また、IBM z16は、ハイブリッドクラウド環境に最適化した点も特徴だ。
「クラウドとオンプレミスを適材適所で組み合わせて活用するハイブリッド型アプローチが主流になっていることや、既存業務と新たなデジタルサービスをシームレスに活用するニーズが高まっていることをとらえて、IBM Cloudサービスの拡充、ソフトウェアバンドル製品の提供により、迅速な開発環境の提供、開発生産性の向上を支援する。将来に渡って基幹システムを守りながら、ハイブリッドクラウドの中核製品として、企業のデジタル変革を支える」(渡辺執行役員)とした。
さらに、IBM Wazi as a Serviceを提供する。同サービスは、Red Hat Open Shift上の仮想z/OS環境で、開発からテスト環境へのデプロイまでを実施できるクラウドネイティブソリューションであり、z/OS向けのアプリケーション開発を、使い慣れた環境で効率的に行える。IBM Cloudを通じて、6分以内にz/OS環境をオンデマンドで構築できる特徴も持つ。また、IBM Cloud でIBM zSystemsを提供するZaaSも用意していることも示した。
日本IBMの渡辺執行役員は、「IBM z16は、70社以上のユーザーやパートナーと1100時間以上の対話を行い、デザイン思考に基づいた開発したものである。常に将来を見据え、技術的にもビジネス的にも必要とされるものを開発し、実装した」と述べた。
基幹システムのモダナイゼーションに関するサービスを日本の顧客に提供
一方、新設したIBM Z and Cloudモダナイゼーション共創センターは、基幹システムのモダナイゼーションに関するサービスを、日本の顧客に対して提供するもので、今回のIBM z16の発表にあわせて整備した。
「海外では、2021年12月に開設されていたが、すべてのサービスが英語での提供となっていた。日本語でのサービスを提供するとともに、日本における協業パートナーの勧誘も開始することになる」(渡辺執行役員)という。
また、IBM z16の販売活動においても、キンドリルを国内最大のパートナーとして連携していくことを強調。キンドリルが開催するイベントなどを通じた訴求や、キンドリルの顧客へのアプローチも進めていくという。
日本IBM 専務執行役員 テクノロジー事業本部長の三浦美穂氏は、「『事業成長と企業価値の向上』、『DX推進のための共創とデジタル人財の育成』、『サステナブル経営による社会への貢献』という3点が、日本の企業経営者にとっての経営課題になっている。それを解決するために、日本IBMでは、最新テクノロジーによる変革を提案。データやAIの活用および自動化、ビジネスとインフラのモダナイズ、セキュリティの高度化、サステナビリティの実現支援を行っている」と前置き。
「IBMは、メインフレームをAIとハイブリッドインフラを支える重要な要素技術に位置づけている。基幹システムに蓄積されたデータはそこで凍結化させるのではなく、DXアプリケーションによる新たなユーザビリティを実現するシステムと連携させることが求められいる。そのためには、システムをハイブリッド化し、信頼とスピードを両立する必要がある。IBMは、すべてのものがクラウドに移行するとは考えていない。メインフレームは、テクノロジーアーキテクチャーを支える重要な要素にとらえている。IBMはメインフレームを作り続ける。今回のIBM z16は、新しい時代に向けた製品の発表になる」と述べた。
IBM zSystemsは、1964年のシステム360の発表から半世紀以上に渡って、社会の安心、安全を支えてきたメインフレームである。「最も信頼性が高いワークロードを実行するための安全なプラットフォームとして、フォーチュン100社のうち67社の企業が利用している」(日本IBMの渡辺執行役員)という。
2010年以降、IBMが出荷したメインフレームの処理能力は3.5倍に増加しており、以前からの業務処理を行うスタンダードMIPSの成長に加えて、Linuxやデータベースに関連したスペシャリティMIPSの出荷が急激に増加しているとのこと。
日本IBMの渡辺執行役員は、「IBMのシンクタンクによる調査では、新たなアプリケーションはクラウドで稼働する比率が高いものの、依然としてメインフレームで稼働するアプリケーションも一定程度ある。また今後3年間というとらえ方では、アーキテクチャーを全面刷新してクラウドに移行する企業の数と、メインフレーム資産を活用して段階的にアーキテクチャーを最適化していくアプローチを行う企業の数には、差がない結果となっている。IBM z16を、基幹システムのモダナイゼーションに活用してもらいたいと考えている」と発言。
「出荷処理能力が上昇しているのは、長年の実績と、新たなオープンテクノロジーを実装し続けているIBM zSystemsが、これからも企業のIT戦略の中核を担うことに対する期待の表れであり、クラウドファーストの現在においても、再評価されているといえる」としたほか、「IBMのメインフレームは、常に2世代先を見据えて開発している。すでに、次世代とその次の世代のメインフレーム開発が始まっている」と述べた。
また、日本IBMの川口技術理事は、「メインフレームならではのハードウェアの力を生かして、パフォーマンスを高めてAIを活用したり、セキュリティを高めたりできるといった点が大きな特徴になる」などとした。