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日本IBM、最新メインフレーム「IBM z16」のシングルフレーム/ラックマウントモデルを提供
メインフレームへの投資継続をあらためて強調、人材育成の新施策も
2023年4月5日 06:00
日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、日本IBM)は4日、メインフレームである「IBM z16」および「LinuxONE Rockhopper 4」に、新たにシングルフレームモデルとラックマウントモデルを追加すると発表した。いずれも2023年5月17日から出荷を開始する。
日本IBM 執行役員 テクノロジー事業本部メインフレーム事業部長の渡辺卓也氏は、「データセンターにおける柔軟性や、サステナビリティ、セキュリティの強化を実現した。イノベーションを加速し、ITを解き放つとともに、ビジネスレジリエンスのリスクを低減し、信頼と透明性を実現。さらに、サステナビリティ戦略の実現も支援することができる。IBMメインフレームはハイブリッドクラウドの中核として進化を続けることになる」と語った。
また、日本IBM テクノロジー事業本部メインフレーム事業部テクニカル・セールス部長の柿沼健氏は、「メインフレームの最大の価値である堅牢性、信頼性、可用性を生かし、業務を停止することなく稼働できる。また、障害が発生しても、ログをもとに同じ障害が発生しないようにできる。これは、ほかのプラットフォームでは追随できない部分である。昨今ではAIを用いて、IT運用の品質を高めるAIOpsの採用をメインフレームでも進め、予兆検知を高めている。メインフレームの提供価値を高めている」などとした。
IBM z16とLinuxONE 4では、99.99999%の可用性を提供。業界最高レベルの信頼性を実現するほか、オンチップAI推論とIBM z/OS 3.1の採用と、ラックマウントモデルの追加により、データが存在する場所の近くでAIモデルを訓練・展開し、AIの最適化を行うといった活用も可能になるという。
IBM z16シングルフレームモデルは、新たな機能の搭載とプロセッサ性能の向上により、幅広い規模の顧客のビジネスを支える中核になると位置づける。
2022年5月から出荷を開始しているIBM z16マルチフレームモデルと同様に、7nmプロセスのIBM Telumプロセッサを搭載。オンチップAIアクセラレータ、耐量子暗号技術なども搭載している。z15シングルフレームモデルに比べて、14%以上のシステムキャパシティの向上を図っているという。
IBM z16ラックマウントモデルでは、シングルフレームモデルと同等の性能を実現しながら、システムを構成するストレージやSAN、スイッチなどと共存するラックデザインを採用。スモールスタートでの活用のほか、データセンターにおける集約性や柔軟性を向上している。
IBM z16のすべてのモデルと同じ社内基準で設計、テストされており、顧客が所有する標準の19インチラックや配電ユニットで使用できるように設計。AIモデルのトレーニングなど、複雑なコンピューティング向けに、コロケーションとレイテンシーの両方を最適化するようにしているほか、これらの構成をデータセンターに設置することで、データセンターの電源と冷却を共通化。ホットアイルやコールドアイルの熱管理データセンター構成への統合を容易にするという。
また、Linux専用モデルであるLinuxONE Rockhopper 4においても、2022年9月に提供を開始したマルチフレームモデルに加えて、シングルフレームモデルとラックマウントモデルを追加した。「特に日本のユーザーにおいては、x86サーバーで稼働しているワークロードが増大するなかで、基盤を集約し、効率化していく用途での提案を行うことができる」(日本IBMの渡辺氏)と述べた。
IBM LinuxONE Rockhopper 4では、x86サーバーに比べて、エネルギー消費量を75%、設置面積を67%削減できるという。また、エッジコンピューティングへの採用や、コンプライアンスやガバナンスの規制が厳しい業界のデータ主権にも対応できるという。
一方で、サステナビリティに関する特徴についても言及した。
日本IBMの渡辺氏は、「ハイブリッドクラウドの実現において、安心安全とともに、信頼性や俊敏性のある基盤を提供し、イノベーションの加速とビジネスレジリエンスを実現。さらに、セキュリティやパフォーマンスに妥協しないサステナビリティ戦略の実現についても取り組んでいる。企業のIT戦略において、サステナビリティは欠かせない要素になっており、IBMメインフレームでは、IT基盤の選択において、環境面における検討を行うための有益な情報も提供している」などと述べた。
IBMは1970年代から、環境に配慮した製品提供をポリシーとしていることを強調。「IBMメインフレームは優れたコア性能、高いCPU使用率、専用コアの活用によるアーキテクチャにより、多くのワークロードを統合し、コストやリソースを最適化することで、サステナビリティに貢献するための改良を重ねてきた。また、PAIAに従って作成されたレポートを公開し、製品の設計、製造、使用、輸送、廃棄のどの段階が、温室効果ガス排出量に最も多くの影響を与えるのかを評価できるように支援している」とも述べた。
環境の観点から、IBMメインフレームを選択している事例についても説明。欧州の金融機関では、Oracle Databaseのワークロードを、16台のx86サーバーから、1台のIBM LinuxONEに統合し、温室効果ガス排出量と電力消費量を70%削減するという環境面でのメリットが生まれたという。同時にソフトウェアライセンス数も60%削減できたとした。
また米シティグループでは、IBMおよびMongoDBと提携し、MongoDBインスタンスをLinuxONEに移行。システム全体としてのパフォーマンスを15%向上させるとともに、温室効果ガス排出量の削減においても成果を上げることができたという。
「このように、環境面からの配慮によって、IBMメインフレームを選択理由にする顧客が増加している」とした。
一方、日本IBMの渡辺事業部長は、「ハイブリッドクラウドを活用する企業の目的や適用エリアについては、方向性が明確化され、整理されてきた。それは適材適所という考え方であり、より安心安全なハイブリッドクラウド基盤はなにかといったことを見直す企業が増加している」と指摘。そこにIBMメインフレームが活用されていることを示す。
IBMの調査では、77%の企業がハイブリッドクラウドを利用し、71%の企業がハイブリッドクラウド戦略なしではDXの実現が難しいと考えているとする一方で、80%の企業がパブリッククラウドで稼働するワークロードを、プライベートクラウドに戻すことを検討しており、パフォーマンスやセキュリティ、ベンダーロックイン、コストといった点が、プライベートクラウドに戻す動機になっているという。
「オンプレミスか、クラウドかという二択の論争ではなく、オンプレミス、クラウドのそれぞれに強いところをどう発展させるかが重要である。ビジネス競争力の向上を実現するとともに、ミッションクリティカルの用途に耐えうる真のハイブリッドクラウド基盤をどう作っていくかが重要になる」とした。
日本生命では、2023年1月に、IBM z16を、ハイブリッドクラウドの中核に採用。基幹システムとして、国内初の本番稼働を開始したという。
一方、海外の導入事例では、IBM zシリーズによるアプリケーション開発で、DevOpsのプラクティスを導入。メインフレームによるアプリケーション開発でもクラウドネイティブな技術を活用するとともに、これを企業全体として共通化した開発アプローチとし、より高速なアジャイル開発を可能にしていることを紹介した。
「IBMメインフレームを広く活用してもらうために、日本IBM社内で利用しているメインフレームDevOpsを、今後、ソリューションとして提供することを考えている。クラウドネイティブ技術を、メインフレームのアプリケーションにも適用可能とするもので、若い技術者に対するスキルの伝承と共創が可能になり、クラウド技術を活用することで、サステナブルな開発や運用が実現できる。品質向上やレジリエンシーの強化に向けた自動化への取り組みも推進できる。現在、技術検証を行っており、2023年第3四半期に提供を開始する予定である。将来的にはメインフレームにおけるアプリケーション開発の文化を変えていくことを支援したい」とした。
日本IBMでは、「メインフレームはレガシーであるという考え方は古い」とし、世界で利用されているIBMメインフレームにおいては、年間出荷処理能力が、過去10年間で3.5倍以上に拡大していることを示した。そのうち、従来のメインフレームで活用されていたStandard MIPSの増加以上に、Linuxやデータベース処理などの専用エンジンによる活用を示すSpecialty MIPSが増加しているという。また、z15に比べて、z16の方が、売れ行きが好調であることを示し、世代を追うごとに収益があがっていることにも言及した。
「メインフレームは、孤立や塩漬けといった位置づけではなく、企業の中核をなすシステムとして、ハイブリッドクラウド全体のアーキテクチャーのなかでの活用が進んでいる。業界を問わず、社会を支える企業の多くがIBMメインフレームを基幹系システムに採用している」と述べた。
世界の銀行上位50行のうち45行でIBMメインフレームを採用しているほか、保険会社の上位10社のうえ8社、小売業者では上位10社のうち7社、航空会社の上位5社のうち4社、通信会社の上位10社のうち8社でIBMメインフレームを基幹系システムに採用している。
メインフレームへの投資継続をあらためて強調
IBMでは、メインフレームの投資を継続する方針を示している。
2022年10月に、米IBMのアービンド・クリシュナ会長兼CEOは、ハドソンバレー流域の研究開発拠点に、10年間で200億ドルの投資を行う計画を発表。このなかでは、将来を牽引するテクノロジーを対象にする考えを示し、半導体やAI、量子コンピュータなどとともに、メインフレームも含めている。
「IBMのメインフレームは、これまでにも2世代先を見据えたロードマップを公開しているが、現在では3世代先までを見据えた開発を進めていることを公表している。新製品開発や新機能の実装では顧客とのデザインシンキングによる検討を経て、要望を実現する形で、新たな製品を継続的に提供する」とした。今後のメインフレームのCPUには、Rapidusが開発・製造するCPUの採用の検討も行われることになるという。
「ハイブリッドクラウドは最もポピュラーなクラウドの活用形態であり、IBMのメインフレームは、その中核を支えるミッションクリティカルな基盤として重要度が高まっている。そして、IBMメインフレームは、IBMにとって重要な事業として投資を継続し、長期のロードマップをもとに今後も安心して使ってもらえる」とした。
さらに、メインフレームに関する人材育成についても言及した。
メインフレームに関わる技術者同士をつなげる国内のコミュニティとして「メインフレームクラブ」を新たに発足。「日本IBMが持つメインフレームに関する知見や経験を、企業やパートナーに提供する。次世代の技術者仲間を育成するために、世代や組織の垣根を越えたコミュニティを指向している」という。
2023年4月から活動を開始する予定であり、定期的に学びの機会を提供し、ハンズオンや見学ツアーなどの体験の機会も提供する。「メインフレームを支える技術者の育成に貢献したい」(日本IBMの柿沼氏)と述べた。