大河原克行のキーマンウォッチ

日本IBM・山口明夫社長、「企業の経営者はモダナイゼーションの本当の意味を理解すべき」
2025年4月7日 06:00
「モダナイゼーションを正しく理解しないと、プロジェクトは失敗する。企業経営者は、モダナイゼーションとはなにかをしっかりと理解すべきだ」――。
日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、日本IBM)の山口明夫社長は、こう提言する。モダナイゼーションの鍵は、クラウドへのインフラ移行や、COBOLからJavaへの移行ではなく、アプリケーションの整理にあると指摘する。その一方で、IBMの事業戦略に目を向けると、相次ぐ買収により事業ポートフォリオを拡大。さらに、watsonxによるAI戦略を加速していることが際立つ。
日本IBMはどこに行こうとしているのか。同社が目指す方向性について、山口社長に聞いた。
買収によってIBMの戦略を支える製品やサービスのポートフォリオを整える
――IBMの買収戦略が加速しています。2023年のApptioや、2024年のHashiCorpといった大型買収のほかに、いくつもの買収があり、2020年4月にアービンド・クリシュナ氏がCEOに就任して以降、すでに40社以上の買収が発表されています。これらの買収を通じて、IBMはどこに向かおうとしているのでしょうか。
確かにIBMは積極的な買収を進めていますが、私にとっては、これらの動きは決してサプライズではありません。IBMの戦略は明確であり、それを実現する上で、自分たちが自ら開発する領域はどこであるのかを示し、その一方で、足りないところを明らかにして、そこは買収するのか、あるいは提携するのかといったことを判断しています。
この観点で見れば、驚きというものはまったくありません。そして、一連の取り組みによって、IBMの戦略を支える製品やサービスのポートフォリオがしっかりと整ってきたといえます。
――製品やサービスのポートフォリオは、どう構成していますか?
それは、いくつかの階層でとらえることができます。ひとつは基礎テクノロジーの領域です。半導体がこの部分にあたり、Powerプロセッサの開発だけでなく、IBM Researchが開発を進め、同時にRapidusとも連携している世界初の2nmノードのチップの開発もここに含まれます。これは、自分たちで投資を行い、開発をしていく領域となります。
その上にある層が、ハードウェアであり、インフラとなる部分です。メインフレームのIBM Zのほか、分散インフラを実現するためにIBM Cloud、Powerサーバー、ストレージ製品などで構成しています。メインフレームについては、IBMは、2043年までの長年に渡るロードマップを示し、自ら開発を継続する姿勢を示しています。
その上がソフトウェアの層になります。このベースになるのが、2019年に買収したRed HatのOpenShiftです。さらに、Enterprise Linux、Ansibleによって、ハイブリッドクラウドの実現をサポートすることになります。
また、ソフトウェア層ではデータ、自動化といった領域があります。データは、AIプラットフォームのwatsonxによって活用され、Webなどが公開されている汎用データだけでなく、企業のなかに蓄積された差別化できるデータを、どう活用し、制御するかといったところに、IBMが開発したwatsonxの強みを生かすことができます。
そして、自動化はIBMが注力している領域のひとつで、さまざまな製品や技術を持ちながらも、そこに買収したApptioなどが加わることになります。さらに、すべてのシステムを自動化し、最適化し、可視化するという観点では、HashiCorpを買収し、全体運用を管理するソリューションを備えています。
一番上の階層が業務の領域です。システムインテグレータやソフトウェアベンダー、SaaSベンダーといったパートナーとともに、アプリケーションを提供し、企業や社会の課題解決を行います。IBMでは、コンサルティング部門を持ち、業種別の専門性を生かしながら、お客さまの業務に最適化したシステム構築と課題解決をサポートすることになります。
そして、IBMは、未来のテクノロジーに対しても積極的に投資をしており、IBM Researchにおいては、積極的な投資を行い、量子コンピュータやニューロコンピューティングの開発を進めています。
こうした製品やサービスのポートフォリオがIBMの戦略を支え、それを自らの技術や製品だけでなく、買収や提携によって、構成しているのです。
――しかし、セキュリティ分野はIBMのポートフォリオからは外れています。2024年には、QRadarをPalo Alto Networksに売却しました。これは、外から見ると、理解しにくい判断です。
IBMは、製品およびサービスのポートフォリオ全体を取り巻く形で、セキュリティを位置づけています。これを実現する上で、Palo Alto Networksとの連携は非常に重要であり、その際に、QRadarを、IBMのなかに置くよりも、Palo Alto Networksに置いた方がいいと判断したわけです。そして、サイバーセキュリティおよびAIセキュリティのビジネス拡大に向けて、Palo Alto NetworksのプラットフォームをIBMのポートフォリオに追加し、セキュリティやサービスを強化するという選択をしました。ですから、IBMがセキュリティから撤退するとか、その部分をやらないという見方は間違っています。IBMは、Palo Alto Networksを、ネットワークやクラウド、SOCにおける推奨サイバーセキュリティパートナーに位置づけ、Palo Alto Networksとともに、社内セキュリティソリューションをプラットフォーム化することになります。
スカイアーチネットワークスを買収した意味は?
――日本では、2024年5月に、スカイアーチネットワークスを買収しました。この狙いはなんですか。
日本IBMによる買収という点では、2015年にJBCCホールディングスの子会社だったアドバンスト・アプリケーションを買収したのが最後となります。しかし、今回の買収は米IBMによるものであり、その点では、アービンドがCEOに就任して以降、米IBMよる初めての日本での買収事例となります。
狙いは、日本市場におけるAWS(Amazon Web Services)事業の拡大です。残念ながら、世界に向けてソリューションを展開している日本の企業は少なく、買収の検討対象にはなっても、最終的に選ばれることはありませんでした。しかし、スカイアーチネットワークスの買収は、日本IBMが成長するなかで、必要なものを加えていくという観点から決定したものとなります。ハイブリッドクラウドが進展するなかで、ユーザーの選択肢は広くなり、オンプレミスがあれば、クラウドもあり、そのなかには、IBM Cloud、AWS、Azureなどがあります。
お客さまの業務にとって、なにがいいのかということを考えた際に、私たちの間口を広げておくことは重要なポイントです。IBMは、業務アプリケーションではOracleのEBSを提供したり、SAPを提供したりといったことをやっていますが、AWSで動く業務アプリケーションを開発する人たちが少ないという状況にありました。そこを買収で埋めることになります。
お客さまのニーズにあわせて、IBMもスキルを身につけなくてはなりません。スカイアーチネットワークスは、AWSアドバンストティアサービスパートナーであり、専門知識と優れた実績を持っています。IBMコンサルティングがこれまで手がけてきたハイブリッドクラウド向けアプリケーション管理サービスと組み合わせることで、マルチクラウドやハイブリッドクラウドの包括的なクラウドサービスプロバイダーとして、クラウドの特性をフル活用した次世代のエンタープライズシステムを提案できるようになります。
――日本における買収は今後も進めていくのですか。
日本でのビジネスを推進する上で足りないところがあれば、グローバル戦略としての買収だけでなく、日本IBM独自に買収を検討する可能性は否定しません。日本において、いい買収案件があれば、それをやらないという選択肢はありませんし、M&Aは常に考えています。企業は生きていくために、事業ポートフォリオを考え、変えていく必要があります。
ただ、IBMが買収をやるかやらないかは、お客さまに迷惑をかけないこと、株主の支援をもらえることが条件となります。いまは社員を増やしたいと思っても、なかなか増えません。増えないことを前提にした経営のやり方をしなくてはなりません。そして、変えることを前提に物事を考えることができるリーダー陣を、いかに育成するかが大切な要素だと思っています。
開発領域で先行する国内でのAIの活用
――日本IBMでは、2025年を「AIが本番展開される年」と定義しています。現時点での日本におけるAIの浸透をどうとらえていますか。
先行しているのは、開発領域でのAIの活用です。開発支援ソリューションであるIBM watsonx Code Assistantの高度な自動化機能を活用して、コードを迅速に作成するといったことが増えています。COBOLやPL/1やJavaに変換し、開発作業やアプリケーション開発の最適化を促進しています。つい数年前までは、COBOLやPL/1によるアプリケーションが現存していることは、基幹システムにおいて大きな課題になると言われていましたが、それがAIによって解決され、課題ではなくなっています。
つまり、AIによって開発のやり方が変わり、マイグレーションが加速し、変革につながっているのです。これまでの人工(にんく)による開発手法から脱却しなくてはならないことは、IT業界自らが理解しています。開発の手法が生成AIで変わるのは明らかであり、これによって、IT業界全体も変革していかなくてはなりません。
一方で、業界ごとに特化した生成AIを活用した事例が生まれています。新たな材料を発見するためのLLM(大規模言語モデル)や、医療分野に特化したLLM、金融機関におけるLLMの活用など、watsonxにより、一般に流通しているデータだけでなく、お客さまが持つデータを活用したLLMやSLMを通じて、それぞれの業種、業務に最適化したAI活用が始まっています。
日本IBMには、業種ごとのコンサルタントがいますから、お客さまの業務課題にあわせてAIソリューションを提供することができる点も強みです。こうした事例をこれからも積み上げていきたいと思っています。
その一方で、一部にはAIに対する誤解があることも感じています。
――それはどういう点ですか。
よく聞かれるのが、「watsonxとChatGPTはどう違うのか」という質問です。ChatGPT はLLMを活用したサービスであるのに対して、watsonxは、AIプラットフォームと位置づけられるものです。つまり、直接比較するものではないということです。watsonxの上では、LlamaやMistralといったLLMのほか、IBMのLLMであるGraniteが動作します。
LLMを動作させ、業務にあわせたAIソリューションを提供する「watsonx.ai」、モデルをチューニングしたり、リアルタイムにデータを供給したりするためのデータ管理を行う「watsonx.data」、AIモデルの信頼性や安全性、性能を確認し、安心してAI活用が行えるようにする「watsonx.governance」の3つのコンポーネントで構成しているのがwatsonxであり、たとえるならば、watsonxは製造工場や農場、牧場といったインフラであり、LLMやデータは、そこで利用される材料や肥料、食料といえるかもしれません。
また、IBMが独自に開発したLLMである「Granite」は、企業がビジネスで利用するために最適化したものであるという点が特徴です。安全な環境で学習を行い、企業ごとに特化したLLMを実現できるとともに、軽量化と高性能化を両立し、レスポンスの速さを追求したLLMであり、クラウドだけで利用するのではなく、オンプレミスでも動作させることができます。お客さまのなかには、オンプレミスでなければAIを活用できないというケースがあります。そうしたニーズにも対応できるLLMとなっています。
これまでは大規模な汎用LLMに注目が集まっていましたが、今後は、特化型のLLMが注目を集め、それが、より重要な役割を果たすことになります。そして、他社との差別化に直結する企業が持つデータや、業種に特化したデータを活用した複数のLLMを統合し、エージェントとしてどう使うかがこれからは大切になります。
これまでのAIの用途は、聞けば、答えるという使い方にとどまっていたり、人がやっていた業務の効率化や生産性向上したりというところにフォーカスがあたりがちでしたが、これからは複雑な業務をこなし、働くことができるエージェントへと進化することになります。また、新たな素材を発見したり、人手ではできないことを任せたりといったところに進んでいくことになります。
エージェントの時代こそwatsonxの強みが発揮できる
IBMは、エージェントの実現においては、ガバナンスやデータの透明性などに力を入れており、エージェントの時代こそwatsonxの強みが発揮できるといえます。例えば、IBM watsonx Orchestrateで、AIエージェントおよびAIアシスタントを作り、AIによる複雑な業務の自動化を推進することができます。
AIは、チャットからアシスタント、そしてエージェントへと進化します。そこに移行するためのテクノロジーやツールが整いつつあり、あるべき姿をデザインすることができるようになってきました。
これにより、人はより創造的な業務などにシフトすることが可能になり、日本の労働力不足を解決し、企業の成長につなげることができます。AIエージェントは、日本の社会課題、企業が持つ課題を解決する手段になるわけです。エージェントは、これからのAI活用の主流になるといえます。
――「AIが本番展開される年」に入ったことで、watsonxに対する評価には変化がありますか。
大きな変化があります。企業がビジネスにAIを活用したいと考えたときに、日本IBMと話をしてもみようというケースが増えていることを感じます。AIエージェントを構築する際に、どんなデータが必要なのかといったことを知りたい、あるいは専門領域でAI活用する際に、どんな点に配慮すればいいのかを知りたいといった声のほか、IBMのAI倫理の考え方を適用したいといった声も増えています。InstructLabによって、LLMの効率的な事後学習を進める仕組みを提供している点にも注目が集まっています。
AIは、LLMをどう使うか、LLMをどう更新するか、そこにRAGをどう使うか、プロンプトチューニングによってどう聞くか、Webとどうつなげるかが鍵になります。日本IBMはそれらの対する多くの知見を持っていますし、ベンダーロックインするような仕組みにはなっていません。
“メインフレームはレガシー”ではない
――日本におけるAI戦略で、山口社長自身が重視している点はどこですか。
私の役割は、経営者の方々にAIをシンプルに理解してもらうために、どう伝えるかということになります。AIは複雑そうに見えますが、これがそのまま伝わると、AIを使おうという気になりません。AIをわかりやすく伝えることに力を注いでいます。
これは「ハイブリッド」についても同様です。私は、この1年で、「ハイブリッド」という考え方がかなり整理されてきたと感じています。これまでの「ハイブリッド」は、お客さまがオンプレミスを使っていた環境をベースに、新たにクラウドを活用してみようという流れでハイブリッド化したものでした。
しかし、本来の業務や戦略を意識し、3年後、5年後をデザインし、自ら意志を持ってハイブリッドを考えるといった動きが増えてきました。ハイブリッドへの取り組みを、コストダウンなどの「守り」の発想で活用するのではなく、企業戦略を実現する「攻め」に活用するという方向へと変わりつつあります。お客さまとの対話のなかで、それを強く感じますし、企業戦略と密接になることで、日本IBMのコンサルタントも、お客さまとより深い会話をしやすくなってきたともいえます。
企業には、企業戦略があり、それを実現するための実行プランがあり、具体的な業務があります。これらのやりたいことをシステムによって実現するわけですが、その際の選択肢として、オンプレミスとクラウドがあり、また、それぞれに中小型機による分散システム(サーバー)と、大型汎用機のメインフレームがあります。
よくメインフレームとクラウドが比較されますが、この比較は正しくはありません。メインフレームはオンプレミスに使われるだけでなく、クラウドでも使われているからです。メインフレームとサーバー、クラウドとオンプレミスを組み合わせた4象限でインフラは構成されており、そのなかから最適なものを選択することが企業にとって、最適な答えになります。
先にも触れたように、大切なのは、システムありきではなく、業務特性をベースにどれが最適なのかを判断することです。分散システムのオンプレミスは、安定性と経済合理性を追求する場合には有効であり、柔軟性や迅速性を追求するには、分散システムのクラウドを利用するのがいいといえます。また、高性能や安全性、安定性を必要とする場合には、メインフレームの自社所有が適しています。なにをどこに使うのがいいのか。適材適所でシステムを利用することが大切です。
また、メインフレームはレガシーだという人がいますが、それも間違っています。
――それはどんな点ですか。
IBMのメインフレームには、最も省電力のCPUが搭載され、AIチップも内蔵しており、世界最先端のテクノロジーが採用されています。メインフレームは、機能が制限されているとか、最新のテクノロジーに追随できていないからレガシーである、という議論は間違いです。
ただ問題は、メインフレーム上で稼働しているアプリケーションであり、これは複雑化し、スパゲティ化しています。しかも、これはオンプレミスで動作しているアプリケーションだけの話ではありません。クラウドで動作しているアプリケーションも、すでにスパゲティ化しているケースがあります。
モダナイゼーションをするといった場合に、その定義はバラバラです。ハードウェアを刷新したり、オンプレミスをクラウド化したり、COBOLやPL/1をJavaに変えたりといったように、それぞれの人が、それぞれの視点で、モダナイゼーションをとらえています。
しかし私は、モダナイゼーションの本当の意味とは、スパゲティ状態のアプリケーションを整理しなおし、正しい状態で利用できるようにすることだと考えています。オンプレミスでスパゲティ状態だったアプリケーションを、そのままの状態でクラウドに持っていっても、それはモダナイゼーションとはいえません。COBOLで書いていたものを、すべてJavaに変えても、アプリケーションが複雑化したままだったら、モダナイゼーションはできません。ここに多くの資金を投入するのは間違った判断です。たとえは悪いかもしれませんが、ごみ屋敷を片付けずに、そのままの状態で、大量のお金をかけて移転しても、新しい家がごみ屋敷になるのと同じです。
モダナイゼーションはなにかということを正しく理解していないと、そのプロジェクトは失敗するだけです。企業の経営者は、この部分を理解し、どんなやり方をしてなくはならないのかを考えることが大切です。企業戦略から考えること、業務から考えることで、モダナイゼーションの本来の目的を理解することを、日本IBMがしっかりと説明し、伝えていかなくてはなりません。そこに日本IBMの役割があります。
金融における「共同化の共同化」の第一歩
――2024年10月には、地域金融機関向け新共同プラットフォーム「金融ハイブリッドクラウドプラットフォーム」を、三菱UFJ銀行(MUFG)、インターネットイニシアティブ(IIJ)とともに発表しました。山口社長は、「新しい考え方を世の中に公表する重要な一歩になる」と位置づけました。この意味はなんですか。
金融ハイブリッドクラウドプラットフォームは、日本IBMのクラウド共同利用デジタルサービスである「金融サービス向けデジタルサービスプラットフォーム(DSP)」に加えて、新たにMUFGの基幹系ビジネスサービスの「地域金融機関向けメインフレーム共同プラットフォーム」、IIJが提供する基幹分散系ビジネスサービスの「地域金融機関向け分散基盤共同プラットフォーム」および各種プラットフォームをネットワークで接続する「地銀共同化プライベートネットワークバックボーン」で構成しているもので、基幹系および基幹分散系のビジネスサービス領域において、グループごとに進めていた共同化を、さらに共同化するものになます。
つまり、既存の地銀システムの共同化の枠組みを超えた「共同化の共同化」の第一歩になるという意味があります。データセンターやメインフレーム基盤、ネットワークバックボーン、関連機器の共同利用を可能にし、メインフレームや分散系を含むあらゆるITプラットフォームを提供することで、既存のシステム共同化の枠組みを超えて、地域金融機関が経営戦略に応じて適材適所に活用できる選択肢を提供しながら、長期間に渡って利用できるようになります。そして、これをMUFGが提供するという点も、新たな一歩となります。
また、先ほど触れたモダナイゼーションの観点でも有効なものだといえます。ここで求められるトランザクションを考えると、個々にシステムを構築したり、どこかに乗せたりしても、労は多くても、メリットはありません。しかし、共同化された環境で、ここに移行するすることで、アプリケーションを整理し、モダナイゼーションを進めることができます。
これは、2024年11月に発表したSCSKとの協業によるメインフレームを活用したハイブリッドクラウドプラットフォームの提供も同様の狙いがあります。SCSKは、自社データセンター内に、ハイブリッドクラウドプラットフォームの重要構成要素のひとつとして、メインフレームであるIBM z16を導入し、マネージドインフラストラクチャーサービスである「MF+(エムエフプラス)ホスティングサービス」を、2025年春から提供します。これにより、お客さまのメインフレームトランスフォーメーションをともに推進し、メインフレーム上のアプリケーションとデータの価値を最大限に生かし、より高い投資対効果の実現とお客さまビジネスの加速に貢献することになります。
テクノロジーの進化と、お客さまの業務の要件、マイグレーションそのものの本質とはなにかといったことを組み合わせた結果が、これらの取り組みにつながっているともいえます。
――MUFGやIIJ、SCSKとの協業は、メインフレームの新たな活用提案ともいえます。そのなかで、IBMは、メインフレームのロードマップを3世代先まで公表しています。しかし、富士通がメインフレームから撤退することを発表しており、IBMもいつかはメインフレームから撤退するのではないかという不安を、ユーザーが抱いていませんか。
いままでお話ししてきたように、日本IBMはモダナイゼーションをどう考えているのか、なぜ、半導体や量子コンピュータのロードマップをクリアにしているのか、AIに対して、どう取り組んでいくのかということを明確に発信しています。
そして、メインフレームの長期ロードマップも公開しています。これを理解しているお客さまは、IBMがメインフレームを継続することを理解し、不安に感じていることはまったくありません。これが量子コンピュータを含めて、ひとつのインフラとして活用できる環境が整い、そこでしっかりと上位互換性を保つことになります。
ただ、こうしたことを理解していない人たちは、「IBMもいつかはメインフレームを止める」ということを、勝手に言っています。IBMは。これまでにも一度もメインフレームを止めるといったことはありません。
ITやAIを使いこなす力を持った人材を育てていきたい
――2025年は、日本IBMにとって、どんな1年になりますか。
システム開発や業務変革が、いままでの延長線上のやり方から、生成AIを活用した新たなやり方に変わっています。人工(にんく)による提供から、価値提供型への変化も促進されることになります。つまり、日本IBMが変わり、IT業界全体が変わる時期に入ってきたともいえます。その変化を牽引するのはテクノロジーであり、その進化は極めて大きく、速いものになります。さまざまな領域における研究開発をさらに加速する1年になるといえます。半導体、AI、量子、メインフレームへの投資は、IBMとして、これからも続けていきます。
日本IBMは、2022年に、5つの「価値共創領域」を打ち出し、基本方針として、これらの取り組みに力を注いでいます。ここでは、「価値共創領域」として、「社会インフラであるITシステム安定稼働」「ハイブリッドクラウドやAIなどのテクノロジーを活用したDXをお客さまと共に推進」「CO2やプラスチック削減などのサステナビリティー・ソリューション」「半導体、量子、AIなどの先端テクノロジーの研究開発と社会実装」「IT/AI人材の育成と活躍の場」の5つを挙げています。
これは、日本IBMと社会との約束であり、4年目に入った2025年も変わりません。ただ、あえて言うならば、昨今では、IT人材やAI人材の育成ということが、より重要なテーマになってきたと感じています。ITやAIの知識を持った人材ではなく、これらを使いこなす力を持った人材を、もっと育てていきたいですね。