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楽天子会社、自社ネットワークにて構築済みのvRAN「Symworld」をMWCでデモ

AT&TやNokiaなどとの協業も発表

 日本のIT大手「楽天」の子会社となる「楽天シンフォニー」は、2月28日(現地時間)よりスペインのバルセロナで開催されている、ワイヤレス通信系の展示会「MWC 2022」において講演を実施。楽天傘下のMNO携帯電話会社「楽天モバイル」で採用されている、携帯電話ネットワークのコア部分を仮想化するvRAN(virtual Radio Access Network)のSaaS(Software as a Services)「Symworld(シムワールド)」に関して、詰めかけた携帯電話業界の関係者にアピールした。

 この中で、先日、楽天モバイルのCEOにも就任したばかりの楽天シンフォニー株式会社 CEOのタレック・アミン氏は、その前日に発表された米AT&T Communications(以下、AT&T)との協業や、米国のクラウドサービス事業者であるRobin Systems(以下、Robin)の買収を行ったことを発表したほか、講演後にはフィンランドNokiaとの提携も明らかにした。

 また講演には、楽天グループ 代表取締役会長兼社長 最高執行役員 三木谷浩史氏も登場。「vRANのシステムを自社で作ったのは、フルスクラッチで楽天のサービスを構築したのと同じで、ほかにはなかったからだ。良いものができたので、それを他社にも提供し、世界の携帯事業者がもっと低コストでサービスを提供できるようにしていきたい」と述べ、携帯電話事業者がvRANを導入することはコスト面で大きなメリットがある点を強調しながら、すでに自社のサービスでの稼働実績があるSymworldの採用を訴えた。

楽天グループ 代表取締役会長兼社長 最高執行役員 三木谷浩史氏

汎用機を汎用プロセッサ+ソフトウェアで置き換えてきたITの歴史、今それがネットワーク機器にも

 ITの歴史をひもとくと、そのほとんどは、固定機能を持っていた機器を、ソフトウェア+高速な汎用プロセッサに置き換えて高機能化を実現してきたものであることは、すぐに気がつくだろう。

 古くは、汎用機と呼ばれる専用機能を持つサーバー機器が、高性能なコンピュータ用として開発されてきたRISCプロセッサ+ソフトウェアに置き換えられ、その後現在のPC用として開発されたx86プロセッサ+ソフトウェアに置き換えられて、今に至っている。

 同じことは事務機器にも言えるだろう。例えばタイプライターは、専用のプロセッサ+ソフトウェアとなるワープロにまず置き換えられ、その後、x86プロセッサ+ソフトウェアという現在のPCに置き換えられている。携帯電話も同様で、当初は専用の固定機能を持つ携帯電話が普及し、その後Armプロセッサ+ソフトウェアという組み合わせに置き換えられて、今のスマートフォンになっている。

 このように結局の所、ITの歴史というのは、専用機能を持つハードウェアを、汎用プロセッサ+ソフトウェアで置き換えて発展してきた歴史なのだ。

 今、それがさまざまな産業で起ころうとしている。その代表例は自動車で、従来の固定機能を持つECUを汎用プロセッサ+ソフトウェアに置き換えようとしており、それにより、ADAS(先進安全運転システム)や自動運転、そしてスマートフォンのようなUXを持つ車載情報システムなどが実現されつつある。

 そうした汎用プロセッサ+ソフトウェアにより固定機能を置き換えることを、SD(Software Defined、ソフトウェアによる定義)と呼ぶが、今ネットワーク機器でもまさにそれが起きつつあり、そのことをSDN(Software Defined Network)と呼称している。

 携帯電話網で利用されるネットワーク機器は、大きく言うと、携帯電話と無線で直接やりとりを行う基地局と、その基地局から送られてくるさまざまなパケットを処理したり、ユーザーの契約状況を確認したりするコアの2つから構成されている。そのコアとなるRAN(Radio Access Network)をSDNに置き換えるソリューションがvRANと呼ばれるもので、簡単に言えば、何らかのデータセンターに仮想化技術を利用して仮想マシンを構築し、その上でRANの機能を実行するということになる。

MWCのIntelブースで展示されているvRAN用のXeon SP搭載サーバー機器(手前に置かれているチップが第3世代Xeon SP)

通信キャリアが利用しているコアネットワークの機能をSaaSにする楽天のSymworld

 今回楽天シンフォニーは、講演の後半で、同社が楽天モバイルのLTEサービス構築時に導入し、その後の5Gサービスにも利用しているSaaS「Symworld」のデモを行った。

 一般的にvRANは、汎用サーバーなどで構成されているデータセンター内に構成される。このためハードウェアは、楽天シンフォニーのパートナー企業などから調達し、その上でSymworldをSaaSとして動作させている。

 例えば、無線基地局のハードウェアは米Qualcommから、データセンター内に設置されるブレードサーバーのCPUやFPGAなどは米Intelなどから調達しており、それらの上でSymworldが動作している形となる。

 楽天シンフォニー インテリジェント Ops製品戦略・技術セールス 責任者 アンシュル・バット氏は、同氏が操作するPC(AppleのノートPCとみられる)のWebブラウザからSymworldの管理画面にアクセスし、実際にさまざまな管理画面を公開した。

Symworldのメイン画面。クラウドアプリケーションが上に表示されているほか、下には、最近行った操作などが表示されている
サーバーラックの配置なども管理画面から確認が可能に

 従来の固定機能を持ったネットワーク機器の場合には、機器が故障するとフィールドエンジニアがその機器の所に行って故障した機器を取り返る形になる。しかしSymworldでは、機器の構成などをWebブラウザ上の管理画面から行えるようになっており、何らかの障害が発生していれば、その機器を切り離すことができるし、ネットワークの機能をアップグレードするために、新しい仮想マシンをインストールすることなどもできる。デモでは、機器のインストールなどをテンプレートから簡単に行える様子が公開された(もちろん、物理マシンの導入を伴う場合にはフィールドエンジニアがデータセンターにて行うことになる)。

テンプレートの機能を利用して機器のアップグレードを行う
機器の稼働状況なども一覧で確認できる

 また、ネットワーク全体のパフォーマンスを見て障害が発生していない部分を確認したり、基地局が置かれているマップと接続されているクライアントデバイスなどの情報を確認したりすることも、Symworldの画面から可能になっており、例えば、この地区では負荷が多いから新しい基地局を作る計画を立てる、といった場合もSymworld上から行える。

パフォーマンスモニターでネットワーク全体のパフォーマンスを確認できる
基地局の配置状況や基地局の情報も確認できる

 ユニークな機能としては、ユーザーがTwitterに投稿した楽天モバイルの評判を確認する機能も用意された。例えば、ユーザーが「xxでつながりにくい」と投稿した情報を確認し、それをフィードバックの1つとして基地局の構成を検討することが可能だ。

Twitter上の評価を前向きなコメントと後ろ向きなコメントなどに分類されて確認もできる

 また、クラウドベースという特長を生かして、サポート要員が確認するナレッジデータベース、さらにはチャットサポートなどのユーザーサポートに関してもSymworldにより構築する形になっている。このため、ネットワークの管理者にとっては、Symworld1つで全体の状況を把握可能になっているのだ。このあたりは、SaaSになっている特長をうまく生かしたシステムだと言えるだろう。

カスタマーサポートの画面
サポート担当者が、ユーザーがiPhoneの故障と言ってきたときのナレッジベースや確認フロー
カスタマーサポートのチャットサポート

ネットワーク向けクラウドのベンチャーRobinの買収や、AT&T、Nokiaとの提携を相次いでMWCで発表

 こうしたSymworldについて、楽天モバイルのCEOにも就任したばかりの楽天シンフォニー CEO タレック・アミン氏は、「4年前に楽天で仕事を始めたころ、通信キャリアは複雑なハードウェアを利用しており、かつみなほぼ同じものを利用していて、クラウドやソフトウェアは活用されていなかった。そこに目をつけ、クラウドとソフトウェアで実現できると考えて取り組んできた。それから4年が経ち、今では日本でのカバレッジは96%にまでなっている。この仕組みは日本だけでなく、世界で導入できるはずだ」と述べ、楽天シンフォニーが楽天モバイル向けに構築してきた、Symworldを利用したvRANは大きな成功事例となり、それをこれからは海外のベンダーに販売していくのだと強調した。

楽天シンフォニー CEO タレック・アミン氏
MNOになって4年でカバレッジ96%を達成した最大の要因がvRANとアピール
楽天シンフォニーが提供するSymworld

 アミン氏によれば、すでにAT&Tとの協業を発表しているほか、スペインの通信キャリアであるテレフォニカとも提携の話が進んでいるという。

 また、同社がMWCで行った講演の前日には、米国のクラウド関連のスタートアップ企業であるRobinの買収について合意したことを明らかにした。今後、規制当局などの認証待ちとなる。なおRobinはvRAN向けのクラウドソリューションで注目を集めている企業で、同社を買収したことは、楽天グループのソリューションを充実させる意味で重要な発表となる。

AT&Tとの提携を発表
Robin Systemsの買収を発表

 さらに講演後には、フィンランドの通信機器ベンダー大手となるNokiaとの提携も発表され、NokiaがSymworldベースのIP Multimedia Subsystem(IMS)、Shared Data Layer(SDL)、Internet of Things(IoT) Platform向けのソリューションを提供するほか、今後、楽天シンフォニーが提供する予定のマーケットプレイス「Symworld marketplace」で、Nokiaが開発するクラウドアプリケーションを提供する計画も明らかにしている。

 アミン氏は「将来は(Appleのスマートフォンユーザーが)App Storeでアプリを買うように、通信事業者がアプリケーションを購入できるようにしたい」と述べ、将来的にはサードパーティーにも開かれたアプリ市場を構築していきたいと述べた。

最終的にはサードパーティーのアプリもSymworld向けに提供するアプリストアで販売していきたいとアミン氏は説明

楽天グループの三木谷CEOも来場。コスト面のメリットを強調して世界への売り込みを目指す

 アミン氏の講演には楽天グループの三木谷会長兼社長も来場し、「vRANのシステムを自社で作ったのは、フルスクラッチで楽天のサービスを導入したのと同じで、ほかにはなかったからだ。良いものができたので、それを他社にも提供し、世界の携帯事業者がもっと低コストでサービスを提供できるようにしていきたい」と述べ、直接的には競合にはならない海外の通信事業者などに売り込むことで、サービスとして輸出していきたいとした。

 また質疑応答では「ワイヤレス通信事業は、規制産業の中でも無線の免許が必要という特別な環境にあり、ほとんどの国では3つか4つしか事業者がいない。銀行も免許が必要だが、免許数に制限がないことが通信事業との大きな違いになる。そうした限られた競争環境で同じような機器を使っていると、コストが高くなってしまう。そこで多くの通信事業者は別の選択肢を探しており、そこに機会があると考えている」と述べ、楽天グループにとっても有望なビジネスになると期待しているとコメントした。

Symworldへの期待を表明する、楽天グループの三木谷会長兼社長