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Xilinx由来のアクセラレーターと第4世代EPYCの電力効率を武器に、vRAN市場への浸透を目指すAMD

 AMDは携帯電話業界最大の展示会となるMWC 2023に出展し、同社の最新ソリューションの展示を行った。この中でAMDはMWC 2023の直前に報道発表を行った、最新モデルとなるZU63DR、ZU64DRなどを含む「Zynq UltraScale+ RFSoC」を採用したRFソリューション、さらにはAMDがノキアと共同で開発したAMD EPYCを採用したvRANのデモを行った。

 AMDは「Telco Solutions Testing Lab」(通信キャリアソリューション試験研究所)を米国カリフォルニア州サンタクララに開設し、5GのコアネットワークやvRANの開発を進め、顧客となる通信キャリアや機器ベンダーなどに同社製品ベースのソリューションを提案していくことになる。

MWC 2023のAMDブース

RU向けのSoCとなるZynq UltraScale+ RFSoCのよりローコストなソリューションを投入

 今回AMDがMWC向けに新製品として発表したのは、同社がRANのうち無線部分(RU:Radio Unit、要するにアンテナなどのこと)の送受信回路を構築するためのSoCとなるZynq UltraScale+ RFSoCの、追加SKUとなる。今回AMDが発表したのは、既存製品であるZU67DR、ZU65DRに比べると、ややローエンド向けのSKUとなるZU64DRとZU53DRの2製品。

 例えば、ZU67DRでは8T8R(8送信8受信)でMassive MIMOなどフル機能を備えているのに対して、ZU64DRでは、8T8Rは同様だが通常のMIMOになっているなど、ややローエンドな構成になっている。ZU63DRは4T4R(4送信4受信)に限ることで低コストなアンテナソリューションを実現する。これによりZynq UltraScale+ RFSoCで、スモールセル(小さな範囲をカバーするアンテナのこと)からMassive MIMOという、より広い範囲をカバーするアンテナまで、高い柔軟性を持ってカバーできる。

AMDが発表したZynq UltraScale+ RFSoCの新SKU

 今回AMDは、自社ブースにそうしたZynq UltraScale+ RFSoCを採用して実現された5GのRUを展示した。そこには富士通やNECなどの日本のベンダーも含まれており、今後は今回発表されたZU64DRやZU63DRなどで、より小規模のRUを構成することが可能になる。

Zynq UltraScale+ RFSoCなどを採用したRU
富士通のRU
NECのRU

競合他社に比べるとやや出遅れたvRAN領域でのEPYCの採用に向けて、研究開発施設を米国に開設

 今回のMWC 2023では、5Gネットワーク向けのコアネットワーク(契約の管理などを行う機器のこと)、そしてRAN(Radio Access Network)のSDN(Software Defined Network、汎用プロセッサ+ソフトウエアで実現されるネットワーク機器のこと)化が昨年に引き続いて大きな話題だった。既に多くの通信キャリアではコアネットワークのSDN化は進んでおり、最も注目を集めたのはvRAN、Open RAN、Cloud RANなどさまざまな呼び方があるが、RANのSDN化が大きな話題だ。

 AMD 通信キャリア向け垂直統合担当部長 ニック・ハンコック氏は「われわれはまさにRAN市場へ参入を始めたばかりだ。今回のノキアとCloud RANのソリューションを発表できた。今後従来のAMD側と、Xilinx側のメンバーが合流して設立されるTelco Solutions Testing Labにより、さまざまな検証を行い通信キャリアのニーズに応えていきたい」と述べ、AMDがMWC前に設立を明らかにしたTelco Solutions Testing Labでさまざまな検証を行うことで、より強力なvRANソリューションを作り上げて、通信キャリアやデバイスベンダーなどに示していくのがAMDの基本戦略だと説明した。

AMD 通信キャリア向け垂直統合担当部長 ニック・ハンコック氏

 ハンコック氏によれば、Telco Solutions Testing Labは、これまで通信事業者向けのEPYCを担当してきた開発担当と、AMDが買収したXilinx側で通信事業者向けのアクセラレーター(Zynq UltraScale+ RFSoCなど)を担当してきた開発担当が、米国カリフォルニア州サンタクララに集結して開設される研究開発施設で、通信事業者向けのvRANやコアネットワークなどに関するソフトウエアの動作検証など、さまざまな開発に関わっていくことになるという。そして、それを通信事業者に対して提案し、AMD製品のさらなる採用を促すことになる。

Telco Solutions Testing Lab

 Intelに関するMWCレポート記事でも説明した通り、Intelは今回のMWCで「商用化されているvRANは、ほとんどすべてがIntelベースだ」と述べているように、vRAN市場でAMDの存在感がまだあまりないのは事実として指摘しておく必要がある。

 ハンコック氏もAMDがIntelに比べて出遅れ感があることは認めた上で「確かに競合他社に比べればわれわれがこの市場にやってきたのは遅かったのは否定できない。われわれがこの市場に来たのは2019年の第2世代EPYCからで、そこから競合をキャッチアップすべく体制を強化してきた。ただ、われわれにはx86プロセッサだけでなく、Xilinx由来のアクセラレーターのソリューションを多数用意している。それらを組み合わせて提供することで、通信キャリアにとってベストなソリューションを提供できると考えている」と述べ、AMDがXilinxを買収して得たFPGAを利用したアクセラレーターなどを第4世代EPYCと組み合わせることで、競合他社に対抗していきたいという考え方を示した。

通信キャリアに向けては第4世代EPYCの電力効率の高さをアピールして採用を促していくとAMD

 AMDは今回のMWC 2023で、ノキアが第4世代EPYCを搭載したvRANソリューションを発表した。AMDとノキアが発表したvRANは、ハードウエアが第4世代EPYCとノキアのL1レイヤー用アクセラレーターを搭載しており、その上でノキアが提供するCU、DUのコンテナが動くという形になっている。

ノキアの第4世代EPYCを利用したvRANを説明するスライド
ノキアで利用されている第4世代EPYCのサーバーブレード、HPE ProLiant DL365 Gen 11
Dell PowerEdge R6225 G16
Lenovo ThinkSystem SR645 v3 Rack Server

 今回のMWCでは、こうしたvRANやコアネットワークの消費電力削減が大きな隠れたテーマになっており、機器ベンダーの担当者に話を聞くと、AMDのEPYCには結構期待している、という声が多かった。というのも、ArmアーキテクチャのCPUの消費電力が低いというのはわかるが、絶対的な性能では不安があり、そこに一足飛びにいくぐらいなら、同じ程度の消費電力でIntelのXeon SPよりは性能が高い第4世代EPYCを採用することで電力効率を改善し、ネットワーク全体での消費電力を削減するという選択肢が現実的、という考え方からだ。

 AMDのハンコック氏は「われわれの第4世代EPYCは1ソケットで96コアの製品を提供するなど、同じ消費電力でより高い性能を実現することが可能になっている。そうしたことを武器に通信キャリアに電力効率を改善できるということをアピールしていきたい」と述べ、電力効率の点でAMDが優位にあるという点を強調した。そうした点を通信キャリアなどにアピールしながら、競合他社からの乗り換えを促したいと説明した。