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AWS、通信キャリア向けマネージドサービスを発表 NECとNTTドコモのArm CPU活用の低消費電力コア実証実験を展示

 Amazon.comの子会社でCSP(クラウドサービスプロバイダー)事業を行っているAmazon Web Services(AWS)は、2月27日~3月2日(現地時間)にスペイン王国バルセロナ市で開催されたワイヤレス通信の展示会「MWC 2023」に出展し、同社のパブリッククラウドサービスを活用した5G向けのコアネットワークなど、通信キャリア向けのソリューションを各種展示した。

 その中でAWSは、2022年9月に発表された、NECが構築を担当したNTTドコモ向けコアネットワークのバックアップに関するデモを行った。NECとNTTドコモのコアネットワークでは、AWSが提供しているArm CPU「Graviton2」を活用してAWSクラウドにバックアップを構築し、NTTドコモのデータセンターに何らかの問題が発生した場合、即時にバックアップとしてAWS上のコアネットワークを立ちあげて活用する仕組みを採用した実証実験を行っている。x86アーキテクチャを採用した従来型CPUと比較して、消費電力を72%削減することに成功したという。

MWCのAWSブースで展示されていた、NECとNTTドコモのGravitonを活用した実証実験

 AWS EC2/5G担当副社長 ヤン・ホフマイヤー氏は「AWSが提供するAWS Telco Network Builderは、通信キャリアが必要とするハードウェアを自動で設定し、すべての管理を自動で行うマネージドサービスだ。EC2のリージョン、ローカルゾーン、アウトポスツなど、すべてのAWSのサービスを利用でき、一括して管理できる」と述べ、今回のMWCに合わせて発表された「AWS Telco Network Builder」を活用することで、通信キャリアが必要とするハードウェア基盤をAWS上にて、マネージドサービスとして利用可能になるとアピールした。

AWS EC2/5G担当副社長 ヤン・ホフマイヤー氏

AWSは通信キャリア向けマネージドサービス「AWS Telco Network Builder」を発表

 AWSは近年のMWCで、会場のメインエントランス(南口)に最も近い展示会場で展示を行っており、本年もそれは同様で、同社の通信キャリア向けソリューションを積極的にアピールしている。というのも、別の記事でもお伝えした通り、現在通信キャリアは5GのインフラのSDN(Software Defined Network)化に精力的に取り組んでおり、5Gのバックボーンになる基地局などでスマートフォンなどの端末とやりとりをするRAN(Radio Access Network)の仮想化(vRAN)、さらに契約者の管理などを行うコアネットワークを、従来までの固定機能を持つハードウェアから、汎用プロセッサ+ソフトウェアに置きかえるという取り組みが進んでいるのだ。

 こうしたコアネットワークやvRANの取り組みは、まずは通信キャリア自身が持っているデータセンターの中で行われることが多い。しかし、規模が大きな通信キャリアであえば、自社のデータセンターを作るというのは経済的な合理性があるが、中小の通信キャリアであれば高コストになってしまうため、経済的に考えるとパブリッククラウドサービスを活用したいと考えるところも少なくないのが現状。今回のMWCでは、AWSをはじめとするCSPだけでなく、ノキアやエリクソンといった機器ベンダーも、CSPを利用したコアネットワークやvRANのソリューションをアピールしていた。

 今回、AWSがMWCに合わせて発表したのが「AWS Telco Network Builder」と呼ばれるマネージドサービスだ。簡単に言えば、AWSがEC2(Elastic Compute Cloud)などを通じて提供しているハードウェア、例えば各リージョンに用意されるEC2、ローカルクラウド、Outposts(AWSのローカルエッジサーバー)など、各種のハードウェアを、管理ダッシュボードを通じて一括して管理できる。

 AWS EC2/5G担当副社長 ヤン・ホフマイヤー氏は「AWSが提供するAWS Telco Network Builderは、通信キャリアが必要とするハードウェアを自動で設定し、すべての管理を自動で行うマネージドサービスだ。EC2のリージョン、ローカルゾーン、エッジのアウトポスツなど、すべてのAWSが提供するハードウェアを利用でき、一括して管理できる。例えばパッチの適用なども一括して行え、通信キャリアはその上で動かすサーバーアプリケーションの開発などに注力できる」と述べ、通信キャリアがハードウェアの管理から解放されることが、AWS Telco Network Builderのメリットだと強調した。

ノキア、エリクソンに加えて、NECはNTTドコモのコアネットワークのAWSへのバックアップをデモ

 今回AWSは、AWS Telco Network Builderなどの同社ソリューションを利用した5Gのデモとして、ノキア、エリクソンそしてNECといった機器ベンダーが実装した、通信キャリア向けの5GコアネットワークやvRANソリューションを展示して紹介していた。

 ノキアが紹介したのは、AWSのローカルゾーン(顧客の近くに置かれるAWSのラックサーバー、オンプレミスと同じように低遅延で利用することが可能になる)とアウトポスツ(フィールドなどに置かれるAWSのエッジサーバー)を活用してvRANを構築するソリューション。AWSのハードウェアアセットを利用して、ノキアがその上で動くオーケストレーションを開発し、通信キャリアに提供する形となる。それにより通信キャリアは、自社で必要なvRANのサーバーアプリケーションを、Kubernetesなどのコンテナ形式で開発して実行することになる。

ノキアのAWSを利用したクラウドベースのvRANアーキテクチャ

 エリクソンのソリューションでは、5Gのコアネットワークをエリクソンのデータセンター上に構築。そのバックアップをAWSにコピー環境を構築して、プライマリのデータセンターに障害が発生した場合に、AWS上に構築されているバックアップに自動的に切り替えてサービスを続行する。数年前に日本の通信キャリアで、そうしたコアネットワークの障害で通信障害が発生したことは記憶に新しいと思うが、そうした障害もこのような仕組みを採用しておけば防げるようになる。

下のブルーがエリクソンのデータセンター上に構築されたコアネットワーク、上のイエローがAWS上に構築されたバックアップ
下のエリクソンのデータセンター上で障害が発生(オレンジのコンテナ)が発生すると、契約情報などが処理されなくなるので、右側に表示されているスマートフォンはアンテナで電波は受信しているが、5Gのマークが消えており、データ通信できていないことがわかる
上のAWSのバックアップが動き出すと、データ通信が再開され、右側のスマートフォンの5Gマークが復活している

 日本のNECがNTTドコモ向けに構築し、現在実証実験を行っているソリューションは、基本的な考え方はエリクソンが行ったデモと同じだが、利用しているEC2のハードウェアが異なっている。NTTドコモのコアネットワークは、NTTドコモの自社データセンターに構築されているが、そのバックアップとしてAWSのEC2を利用している。そのEC2で利用されているハードウェアは、5Gコアネットワークの仮想化で一般的に活用されているx86プロセッサではなく、ArmアーキテクチャのGraviton2になるという。

NECとNTTドコモの実証実験、左側がNTTドコモのデータセンターに構築されたコアネットワーク。右側がAWSのGraviton CPU上に構築されているバックアップ
左側のNTTドコモのデータセンターに何らかの障害が発生すると、AWS上のコアネットワークが起動する
右側のAWS上のコアネットワークが起動した状態、これによりサービスが継続できる

 なお、NTTドコモが自社で構築しているデータセンターでは、IntelのCPUが利用されているが、バックアップとして活用されているAWSのGraviton 2では、同程度の性能で消費電力を72%削減することに成功したと、NECとNTTドコモは説明している。

 今回のMWCでは、ロシアによるウクライナ侵攻後に発生した欧州のエネルギー危機という新しい状況によって、通信キャリアのソリューションでも低消費電力が隠れた大きなテーマになっていた。このため、NECとNTTドコモのGraviton2を利用したソリューションは、その文脈で大きな注目を集めていた。

 もちろん、x86プロセッサ上で動いていたコンテナなどをArmプロセッサに持ってくるにあたっては、技術的な課題もある。実証実験ではその辺りも検証されており、既に問題は解決されて動作している状況だと説明員は説明した。

AWSのブースにパネルで表示されていた、平均して72%の消費電力を削減できたという実証実験の成果

消費電力の削減が大きな競争の軸になりつつある通信向けCPU、AWSは全方位のハードウェアを提供

 AWSのホフマイヤー副社長は「Gravitonのメリットは消費電力が下がるということだけでなく、コストも下がるという点にある。そこが従来のアーキテクチャに比べたメリットになる」と述べ、通信キャリアにとってGravitonを採用するメリットは、消費電力の低減とTCO(具体的には電力料金)も含めたコストの削減だと強調している。

 もっともx86プロセッサ勢も黙っている訳ではなく、Intelは今回のMWCで発表した「vRANブースト内蔵第4世代インテル Xeon スケーラブル・プロセッサー」で、レイヤ1のアクセラレーターをCPUに内蔵して、性能を引き上げただけでなく、電力効率を大きく改善しているとアピールしている。また、Xeonベースのコアネットワークの電力を削減できるソフトウェア開発キットとして「Intel Infrastructure Power Manager for 5G core reference software」を提供し、3割の消費電力を削減できるとアピールしている。

 NECとNTTドコモの事例で7割削減というのは従来製品での比較になるだろうから、そうした新しい製品やソリューションを組み合わせると、差はかなり小さくなっている可能性は否定できないだろう。もっともAWSの側も、新しいArm CPUとしてGraviton3やGraviton3Eを既に投入しており、そちらを利用するとまた別の結果があるのかもしれないことは付け加えておく。このように、絶え間ない技術革新の中で、どのプラットフォームを選択すれば良いのか、通信キャリアにとっては頭が痛いところだろう。

 AWSのホフマイヤー副社長は「AWSとしてはどうしてもGravitonを使ってほしいということではなく、お客さまが選択していただければ良いと考えている。EC2ではIntelも、AMDも同じように選択肢として提供しており、Gravitonも含めてお客さまにとって一番良い選択肢を選んでいただければ良い」と述べており、そうしたハードウェアを自由に選択し、いつでも入れ替えられるのも通信キャリアがAWSのようなCSPを活用するメリットであり、AWS Telco Network Builderのようなマネージドサービスを活用すると、新しいハードウェアの導入やその管理も楽になると強調した。