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日立、2021年度にLumada事業全体で1兆6000億円規模を目指す

2019年度連結業績は純利益6割減に、新型コロナウイルスの影響大きく

 株式会社日立製作所(以下、日立)の東原敏昭社長兼CEOは29日、「2021中期経営計画」の進捗状況について、オンライン会見で説明を行った。

 そのなかで、2021年度には、Lumada事業全体で1兆6000億円規模を目指す計画を打ち出した一方、「Lumadaをグローバル展開するという形は見えてきたが、地域ごとに社会イノベーション事業を加速していかなくてはならない。その点では、まだ6合目である。その先の2024年を見据えて、さらにLumadaを加速したい」と述べた。

 また「Lumadaは、他社のやり方とは比較しにくい。システム開発は上流をコンサルティング会社が行い、システム仕様が固まるとITベンダーが構築して、運用・保守を行うが、Lumadaは1000件のユースケースを持ち、適用した際の効果が事前に理解できる。そして、エンドトゥエンドでグローバルに展開できる点が特徴である。その特長を生かしてエコシステムを構築したい」とアピールしている。

日立 執行役社長兼CEOの東原敏昭氏

 そのほか、新型コロナウイルスの影響を受けることを前提としながらも、社会イノベーション事業で成長させることを示したほか、新たに2030年度にカーボンニュートラルを目指す考えを明らかにした。

 さらに、東原社長兼CEOは、新型コロナウイルスの影響により、2020年第2四半期の各国実質GDP成長率が15%以上減少していること、日立の2020年度の売上収益は約1兆円の減収見通しであることを示しながらも、「振り返れば、2008年度決算では当期利益で7873億円の赤字となった。この10年で改革を進め、リーマンショックよりも経済的な影響が大きいと言われる新型コロナウイルスの状況下でも、2020年度には当期利益で3350億円を確保する段階にまできている。これまでの改革が成果を出しつつあると実感している。足かせとなる経営課題もなくなった。2021中期経営計画は、現時点ではそのままの数字を置いているが、第2波、第3波の影響などを見ながら、アップデートしたい」などと語っている。

社会イノベーション事業による共創とデジタル技術の活用による課題解決に取り組む

 日立では、約4割が1年以内で収益に反映される事業だが、約6割は中長期の案件である。例えば、鉄道事業は現時点で3兆円規模の受注残があり、工場生産が再開すればそのビジネスには影響はないといった体質を持つ。

 「新型コロナウイルスの影響により、経済環境が厳しくなっている。日立は、社会イノベーション事業による共創と、デジタル技術の活用による課題解決に取り組む。いまは、『リモート』『非接触』『自動化』がキーワードになっており、これまでのようなテクノロジーやプロダクトを中心としたイノベーションから、人間が感じる不自由、不便という観点からの共創や、デジタルでの解決が求められる。今後は、人間中心のイノベーションが加速することになる。これまでに培ってきた社会イノベーション事業の実績を生かせば、新型コロナウイルスによる課題も解決できる。日立の社会イノベーションで社会を輝かせたい」とした。

社会イノベーション事業の加速

 また、「ITセクターにおいては、DX(デジタルトランスフォーメーション)とクラウド化が進展し、政府・自治体、鉄道、電力、医療など、あらゆるところで、データに基づく価値創造が重要になる」としたほか、エネルギーではグリッドのデジタル化、インダストリーでは、流通・製造サプライチェーンの最適化や生産の自動化、電動化が進展。モビリティではデジタルによる鉄道オペレーションやメンテナンス事業の推進、ライフセクターでは、ワクチンやバイオ医薬・再生医療などのライフサイエンス分野、自動車部品の主力製品分野におけるシェア拡大を目指す考えを示した。

 さらに、「地域ごとに求める価値が違っており、それを理解した上で、グローバル展開を進める。世界を俯瞰(ふかん)した上で、共通ソリューションを開発し、地域ごとにカスタマイズできるエコシステムを構築する必要がある。それに向けては、Lumada Solution HubによるLumadaの共通ソリューションを、各地域に展開するとともに、顧客やパートナーの共創で新たな価値を提供する」と述べた。

変化が起きている領域で事業強化を図る
地域ごとの求める価値を理解

 また、社会イノベーション事業においては、事業分野、地域のほか、受注から入金までの事業サイクルが多様化していることを示し、「これは日立の強みである。多様性を持ちながら、バランスを取り、経営をすることでレジリエント(弾力性)のある経営ができる」などとした。

2020年度の経営方針

 2020年度の経営方針については、継続実行項目として、「PMIの完遂」、「事業ポートフォリオの変革」、「成長投資」を挙げ、「ABBのパワーグリッド事業の買収による合弁会社の設立、日立オートモティブシステムズとホンダ系のケーヒン、ショーワ、日信工業の経営統合といったPMIを完遂する」と述べた。

 その一方、強化事項として、「キャッシュマネジメントの強化」、「さらなる構造改革の実行」、「人財の獲得と育成」の3点を挙げる。

2020年度経営方針

 「キャッシュマネジメントの強化」では、1兆3000億円の手元流動性を確保したほか、営業キャッシュフロー創出の強化、投資キャッシュフローの厳選に取り組んでいることを示した。

 「さらなる構造改革の実行」では、「Hitachi Smart Transformation Project」によって実行した営業/間接業務の改革やモノづくり改革、会社数削減および拠点統廃合の取り組み成果に加えて、新たに在宅勤務を前提とした新たな働き方を導入する考えを示し、「働き方の再定義や必要となる環境整備を進めるとともに、業務プロセスの見直しとデジタル化も推進する。また、財務、調達などをグローバルシェアードサービス化することで、全体のコスト削減を図る」と述べた。

 「人財の獲得と育成」では、「30万人の従業員に、働きがいを持ってほしいと思っている。そのために、社会とのつながりや社会への貢献を、従業員に感じてもらうことが必要であり、エンカレッジメントとエンパワーメントをしていきたい。また、在宅勤務を標準とした働き方の導入や、ジョブ型人財マネジメントへの転換、グローバルに社会イノベーションをリードする人財の獲得と育成にも取り組む。2019年度には3万人のデジタル人財を、2021年度には3万7000人以上に増やす」と述べた。

さらなる構造改革の実行
人財の獲得と育成

 一方で、2021中期経営計画では、経済価値の向上に加えて、社会価値や環境価値の創出に注力することを掲げ、各セクターでの取り組みを行ってきたが、今回の会見では、「日立は、環境価値をリードする会社に変革をしていきたい」とする。

 また、「社会イノベーション事業を通じて環境課題を解決し、QoLの向上と、持続可能な社会の両立を実現する。『日立環境イノベーション 2050』では、2010年度に比較して、2030年度にはCO2排出量を50%にするなどの目標を打ち出しているが、脱炭素社会や高度循環社会の実現を加速すべく、2030年度にカーボンニュートラルを目指す。今年はそのスタートの1年になる。製品設計やプロセスの見直し、製造設備の省エネルギー化、再エネ設備および再エネの使用によって、これを達成したい」と語った。

2030年度カーポンニュートラルの実現

 なお、日立金属の品質不正問題については、「日立化成の件で再徹底したにも関わらず、問題が出たことは残念である。第三者委員会による調査を行っているところであり、事実関係を見極めながら、なぜ再発したのかということを原点に戻って見直したいと思っている。私の責任は、日立のグループ会社すべてに対して、いかに再発を防止するかということになる」とした。

2019年度連結業績は減収減益

 一方、日立が発表した2019年度(2019年4月~2020年3月)連結業績は、売上収益は前年比7.5%減の8兆7672億円、調整後営業利益は同12.3%減の6618億円、EBITは同64.3%減の1836億円、継続事業税引前利益は同65.1%減の1802億円、当期純利益は同60.6%減の875億円となった。営業利益率は7.5%、ROICは9.4%となった。

 なお、新型コロナウイルスの影響を除くと、売上収益は8兆9133億円、調整後営業利益は7088億円、EBITは2355億円とした。

 日立 執行役専務CFOの河村芳彦氏は、「全社の収益面においてITセクターの貢献が大きい」としたほか、「IT、エネルギー、インダストリー、モビリティ、ライフの5つのセクターの合計では、調整後営業利益は4763億円と過去最高益である。新型コロナウイルスの影響を除くと営業利益率は8.9%になる。2021中期経営計画では10%を目指しているが、計画に沿っている」と述べた。

2019年度実績ハイライト

 セグメント別では、ITの売上収益は、前年比1%減の2兆994億円、調整後営業利益は同8%増の2494億円、EBITは同1%増の2144億円。「2019年度はITサービスの伸長により過去最高益を達成した。金融分野は厳しいが、公共/社会分野が好調に推移している。ハイエンドストレージ市場が縮小傾向にあるが、成長しているミッドレンジ分野に新製品を投入している」などした。

 エネルギーの売上収益は前年比12%減の3992億円、調整後営業利益は同60%減の135億円。インダストリーの売上収益は同6%減の8407億円、調整後営業利益は同265%増の547億円。モビリティの売上収益は同6%減の1兆1444億円、調整後営業利益は前年並の923億円。ライフの売上収益は同11%減の1兆4729億円、調整後営業利益は同10%減の586億円。その他部門の売上収益は同14%減の4848億円、調整後営業利益は同29%減の23億円となった。

 また、上場子会社では、日立ハイテクの売上収益は5%減の6946億円、調整後営業利益は10%減の603億円。日立建機の売上収益は10%減の9313億円、調整後営業利益は35%減の755億円。日立金属の売上収益は14%減の8814億円、調整後営業利益は72%減の143億円。日立化成の売上収益は7%減の6314億円、調整後営業利益は27%減の352億円となった。

2019年度実績(5セクター・上場子会社別)

 Lumada事業の売上収益が前年比8%増の1兆2210億円。そのうち、Lumadaコア事業の売上収益は13%増の3800億円。Lumada SI事業の売上収益は6%増の8410億円となった。

 Lumada事業については、ユースケースが1000件を超えたことを示したほか、ベトナムの金融機関では、AIによるローン審査の導入に向けた実証を開始したことや、日本取引所グループでデータ利活用基盤である「Pentaho」が採用されたこと、ニチレイフーズの食品工場においてAIを活用した最適な生産、要員計画を自動立案するシステムの本格運用を開始したことを挙げた。

 また、Lumada事業の拡大に向けた経営基盤の強化として、インダストリー事業の北米統括会社である「日立インダストリアルホールディングスアメリカ」を発足したこと、日立ヴァンタラなどと連携して、現場から経営までをデジタル技術でつなぐトータルシームレスソリューションの提供を開始したことに触れた。

 さらに、FusionexのSaaS事業を取得し、アジア地域におけるLumada事業の展開を加速したことや、データサイエンティストのトップ人財を結集した「Lumada Data Science Lab.」を設立したことも示している。

Lumada事業の実績

 2020年度(2020年4月~2021年3月)連結業績見通しは、売上収益は前年比19.2%減の7兆800億円、調整後営業利益は43.8%減の3720億円、EBITは234.4%増の6140億円、継続事業税引前利益は232.8%増の6000億円、当期純利益は282.4%増の3350億円と見込む。

 2020年度における新型コロナウイルスの影響は、売上収益では1兆200億円、調整後営業利益では3010億円、EBITでは3820億円を想定している。

 「2020年度は、通年で新型コロナウイルスの影響が効いてくる。計画では、上期において大きな影響が出て、下期は自動車セクターのように大きな影響がある領域が残っても、全体的には影響が減衰する前提で考えている。第2波、第3波の大きな影響がなければ、これでいけるという確信のもとにつくった数字」と述べ、「5セクター合計では、新型コロナウイルスの影響を除くと、調整後営業利益率は8.7%を見込んでいる」とした。

2020年度見通しハイライト

 セグメント別では、ITの売上収益は、前年比9%減の1兆9200億円、調整後営業利益は20%減の1920億円、EBITは22%減の1780億円。「2020年度もITセクターの貢献が大きい。新型コロナウイルスの影響があるものの、調整後営業利益率10%を目指す。フロントでは、顧客のIT投資抑制による新規案件受注への影響を想定。サービス&プラットフォームでは、北米を中心にストレージ市況の悪化を想定している」としながらも、「企業のIT投資の抑制が始まるだろうが、リモートワークが増えたり、新たなソリューションに対する要請もある。投資が縮小する分と、新たな需要分との差し引きでトントンになるだろう。2020年1月からスタートした新生日立ヴァンタラにより、フロントビジネスも強化し、デジタルソリューションの提供基盤を強化している。北米は需要が戻るのに時間がかかるだろうが、国内のSI事業はいけるだろう。国内は足元ではまだ影響はしていない」と述べた。

 なお、ITセクターにおける新型コロナウイルスの影響は、売上収益で1600億円、調整後営業利益で490億円、EBITで490億円と見込んでいる。

 エネルギーの売上収益は前年比15%減の3400億円、調整後営業利益は23%減の250億円。インダストリーの売上収益は13%減の7300億円、調整後営業利益は85%増の220億円。モビリティの売上収益は15%減の9700億円、調整後営業利益は54%減の420億円。ライフの売上収益は12%減の1兆9000億円、調整後営業利益は71%増の1000億円。その他部門の売上収益は11%増の4300億円、調整後営業利益は51%減の110億円とした。
上場子会社では、日立建機の売上収益は17%減の7700億円、調整後営業利益は48%減の390億円。日立金属の売上収益は15%減の7500億円、調整後営業利益は193億円悪化し、マイナス50億円の赤字とした。

2020年度見通し(5セクター・上場子会社別)

 なお、2020年度のLumada事業については再定義を行う考えを示し、それをもとに新たな事業目標を示した。「日立ならではのIT×OT×プロダクトが生み出すシナジーにフォーカスすべく、Lumada事業を、コア事業+関連事業として再定義した」という。

 Lumadaコア事業には、顧客データをAIやアナリティクスの活用により、価値に変換して、顧客の経営指標改善や課題解決を図るサービスなどのデジタルソリューション事業とし、Lumada関連事業は、Lumadaコア事業との大きなシナジーが期待されるOTやプロダクトを中心とした先進的な製品、システム事業を含めたという。

 東原社長兼CEOは、Lumadaコア事業を「Scale of Digital」、Lumada関連事業を「Lumada by Digital」と表現した。

 新たな定義をもとにすると、2019年度のLumada事業の規模は1兆370億円となり、2020年度は前年比12%増の1兆1600億円を見込む。そのうち、Lumadaコア事業の売上収益は15%増の6800億円、Lumada関連事業は8%増の4800億円とした。

Lumada事業(新定義)の見通し

 また2021年度の計画では、1兆4000億円(Lumadaコア事業で8300億円、Lumada 関連事業で5700億円)としており、東原社長兼CEOが打ち出した1兆6000億円とは2000億円の乖離があるが、「M&Aやアライアンスによって、差分を埋めていく」とした。

 一方で、2020年度の事業計画を、この時点で発表したことについて、東原社長兼CEOは、「この2カ月間は、計画策定に掛かりきりとなった。当初は新型コロナウイルスの影響がない形で策定していたが、地域軸や製品軸で分析を加えて、策定しなおした。これ以外にも、第2波、第3波が来た時にもっと悪くなるということを想定した計画も持っている。最悪のケースを想定して実行していくことが大事である。どうなるかがわからない。現時点で詳細を出して、多くの意見をもらったほうがいいという狙いもある」と述べた。