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キヤノンMJの2020年度連結業績は減収減益も、10月公表時の業績予想は上回る

新社長に足立正親専務が昇格へ

 キヤノンマーケティングジャパン株式会社(以下、キヤノンMJ)は27日、2020年度(2020年1~12月)の連結業績を発表した。また、2021年3月26日付で足立正親取締役専務執行役員が社長に就任するトップ人事も発表された。

 2020年度の売上高は前年比12.2%減の5450億円、営業利益は同3.5%減の313億円、経常利益は同3.8%増の352億円、当期純利益は同1.1%減の219億円となった。また第4四半期(2020年10月~12月)は、売上高が前年同期比4%減の1521億円、営業利益は同28%増の109億円、当期純利益は同33%増の76億円となった。

年間累計の業績サマリー
第4四半期の業績サマリー

 キヤノンMJの蛭川初巳取締役上席執行役員は、「第4四半期は、コンスーマセグメントは増収となったが、エンタープライズ、エリア、プロフェッショナルが減収となった。また営業利益では、コンスーマにおいて、インクジェットプリンターやレンズ交換式カメラの高付加価値製品が伸びたことなどによって粗利が増加。エンタープライズでキヤノンITソリューションズ(キヤノンITS)が増益になったこと、コンスーマ製品の店頭イベント中止などにより、広告宣伝費や販売促進費が減少したことで、全社的な販管費の削減につながり、増益になった。販売促進費は使いたくても使えない状況だった。10月公表時に比べて売上高は81億円の上振れ、営業利益は73億円の上振れになった」と総括した。

通期のセグメント業績

通期 セグメントの業績概要

 通期のセグメント別業績では、「エンタープライズ」の売上高が前年比12.6%減の1712億円、セグメント利益が同11.4%減の89億円となった。

 「第4四半期も、テレワークの継続によりオフィスでのプリントボリュームが減少。保守サービスやレーザープリンターカートリッジの出荷が減少した。またレーザープリンターは、前年に製造業向け大型案件の反動の影響を受けたほか、オフィスMFPは新型コロナウイルスの影響による商談の減少が影響した」としたが、「大手企業向けITソリューションは、個々の要望に応じたアプリケーション開発や組み込み系システム開発、データセンターサービス、ビジネス系PCやエンドポイントセキュリティを提供。金融業向けのシステム開発案件が順調に推移したことに加え、2020年10月に竣工したデータセンター2号棟の売り上げ貢献があった」という。

 なお、同セグメントに含まれるキヤノンITSは、売上高は前年比5%減の871億円、営業利益は前年から7億円減の75億円となっている。

エンタープライズ領域の概況

 「エリア」の売上高は、前年比12.1%減の2357億円、セグメント利益が同31.3%減の98億円。「第4四半期は、前年のWindows 7サポート終了に伴う、ビジネスPCの入れ替え需要の反動や、テレワークの継続によるオフィスでのプリントボリュームの減少などにより、保守サービスが減少した。だが、オフィスMFPは後ろ倒しになっていた案件を獲得し、台数は増加した」という。

 また、中堅・中小企業向けITソリューションは、IT専任者の不足といった中小企業特有の課題に対して、ITコンシェルジュとして最適なシステムの提案や導入支援、運用サポートの提供を全国で展開。テレワークを構築するためのニーズが高いことから、IT支援クラウドサービス「HOME」や、ウイルス対策ソフトの「ESET」などのセキュリティプロダクトが堅調に推移したという。また、IT機器の保守や運用サービスであるIT保守サービスは新規顧客の獲得に成果があったという。

 なお、連結子会社のキヤノンシステムアンドサポート(キヤノンS&S)の売上高は前年比14%減の1077億円、営業利益は22億円減の29億円となった。

 またグループITソリューションの売上高は、前年比8%減の2031億円となったほか、グループ全体でのネットワークカメラの売上高は前年比4%増となった。「SIサービスは金融業向け案件が順調に推移したが、前年の製造業向け大型案件の反動や、中小企業での消費増税に伴う販売管理、会計システムの見直し需要の反動で前年比9%の減収となった。保守・運用サービス/アウトソーシングは、データセンター第2号棟の竣工、テレワーク需要の拡大に伴い、中小企業向けの保守サービスが堅調に推移して3%の増収。システム販売/ITプロダクトは、テレワーク需要でノートPCや周辺機器が好調だったが、前年のWindows 7のサポート終了による、ビジネスPCの入れ替え需要の反動があり、11%減となった。ネットワークカメラは、遠隔監視や遠隔操作など、人との接触を避けたニーズが高く、売り上げが増加している」という。

エリア領域の概況

 「コンスーマ」は、売上高が前年比6.0%減の1248億円、営業利益が同78.0%増の122億円。フルサイズミラーレスの新製品が好評であったほか、在宅需要が続くインクジェットプリンターが、利益面で想定を上回る伸びを見せたという。

 「高付加価値商品の構成比が増加したことで粗利が改善。これが想定以上に進んだ。だがレンズ交換式カメラは、GoToトラベル事業をきっかけにした需要の回復が一時的にはあったものの、厳しい状況が続き、通期の販売台数は前年比56%減となった。インクジェットプリンターは家庭での年賀状需要が落ち込んでいること、年末商戦の需要を在宅勤務需要によって前倒しされ、分散したことで、第4四半期は17%減となった。だが通期では4%増となった。また、在宅勤務によりモノクロ印刷が増加する傾向が高まっている」とした。

 ITプロダクトでは在宅勤務が増加したことで、パソコン周辺機器が好調。ゲーミングPCも好調に推移したという。

コンスーマ領域の概況

 「プロフェッショナル」の売上高は前年比29.7%減の307億円、セグメント利益は同16.3%増の18億円となった。「第4四半期において、プロダクションプリンティングはモノクロ連帳プリンターなどが伸びたものの、プリントボリューム低下に伴う消耗品販売の減少や、POP制作関連のビジネスが減少。産業機器は、半導体製造関連装置が売り上げを伸ばしたが、検査計測装置などが減少。さらに、グループ会社を株式譲渡した影響により減収になった」という。

 だが、ヘルスケアでは、病院向けの電子カルテおよび医療IT基盤の構築など、複数の大型案件があったとした。

プロフェッショナル領域の概況

2021年度の業績見通し

 一方、2021年度(2021年1月~12月)の業績見通しは、売上高が前年比2.7%増の5600億円、営業利益が同3.8%増の325億円、経常利益が同5.5%減の333億円、当期純利益が同2.3%増の225億円を見込む。「コンスーマでのマイナスを見込んでいるが、『エンタープライズ』『エリア』『プロフェッショナル』は、いずれも増収増益を見込んでいる」という。

2021年度の業績予想サマリー

 2021年度のセグメント別業績見通しは、「エンタープライズ」の売上高が前年比5%増の1927億円、営業利益が同21億円増の116億円。エリアの売上高が2%増の2285億円、営業利益は25億円増の115億円。「コンスーマ」の売上高が前年比3%減の1211億円、営業利益は33億円減の90億円。「プロフェッショナル」の売上高は13%増の347億円、営業利益は同5億円増の24億円を見込んでいる。

 2021年1月に、中堅および準大手顧客層向け体制強化に向け、キヤノンS&SにキヤノンMJのMA事業部の中堅、準大手顧客営業機能を統合。これにより、「エリア」セグメント、「エンタープライズ」セグメントへの一部組み換えが発生するという。

2021年度の業績予想 セグメント情報

 「『エンタープライズ』では、オフィスMFPやレーザープリンターが前年に大きく落ち込んだ反動で増加を見込んでいるが、テレワークが継続することが予想され、保守サービスおよびレーザープリンターカートリッジは引き続き減少すると見ている。また、全体的なドキュメントボリュームも減少するという前提で見ているほか、ITソリューションでは、キヤノンITソリューションを中心に、金融業、製造業、文教向けSIサービスでの売上増加を見込んでいる。製造業では、新型コロナウイルス感染症の影響を大きく受けた反動による増加を期待。データセンター2号棟の本格稼働に伴う、売り上げ貢献も見込む。第2号棟の引き合いが好調であり、第1号棟に比べて早期に黒字化したり、早期に売り上げに貢献したりすることは間違いない」と述べた。

 一方「エリア」では、「オフィスMFPは、コロナ禍で低調に推移した反動を期待しているが、レーザープリンターについては、オフィス市場の縮小やオフィスMFPへの集約化が進むことで減少になると予測している。ITソリューションは、中小企業のテレワークが継続することから、IT投資が活況であると想定。保守サービスやセキュリティプロダクトが堅調に推移すると見込んでいる」と述べた。

 また「コンスーマ」については、「デジタルカメラは、外出自粛により縮小した2020年に比べると市場が復調すると見ているが、2019年の水準には戻らない。EOS RシリーズやEOS KISS M2を中心に拡販することで、台数ベースでは14%増を見込んでいる。販売単価を上げ、収益の拡大を伴いながら、トップシェアの奪還に挑む。18本のレンズも用意しており、これが好評である。レンズとあわせて高収益ビジネスにしていきたい」とした。

 さらに、「インクジェットプリンターは、2020年には在宅勤務や在宅学習の増加で需要が増加したが、2021年はその反動もあり、台数ベースでは10%減を見込む。インクカートリッジも本体の台数減により、売り上げベースでは4%減になる見込みだ。在宅学習の増加によってモノクロ印刷が増加したり、写真などのカラー印刷が減少したりといったことも影響している。カメラとインクジェットプリンターの在庫は徹底して絞り込んでいるが、プリンター本体では低価格モデルが品薄という状況もある」などとした。

 「プロフェッショナル」では、「半導体製造装置関連の売り上げ増加が見込まれるほか、ヘルスケアではコロナ禍で市場動向が不透明だが、電子カルテなどの売り上げ増を見込んでいる」と述べた。

足立正親専務が新社長に内定

 なおキヤノンMJでは、3カ年の中期経営計画をローリング方式で策定しており、毎年、通期業績発表にあわせて、新たな計画を発表してきた。今回は、2023年を最終年度とした「2021年~2023年中期経営計画」が発表される予定だった。また、今年は、2021年をスタートとする5カ年の長期経営構想を発表するタイミングでもあった。

 だが、今回の業績発表では、いずれも発表を見送った。

 同社では、その理由として、1月27日開催の取締役会において、足立正親取締役専務執行役員の新社長就任が内定したことに加え、新型コロナウイルス感染症拡大に伴う、長期的な市場への影響への精査を実施していることを挙げ、「第1四半期の決算発表の際に、あらためて長期経営構想と中期経営計画をお伝えしたい。その際には、社長に就任する足立から説明をする」とした。第1四半期決算発表は2021年4月下旬の予定だ。

 新社長就任は、2021年3月26日が予定されており、その後に中期経営計画が発表されることになる。また、坂田正弘社長は相談役に就任する予定だ。

次期社長に就任する足立正親取締役専務執行役員

 足立氏は1960年3月生まれ、学習院大学を卒業後、1982年にキヤノンMJに入社。2009年にビジネスソリューションカンパニーMA販売事業部長に就任した。その後、2013年に上席執行役員、2015年には取締役常務執行役員に就任するとともに、ビジネスソリューションカンパニープレジデントに就任。2018年にエンタープライズビジネスユニット長に就いた。また、同年には兼務でキヤノンITS 代表取締役社長に就任。2019年4月にはキヤノンMJの専務執行役員に就任していた。

 今回の会見で蛭川取締役上席執行役員は、「基本路線に変更はなく、坂田(現社長)が組み立ててきたものを、後任として継続するのが足立(新社長)の役割である。キヤノン製品によるビジネスの収益性を高めつつ、よりITに詳しく、IT業界で経験した足立が後任になることで、収益性の高いITソリューションビジネスをさらに加速させるための交代である」とした。