ニュース

キヤノンMJ、ITソリューション事業を中核とした企業への変革を宣言 「長期経営構想」と「中期経営計画」を策定

 キヤノンマーケティングジャパン株式会社(以下、キヤノンMJ)は23日、2025年度を目標とする「2021-2025長期経営構想」と、2023年度を最終年度とする「2021-2023中期経営計画」を発表した。

 2025年度の売上高では6500億円を目標とし、そのうちITソリューションで3000億円を目指す。また、営業利益は500億円、ROEは8.0%を目標とした。さらに、2025年ビジョンとして、「社会・お客さまの課題をICTと人の力で解決するプロフェッショナルな企業グループ」を掲げたことも発表している。

2025年ビジョン・基本戦略・経営指標

 キヤノンMJの足立正親社長は、「キヤノンMJグループは、ITソリューション事業を中核とした企業へと事業ポートフォリオを転換する」と宣言した。

キヤノンMJ 代表取締役社長の足立正親氏

「2021-2025長期経営構想」の基本戦略

 同社では、毎年1月に発表される通期業績発表にあわせて、3カ年の中期経営計画をローリング方式で発表していたが、新型コロナウイルス感染症拡大に伴う長期的な市場への影響への精査する必要があったこと、3月26日付で足立正親氏が社長に就任するトップ人事を発表したことで、公表を延期していた。

 また今年は、2021年をスタートとする5カ年の長期経営構想を発表するタイミングでもあり、それもあわせて今回発表した。

 「2021-2025長期経営構想」では、基本戦略として「事業を通じた社会課題解決による、持続的な企業価値の向上」、「高収益企業グループの実現」、「経営資本強化による、好循環の創出」の3点を挙げた。

 ひとつめの「事業を通じた社会課題解決による、持続的な企業価値の向上」では、「キヤノン製品事業に、ITソリューション事業を組み合わせることで、課題を解決できる領域を広げ、中小企業の生産性向上による地域活性化にも貢献する」と述べた。

 2つめの「高収益企業グループの実現」では、「ITソリューション事業を成長の中核とし、豊富な顧客基盤を生かした営業体制の強化を進める。キヤノン製品事業では付加価値を向上させ、さらなる高収益化を実現する」という。

 そして、3つめの「経営資本強化による、好循環の創出」では、「高収益化することで生み出した利益を、さらなる成長のために投資していくためのサイクルをまわす。戦略的な事業投資と人材への投資を行う」とした。

 また、足立社長は「ITソリューション事業を中核とした企業へ事業ポートフォリオを転換する。また、キヤノン製品事業はITS事業と連動し、徹底した効率化により利益を創出する。キヤノン製品事業で培った顧客基盤、ブランド、収益を、ITソリューション事業に投下し、顧客との関係性をさらに深め、キヤノン製品を拡大し、高付加価値なビジネスを展開していく」との方向性を説明。

 さらに、「専門領域や新たな事業領域については、産業機器事業の継続的な拡大と、ITS事業とキヤノン製品事業をベースに、新たな事業創出に向けた領域を探索していく。さらに、事業ポートフォリオの見直しと最適化を目的に、継続的な選択と集中も行っていくことになる」と述べた。

 続けて、「持続的な企業価値の向上のために、成長投資を加速する。事業活動から創出した利益をもとに、M&Aを含めた事業強化への投資、価値の源泉である人材への投資を行う。それにより、事業がさらに強くなり、大きな利益を創出し、さらなる成長に再投資するという好循環を生むことができる」とも話している。

 このほか、足立社長は、今回の長期経営構想について「1988年にキヤノングループで提唱した企業理念である『共生』を、企業活動の根幹に据えていくことにした。『共生』の考え方は、サステナビリティ経営そのものである。事業を通じた社会課題解決に取り組んでいく」としたほか、「『共生』を実現する企業DNAは、『進取の気性』であり、市場環境や顧客ニーズに先回りして、新しい価値を追求し続ける」と述べた。

長期経営構想の実行計画として「2021-2023中期経営計画」を推進

 長期経営構想の実行計画として推進する「2021-2023中期経営計画」では、2023年度の業績目標として、売上高6000億円、営業利益400億円、当期純利益265億円を目標に掲げた。営業利益率は6.7%、ROEは6.9%を目指す。

 また、データセンターなどの建設を含む事業投資、基幹システムの刷新や社内DXの推進によるシステム投資、社員の専門性向上などを目的とした人材投資で、今後3年間に約1000億円を投資する計画も明らかにした。

2021-2023中期経営計画の目標

 2023年度のセグメント別業績では、エンタープライズの売上高が2220億円、営業利益が150億円、エリアの売上高が2380億円、営業利益が145億円。コンスーマの売上高は1175億円、営業利益は100億円。プロフェッショナルの売上高が425億円、営業利益が40億円とした。

セグメント別売上・営業利益 目標

 ITソリューション事業の売上目標として、2023年度には2650億円を計画。年平均成長率は8.2%増という高い成長を想定している。そのうち、エンタープライズが1540億円、エリアが780億円、その他で330億円としている。また、顧客層ごとの注力領域についてもKPIを設定した。

 エンタープライズにおいては、映像ソリューションや数理需要予測などで構成されるエッジソリューションで、2020年度には180億円の売上高だったものを、2023年度には330億円に拡大した。

 エリアにおいては、中小オフィス向けIT支援サービスのHOMEや、IT保守運用サービスによる契約件数を現在の約11万件から、約16万件に拡大する。

 さらにセキュリティの売上高は、2020年度の280億円を2023年度には380億円に、ITOおよびBPOの売上高は135億円から、210億円に拡大する。

 「ITSを成長の中核と位置づけ、そのなかでもサービス型事業モデルを強化する。また、ドキュメントソリューションもITSの一環とし、課題解決の領域を広げる。それによって、キヤノン製品事業の拡大にもつなげることができる」とした。

ITソリューション事業 売上目標
顧客層別ITSビジネス 主なKPI

 また、「ITSでは、顧客層ごとにニーズは異なるため、それぞれのニーズに適したビジネスを展開していく。だが業種別には、SIコアのようなものを作り、横展開をしていくことが必要である。中小企業では全国に広がるサービス拠点およびパートナー連携を生かした、顧客との継続的なつながりを構築。困りごとに対してフルサポートで貢献する」と、中小企業向けの戦略を述べた。

 また準大手企業および中堅企業に対しては、「強みのある領域、業種、技術に焦点を当てたエッジソリューションを展開。エッジソリューションは、テクノロジーや顧客に変化にあわせて、定期的に見直すことを想定している」と説明。

 そして大手企業には、「深い業務理解、市場理解をベースに、共創による社会課題解決に取り組む。さらに企業規模を問わず、セキュリティ支援サービスや、データセンターを基盤にしたアウトソーシングビジネスを提供し、顧客のIT戦略に貢献する。物販やスポットの案件で終わらせるのではなく、顧客に継続してサービスを提供できるようなサービス型事業モデルの構築を推進したい」と語った。

 サービス型事業モデルとしては、数理予測を用いて、広域災害の立会調査対応を効率化し、保険金の支払いを迅速化する「立会最適マッチングシステム」、AIや数理予測を用いて、商品需給予測を行い、物流業界における労働力不足や物流コストの上昇などの課題解決に向けた「ロジスティクス業務改革」、ネットワークカメラと画像解析技術を活用し、コロナ禍における医療従事者への感染拡大防止を支援する「医療機関向け遠隔モニタリングパッケージ」、IT担当者を置くことが難しい中小企業に対して、ITの選定、導入、運用、保守までをトータルにサポートする「まかせてIT」を展開している例を挙げた。

 「サービス型事業モデルの拡充により、保守運用サービスやアウトソーシング領域を強化し、収益性の高いITS事業を確立する」。

 ITソリューション事業の強化に向けては、「これまで以上に人材の価値が源泉になる」とし、人的資本の価値の最大化に向けて、人材の高度化と、社員エンゲージメントの向上に取り組むとした。ここでは、リーダーの育成強化、社員のスキル向上 外部人材の積極登用などを進めるという。

 なお、データセンター事業については、「1期棟は、模索していた部分もあったが、もうすぐ満床になる。2期棟はかなり早いタイミングで満床になる。コロケーションやハウジングと、付加価値による運用サポートの両方を追っていく。効率性を高め、収益性を上げていく」と述べた。

 キヤノン製品事業では、フォトイメージング領域におけるプロフェッショナルを追求し、シェアNo.1の堅持と、写真文化の醸成に取り組むほか、写真と映像による感動や楽しみにより、顧客一人ひとりの豊かな暮らしに貢献。デジタル活用による継続的、効率的な販売およびサポート体制強化により、さらなる高収益化を目指すとした。「一般消費者向けには、プロフォトグラファーから得た知見をもと、風景、動物、スポーツなど、被写体別のニーズに応える商品、サービスを提供する」と述べた。

 キヤノン製品による業種および業務向けソリューションでは、小売、病院向けといった業種別商品やサービスを拡充し、LBPにおいて圧倒的シェアナンバーワンの維持に取り組むほか、商業印刷や産業印刷では、ハードウェアの提供だけでなく、前後工程ソリューションとの組み合わせ提案により、課題解決領域を拡大。業種や業態にあわせたアプリケーションとの連動を強化。IoTを活用した事前不具合予測により、ダウンタイム削減にも貢献するという。

 オフィス向けソリューションでは、テレワークをはじめとした働き方改革に向けて、クラウド連携をしたドキュメントデバイスなどを活用したニューノーマルにおける需要を獲得。書類やFAX文書をデジタル化し、データの蓄積や分析、活用につなげる提案を行うという。「これはキヤノンMJの強みが発揮できるエッジソリューションの領域になる。顧客が抱えるさまざまな問題を解決する提案につながる」とした。全国規模での保守サービス網も強みになると位置づけたほか、顧客のIT人材不足にも対応できるという。

事業ポートフォリオの考え方

 会見では、「2016-2020長期経営構想」について振り返り、「売り上げは横ばいとなったが、事業ポートフォリオの転換と筋肉質な体質への強化により、営業利益率を改善。2019年には過去最高の営業利益を達成。2020年は、新型コロナウイルス感染症の影響下においても、営業利益率は5.7%と、前年以上の実績を達成した。また、ITSビジネスに注力し、事業ポートフォリオの転換を推進。高付加価値なサービス型事業を拡大した」と総括した。

 ITS事業の売上高は、2015年度には1721億円であったものが、20%増の2031億円に拡大。売上構成比は27%から37%に10ポイント拡大した。また、データセンターの売上高は約5倍に拡大したという。

 さらに、キヤノン製品のシェア堅持と収益力の向上では、レンズ交換式カメラやインクジェットプリンタ、レーザープリンタ、大判インクジェットプリンタでトップシェアを維持。アフターサービス業務のグループ最適体制の構築や、グループ内に分散しているコンタクトセンターの統廃合、コンスーマセグメントにおける組織のスリム化などの事業構造の成果もあり、販管費で約340億円の削減効果があったという。

 また、2018年1月から、商品起点や販売チャネル、カンパニー組織の体制から、顧客起点およびサービス体制を一体化したマトリクス組織体制へと転換したほか、100%の社員がテレワークを行える環境を整備。全従業員に対するITスキル向上研修の実施により、働きやすい環境への整備と従業員の成長支援を実施したという。

 足立社長は、「キヤノンMJグループは、市場環境変化にあわせて、顧客や市場のニーズをとらえ、事業ポートフォリオの見直しや最適化を行ってきた。顧客と相対する組織が明確になり、顧客の関心事や課題の把握、解決策を提供する組織力が向上することができた」とする一方、「新型コロナウイルス感染症の影響により、デジタル化の浸透や労働力の減少、働き方の変化は一層加速し、この潮流は不可逆的であると認識している。そこで生まれる社会や顧客の課題解決に取り組んでいく」とした。

 一方、2021年度第1四半期(2021年1~3月)の連結業績についても発表。売上高は前年同期比0.8%減の1403億円、営業利益は36.2%増の105億円、経常利益は40.0%増の109億円、当期純利益は94.6%増の79億円となった。

2021年度第1四半期(2021年1~3月)の業績サマリー

 キヤノンMJ 取締役上席執行役員の蛭川初巳氏は、「コンスーマにおいて、インクジェットプリンタやレンズ交換式デジタルカメラの高付加価値製品や、ITプロダクトの販売増加があったが、オフィスでのプリントボリューム減少に伴う保守サービスの減少があった。エンタープライズやエリア、プロフェッショナルが減収になっている」と述べた。

キヤノンMJ 取締役上席執行役員の蛭川初巳氏

 大手企業や準大手、中堅企業を担当するエンタープライズの売上高は前年同期比6.6%減の472億円、セグメント利益が同3.2%減の35億円。中小企業などを担当するエリアの売上高は同4.2%減の593億円、セグメント利益は同10.2%増の39億円。コンスーマの売上高が前年同期比24.3%増の306億円、セグメント利益は前年同期の0.2億円の赤字から黒字転換し、30億円の黒字。プロフェッショナルの売上高は前年同期比5.8%減の81億円、セグメント利益は同3.4%増の6億円となった。

セグメント概要

 2021年度(2021年1月~12月)の業績見通しは、1月公表値に比べて売上高は70億円増、前年比4.0%増の5670億円、営業利益が1月公表値から15億円増、前年比8.6%増の340億円、経常利益が1月公表値から15億円増、前年比1.2%減の348億円、当期純利益が1月公表値から10億円増、前年比6.8%増の235億円と上方修正した。

 「在宅勤務需要などによりインクジェットプリンタが引き続き好調に推移したことや、ITソリューションにおいて、当初の計画を上回る見通しとなったことなどを踏まえた」(同)という。

業績予想サマリー