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ジュニパーネットワークス、買収したMistのソリューションを日本市場でも展開へ

“AIドリブンエンタープライズ”がWi-Fi 6時代のネットワークを牽引――

 ジュニパーネットワークス株式会社は19日、2019年4月に米Juniper Networks(以下、Juniper)が買収を完了した米Mist Systems(以下、Mist)に関して、報道陣向けの説明会を開催した。

 プレゼンを行ったMist Systems 共同創設者 社長 兼 CEOのスジャイ・ハジェラ(Sujai Hajela)氏は「Mistは、世界で最初にAIを搭載した無線プラットフォームを構築した企業。ユーザーにとって使いやすく、そして予測可能なネットワークプラットフォームを、Juniperとともにさまざまな環境に拡張し、日本のユーザーにも最高のエクスペリエンスである“AIドリブンエンタープライズ”を提供していく」と語り、日本市場においてもAI搭載ソリューションを幅広く展開していく意向を明らかにしている。

Mist Systems 共同創設者 社長 兼 CEOのスジャイ・ハジェラ氏

エンドユーザーのネットワークエクスペリエンスが根本から変わるソリューション

 Mist Systemsは2014年、Cisco在籍中にMeraki買収を手がけたことでも知られるハジェラ氏が中心となって設立されたスタートアップ企業。クラウド管理型Wi-Fiソリューション、特に特許取得済みの仮想ビーコン「vBLE(Virtual Bluetooth Low Energy)」を埋め込んだアクセスポイント(AP)の評価が非常に高い。

 Cisco MerakiやAruba Networks(HPE)など、クラウド型Wi-Fiネットワーク管理ソリューションは数多く存在するが、屋内でも高い精度で位置情報を特定でき、ひとつの物理デバイス(ビーコン)から複数のUUIDを発することができるvBLEは、機能拡張やスケールアウトが非常に容易な設計となっている。

 このため、Mistは「エンドユーザーのネットワークエクスペリエンスが根本から変わる」(ハジェラ氏)ソリューションとも言われている。

 さらに、アクセスポイントの管理はAIドリブンな「Mist Cloud」を通して行われ、仮想ビーコンの位置情報や振る舞いをクラウド上でAIが学習して、運用の自動化とダッシュボードによる可視化を実現している。

 日本でも不二家などがMistを導入しており、全社レベルのWi-Fi管理が実現、モバイルデバイスによるペーパーレス化などに効果を上げている。

Mistの国内ユーザーである不二家の事例。本社ビルにMistを導入し、モバイルデバイスを適切に管理できるようになったことで、iPadによるペーパーレス会議が実現した。またAIによる異常検知と当該デバイスのすみやかな分離もセキュアに機能しているという

Mistに課せられたミッション

 そのMistは、2019年4月にJuniperに買収され、現在は“a Juniper Company”として、従前からの独立性をある程度保ちながらも、Wi-Fi以外のネットワークポートフォリオを数多く擁するJuniperとのシナジーを加速させるミッションも負っている。

 そのミッションには、今後ワイヤレスネットワーク市場のメインストリームとなる“Wi-Fi 6”こと802.11axにおいてリーダーポジションを取ることに加え、MistがこれまでWi-Fiネットワークに対して提供してきたモダンなアーキテクチャを、Juniperのスイッチやルータを介してつながる有線LAN、WAN、SD-WAN、さらにはパブリッククラウドまでもターゲットに拡張することも含まれている。

 このミッション実現のキーワードとなるのが、ハジェラ氏が言うところの“AIドリブンエンタープライズ”だ。前述したとおり、Mistがネットワーク管理機能をオフロードしているMist Cloudは、AIドリブンネットワークを標榜しており、ベイズ推定をベースにしたアルゴリズムを利用し、ネットワークの自動化や最適化といったオペレーションを実行している。

 「AIドリブンなネットワークは今後10年のネットワークの主流となると確信している。世界で最初にAIドリブンなクラウドベースのWi-Fiプラットフォームを構築したMistだからこそ、(Wi-Fi 6を含む)新しいアーキテクチャにいちはやく対応することが可能。AIドリブンなネットワークがAIドリブンエンタープライズを実現し、最高のエクスペリエンス - 自動化による時間とコストの削減、拡張性と多様性の拡大、インサイト提供、ITエクスペリエンス全体の向上をユーザーに提供する」と、ハジェラ氏は“AIドリブン”のメリットを強調する。

3つの新製品/サービスを国内でも提供へ

 ハジェラ氏は今回の来日に伴い、日本市場向けに3つの新製品/サービスに関する発表を行っている。いずれも2019年6月に米国で発表された内容で、米国につづき、日本でも2019年第4四半期中には提供が開始される予定だという。

 ひとつめは、「Wi-Fi 6のポテンシャルを最大化するAI」(ハジェラ氏)という、独自開発の「AI for AX」を搭載したアクセスポイント「Mist AP43」だ。これまでMistが提供してきたアクセスポイントの最上位モデルにとなる。

 Mist AP43は802.11ax(5GHzデュアルバンド)と802.3bzマルチギガビットイーサネット、Bluetooth 5.0をサポートするvBLEに加え、温度や湿度などを監視するIoTセンサーとIoT拡張ポートを備えており、Wi-Fi、vBLE、IoTという3つのワイヤレス接続をシンプルにカバーする。

 アクセスポイントのオペレーションを担うAI for AXはMist Cloudを通して提供され、「2秒ごとにすべてのユーザー/端末の挙動をチェックする」(ハジェラ氏)というアルゴリズムをもとに、ユーザー/端末の異常な振る舞いをすみやかに検知する。

ハジェラ氏によるAI for AXのデモでは、MistのAIエンジンである「Marvis」が問題のある振る舞いをした端末およびグループをすみやかに特定(今回はRF)、その理由についてもダッシュボード上から確認できる
新アクセスポイントの「Mist AP43」は、Wi-Fi 6のほかIoTやvBLEもサポートし、より広いネットワークニーズをカバーする

 2つめは、「何か問題が起こってから対処するのではなく、Mistが収集したデータにもとづいて、AIがユーザーよりも速くに問題を特定する」(ハジェラ氏)という、AIドリブンな事前予測型のカスタマサポートだ。

 Mist Cloud側が異常な振る舞いを自動検知すると、AIが誤アラームを除外しながら問題となる端末/ユーザーを特定し、Mistからユーザーに通知が送信されると同時に、Mist側でも経験値の高いレベル3のTACエンジニアが問題を調査する。

 また、Mistより先にユーザー側が問題に気づいた場合は、ユーザーがダッシュボード上でチケットを作成してMistに送信すると、AIが関連する情報を収集し、問題特定に動く。さらにMistのAIエンジンが“なぜ、その端末が問題だと判定したか”についての詳細もユーザーに対して開示される。

 「問題発生後にコールセンターに連絡してレベルの低いエンジニアに延々と状況を説明し、電話を保留にされるストレスからユーザーを解放する。テクノロジーが進化するのなら、そのサポートモデルにもイノベーションは必要」(ハジェラ氏)。

 そして3つめが、Wi-Fiに特化してきたMistのケーパビリティを、マイクロサービスを通してオンプレミスやパブリッククラウドに拡張する「Mist Edge」だ。

 ユーザーは既存のレガシーな環境を変更することなく、モダンなネットワークケーパビリティ――、例えばAIによるバーチャルネットワークアシスタント、デバイスのリアルタイム監視、位置情報把握、インサイトの分析などをMist Edge経由で手にすることが可能となる。

 ネットワーク機器の大々的なリプレースを必要としないため、スムーズなアーキテクチャ移行をサポートできるほか、ゲストネットワークのアンカリング、SD-WANゲートウェイによるvLANのブランチエッジ化、あるいはパブリッククラウドとの連携によるvLANの拡張なども期待できる。

 現在、Mist Edgeはアプライアンスによる提供のみだが、将来的にはバーチャルマシンとして、あるいはサードパーティからの提供も予定されている。

Mistがワイヤレスで培ってきたケーパビリティをJuniperのポートフォリオと連携させ、さまざまなネットワークに拡張する「Mist Edge」は、マイクロサービスによってさまざまな機能がデプロイされる

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 5GやWi-Fi 6など、次世代ネットワークアーキテクチャの実用化が本格的に進もうとしている一方で、「企業のほとんどは10年前にリリースされたテクノロジーを、今後5年以上に渡ってデプロイして使っていこうとしている。10年前はiPhoneが初めて世の中に登場し、AWSがクラウドベンダとしてサービスを提供し始めた時期だが、デバイスもクラウドも大きく変化したにもかかわらず、企業ネットワークの世界はそこからほとんど進歩していない」とハジェラ氏は言う。

 特にWi-Fi 6(802.11ax)に関しては、そのポテンシャルの大きさから多くの企業が関心を示すものの、「レガシーのアーキテクチャでは、例えば新しいiPhoneやAndroid端末が増えてもそれをバックエンドで管理しきれない」(ハジェラ氏)のが実情だ。

 そしてMistの強みは、その点をカバーできるところにあるという。「(MerakiやArubaなど)ほかのクラウド管理型Wi-Fiプラットフォームはあくまで既存のアーキテクチャをベースに構築されている。Mistは違う。レガシーの影響を受けることなく、まっさらな状態で新しいアーキテクチャを受け入れることができる。しかもユーザー側にリプレースを強要しない」とハジェラ氏は言うが、その強みがJuniperという、ある意味レガシーネットワークを支えてきた側のベンダとひとつになることで、より生かされるとしている。

 「JuniperとMistの強みは“ONE”というキーワードで表現できる。チーム、ビジョン、プロダクトライン、そしてゴール、これらすべてを"ONE"で共有し、新しい時代のネットワークをより多くのユーザーに届けていく」(ハジェラ氏)。

 「古くて良いのはワインであって、ネットワークは新しければ新しいほど良い」――。ハジェラ氏は会見の冒頭でネットワークの世界をこう例えている。

 しかし多くの企業はレガシーネットワークの呪縛(じゅばく)からいまだに逃れられていない。管理機能のほとんどをクラウドにオフロードし、AIで端末の自動化/最適化を進めるMistのようなシステムは、レガシーからモダンアーキテクチャへの移行を検討する企業にとって、大々的なハードウェアリプレースを留保できることからも、コストや時間などの“痛み”の少ない魅力的な選択肢となりうる。

 ワイヤレスの世界でユニークな地位を築いてきたMistの実力が、より広いターゲット層を前にどこまで受け入れられるのか、競合他社の動きとあわせ引き続き注目していきたい。