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日立が「2021 中期経営計画」発表、社会イノベーション事業でのグローバルリーダー目指す
2019年5月13日 12:05
株式会社日立製作所(以下、日立)は10日、2021年度を最終年度とする「2021 中期経営計画」を発表した。
2021年度までに、売上収益の年平均成長率が3%超、調整後営業利益率で10%超、3年間累計の営業キャッシュフローが2兆5000億円超、ROIC(投資資本利益率)で10%超、海外売上比率で60%超を目指す。
また、今後3年間で2兆円~2兆5000億円を、ITソリューションとインダスリトーソリューション分野などに重点投資する。さらに、現在1000人のデータサイエンティストを、3000人以上に増やす計画も明らかにした。
日立の東原敏昭社長兼CEOは、「2021 中期経営計画では、社会イノベーション事業でのグローバルリーダーを目指す。イノベーションを起こしたいと思ったとき、日立を想起してもらうポジションになることが重要である。また、社会価値、環境価値、経済価値を追求する会社になる。(従来の)2018 中期経営計画では3年間で5000億円の投資であったが、これを大きく増やす。2兆円~2兆5000億円のうち、ABBパワーグリッド事業で約1兆円を予定している。積極投資を実行するために、財務レバレッジを活用し資本コスト(WACC)を低減するとともに、KPIにROICを導入して資本効率を見ていく」とした。
Lumadaによる事業を今後の成長の中軸に
今回の中期経営計画では、売上高や営業利益の具体的な目標値は示さなかったが、数値を逆算すると、売上高は約10兆3500億円、営業利益は1兆円規模を目指すことになる。
これについて東原社長は、「売上高はあまり重要ではないと考えている。M&Aを行ったり、資本政策を行ったりする上では、売上高にこだわる必要はない。10兆円になればいいかな、ぐらいに思っているにすぎない。それよりも、SG&Aやグロスマージンの改善を重視したり、M&Aの対象となるところでの利益を意識すればいいと考えている」とした。
また、これまでの「2018 中期経営計画」について振り返り、「2018年度の調整後営業利益は7549億円となり、過去最高になったほか、営業利益率は8.0%になった。日立に『稼ぐ力』がついてきたといえる。2008年度に7873億円の赤字を計上して以来、必死になってV字回復に取り組んできた。2018 中期経営計画で、V字回復モードに終止符を打ちたい。そして2021 中期経営計画では、新たなステージに立ってやっていくことになる」と宣言した。
一方で、「Lumadaによる事業を今後の成長の中軸に据え、顧客と一緒になって社会イノベーションを進めていきたい。Lumadaは社会イノベーション事業を加速するドライバーになる」と位置づける。
また「日立は、ちょうど3年前の2016年5月10日にLumadaを発表した。すでに860の事例があり、関連売上高が1兆円を超えている。2021年度には、Lumada関連で1兆6000億円を目標にするが、社内には、2018年度の2倍近い2兆円を目指すように発破をかけている」とした。
さらに、Lumadaに対して過去3年間で約1000億円を投資してきたが、「今後3年間では、最低でも1500億円の投資を行い、現在、3350億円規模のLumadaコアの売上規模を倍増させ、海外での展開も強化したい」とする。また、社内の経営基盤の強化においてもLumadaを活用し、デジタルトランスフォーメーションを行う考えも示した。
さらに、2019年4月に東京・国分寺の中央研究所内に開設した「協創の森」や、ドイツに新設する「コーポレートベンチャリングファンド」によって、Lumadaを活用した新たなイノベーションを創出する考えも示している。
“5つの分野”で“3つの価値”を同時に引き上げる
なお、今回の「2021 中期経営計画」の基本方針として、モビリティソリューション、ライフソリューション、インダストリーソリューション、エネルギーソリューション、ITソリューションの5つの分野で、「社会価値の向上」、「環境価値の向上」、「経済価値の向上」の3つの価値を同時に引き上げ、人々のQoL(Quality of Life)の向上、顧客企業の価値の向上を図ることを掲げた。
このうちモビリティソリューションは、成長戦略を実行する領域と位置づけ、Ansaldo STSや永大機電といった、これまでの中期経営計画で獲得した資産を活用したグローバル展開を進める。
ライフソリューションでは収益の改善を優先し、次の成長に向けた事業の再構築に着手。インダストリーソリューションでは、ロボットSIをはじめとした産業SIに重点的に投資するという。
またエネルギーソリューションでは、パワーグリッド事業のPMI(Post Merger Integration)に注力して、成長準備に取り組むと説明。LumadaによるITソリューションでは、Lumadaおよびその周辺機能の拡充に重点投資する考えを示した。
東原社長は、5つの分野におけるLumadaを活用した社会イノベーションの具体的な取り組みについても触れた。
モビリティソリューションでは、人々に安全、快適な移動サービスを提供。駅で待っている人の数をもとに運行ダイヤを作り、需要に応じて柔軟に運行しているコペンハーゲンの事例を示しながら、「2021年度には、世界中で、年間のべ185億人に対して、安全、安心、快適で、環境に配慮した鉄道サービスを提供できる」とした。
ライフソリューションでは、誰もが暮らしやすいまちづくりの実現を目指し、スマートシティ、スマートセラピー、コネクテッドカー、コネクテッド家電の領域でLumadaを活用。粒子線がん治療システムの提供によって、これまでに世界累計で6万人のがん治療に活用する。2021年に向けては、8万人のがん治療に貢献できるという。
ライフソリューションに含まれる家電についても説明。「家電事業は収益性を高めることが必要である。いまは5%前後の収益性しかない。2けたを目指すには相当なテコ入れが必要である。ただ家電事業は、日立には珍しく、B2Cに近いところで人の生活に密着した事業である。今後は、製品がつながることを考えた上で、新たなソリューションが生まれる。それに向けて、パートナーリングを含めた将来のビジョンを作っているところである。海外の事業展開を含めて、利益を改善する余地はある。2019年度は、収益改善と将来のビジョンを描くフェーズになる」とした。
インダストリーソリューションでは、顧客の生産やサービス提供の効率化、安心、安全な上下水道システムの提供を掲げ、スマートロジスティクス、スマートメンテナンス、ファクトリーオートメーション、漏水検知システムといった事例を挙げた。例えば、上下水道や海水淡水化技術により、世界中で延べ一日7000万人に安全、安心な水環境を提供するという。
エネルギーソリューションでは、安定的で、高効率なエネルギーの提供と管理を目指し、グリッドソリューションやエネルギーマネジメントなどに注力。世界の25%の変電所をマネジメントし、18億人に安定したエネルギーを供給できるようになるという。
そして、ITソリューションにおいては、高度なITを活用することで、顧客のイノベーションを加速。具体的には、高度な金融・社会サービスの実現に取り組むという。ベトナム郵便の事例では、公金給付の電子化サービスを拡大。2020年には、公金受給者600万人の利便性向上に貢献できるという。
東原社長は、「今回の新中期経営計画では5つの分野を定めたが、これらは、さらに次の中期経営計画ではプラットフォーム化するだろう。そうなるとQoLの向上と企業価値の向上に直結することになる。フロント部門はプラットフォームを活用してソリューションを提案していくことになるが、それを使いやすい形にプラットフォーム化していくことが、この3年の取り組みになる」と説明。
また、「2021 中期経営計画においては、社会イノベーション事業を通じて持続可能な社会を実現する会社になりたい」とし、「社会イノベーション事業に求められるのは、デジタル空間での技術力と、リアルな社会での技術力。そして、デジタルとリアルを連携させた新たな価値を作りだし、イノベーションを実現する力である。これは日立の得意分野である。日立は創業以来100年間にわたってOTの実績があり、50年にわたってITの実績がある。OTとIT、プロダクトの3つを持っている企業は世界的にみても少ない。この特長を生かして、社会イノベーションを推進したい」などとした。
このほか、情報・通信システム事業が2けたの営業利益率に到達したことについても触れ、「目指すのはさらに上であり、ここでとどまってもらっては困る。情報・通信システム部門はフロントで引っ張ってもらう組織だ。今後、情報・通信はプラットフォーム化し、5つの分野のすべてを横ぐしで横断することになる。それにより、もっと付加価値の高いソリューションを提供できる。営業利益率10%で満足せずに、15%を狙ってほしい」とした。
また東原社長は、新たなスローガンとして「Hitachi Social Innovation is POWERING GOOD(世界を輝かせよう)」を掲げ、「これを今後3年間の合言葉にしたい。QoLの向上や、持続可能な社会の実現など、世界の人々が求めているものを、全力を尽くして実現するものになる。世界を、お客さまと一緒に輝かせていきたいという意味も込めた」とした。
なお、5つのソリューション分野に対する具体的な取り組みについては、6月4日に説明を行うという。
【お詫びと訂正】
- 初出時、タイトルが「日立が『2012 中期経営計画』発表」となっておりましたが、正しくは「日立が『2021 中期経営計画』発表」です。お詫びして訂正いたします。