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日立の東原敏昭社長、「次期中期経営計画はLumadaを核に推進」
2016年度連結決算は減収減益
2017年5月13日 06:00
株式会社日立製作所(以下、日立)は12日、2018年度を最終年度とする「2018中期経営計画」の進行について説明。日立の東原敏昭社長兼CEOは、「2016年度は、成長に向けた地盤づくりを行った1年だったが、2017年は成長に向けてギアチェンジをしたいと考えている。そして、2018年度は、利益を収穫できる社会イノベーションの完結フェーズになる」と述べたほか、「次期中期経営計画では、日立と聞けば、イノベーションパートナーであると、世界中で認識される企業になることを目指す。Lumadaを核にして、事業を推進していくことになる」とした。
2018年中期経営計画では、2018年度目標として売上収益で10兆円、調整後営業利益で8000億円(営業利益率8.0%以上)、EBITで8000億円、当期純利益で4000億円超、海外事業比率55%以上などの指標を掲げている。
東原社長兼CEOは、「最も重視したいのが、4000億円の当期純利益の達成である。トップラインはそれほど気にしていない」などとした。
2018年中期経営計画においては、「進化した社会イノベーション事業でお客さまとの協創を加速」することを目指し、「電力・エネルギー」、「産業・流通・水」、「アーバン」、「金融・公共・ヘルスケア」の4つを注力事業分野を掲げ、「IoT時代のイノベーションパートナー」を目指す姿勢をみせている。
2016年度には、社会イノベーション事業の成長に向けて事業構造改革を実行。日立キャピタルや日立物流、日立工機、日立国際電気などの事業を譲渡。さらに、成長事業の強化に向けて、鉄道事業ではアルサンドSTSや日立レールイタリアとの事業統合を推進し、今後、年率10%での成長を計画。金融分野においては、アジア市場向けにブロックチェーンなどの新技術を活用した取り組みのほか、国内向けの金融SI事業の安定成長につなげているという。産業分野向けには、Sullair(サルエアー)の買収で獲得した北米でのチャネルを生かして、プロダクト事業およびデジタルソリューション事業を拡大したことなどを示した。
「買収したSullairは、米国に4000社の顧客があり、200社の販売パートナーがある。これは顧客を買ったということ。今後、この販路を活用していくことが重要になる」としている。
IoTプラットフォームである「Lumada」事業の進行状況についても説明した。2016年度のLumadaの売上高は9000億円。そのうち、顧客データをAIやアナリティクス活用により、価値に変換し、顧客の経営指標改善、課題解決を図るサービス事業を指す「Lumadaコア事業」は1200億円、Lumadaコア事業がけん引するIoT分野のSI事業(産業・社会インフラ系)を指す「Lumada SI事業」は7800億円。2016年度末時点でのユースケースは203件となり、第4四半期で新たに13件増加したとのこと。
送風機のICT運転制御による下水処理制御システム、製造業向け製品不良予兆診断・監視システムなどのソリューションを追加したという。医療分野向けには、機器販売だけでなく、病院経営を含んだ案件も発生しているとした。
「203件のうち、日本で4割強、欧米で4割強。アジアおよび南米で1割強になっている」という。
2017年度の売り上げ見通しは、Lumada事業全体で9500億円。そのうち、Lumadaコア事業で1900億円、Lumada SI事業で7600億円を見込んでいる。9500億円のうち、情報・通信関連で約75%、産業、流通、その他で約25%の構成比になるという。
「2016年度、2017年度はインキュベーションモードの案件があり、それに対する費用も発生。PoCの段階のものも多々ある。そのため、利益はそれほど大きくはない。だが、2018年度にはかなり貢献すると見込んでいる。利益率は、2017年度以降には、全社平均よりも高い水準を見込んでいる。2018年度には、Lumada事業での売上高1兆円超を目指す」(日立製作所の西山光秋専務CFO)とした。
ユースケースのなかでは、流通分野において、顧客単価が15%増に、物流では生産性が10%向上、コールセンターでは受注率が27%向上した例があるという。
同社では、Lumadaのグローバル展開の加速に向けて、各ビジネスユニットに「Chief Lumada Officer(CLO)」を設置している。
東原社長兼CEOは、2018年度には、Lumada事業で1兆500億円を目指す計画を明らかにしながら、「昨年5月に発表した際には、多くの人にLumadaとはなんだといわれていたが、1年で知名度もあがってきた。それに伴い、トップタレントが集まってきた。Lumadaは、グローバルトップレベルのIoTプラットフォームであり、現在、IoT分野のトップタレントからなる開発チームを、米国中心に270人のフロント体制として設置。知見を再利用可能なソフトウェアとして、ソリューションコアを拡充している。追加の大型投資を検討し、売り上げ、収益の拡大を目指す」とした
また、「日立のLumadaが高い評価を得ているのは、提案からデリバリーまでを、一貫提供できる点にある。OTとIT、プロダクトを持っており、鉄道事業であれば、鉄道車両からICチケッティング、デジタルサイネージまでのすべてを提供できる。また、オープンエコシステムにより、パートナーとの協創により迅速に顧客に価値を提供できる」と述べている。
2018年度に目指す姿としては、「フロントが売上、収益の拡大を牽引」、「グローバルで事業拡大」を掲げ、フロントによる売上高を3兆5213億円から、4兆円に拡大。比率を2016年度実績で38%から、40%に拡大する。ここでは、調整後営業利益率を8%に引き上げる。
また、プラットフォーム・プロダクトは、2016年度実績で6兆7145億円の売上高を、2018年度に7兆1600億円に拡大。調整後営業利益率を8%を目指す。
グローバルでは、2018年度に、欧州では売上高が1兆1500億円(2016年度は9700億円)、中国では1兆1000億円(同9300億円)、北米では1兆4600億円(同1兆1400億円)、アジアでは1兆2200億円(同9300億円)と、すべてのエリアで事業を拡大。海外売上比率を48%から55%に引き上げる。
欧州では、鉄道、原子力、エネルギー、中国では昇降機、ヘルスケア、建設機械、北米では自動車部品、産業プロダクト、アーバンモビリティ、アジアではFintechを中心とした金融や産業プロダクトを中核に事業成長を見込む。
具体的な事業成長計画として、「社会イノベーション事業の成長により、売上・利益を拡大」、「大型投資の実行によりさらに成長を加速」の2点に取り組む方針を示す。
「社会イノベーション事業の成長により、売り上げ、利益を拡大」では、「持続可能な開発目標(SDGs)市場は年12兆ドルに達し、デジタル市場は2020年に1兆2900億ドルに達すると予測されており、日立が8年以上前から取り組んできた社会イノベーション事業にフォローの風が吹いている。Lumadaをコアとして、社会イノベーション事業を成長させる」とコメント。「グローバルフロントの組織を2017年4月に設置。さらに、コンサルティング、SE、保守サービスなどの人財を、国内1000人、海外1000人を採用。さらに、3000人を教育し、フロント人財への転換を図り、今後は資格制度を導入し、より高度な課題解決ができるソーシャルイノベータを育成したい」とした。
「大型投資の実行によりさらに成長を加速」では、総額で1兆円規模の戦略投資と未来投資を計画。注力4事業分野ごとの成長戦略を立案し、実行するとした。
「現在事業の成長では、9兆5000億円~9兆6000億円規模となる。ここに1兆円規模の投資を実行し、4000~5000億円の上乗せを見込んでいる。顧客チャネルを持っているところを一緒に購入するといったようなことも考えていく。投資から回収の期間がかかるようなところと、フロントの買収をバランスを取っていく。アーバンでは、アジア、米国が魅力的なエリアだと考えている」とした。
ここでもフロント機能の強化を重視。「顧客チャネルや保守拠点を対象にするほか、プロダクト事業も含む」などとした。
2017年4月に、投融資戦略本部を社長直轄で新設。「社会イノベーション事業の成長には、投資の重点化と、資産収益性の向上が重要である。これだけの規模の企業において投資戦略を推進するには、効率化も考えなくてはならない。成長分野への重点投資、バランスシートの再設計、プロジェクトファイナンスの強化を行うことになる」とした。
また、同じ社長直下の組織として、未来投資本部を2017年4月に設置。「事業分野の枠を超えた事業創生投資を行うための組織であり、外部機関やベンチャーとの連携で、事業創生の時間を短縮することになる。ロボティクスや人工知能、ヘルスケア、セキュリティなどの5つの分野で推進する」とした。
さらに、経営基盤改革の進行にも言及。「ビジネスユニット制による意思決定の迅速化、グローバルフロントの構築、低収益事業の見極めや体側、コスト構造の改善を行うHitachi Smart Transformation Projectの推進などに取り組む」とした。
なお、南アフリカ火力プロジェクトについては、「プロジェクト完遂に向けて、三菱日立パワーシステムズと継続的に協力している。引き続く、三菱重工業と協議を実施する」と述べた。
2016年度の連結業績
一方、日立は2016年度(2016年4月~2017年3月)の連結業績を発表。売上収益は前年比8.7%減の9兆1622億円、営業利益は7.5%減の5873億円、税引前利益は9.3%減の4690億円、当期純利益は14.7%増の2312億円となった。
日立 代表執行役執行役専務兼CFOの西山光秋氏は、「売上高は事業再編影響および為替影響を除くと前年比3%増。調整後営業利益は同じく13%増になる。営業利益率6.4%。オーガニックには増収増益になる。すべての項目で、2月1日の前回見通しを上回る結果になっている」と総括した。
売上高では、為替影響でマイナス4900億円、空調事業や日立キャピタル、日立物流の再編でマイナス7900億円の影響があるという。調整後営業利益では、それぞれマイナス730億円、マイナス550億円の影響があった。
国内売上収益は前年比9%減の4兆7576億円、海外売上収益は8%減の4兆4045億円。海外売上比率は48%。海外売上収益は、為替の影響を除くと、前年同期比7%増。欧州では鉄道事業が好調で、売上高では前年比2%増の9726億円。為替影響を除くと18%増になるという。
事業部門別では、情報・通信システムの売上収益は、前年比6%減の1兆9828億円、調整後営業利益は116億円増の1529億円、EBITは326億円減の764億円となった。
「為替のマイナス影響や海外ATMの売り上げ減少があったが、通信ネットワークでの構造改革効果、社会インフラ関連プロジェクトの収益改善が増益につながっている」とした。
一方、社会・産業システムの売上収益は前年並の2兆3319億円、調整後営業利益が43億円増の770億円。電子装置・システムの売上高は前年4%増の1兆1703億円、調整後営業利益は145億円増の815億円。建設機械の売上高は1%減の7539億円、調整後営業利益は36億円増の263億円。高機能材料は売上高が前年比6%減の1兆4646億円、調整後営業利益は59億円減の1199億円。オートモーティブシステムの売上高は前年比1%減の9922億円、調整後営業利益は55億円減の5653億円。生活・エコシステムの売上高は前年比18%減の5573億円、調整後営業利益は13億円減の224億円。その他(物流・サービスなど)の売上高は前年比48%減の6537億円、調整後営業利益は前年同期から300億円減の224億円。金融サービスの売上高は前年比51%減の1792億円、調整後営業利益は238億円減の213億円となった。なお、金融サービスは、日立キャピタルを持分法適用会社としたため、第2四半期までの実績となっている。
2017年度の通期業績見通しは、売上収益が前年比1.2%減の9兆500億円、営業利益は7.3%増の6300億円、税引前利益は21.5%増の5700億円、当期純利益は29.7%増の3000億円とした。
「事業再編の影響、為替の影響を除くと、売上高では3.5%の増収、調整後営業利益では15%の増益になる。だが収益性はまだまだ高める必要がある」という。
なお、業績見通しには、日立国際電気の持分適用会社化による影響を織り込んでいる。
情報・通信システムは、売上収益は前年比3%増の2兆400億円、調整後営業利益は160億円増の1690億円。社会・産業システムの売上収益が前年比1%増の2兆3200億円、調整後営業利益が529億円増の1300億円。電子装置・システムの売上高は前年比16%増の9800億円、調整後営業利益は195億円減の620億円。建設機械の売上高は前年比7%減の8100億円、調整後営業利益は176億円増の440億円。高機能材料は売上高が前年比7%増の1兆5600億円、調整後営業利益は210億円増の1410億円。オートモーティブシステムの売上高は前年比1%増の1兆円、調整後営業利益は56億円増の620億円。生活・エコシステムの売上高は前年比1%減の5500億円、調整後営業利益は5億円増の230億円。その他事業の売上高は前年比14%減の5600億円、調整後営業利益は前年比54億円減の170億円を見込んでいる。