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オープンハイブリッドクラウドでIT業界を変える――、望月社長がレッドハットの事業戦略を説明
2019年4月25日 06:00
レッドハット株式会社は24日、新年度事業戦略説明会を開催。昨年度事業のふり返りと新年度の重点分野などを説明した。あわせて、各分野の顧客事例も紹介されている。
さらに、パートナー企業から富士通とNECが登場。富士通はOpenShiftのマネージドサービスとOpenShift向けのミドルウェアコンテナを、NECはAnsibleと連携するシステム構築自動化ツールとAnsibleサポートを、それぞれ発表した。
昨年度の柱のOpenStack、OpenShift、Ansibleともに好調
レッドハット 代表取締役社長の望月弘一氏は、まず昨年度である2019年度(2018年3月~2019年2月)の事業を振り返った。
業績は、グローバルで売上が前年比16%成長。中でもアプリケーション開発やミドルウェアの分野が32%伸びたほか、トレーニングやサービスの分野では、特に新興テクノロジーが大きく貢献して21%成長したという。「日本での業績は非公開だが、グローバルとほぼ同等の成長で、新興テクノロジーについてはグローバルを上回るものもある」と、望月氏は述べた。
2019年度の戦略は「オープンハイブリッドクラウド クラウドの選択に自由を」というものだった。
その3本の柱が、ハイブリッドクラウド基盤のRed Hat OpenStack Platform(OpenStack)と、クラウドネイティブアプリケーション基盤のRed Hat OpenShift Container Platform(OpenShift)、クラウドに対応した管理と自動化のRed Hat Ansible Automation(Ansible)だ。
この3つに加え、企業カルチャーの変革であるRed Hat Open Innovation Labsが重要なテーマとして位置づけられていた。
それぞれの結果を見ると、OpenStackは、日本では前年度比2.3倍となった。第5世代移動通信システム(5G)のNFVの分野で、複数のキャリアにおいて、PoCから採用に進んだという。また、クラウドパートナーの基盤やSIerの開発環境で採用された。
OpenShiftは、日本では前年度比3.2倍となった。福岡ファイナンシャルグループなどの金融機関やサービス産業で採用。Red Hatやパートナーによるマネージドサービスも開始が発表されている。
Ansibleは、日本では前年度比3.4倍となった。仮想化の自動管理やネットワーク管理での事例が公表されている。Ansible組み込みISVも登場している。
企業カルチャーの変革については、「金融、通信、エネルギーなど、規制が緩和されて自由競争が始まる業界で貢献ができた」と望月氏は話す。
また、「振り返ると、それぞれの分野で成果が出た1年であり、ワンステップ先に進めた1年だった」とまとめた。
なお、IBMによるRed Hat買収に関し、パートナーの反応について尋ねられた望月氏は、「IBMグループになっても独立性は保たれると繰り返し話している。ほとんどのパートナーには納得をいただいている」とコメントした。
新年度はオープンハイブリッドクラウドを拡大、業界別にワンチーム体制
新年度である2020年度(2019年3月~2020年2月)については、「オープンハイブリッドクラウドでIT業界を変える」がテーマとして掲げられた。昨年度でもテーマだったオープンハイブリッドクラウドについて、規模を拡大していくという。
ハイブリッドクラウド基盤では「一貫性、共通性の追求」が、クラウドネイティブアプリケーション開発では「スピードへの貢献」が、オートメーションと管理については「自動化2.0を促進」が、企業カルチャーについては「カルチャー・プロセス・テクノロジーの融合」がテーマとして掲げられた。
まず、ハイブリッドクラウド基盤について。OSレイヤ(Red Hat Enterprise Linux)では、SAP HANAやMicrosoft SQL Serverなどのワークロードを強化していくとともに、ISVアプリケーションのコンテナを支援するという。
そしてOpenStackでは、5GやNFVに継続的に取り組みつつ、よりスケールアウトするコンテナへの移行を進める。さらにコンテナのOpenShiftでは、パートナーと協力してOpenShiftのプラットフォームを提供するほか、クラウドだけではなくAI/機械学習に向けてベアメタルでもOpenShiftを推進すると述べた。
クラウドネイティブアプリケーション開発では、「SoE(ユーザーとつながるシステム)だけでなくSoR(基幹システム)も視野に入れて活動していく」と望月氏。そして、「コンテナプラットフォームと、コンテナにパッケージされたミドルウェア、コンテナ上のIDEとそろった環境を提供できるのはRed Hatだけ」と語った。
自動化2.0については、Ansibleでサイロ化を排除してサービス化によるワンオペレーションを促進する。さらに、Insightsによる予防保守も推進するとのこと。
そのほか、営業体制の強化についても望月氏は語った。「営業だけでなく、プリセールス、サービスデリバリー、サポート、マーケティングを業界別にワンチームにまとめる取り組みを、3月に始めた。これにより、お客さまとのエンゲージメントをより深める」という。
Open Innovation Labsについても人員を増やすほか、パートナーとの共同ブランドでも推進する。そのほか、ISVエコシステムとの拡大や、OSSコミュニティへの貢献の活性化もしているという。
ちなみに、コンテナによるハイブリッドクラウド&マルチクラウドについては、4月にGoogleが「Anthos」を正式リリースし、さまざまなパートナーも発表している。
これについて尋ねると、レッドハット株式会社の岡下浩明氏(製品統括・事業戦略担当本部長)は、「市場活性化として歓迎する。Red Hatが以前から取り組んでいるハイブリッドクラウドの正しさが、ある意味で証明された。ただし、われわれはすでにビジネスが始まっており、多くのパートナーと組み、大きな案件も動いている」とコメントした。
TOKAIホールディングス、オリンパス、ソフトバンクのコンテナ/自動化事例
各分野の顧客事例も3件紹介された。
電気やガス、CATV、建築などを総合的に手がけるTOKAIホールディングスでは、分散していたWebアプリケーションを統合して新しい開発と実行環境に移行するために、マネージドサービス型のOpenShift環境であるRed Hat OpenShift Dedicatedを採用した。コンテナ環境の管理ではなくアプリケーションに力を入れるために、運用をまかせるOpenShift Dedicatedを選んだという。結果として、開発リソースの準備が5日から1時間となり、生産性が上がった。
オリンパスは、機密性の高い動画データに対する機械学習の基盤として、OpenShiftと、NVIDIAのGPU対応コンテナ(NGC)を組み合わせて採用した。多種多様な機械学習モデルを複数人で検討するにあたり、複合環境を共有しつつセキュリティを確保するために採用を決めたという。
ソフトバンクは、ネットワークインフラの自動化とマニュアル作業の削減のため、Red Hat Ansible Towerを採用した。ロードバランサーのSSL証明書では、更新が年間800回以上あるのに対し、更新作業が属人化して1ドメインあたり30分~2時間かかっていたのを、20秒程度に短縮したという。
富士通:OpenShiftマネージドサービス開始とミドルウェアのOpenShift対応
富士通株式会社の金重憲治氏(プラットフォームソフトウェア事業本部 Linux開発統括部統括部長)は、OpenShiftにおけるレッドハットとの協業について発表した。同社はすでに、オンプレミスおよび富士通のIaaS上でのOpenShiftについてサポートを開始している。
今回発表になったのは、まずOpenShiftのマネージドサービスで、2019年7月リリース予定。その特徴として、高信頼性と高可用性、既存システムとの接続性、セキュリティの3つを金重氏は挙げた。
もう1つは、富士通のミドルウェアのOpenShift対応で、2019年度の第1四半期(4~6月)から順次リリースしていく。「Interstage(ビジネスアプリケーション基盤)、Systemwalker(統合運用管理)、Symfoware(RDBMS)という3大ミドルウェアをコンテナ化する。すべて検証完了しており、順次リリースしていく」(金森氏)。
NEC、Ansible連携のシステム構成自動化ツールとAnsibleサポート
日本電気株式会社(NEC)の吉田功一氏(サービス&プラットフォームSI事業部 プロジェクトマネージャー)は、システム構築自動化ツール「astroll IT Automation」をオープンソースソフトウェア(OSS)として公開した。
吉田氏は、「astrollは3年半ほど社内で開発され使われてきたツール。ただし、複数ベンダーの扱いなど、NECだけで開発しても“自動化1.5”ぐらいまでしか行けない。『構築だけでなく運用工程でも使いたい』という声もあり、OSS化して公開するとともに、Ansibleの連携を決めた」と語る。astrollで管理する構築コードをもとにAnsibleなどの自動化ツールを呼び出して実行するという。
これに合わせて、Red Hat Ansible Automationのサポートの提供を開始した。「NECの技術者が日本語で対応してお答えできる。おそらく国内初」と吉田氏は説明した。