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インフラのスタンダードは“オープンハイブリッドクラウド”へ――、Red Hat CTOが語るテクノロジービジョン

注目は“エッジコンピューティング”

 レッドハット株式会社は15日、同社の年次プライベートイベント「Red Hat Forum Tokyo 2019」に合わせて来日した、クリス・ライト(Chris Wright)CTOによる報道機関向け説明会を行った。

 Red Hatは現在、企業の“オープンハイブリッドクラウド”基盤をサポートするインフラベンダーとして、オペレーティングシステムの「Red Hat Enterprise Linux(RHEL)」とコンテナ基盤の「Red Hat OpenShift」を中心に数多くの製品/サービスを展開しているが、ライトCTOはその技術的戦略を統括する最高責任者である。

 クラウド市場全体がコンテナ/Kubernetesへとシフトしていく中にあって、Red Hatはどんなテクノロジービジョンを描いているのか、ライトCTOが語ったその方向性について紹介する。

米Red Hatのクリス・ライトCTO

エンタープライズはオープンハイブリッドクラウドへとシフトしている

 説明の冒頭でライトCTOは、Red Hatがクラウドビジネスにおいて注力するレイヤとして

・ハイブリッドクラウドインフラストラクチャ
・クラウドネイティブアプリケーションプラットフォーム
・クラウド管理およびオートメーション

の3つを挙げ、いずれのレイヤもコアとなっているのはRHELとOpenShift、つまりLinux OSとコンテナプラットフォームである点を強調。その上で「現在のエンタープライズはオープンハイブリッドクラウドへとシフトしており、3つのレイヤにおいて圧倒的なリーダーであるRed Hatには大きな優位性がある」と語る。

 ここでライトCTOは“オープンハイブリッドクラウド”を牽引するトレンドとして、「モダンアプリケーションのエコノミクス」と「分散型データセンターの変化」を挙げている。

 モダンアプリケーションに関しては、レガシー企業にとってもクラウドネイティブな企業にとっても「アプリケーションを誰がどこにデプロイするか」が大きな問題となっており、レガシーワークロードのクラウド移行、あるいはモダンアプリケーションの複雑性やスケールの管理といった課題に直面しているという。

 また分散型データセンターについては、デバイスの増加に伴うデータの肥大化とリアルタイム性へのニーズに伴って、エッジコンピューティング、特にエッジでマシンラーニング(推論)を実施するAIエッジコンピューティングへの注目度が高まっていることから、「データセンターの分散化は今後も急激に進み、これまでとは異なる非中央集中的なエッジネットワークが形成されるだろう」と指摘している。

 この2つの大きなトレンド――モダンアプリケーションとデータセンターの定義が大きく変わることにより、これまで“ハイブリッドクラウド”と呼ばれていたクラウドの分散化が急激に進行するというのが、ライトCTOの見解だ。

 そしてハイブリッドクラウドの分散化に伴い、世界はより“オープン”を指向するようになり、オープンハイブリッドクラウドがエンタープライズITのスタンダードになるとしている。

オープンハイブリッドクラウドにおけるRed Hatの強みは?

 ではオープンハイブリッドクラウドというスタンダートが普及するとして、Red Hatはそこでどんな強みを発揮できるのか。ライトCTOは「オープン」「ハイブリッド」「クラウド」という3つの単語に分けて、それぞれにおける同社の優位性を説明している。

 ひとつめのオープンについて。Red Hatにとってオープンとは同社が創業以来のコアビジネスと位置づけている“オープンソース”を指し、それに連鎖するアップストリームへの貢献、社内外のコミュニティと共創するオープンエコシステムも含まれる。「Red Hatを本当の意味でオープンソースによるサステナブルなオープンエコシステムを実現できる唯一の企業」(ライトCTO)。

 2つめのハイブリッドについて、ライトCTOは「ハイブリッドとはさまざまなフットプリントを含むこと」と表現し、ベアメタル、プライベートデータセンター、エッジ、パブリッククラウド、仮想化データセンターなど、アプリケーションの開発/デプロイ/運用といったフェーズでユーザーが望むあらゆる環境をカバーできる点を強調する。

 そして3つめのクラウドは、冒頭でライトCTOが挙げたRHELとRed Hat OpenShift、つまりLinux OSとコンテナこそが「あらゆるクラウドにおけるキープロパティ」(ライトCTO)だとしている。

 キープロパティとなる2つの技術を、オープンソースとコミュニティをベースにしながら自社開発していることが、「シンプルなオペレーションと高い開発効率性を同時に実現するプラットフォームの提供」につながっており、これこそがオープンハイブリッドクラウドにおける同社の最大の強みだとあらためて強調している。

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 Red Hatはこれまで、Java EEやコンテナ/Kubernetes、OpenStack、DevOpsといったトレンド、特にオープンソースをコアの技術とするトレンドに対し、業界の中でも先んじて買収や協業を繰り返してきた。最近でいえばKubernetesへの積極的な投資、AnsibleやCoreOSの買収などがそれに当たるだろう。

 ライトCTOのプレゼンの前に登壇したRed Hat コンサルティング グローバルプロフェッショナルサービス プラクティス/ソリューション/オファリング担当バイスプレジデント ニック・ホップマン(Nick Hopman)氏が、「Red Hat is STILL Red Hat(Red HatはいまもRed Hatである)」と強調していたように、Red Hat自身のIBMによる買収を経ても、その戦略は当面変わることはなさそうだ。

ホップマン氏は、「Red Hatはこれまでも、これからもRed Hat」とIBMの買収による開発への影響がないことを強調

 トレンドの半歩先に投資する――この戦略をRed Hatがいまも続けているとしたら、同社がいま注目している技術のひとつは間違いなくエッジコンピューティングだろう。プレゼンの最後、ライトCTOは最近の同社の発表のひとつとしてNVIDIAとの提携を紹介しており、両社が連携してソフトウェアディファインドな5Gワイヤレスインフラの提供を開始したことを挙げている。

 この基盤は、NVIDIA EGXプラットフォームとRed Hat OpenShiftがベースとなっており、NVIDIAのGPUをエッジで展開しやすい環境を提供、AIエッジコンピューティングを推進するプラットフォームとして期待される。

 ライトCTOの説明にあったとおり、ハイブリッドクラウドの分散化はエッジコンピューティングによってさらに加速されると見られており、インフラベンダとしてRed Hatがここにさらなる技術的投資を行っていくのは間違いない。

 ライトCTOは最後、「オープンな未来を築く」という言葉でプレゼンを締めくくったが、その未来におけるエッジコンピューティングの存在感は徐々に大きくなっているようだ。

10月に発表されたNVIDIAとの提携はエッジコンピューティングへのRed Hatのフォーカスを象徴するものとして注目される