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“アナリティクスの民主化”で顧客を全方位から支援する――、SAS日本法人、2019年度ビジネス戦略を発表

 SAS Institute Japanは5日、同社代表取締役社長 堀田徹哉氏による2019年度のビジネス戦略の発表を行った。

 2018年度は3年連続で2けた成長を遂げ、過去最高の売上を更新。「多くのお客さまのデジタルトランスフォーメーション(DX)に貢献できたと実感している」と、堀田社長は振り返っているが、2019年度も引き続きアナリティクスによるDXの支援を拡大し、「コアビジネス領域の成長」「カスタマーリレーションの強化」「将来へ準備と社会への貢献」の3点を戦略の柱に掲げ、ビジネスを展開していくとしている。

代表取締役社長 堀田徹哉氏

 2017年から国内でも提供が開始されたAIエンジン「SAS Viya」が、前年比700%という大幅な成長を遂げたこともあり、2018年度も増収増益を達成したSASだが、堀田社長はその理由として、金融やライフサイエンス、製造、流通など同社が得意とする業界においてAIやアナリティクスを活用したDXが劇的に進んだことを挙げている。

3年連続の2桁成長を遂げ、グローバルにおいても著しい伸びを見せた2018年度の業績を2019年度はさらに拡大していく

 例えば金融業界においては現在、アンチマネーロンダリング(AML)における国際協調を推進する政府間機関「FATF(Financial Action Task Force: 金融活動作業部会)」の第4次対日相互審査に向け、メガバンク、地銀、証券会社などがAMLソリューションの整備を急速に迫られている状況にある。

 SASはAMLに関する大きな実績をグローバルで誇るが、FATFの対日審査に迫られている国内金融機関に対してもAMLドミナントを展開しており、2019年はさらにフォーカスしていくとしている。

 また、金融やライフサイエンスといった業界は、AIによる最適化/自動化でFATFや品質管理レポートといった規制業務の効率化、さらには不正の防止を図りやすいという側面があるが、それとは対象的に、FinTechや臨床開発など新たなイノベーションを生み出す原動力として、AIやアナリティクスを活用するシーンも増えている。

 特に2018年に発表された塩野義製薬のViya導入事例に見られるような、イノベーションの基盤としてSAS製品を導入するケースが増えており、堀田社長はこれを「スキルレベルやプログラミング言語にかかわらず、誰もがアナリティクスを活用できる環境を提供することで“アナリティクスの民主化”を実現する」と表現している。

 既存業務や規制対応業務の効率化とイノベーションの創出――あらゆる業界でこの両面からアナリティクス基盤を整備し、DXに貢献できたことが2018年度の成長要因だと堀田社長は強調する。

Viya――アナリティクスの民主化を実現するプラットフォーム

 冒頭でも挙げているが、堀田社長は2019年度の戦略の柱として「コアビジネス領域の成長」「カスタマーリレーションの強化」「将来への準備と社会への貢献」をうたっている。

コアビジネス領域の成長

「インダストリソリューションの展開」と「Viyaビジネスの推進」をコアとして掲げる。主要なインダストリは金融、製薬(ライフサイエンス)、製造、流通/サービス、コミュニケーション(通信)に加え、2018年度から注力する中堅市場および西日本エリアを含む。

Viyaについては、さまざまな開発環境をサポートするオープン性、PoCから本番まで一貫したアナリティクスライフサイクルのサポート、“ホワイトボックス”AIにもとづいた説明責任を担保できるガバナンスというViyaの特性を生かしたイノベーションの支援を継続する。

SASが2019年度のコアビジネスとする分野。それぞれの業界で規制業務の効率化や不正の防止に注力しながらも、イノベーションプラットフォームとしての役割も果たすことを狙う
2019年度も戦略の中心となるプラットフォームはAIエンジンのSAS Viya。「アナリティクスの民主化」を実現するAIとして、より広いターゲット層への浸透をはかる
カスタマーリレーションの強化

プロダクトセールスとコンサルティングの連携、パートナーアライアンスの強化、顧客どうしの連携やカスタマーセントリックな活動などを推進する。

将来へ準備と社会への貢献

データアナリティクスで社会に貢献する「Data for Good」の活動を2018年に引き続き推進、子供向けデータサイエンス講座や大学との共同講義やスキル認定制度、セミナーの実施、AI×医療における画像診断研究の支援などを行っていく。

SASが取り組む社会貢献のひとつがAI×医療のコラボレーション。その一環として東北大学と共同で、膨大な画像から乳がんの症例を見つけるプロジェクトを展開中

 この中でも特に注目すべきはやはり2017年の登場以来、単なるAIエンジンの範囲を超え、SAS自身のビジネスの原動力となっているViyaの存在だろう。堀田社長は会見で何度か「アナリティクスの民主化」という言葉を使っていたが、その意味するところは“誰にでも使えるアナリティクス”だとしている。

 SASといえば今でもSAS言語によるアナリティクスのイメージが強いが、Viyaの登場以来、JavaやPython、Rなど一般的な開発言語、さらにはTensorFlowなど人気の高いフレームワークが、既存のSAS環境と容易にコラボレーションできる点を強調する機会が増えている。

 また、Viyaは一般的なAIエンジンにありがちな“ブラックボックス”ではなく、「なぜこういう分析結果が出るのか、その理由をきちんと説明できる透明性を備えた“ホワイトボックス”なプラットフォーム」(堀田社長)であることも、統計学をもとにしたアナリティクスを40年以上に渡って展開してきたSASならではの強みだといえる。

 特に日本企業の場合、規制業界を中心にブラックボックスなAIでは業務に使えないとするところが多いが、Viyaであればそうした業界のニーズに対しても一貫した、統合されたAIプラットフォームとして応えられるとしている。

 「日本企業のAI導入でありがちな“PoC疲れ”も、一貫したアナリティクスライフサイクルとガバナンスでsサポートするViyaであれば、顧客の課題に全方位からサポートすることができる」(堀田社長)。

 SASがコアビジネス領域と位置づける金融やライフサイエンスは、長いこと“不正の歴史”、さらには“規制の歴史”を戦い続けてきた業界でもある。これらの業界は現在、AIを含む最新テクノロジの力で大きな変化を迎えている。

 そうした中、AIプラットフォームとしてオープン性や透明性を掲げるViyaとその搭載製品、そしてSASというテクノロジベンダがこれらの業界のトランスフォーメーションをどう支援し、新たな時代のスタンダードを作り上げることに貢献できるのか、変化のトリガとしての役割が2019年度はさらに問われることになる。