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業務部門が注目する「RPA」は、働き方改革実現の切り札となるか?

~UiPath Forward OSAKA 2018レポート

 働き方改革の一環として、業務の一部をソフトウェアのロボットで実行する「RPA(Robotic Process Automation)」が注目されている。

 RPAプラットフォームとして知られるソフトウェア製品はいくつかあるが、その中でもトップクラスのシェアを持つ「UiPath」のユーザーイベント「UiPathForward OSAKA」が6月7日に大阪で開催された。

 1月には東京でも「UiPathForward Japan 2018」を開催しているが、関西圏での開催となった今回のイベントでは、東京のイベントでは紹介されなかった村田製作所やトヨタ自動車のほか、多数の業務自動化を推進している三井住友銀行、RPAによって労働時間短縮を目指す電通、といった企業のユーザー事例も紹介された。

 開場前には参加者が長蛇の列となり、開催時刻が遅れる程の盛況ぶり。UiPathの注目度の高さがうかがえた。

 本稿では講演の中から、UiPathの日本法人で代表取締役CEOを務める長谷川康一氏のセッションを中心に、レポートをお届けする。

UiPath株式会社 代表取締役 CEO 長谷川康一氏

日本を最優先市場としてコミット

 長谷川氏はまず日本市場について、「UiPathは、日本を最優先市場としてコミットしている。日本での実績がグローバルでの成功につながる」と話す。

 その理由として同氏は「2017年の調査によれば、日本人1人あたりの生産性はOECD加盟35カ国中21位で、先進7カ国の中では最下位だった。この問題を解決するには、ホワイトカラーの生産性を向上することが重要だ」と説明する。

UiPathは日本を最優先市場としてコミット

 そもそも労働生産性とは、労働による成果を、その成果を創出するために要した労働量(労働時間)で割って計算する指標だ。つまり「労働者が時間あたりどれだけの成果を生み出せるか」であり、労働者のスキルアップ、業務効率化、経営効率の改善などで労働生産性は向上するといわれている。UiPathをはじめとするRPAは、業務効率化に大きく貢献することが期待されるしくみである。

 長谷川氏は、アーサー・アンダーセン(現アクセンチュア)、ゴールドマン・サックス、ドイツ銀行、バークレイズ銀行などでCIOやCOOとして活躍した経歴を持つ。

 そんな長谷川氏が業務を通してUiPathと出会ったのは2016年。「このテクノロジーは世界を変えるかもしれない」と感じた長谷川氏は、翌年の2017年2月には金融業界での華々しい経歴を投げうって、ベンチャー企業であるUiPathの日本法人代表に就任している。

 これまで、CIOとしてさまざまな組織でITシステムを導入してきた長谷川氏は、「新しいITシステムの導入時には常にジレンマを感じていた。ユーザーの利便性を高めるITシステムがなかなか作れない。新システム導入後、何カ月も以前のシステムと並行運用しなければならないこともあった。結局、システム開発の最後の1マイルはユーザーの利便性を高める現場業務の自動化であり、長年の課題でもあった」と述べ、RPAによる業務の自動化はユーザーの利便性を高め、生産性が向上させる最後の1マイルであることをアピールした。

 さらに、日本の社会問題となっている少子高齢化による労働力不足の現状について長谷川氏は、「日本において生産性の向上は不可欠。官民挙げての働き方改革が必要で、デジタルトランスフォーメーションに向けたホワイトカラーの業務を自動化する必要がある」と述べた。また、長谷川氏はこの問題を日本だけの問題だとはとらえていない。「日本は課題先進国。日本で起きることは、いずれほかの先進国でも起きる」と述べた。

日本は課題先進国。日本で起きることは、いずれほかの先進国でも起きる

日本仕様をグローバル製品へ

 そうした背景から、日本のRPA市場について長谷川氏は、「2022年までに日本のRPA市場は、RPAソフトウェア売上だけで1000億円規模に成長する。RPA市場全体ではその5倍程度になる」という予測を示した。

 さらに「RPAは今後間違いなく、SAPなどのERPや、Microsoft Officeに並ぶ経営基盤になっていく。RPAはAIとの親和性が高いため、AI技術の発展やAI市場の発展を追い風にRPA市場も成長していく」と述べ、これらの予測に基づいた成長戦略を展開していくという。

 すでに日本のRPA市場の拡大は始まっている。日本のUiPathの顧客数は2017年6月時点では6社にすぎなかったが、2018年5月には300社となり、12カ月で約50倍の成長となっている。

 一方グローバルでは、2016年12月に98社、2018年5月には1000社となっており、こちらも18カ月で約10倍と堅調に推移しているが、日本市場は爆発的な拡大を続けている。

2022年までに日本のRPAソフトウェア市場は1000億円規模にまで成長するという
日本のUiPathの顧客数は12カ月で約50倍に増加

 これまでRPAによる業務の自動化は、「簡単」な作業を「大量」に「繰り返し」実行するオフショア型の仕様で実現されてきた。しかし、顧客を優先し、品質へのこだわりが強い日本企業では、「複雑」な作業を「少量」で「多様性」を持って自動化できるRPAが求められるという。

 開発サイクルについて長谷川氏は、「日本のお客さまや開発パートナーから寄せられるニーズを的確に把握してグローバルの開発チームにフィードバックし、グローバルな製品としてリリースする。日本仕様がグローバル製品となるとことで、世界競争でも優位に立てる」と説明した。

世界競争で優位に立つため、日本仕様をグローバル製品としてリリース

 UiPathは日本市場における成長戦略として、「日本仕様のグローバル製品への取り組み」「日本語サポートの充実」「自動化サポートノウハウの充実」「マーケットプレイス」「パートナー協業体制の確立」の5つを重要投資ポイントとして位置付けている。

 具体的な施策として挙げられたのは、UIの日本語化、日本語サポート・トレーニングプログラムの充実、先進事例紹介やツールの提供など自動化サポートのノウハウ提供、パートナー企業が提供する共通部品を扱うマーケットプレイスの展開、高い資質を持った多様なパートナーの協業体制の確立などだ。

 今回のイベントも、これらの施策のひとつといえるだろう。

エンタープライズグレードのRPAプラットフォームを実現する

 米国UiPath チーフロボティクス オフィサー Boris Krumrey氏は、UiPathがデジタルワークフォースを実現するエンタープライズRPAプラットフォームとなるため、今後どのように進化していくのか製品ロードマップなどを紹介した。

米国UiPath チーフロボティクス オフィサー Boris Krumrey氏

 Krumrey氏は、デジタルワークフォース実現を実現するポイントとして、「ケーパビリティ」「アジリティ」「スケーラビリティ」の3つを挙げた。ケーパビリティは、AIのテクノロジーなどを利用することで、より人間に近い複雑な作業の自動化を実現すること。アジリティは、誰でも簡単に作業の自動化を実現できるようにすること。スケーラビリティは、規模や用途に応じてセキュリティやコンプライアンスコントロールが実現できることであるという。

デジタルワークフォース実現を実現するポイントは「ケーパビリティ」「アジリティ」「スケーラビリティ」

 UiPathは、クラウドやデスクトップ環境などで小規模に始めることが可能なRPAプラットフォームだが、デプロイオプションによって、異なる設定で1万台以上のロボットを運用するといった大規模な展開を可能にしている。

 また、リソース単位でのプロセスに対する高度なアクセスコントロール、暗号化、秘匿情報管理、監査証跡の実現などセキュリティ機能も充実している。さらに、人とロボットのシームレスなオペレーションを実現するオーケストレーション機能など、エンタープライズグレードなRPAプラットフォームとしての機能を提供している。

 今後も同時接続ユーザー向けライセンス、セキュリティ機能の強化、AIパスの充実、使いやすさの向上、そしてエコシステムの拡充を目指すという。

 UiPathの製品は3~4カ月のライフサイクルでリリースされている。2018年1月にはメジャーバージョンがリリースされ、その後6月にマイナーバージョンがリリースされている。

 また、第3四半期である9月には、2回目のマイナーバージョンとしてマーケットプレイス、UIのローカライズ(Studio、Orchestrator、Robotの各ツールを日本語、ドイツ語、フランス語化)、生産性向上に向けた機能拡張(プロジェクトごとの依存関係、再利用可能なコンポーネント、ジョブの入力/出力引数、CitrixとRDのネイティブサポート、マウス/キーボードの無効化)が行われる予定となっている。

 そして、2019年第1四半期にはメジャーバージョンアップが行われる予定となっており、「スマートプロセスレコーダー」「AIサービスシステム」「機械学習による例外処理」といった機能が実現するという。

今後のリリーススケジュール

 最後に、再度登壇した長谷川氏は、「2017年に3人でスタートしたUiPathの日本法人は、今では150人を超えるまでに成長し、関西にも拠点を置くことができるようになった」と述べ、UiPathの多くの社員を壇上に呼んだ。さらに「まだまだ人手は足りていないので、一緒にUiPathを盛り上げてくれるスタッフを募集しているので、興味がありそうな人がいたら紹介してほしい」と、参加者に向けてアピールした。