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「パナソニックを活性化し、50年100年続く会社にするために」――、マイクロソフトの樋口泰行会長が“もうひとがんばり”する理由

 3月31日付けで日本マイクロソフトの会長を退任し、4月1日付でパナソニック入りする樋口泰行会長が、その思いなどを初めて明らかにした。

 樋口氏は、「2018年度に100周年を迎えるパナソニックを活性化し、さらに50年、100年続く会社にするために役に立ちたいと考えている」などと述べた。

樋口泰行氏

新卒後、12年を過ごした“古巣”へ

 樋口氏は、1980年に大阪大学工学部を卒業後、松下電器産業(現パナソニック)に入社して社会人生活をスタート。12年間を同社で過ごした。

 松下電器時代には、ハーバード大学に社内留学。帰国後にパナソニックを退社してボストン・コンサルティングに入社し、その後、アップルコンピュータ、コンパックコンピュータを経て、コンパックと日本ヒューレット・パッカード(日本HP)の合併後、2003年に日本HPの代表取締役社長に就任した。

 2005年には、小売大手のダイエーの社長に就任。2007年にはマイクロソフト(現:日本マイクロソフト)に入社し、2008年に取締役代表執行役社長に就任している。7年間にわたり社長を務め、日本マイクロソフトを世界一の子会社にまで成長させた。2015年には代表執行役会長に、2016年には代表権が外れて執行役員会長に就任していた。

 「私自身、日本マイクロソフトに入り、ちょうど10年目の節目になった。また、平野(拓也氏)に社長を引き継いで、1年と3四半期を経過する。そろそろゆっくりしようかとも思っていたが、縁があって、パナソニックに行くことになった」と語る。

 樋口氏は、4月1日付けで、専務役員に就任。同日に、AVCネットワークス社から社名変更する社内カンパニー「コネクテッドソリューションズ社」の社長に就任する予定だ。さらに、6月29日付で代表権を持つ取締役に就任する。

 「パナソニックには、大学を卒業して、新入社員として入ったときの社員番号にしてほしいと要望している」とジョークを飛ばす。もちろん社員番号は新たなものになりそうだ。

経営幹部として異例の復帰

 25年ぶりとなるパナソニックへの復帰。しかも経営幹部への登用。これは同社にとっても異例のことだ。

 「私がパナソニックで働いていた当時の社内の雰囲気は、一度、パナソニックを出て行ったものは裏切り者であり、二度と敷居を跨がせないというものだった。それは、つい最近まで続いていた」と、樋口氏自身も語る。

 実際、樋口氏のパナソニック入りが正式発表される前に、同氏は、パナソニックで講演する機会があり、そのときのエピソードを次のように語る。

 「パナソニック側から、『ずいぶん前から講演をお願いしようと思っていたが、なかなか実現できずにいた』という話を聞いた。なにか問題があったのかと思い尋ねると、『一度、パナソニックを辞めた人に講演をお願いしても、上から承認がおりない』という理由からだったという」

 「そうした会社に入ることになって、自分でも驚いている」と笑う。

 樋口氏は、「日本の企業にも社外取締役が入るようになり、客感的な判断を行うようになったことで、企業の文化も変化しはじめている。変化しはじめているパナソニックにおいて、私がひとつのモデルになればと思い、もうひとがんばりすることにした」とする。

変化するパナソニックの文化

 パナソニックの文化が変わろうとしているのは確かだ。

 それは、樋口氏が指摘するように、社外取締役の登用や、樋口氏のような外部からの人材登用。そして、積極的なM&Aなどによってもたらされているともいえる。

 実際パナソニックでは、2018年度までに1兆円の戦略投資予算を活用したM&Aに乗り出しており、その戦略実行にあわせて、野村証券やメリルリンチ日本証券で民生電機分野アナリストとして活躍した片山栄一氏を役員に登用した。

 また、戦略投資によって買収した海外企業においても、現地人幹部をそのまま登用して事業の指揮を担わせ、本社機能は従来通り現地に置くといったように、これまでのパナソニックには見られない動きが出ている。

 昨年買収した冷凍・冷蔵機事業のハスマンは、その象徴的な例で、買収後も社名や体制をそのまま維持。本社機能も米国に置き、今後、パナソニックが持つ商材と組み合わせることで、食品・流通分野におけるグローバルでの事業拡大に取り組むことになる。

 パナソニックの津賀一宏社長は、M&Aに対する基本的な考え方について次のように語る。

 「パナソニックは長年、事業部制を敷いており、事業軸が強い会社。その一方で金太郎飴とも言われることもある。だが、我々のお役立ちの対象が、日本からグローバル、家電からB2Bへと広がるなかで、多様な組織能力を持つ必要がある」とし、「そのベースは人である。海外でのM&Aを通じて、違う経験を持った多様な人たちに入ってもらうことで、入り交じり、学びあうことで成長できる。会社を変えていくためには不可欠なものがM&Aである」。

創業者の経営理念を受け継ぎつつ――

 だが、それらのM&Aや人材登用の成否を占うベースは、創業者である松下幸之助氏が打ち出した経営理念などを共有できるかどうかにあるとも指摘する。

 津賀社長は、「パナソニックは、事業部ごとに向き合う顧客が違い、歴史が違う。そのなかで共通しているのが、経営理念や企業理念。M&Aで入ってくる会社にとっても、経営理念や企業理念は共通化しなくてはならない。創業者は、『素直な心』や『衆知を集める経営』、『社会の公器』といったパナソニックの社員に刷り込まれている価値観を共有できる会社でなくては、M&Aは成功しない、あるいは成功しても意味がないと考えていた。それは私も同じである。いまの時代は、それを『A Better Life,A Better World』の実現や、『Cross Value Innovation』という表現を用いて、お客さまへのお役立ちを大きくていくことを目指している。M&Aをした会社には、まず創業者に触れるところから始まってほしい」と述べている。

 新入社員時代から12年間にわたってパナソニックで過ごした樋口氏は、松下幸之助氏が打ち出した経営理念や企業理念は、身についた基本動作のひとつだといえるだろう。その点では、社内外の良いところ、悪いところを知る人材としては最適だといえる。

 樋口氏は、「企業が大きくなり、歴史が長くなると、進化が鈍化することになる。これはパナソニックだけでなく、多くの企業に共通したことである。パナソニックを、もう一度活性化させ、2018年度に100周年を迎えるパナソニックを、さらに50年、100年続く会社にするためにお役に立ちたいと考えている」と述べた。

 パナソニックをどう活性化することができるのか。復帰する新天地での活躍が注目される。