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今度は海でHoloLens――、船舶用制御機器などの開発手がけるJRCSがマイクロソフトと連携
2018年4月6日 17:36
JRCS株式会社は6日、海運・海洋産業のデジタルトランスフォーメーション実現に向け日本マイクロソフトと連携すると発表した。マイクロソフトのMR(Mixed Reality)ソリューションやAIを活用して、リモートトレーニング、リモートメンテナンス、船舶の自動運転などで協業を行うという。
JRCSは山口県下関市に本社・工場を置き、船舶用配電機器、制御機器などの設計・製造・販売・アフターサービスといった事業を展開している。
今回マイクロソフトと連携する背景について、JRCS 代表取締役社長の近藤髙一郎氏は、「海運・海洋産業は厳しい環境などで若者から敬遠され、外国人乗組員が増加する傾向がある。業界内部からの変革が必要だと思っていたところ、2018年1月、シアトルのMicrosoft本社を訪問し、革新が起こっていることを身をもって体験して、良い意味でショックを受けた。グローバルが標準である海運・海洋業界で、世界標準となるデジタル製品を開発し、新しい価値を市場に提供する企業になることを目指したい」と話した。
日本マイクロソフト 代表取締役社長の平野拓也氏は、「MR製品は、建築・不動産、製造業、医療など、さまざまな分野でデジタルトランスフォーメーションを実現するものとして活用が進んでいる。今回、日本のライフラインを支える海洋分野での連携となるが、MR分野で最初に連携の発表をしたのは、航空業界のJAL。その後、三菱ふそうと陸上のトラックやバス分野で提携しており、今回はJRCSと海洋分野で連携することで、陸・海・空に対応できたことになる」と、今回の提携の意義をアピールした。
新たに3つの事業をINFINITYブランドで提供へ
JRCSは、船舶用の計装システム、動力システム、システム換装、定期典型整備といった船舶関連事業をはじめ、機械向け聴音装置の開発販売などを行うイノベーション事業も手がけている。
今回は、主力業務となる船舶分野の事業強化で、
1)効果的な人材育成につながる遠隔トレーニングソリューションMR Trainingを含む「リモートトレーニング INFINITY Training」
2)海洋事業者の負担を軽減する遠隔メンテナンスソリューションSafety Remote Maintenance「リモートメンテナンス INFINITY Assist」
3)自動航行時代を見据えた陸上での操船ソリューションAutonomous Ship Control「オートノーマス INFINITY Command」
の3事業を手がけ、INFINITYブランドで提供していく。
また、そのために、4月1日付で「JRSC Digital Innovation LAB」を設立した。
1)のトレーニングは、JRCSが提供してきたトレーニングを、遠隔でも受けられるようにするものだ。同社のトレーニングは、国際条約であるSTCW条約に準拠しており、日本海事協会が認証したトレーニングであることから、海外からの参加者も多い。しかし、JRCSの本社とトレーニングセンターがある山口県下関市東大和町は、「電車が1時間に1本という立地にあるため、トレーニングに参加しにくいという声があがっていた」(近藤社長)という弱点を抱えている。
今回は、遠隔地からでもトレーニングに参加することができるソリューションを開発することで、地理的な弱点をカバーすることが可能となる。
「現在、ソリューションを開発中で、2019年3月をめどにサービス開始を目指す。将来的には当社のトレーニングだけでなく、海運トレーニングの標準プラットフォームとして利用されるものを目指し、当社以外の企業のトレーニングでも利用できるようにしていく」(JRCS Digital Innovation LAB 室長の空篤司氏)。
2)のリモートメンテナンスは、船内業務に従事する船員だけでなく、船用設備、機器メーカーなど海運・海洋産業従事者の業務支援を行っていくことを目指したもの。デジタルプロアクティブメンテナンスを実現することで、船内設備・機器のライフサイクル向上、メンテナンス従事者の作業負担軽減を目的としている。
ロードマップとしては、2019年内に自社製品のリモートメンテナンスシステムを作成し、2020年に正式リリースすることを目指している。「トレーニング同様、自社だけでなく他社製品でも利用できる共通プラットフォームとすることを目指していく」(空氏)。
3)の自動航行のための陸上での操船ソリューションは、「中期計画として取り組むもの。自動車同様、船舶でも自動運転の研究がスタートしているが、当社でも取り組みを進める」(近藤社長)と、ほかの2つよりも長期スパンで取り組む。
陸上から操船によって、「船舶航行における省力化、コスト削減につながる。その時には、現行の船長が“デジタルキャプテン”と呼ばれるようになるのではないか。2030年ごろまでに最初の製品をリリースし、2035年には完全無人化による操船ソリューション実現を目指していく」(空氏)。
JRCSはこうした取り組みに対して、Microsoftがグローバルで提供する開発プログラムの提供を受け、エンジニアがシアトルに渡航して検証作業などに取り組んでいる。
さらに、デジタルトランスフォーメーション(DX)を実現するために、デジタルアドバイザーが先導し、デジタルカルチャーを社内に定着させるための支援、デジタルプラットフォームの構築、デジタルアプローチを用いたコンサルティング、といった各サービスを提供する。
「これまでは、DXを実施する対象としてオフィスワーカーが多かったが、今回の取り組みは現場の変革。Microsoft Translatorや自動操船にAI要素を取り込み、国境、距離、空間を超えて一緒に仕事をしていくためのお手伝いをしていきたい。この取り組みは、ほかの産業でも活用できるノウハウがいろいろ出てくるのではないか」(日本マイクロソフトの平野社長)。