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統合は偶然ではなく必然――、デル平手社長とEMCジャパン大塚社長、日本における今後の方向性を説明

 2016年9月7日に、米Dellによる米EMCの買収が完了し、米Dell Technologiesがスタートして以降、デル株式会社の平手智行社長およびEMCジャパン株式会社の大塚俊彦社長の2人の日本法人社長が、日本における今後の方向性について初めて言及した。

 Dell Technologiesが10月18日(現地時間)から、米国オースティンで開催している「Dell EMC WORLD 2016」の会場で、2人揃って取材に応じたもので、日本における組織のあり方については、「今後検討していくことになる」と語る一方で、両社長は異口同音に「統合メリットはあっても、課題はまったく見あたらない」と断言。

 「パートナー、顧客からの期待値が高まっている。レガシーデル、レガシーEMCではなく、新たなカンパニーとしてのDell Technologiesがスタートすることになる。重複部分が少なく、1+1以上の成果が生まれる」(デルの平手智行社長)などとした。

握手するデルの平手智行社長(左)とEMCジャパンの大塚俊彦社長。社内ではひんぱんに握手をしているというが、公の場ではこれが初めてだという

偶然ではなく必然

 平手社長は、まず、デルとEMCの統合が「偶然ではなく、必然であった」と切り出した。

 「Dellは1984年に、マイケル・デルが1000ドルの資金で、テキサス大学の一室でスタートした会社である。ただ、これはPC事業を始めたものではない。結果として、事業の形はPCであったが、本質的な部分は別のところにある。日に日に部品の技術が進化し、価格が下落するなかで、IBMなどは、長期の製品サイクルで、高い価格でPCを販売していた。Dellは、顧客の利益のために、一番性能が高いPCを、一番安価な部品を使って作り上げ、求める仕様で組み上げるというビジネスを開始した。これはイノベーションである。これがマイケル・デルのDNAである。その後、デルモデルと呼ばれるプロセスイノベーションで、Dellは成長してきた」との沿革に言及する。

 その上で、「日本法人は、Dellの創業から10年目に設立。デルモデルが脂に乗ったタイミングでスタートしている。そのため、日本ではPCに注力したビジネスモデルで地盤を作ってきた経緯があるが、いまでは、サーバー、ストレージ、ソフトウェアの取り扱いを開始。その潮流のなかで、今回、EMCとの統合を図った。日本においても、新たなビジネス機会が広がり、それを価値として認めてもらうことができるだろう」などと続けた。

デルの平手智行社長

 また、買収戦略の基本的な考え方にも触れ、「Dellは儲かるものを虫食いで買収していくのではなく、顧客の視点から、エンド・トゥ・エンドでソリューションを提供する上で、足りないものを買収してきた。クラウドからエッジコンピューティング、クライアント、ハイパーコンバージド、ソフトウェアデファインドなど、顧客がデジタル化する上で必要なものをすべて提供できる。これまでに180億ドル以上のM&A投資を行い、研究開発投資にも毎年45億ドルを投資している。これは2013年に非上場化を決定し、その後不要になった配当などの資金調達コストを、顧客価値に振り向けた成果によるものである。投資の100%が顧客に向けたものであり、毎年の積み重ねが続けば、競合他社とは大きな差が生まれることになる」とした。

180億ドルを投資して変革を遂げてきた
株式の非公開化で顧客価値に100%のエネルギーを振り向けている

 新たにスタートしたDell Technologiesは、売上高が740億ドルを誇り、社員数は14万人。約6万人のカスタマーサービスおよびサポートスタッフを擁し、全世界180カ国で展開。フォーチュン500社の98%が顧客だという。

【訂正】

  • 初出時、売上高を760億ドルとしておりましたが、発表資料が誤っていると両社より訂正がありました。正しくは740億ドルとなります。

 DELL、DELL EMC、RSA、Pivotal、SecureWorks、Virtustream、VMwareの7つのブランド持ち、「Dell Technologiesは、企業がデジタルの未来を築き上げ、IT環境を変革し、最も重要な資産である情報を守るために不可欠なインフラを提供している複数の企業が融合した、他に類を見ない卓越したファミリー企業である」(平手社長)と定義。

 「フェデレーションではなく、ファミリーという言い方をしている点がポイントである。Pivotal、SecureWorks、VMwareは、独立性を維持しながら、戦略的な位置づけでファミリーとしてのシナジーを求める。オープン性も維持していく。また、RSAとVirtustreamは事業部のなかに組み込まれながら、ブランドはそのまま生かしていくことになる。そして、DELL EMCは、どちらかに寄せて統合するということではなく、両社の強みを生かして、完全に一体化していくことになる」と語った。

7つのブランドを持つ
世界最大の非上場ハイテク企業という

 社内では、これまでの体制を「レガシーデル」、「レガシーEMC」と表現。Dell Technologiesによる新たな体制を「ニューコ(ニューカンパニー)」と呼んでいるという。

 「それぞれの企業が持ついままでのやり方ではなく、それぞれの企業の強みを統合して、新たな会社を作っていくというのが基本的な姿勢。進化を続けていく会社の象徴であるとともに、2つの会社のソリューションを組み合わせることで、日本の企業の競争力を高めることができる」とした。

トラディショナルITとクラウドネイティブITの双方から顧客のお手伝いを

 一方、EMCジャパンの大塚俊彦社長は、「ITインフラストラクチャーのエッセンシャルカンパニーを目指すDell Technologiesに対する期待の大きさを感じている。統合の結果、数多くのナンバーワンシェア製品を有する企業になった。これまでの15年間の中心であったSORと、今後15年の中心となる、SOE/SOIの2つの領域へのアプローチを両立するとともに、トラディショナルITとクラウドネイティブITの双方から、顧客のお手伝いをしていくことになる」とする。

EMCジャパンの大塚俊彦社長

 また、「今回のDell EMC Worldでは、マイケル・デルが、The Trusted Advisor of Essential Infrastructure for The Next Industry Revolutionのメッセージを打ち出し、次の産業革命において、必要不可欠なインフラストラクチャーを提供する、最も信頼されるパートナーになることを打ち出した。これを実現するために、デジタル時代における顧客の新たなビジネスモデル構築に貢献する『デジタルトランスフォーメーション』、既存システムの近代化により、コスト競争力を高める『ITトランスフォーメーション』、モビリティ時代の新たな働き方へと変革することを支援する『ワークフォーストランスフォーメーション』、そして、Internet of Everythingの時代における『セキュリティトランスフォーメーション』の4つに取り組んでいくことになる」と述べた。

4つの変革を支援する

 そして、今回のDell EMC Worldにおいて、コンバージドプラットフォームにPower Edgeを採用したVxRail 4.0 with PowerEdgeおよびVxRack 4.0 with PowerEdgeを発表。さらに、Dell EMC Elastic Cloud Storage 3.0やDell EMC Data Domain 6.0によりPower Edgeをサポート。両社製品の融合を図る一方で、「オールフラッシュの年(Year of All Flash!)」の戦略に基づいて、Dell EMC Isilon All FlashおよびEMC VMAX ALL Flash 250Fを投入する。

 「デルとEMCが一緒になったことで、それぞれのテクノロジーが融合し、競争力が高く、付加価値を持った製品を提供していくことに一番期待が集まっていた。それに沿う形の製品を、第1弾として発表できた。統合を象徴するような製品であり、今後もこうした製品の発表が続くことになる」と語る。

 平手社長も、「今回のDell EMC Worldで発表された製品のなかで、最も注目を集めたのが、2社の技術を組み合わせたインフラストラクチャー製品であった」と補足する。

数多くの新製品を投入

 コンバージドインフラストラクチャでは、これまでのODMのサーバーから変更し、PowerEdgeを採用。一方で、シスコシステムズやニュータニックスとの協業も継続し、この領域における顧客の選択肢を広げるという。

 もともとEMCにとって、日本市場は、戦略的市場のひとつに位置づけられており、これまでにも多くの投資を行ってきた。その体制は今後も変わりないという。「国内ではストレージで2位となっているが、オールフラッシュでは1位のシェアであり、前年比450%の成長となっている。また、NASも1位のシェアを持っており、エンタープライズ/サービスプロバイダー事業は2桁成長、コンサルティングサービスは21%増となっている。さらに、パートナーとして新たに100社が参加。新たに発表したクラウドコネクションプログラムにより、クラウドサービスプロバイダーが持つ製品もパートナーが販売していく仕組みを導入している。これも成果が出始めている。営業力強化、パートナーエコシステム協業の強化、戦略的製品群およびソリューションの強化、ライフサイクルアプローチ、働きがいのある会社を目指しており、これは今後も維持する。日本の顧客のトランスフォーメーションに貢献したい」とした。

日本法人の体制は今後の検討

 米国本社では、すでに統合が完了しているが、日本では、デルおよびEMCジャパンの法人格がそれぞれ維持された状態となっている。

 平手社長は、「日本法人の体制については、これから検討をしていくことになる。すでにグローバルでは統合は完了しており、現場における統合という観点で、日本の体制をこれからどうするのかという話になる。顧客やパートナーから見て、無駄な重なりや抜けがないようにしたい。それによって、効率的な体制ができるはずである。いまは継続性とシナジー効果の追求を優先している。ただ、すでに顧客への継続性と、サポート体制は確立している。Dell EMCのエンタープライズ製品、クライアント製品、サービス事業という形に製品事業部門は分類し、市場に向けては、大手顧客(エンタープライズ)、大手および中堅(コマーシャル)、中小企業およびコンシューマを対象とした組織を確立。2つの企業の組織を整頓し、わかりすく、網羅性の高いものにした」と語る。

 大塚社長は、「パートナーに対する継続性を担保し、これまで以上の価値を提供していく。製品サポートやサービス体系を整備していくほか、パートナープログラムも整備、統合していくことになる。新たに発表した統合製品も、どのパートナーが販売していくのかといったことがすでに明確になっている」とした。

 また、平手社長は、「2015年10月12日に統合を発表して以降、パートナーや顧客からの期待値が上がる方向にある。統合によって不便をかけるということがないように心がけている。理解もいただいている。スケールだけを考えた統合では1+1が1になっているようなものが散見されたが、今回のデルとEMCの統合は重複部分が少ない。製品間のクロスセル、アップセルも期待できる。事業モデルとテクノロジーの観点では完全に補完関係にある」とコメント。大塚社長は、「統合を発表した際には、驚きの声が多かったが、パートナー、顧客への説明を通じて理解を得たこともあり、期待が高まっているのを感じる。EMCにとっては、サーバー製品やクライアントソリューション、セキュリティとの組み合わせ提案ができるようになったことで、幅が一気に広がる」と述べた。

 さらに、平手社長は、「今回の統合スキームにおいて、不都合に感じるところはない。それはコンバージドインフラ製品ひとつを取っても理解してもらえる」と発言。大塚社長は、「顧客領域、パートナープログラム、サポート、製品も補完関係があり、統合に向けた課題はない」とした。