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Dellとの統合で加速するEMCの全方位ストレージ戦略 「EMC World 2016」初日基調講演

 5月2日~5日(米国時間)の4日間にわたり、米国ラスベガスで開催された米EMCの年次カンファレンス「EMC World 2016」。

 初日(2日)のキーノートの主役となったのは、Dell創業者にして現在もCEOとして君臨するマイケル・デル(Michael Dell)氏だった。2015年10月に発表されたDellがEMCを買収するというニュースは世界中のIT関係者たちを驚かせたが、買うほうも買われるほうも巨大な組織ということもあり、最終的に両社が統合されるまでにはまだ数カ月を要すると見られている。その一方で、EMC社内ではマイケル・デル体制への移行が着々と進みつつあるようだ。

 16回目の開催となった今回のEMC Worldのテーマは"MODERNIZE"――。これまで顧客に向けて変化へのキャッチアップを訴え続けてきたEMCは、同社自身のモダナイズをどう示したのか。本稿では2日に行われたキーノートの内容をもとに、Dellとの統合を控えたEMCの現在の方向性を見ていきたい。

統合後の新社名は「Dell Technologies」に

 EMCグループを長年にわたって率いてきたジョー・トゥッチ(Joe Tucci)CEOは、今回のEMC World 2016がCEOとして最後の公式行事になる。キーノートのオープニングに登場したトゥッチ氏は「いままさにサムシンググレートな出来事が起こりつつある。私は心の底から(DellとEMCの統合による)輝かしい未来を信じている」と挨拶し、聴衆からスタンディングオベーションを受けた後に、続いて登壇したデル氏と固い握手をかわしている。その光景は明らかに今後のEMCをデル氏に預けたことを意味していた。デイビッド・ゴールデン(David Goulden/EMC CEO)でもパット・ゲルシンガー(Pat Gelsinger/VMware CEO)でもなく、トゥッチ氏はマイケル・デルという人物をEMCの後継者に選んだという事実をあらためて強く感じさせる。

今回で最後のジョー・トゥッチ氏
マイケル・デウ氏と握手するトゥッチ氏

 キーノートに登壇したデル氏は、最初のEMC Worldが開催された15年前の2001年を引き合いに出し、「15年前と現在では何もかもが変わっている。世界の人口は72億人になり、デバイスの数は250億に達した。CPUの処理速度は5年ごとに10倍に進化している。そしてUberやAirbnbのような企業が現れることなんて、誰も予想もしていなかった。我々はデジタルによってトランスフォーメーションを続けるジャーニーの最中にいる」と語り、続けて、そうした変化の時代にあってDellとEMCの合併がどんな意味をもつかについて触れている。

 「EMCはエンタープライズインフラストラクチャのリーダー的存在であり、Dellはミッドレンジマーケットのシェアとグローバルサプライチェーンが強大だ。さらに我々は両者とも100%のカスタマーフォーカス(顧客中心主義)を掲げている。両者が統合することで、テクノロジ業界における世界最大のインフラベンダーになることは間違いない。我々はすべてのカスタマをカバーすることができる。シュリンクし続けているHPとは違う」(デル氏)。

マイケル・デル氏

 DellとEMCが正式に統合を果たすのは、現時点で2016年10月とされている。ここでデル氏は統合後の新社名を「Dell Technologies」とすると発表、さらにストレージやサーバなどのエンタープライズ部門は「Dell EMC」、Dellが抱えるPC部門は「Dell」という名称になるとしている。それぞれの傘下の事業会社であるVMware、Pivotal、Virtustream、RSA、VCE、SecureWorksなどは、そのまま存続させる方針だ。VMwareは上場企業であり、Dell傘下のSecureWorksも上場が期待されているが、当面はそれぞれの企業の経営方針を尊重するという。

統合後の新社名はDell Technologiesに。VMwareは上場を維持、その他の傘下企業もそのまま存続

 10月の統合までには、SECの監査、EMCの株主による投票、中国での承認、負債の整理という4つのプロセスがまだ残されている。3月に発表されたDellのサービス部門であるDell Systems CorporationのNTTデータへの売却も、統合に向けての整理の一環だといえる。DellとEMCの製品ポートフォリオの統廃合も進む予定だが、ストレージについてデル氏は「EMCはストレージの業界トップだが、Dellはそうじゃない。ストレージ製品を整理するならDellのほうがより多くなるだろう」と報道陣向けのセッションで発言しており、新会社でのストレージ製品はEMC中心のポートフォリオになると見られる。

DellとEMCの統合が完了するのは2016年10月の予定

新生Dell EMCの船出を飾るミッドレンジストレージ「EMC Unity」

 新会社となるDell Technologies、そしてEMCブランドを継承するエンタープライズ部門のDell EMCの誕生に向け、EMCは今回のカンファレンスにおいて例年より多くの製品リリースを出している。そのうち2日のキーノートで発表された主な新製品やアップデートは以下となる。

・ミッドレンジの新ストレージファミリ「EMC Unity」
・Software-Defined Storageの「ViPR Controller 3.0」
・EMCのクラウドサービスとして提供されるオブジェクトストレージ「Virtustream Storage Cloud」
・ストレージ間のコピーデータを管理するソフトウェア「EMC Enterprise Copy Data Management(eCDM)」
・ユーザが保有するEMCリソースを管理するクラウドダッシュボード「Myservice360」
・ペタバイトクラスのコンテンツ管理プラットフォーム「InfoArchive 4.0」

 このうちEMC World 2016での最大の目玉であり、まさしく"MODERNISE"というテーマを象徴している製品が新ファミリのEMC Unityだ。旧VNXをベースにしたブロック&ファイルストレージだが、あるEMC関係者は「次世代に向けてまったく新しくデザインされた製品といっていい」と強い自信を見せている。

 EMCは2016年を「オールフラッシュ元年」と位置づけており、2月にはハイエンドをターゲットにしたオールフラッシュアレイ「EMC VMAX」をリリース、0.5ミリ秒以下のレスポンスと400万IOPS、150GB/秒のスループットという高性能で業界関係者を驚かせた。

 だが今回発表したUnityは"シンプル&アフォーダブル"をコンセプトとしており、主にコストの問題でフラッシュストレージの導入をちゅうちょしていたミッドレンジ以下のユーザを対象にしている。オールフラッシュアレイだけでなく、ディスクとのハイブリッドタイプも用意しており、ハイブリッドは1万ドルから、オールフラッシュは1万8000ドルから展開される(2U/最大容量80TB/30万IOPS)。

展示されていたUnityの実機。2Uながら最大80テラバイトまで搭載可能。オールフラッシュだけでなく、SASとのハイブリッド構成にすることも可能
Unityのロゴ
今回最大の発表はミッドレンジストレージのEMC Unity。オールフラッシュアレイで約200万円からという低価格

 なお、UnityはEMCのハイパーコンバージドインフラストラクチャ製品である「Vblock」に組み込むことも、またSoftware-Deifined Storageのバーチャルアプライアンスとして構成することも可能だ。最大3PBまでスケールするフレキシビリティも特徴のひとつといえる。

 日本での提供も近く予定されているUnityだが、最小構成で200万円前後という価格設定は明らかに競合他社のミッドレンジ製品を狙い撃ちしたかたちだ。デル氏は「我々の目標はすべてのレンジのカスタマをカバーすること」と明言していたが、まさにUnityは"新生Dell Technologies/Dell EMC"がハードウェアベンダとして全方位でエンタープライズの顧客を囲い込みにきたことを示している。また、本稿では触れていないがEMC World 2016ではDSSDなどフラッシュストレージの他のラインアップや、Software-Defined Storage関連製品も軒並みアップデートされており、EMCが"ストレージベンダとしてのモダナイズと原点回帰"を目指しているという印象を強く受けた。10月の統合完了までにこのモダナイズ戦略が市場でどう評価されるのか、引き続き注目していきたい。

五味 明子