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Box、業務手順自動化「Box Automate」、機密文書の分類を自動化する「Box Shield Pro」などを順次提供へ

~BoxWorks 2025レポート

 クラウドストレージ事業者の米Boxは、9月11日~12日(米国時間)に、同社の年次イベント「BoxWorks 2025」を米国カリフォルニア州サンフランシスコ市で開催した。

 Boxは、エンタープライズプランなどの企業向けの料金プランでユーザーあたりの容量無制限を実現していることなどから人気のクラウドストレージサービスで、同時にデータへのアクセス制御、高いセキュリティ、ログ保存などが企業のIT関係者に評価されている。

 そうしたBoxは近年、AIを利用してさまざまな文書管理機能や業務の自動化などの機能を提供しており、今回のBoxWorks 2025でも、SaaSベースのアプリケーション「Box Apps」にエージェント型AIが業務手順の自動化を行う「Box Automate」を追加したことや、AI推論を利用して複雑で大きなコンテンツからでもデータを抽出できる「Box Extract」、そして、Boxがこれまで提供してきたセキュリティ機能「Box Shield」を強化する「Box Shield Pro」などが発表された。

無制限のクラウドストレージを企業向けに提供するBox、非構造化文書データを構造化して活用する取り組みを推進

 Boxは、一言で言えばクラウドストレージ事業者ということになるが、他社のクラウドストレージがまずは一般消費者向け(B2C)が大きくなり、そこから企業向け(B2B)へと進出していったのに対して、最初から企業向けにターゲットを絞って発展してきた歴史がある。このため、ストレージの管理機能では、細かなアクセス権限の管理、詳細なアクセスログの保存など、エンタープライズのITで必要とされるものが実装されており、それが大企業などに評価されている。

Boxのユーザーはすでに120万ユーザーを超えている

 また、一般消費者向けがなく、有料プランは企業向け(中小企業向けのBusiness/Business Plus、大企業向けのEnterprise/Enterprise Plus/ Enterprise Advanced)だけの料金体系になっており、いずれのプランでも「ストレージ容量無制限」がうたわれていることが大きな特徴だ。このため、IT管理者が面倒な容量制御などをする必要がなく、Boxの有料プランさえ契約しておけば、ユーザーが必要なだけのストレージを利用できる点も大きな特徴と言える。

 そうしたBoxは、近年は「ICM(Intelligent Content Management)」という、AIを利用した高度なコンテンツ管理という概念を推進している。簡単に言えば、企業がBoxのクラウドストレージ上に保存しているデータを、AIを活用してより高度な利用を推進するという考え方だ。

 というのも、企業が保存しているデータの多くは、Word(docx)、Excel(xlsx)、PowerPoint(pptx)、Acrobat(PDF)、画像ファイル(jpg、pngなど)のようにさまざまなファイルフォーマット、形式になっており、AIがデータとして扱いやすい構造化されたデータにはなっていない。Boxによれば、企業が持つデータのうち90%がこうした非構造化データで、それをAIにより構造化されたデータにし、それをAIが学習して利用していく、そうしたソリューションが多くの大企業が必要としているという。

 Boxはこのようなソリューションを実現するために、AIスイートとなる「Box AI」、さらにそうしたデータを活用して業務手順の自動化を行う「Box Apps」などを提供しており、近年のBoxWorksでは、そうしたBoxの新しいソリューションが紹介されてきた。

Box レヴィCEO「AIをフル活用するためには、90%の非構造化データの構造化に取り組むことが必要」

 今回のBoxWorksでも、Box AI、Box Appsなどに新しい機能やアプリケーションなどが追加されており、Boxが標榜するICMを加速していくことが明らかにされた。

 サンフランシスコ市内の会場で行われたBoxWorks 2025の基調講演において、Box 共同創業者 兼 CEO アーロン・レヴィ氏は「Boxは今AIファーストのサービスを提供しようとしている。これまでAIは従業員のアシスタントだったが、これからはエージェントになろうとしており、AIエージェントはエンタープライズの一部になろうとしている。従業員やチームが1000倍高速に働ける世界を創造してみてほしい。そうして個々人が生産性を高めることで、それに合わせて組織の効率も上がっていくのだ」とコメント。

 AIの活用は、従来は従業員のアシスタントとして使われるという使い方が一般的だったが、これからはAIがエージェント(代理人)として、従業員に代わって仕事するという使われ方が当たり前になっていき、それにより企業の生産性は飛躍的に高まっていく世界が来ると説明した。

Box 共同創業者 兼 CEO アーロン・レヴィ氏
AIが仕事のやり方のすべてを変えていく
AIはアシスタントからエージェントに、そして自動化へ
AIを利用することで従業員が1000倍速く働けるようになる

 レヴィCEOは、そのために必要なのが構造化されたデータの上で動作する自動化プロセスだと指摘。「エンタープライズのデータのうち、構造化されたデータは10%にすぎない。残りの90%は非構造化データだ。こうしたデータは細分化されており、大規模に活用することができない状態にあり、そのままではエージェントが活用することができない」と述べ、BoxがICM(Intelligent Content Management)と呼んでいる、AIを活用した高度なコンテンツ管理の世界を実現していくことが、エンタープライズがそうしたデータを活用する上で必要になるとし、今回のBoxWorksでもそうした世界を実現するツールを発表していくとした。

構造化されたデータはエンタープライズ全体のデータのうち10%
残りの90%のデータは非構造で、構造化する必要がある
Boxのツールで構造化することでIntelligent Content Managementの世界を実現

 また、Box CTOのベン・クス氏は、BoxのAIアーキテクチャが、AIモデルのバージョンなどを覆い隠して、それらのバージョンなどを意識しなくても簡単に使える仕組みであると説明。企業が手軽に非構造化データを構造化して扱うことが可能で、サードパーティのAIとMCPやA2Aなどを利用してやりとりができることを紹介した。

Box AIの仕組み
Box AIの仕組み
Box CTOのベン・クス氏
MCPやA2Aにより他社のエージェントなどとも接続が可能になっていく。BoxのMCPはすでに提供が開始されている

Enterprise Advancedで利用可能になる複数の新機能を紹介、業務自動化機能Box Automateも

 レヴィCEOやクスCTOが降壇した後は、同社の幹部が、今回Boxが発表した各種のソリューションを、デモを交えながら紹介した。

 最初に紹介されたのが「Search Agent」と「Research Agent」で、すでに提供されているBox AIの機能拡張となる。いずれも11月からベータ版の提供が開始される予定だ。

 Search Agentは、AIによってより詳細に、かつシームレスに検索を行えるツールで、従来の検索では見つからなかったようなファイルを見つけられるという。Research Agentでは、AIが企業のコンテンツをより詳細な分析を加えて、まとめなどを作成し、それをもとに人間が何かの判断を下したりできる。

Search Agent
Research Agent
Research Agentのデモ

 Box ExtractはBoxのICM構想を実現するために不可欠な、コンテンツに対してメタデータを付加する業務を自動化するツールになる。生成AIの機能を利用して、AIがコンテンツの内部を詳細に読み込み、分析して必要なメタデータを生成するAIエージェントだ。

 すでに、標準的なメタデータを生成するエージェントは一般提供が開始されていたが、今回のBox Extractではそれに加えて、より大規模かつ複雑なコンテンツであっても詳細に分析を行うことが可能になり、より高い正確性を実現するためのオプションなどが用意される。こうした機能拡張は11月にベータ版として提供される予定だ。

Box Extract
Box Extractのデモ

 Box AutomateはBox Appsの新機能として提供されている。Boxは昨年のBoxWorks 2024で、Box Forms(Webやモバイル機器向けにフォームの作成と公開を簡単に行える)とBox Doc Gen(Box AIにより生成されたメタデータなどからデータを抽出し、自動的にカスタム文章を作成する)という2つの新機能をBox Appsに追加している。この機能は今年に向けて順次展開されてきたが、今回発表されたBox Automateは、その名称からもわかるように、Boxを利用して業務手順を自動化する際に活用できるAIエージェントとなる。

 複数のAIエージェント同士が対話し、業務手順に合わせたカスタマイズを行いながら、業務の最初の段階から終わりまでを一貫して自動化する環境を構築可能だ。Box Automateは、ベータ版の提供が2026年1月に開始される予定。

Box Automate
Box Automateのデモ

 なお、これらの新機能は、Boxのエンタープライズ向けの料金プランのうち「Enterprise Advanced」で利用可能になる予定で、2025年11月ないしは2026年1月に、順次ベータ版として利用可能になる計画だ。

文脈で機密文書を判定する機能などを備えたBox Shield Proは、アドオンとして提供

 Boxは、昨年のBoxWorksにおいて、ランサムウェアに対抗するための「Box Archive」と「Box Content Recovery」という2つのツールを発表するなど、年々セキュリティ機能を強化している。これまでにも、Box Shieldと呼ばれるセキュリティ機能を提供してきたが、今回のBoxWorksではその強化版として「Box Shield Pro」を発表した。

Box Shield Pro

 Box Shield Proは、大きく分けて3つの機能が用意されている。具体的には「自動文脈ベースのコンテンツ分類」、「AIによる対応可能な脅威アラート」、「拡張されたランサムウェア検出」だ。

 特に注目なのは自動文脈ベースのコンテンツ分類で、文章の文脈を自動で判別し、その文書が機密文書なのか、社外秘文書なのか、外部に公開してよい文書なのかを自動で判別する機能になる。

自動文脈ベースのコンテンツ分類

 デモでは、コンテンツの文脈をAIが自動で判別し、そこに機密情報があった場合、機密文章や社外秘にするかどうかといった判定をAIが自動で行う様子が示された。

 AIに文書を管理させると、間違って文書の分類が行われてしまい、外部に出したくない文書が流出してしまうのではないか、といった懸念があるが、この自動文脈ベースのコンテンツ分類を利用すると、そうした懸念を払拭できると説明している。

自動文脈ベースのコンテンツ分類のデモ
AIによる対応可能な脅威アラート

 こちらは12月から一般提供が開始予定で、現在のShield、Enterprise Plus、Enterprise Advancedなどのアドオンとして契約することが可能になる。