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生成AI大賞2025、グランプリはコロプラの「神魔狩りのツクヨミ」
AIはもはや「技術トピック」ではなく社会インフラに
2025年12月19日 06:00
一般社団法人Generative AI Japan(以下、GenAI)は、日経BPと共同で生成AIの優れた活用事例を表彰する「生成AI大賞2025」を開催し、グランプリほか各賞を12月11日に発表した。
GenAIは、生成AIの活用促進、ルール・ガイドライン整備、提言活動などを行い、日本の産業競争力向上を目指して2024年に産学連携で発足した一般社団法人。第2回の開催となる生成AI大賞2025は、課題設定/実装の工夫/インパクト/ガバナンス/将来性を審査基準としている。生成AI分野の有識者で構成された審査委員会による厳正な審査の結果、以下の8件が表彰された。
生成AI大賞2025グランプリ(1件)
- コロプラ「『神魔狩りのツクヨミ』~生成AIで切り拓く新しいエンタメ体験とクリエイションの未来~」
生成AI大賞2025特別賞(2件)
- SHIFT「生成AI×社内BPOで拓く『障がい者雇用』の新常識」
- Shippio「国際物流におけるオペレーション現場主導でのAIエージェントの活用」
生成AI大賞2025優秀賞(5件)
- デジタルハリウッド「AIが“答え”ではなく“問い”を生む創造性を育む教育パートナー『Ututor』」
- 東京都町田市 「進化する『マルチ生成AIプラットフォーム』で行政サービスをアジャイル!」
- 中原製作所「生成AIで挑む事業承継!~日本の中小製造業の未来を切り開く~」
- 三菱電機デジタルイノベーション「生成AIを活用した、薬剤師向け服薬指導・薬歴生成支援サービス~次世代コミュニケーションサービス『AnyCOMPASS』における生成AIの活用~」
- 日本電気株式会社「AIベースの業務プロセス再構築による抜本的な業務革新」
グランプリはコロプラの「生成ゲー」
業務の効率化や高度化、あるいは身体的・言語的にハンディキャップのある人にも使いやすいサービスという目的での開発は、生成AIが登場する以前からさまざまな取り組みがあった。もちろん、生成AIを使うことでさらに高度に、使いやすくなるという面はあるが、目的のために生成AIを使うという従来型アプローチだ。
一方で、グランプリを受賞したコロプラの「ツクヨミ」は、生成AIで何か面白いことができないか、というアプローチである。生成AIであればこそ、という内容であり、生成AIのネガティブな部分にも踏み込んだプロジェクトだった。
「ツクヨミ」は、生成AIをゲーム体験の核に据え、報酬となるカードのイラストをAIで生成する。しかしエンタメ分野では、AIイラストに対する風当たりが強い。懸念点としては、①作家性(魂)の欠如、②著作権問題、③クオリティ低下――という3点が主なものだろう。そこでコロプラは、作家と一緒にAIモデルをつくるという方法にチャレンジした。
プレゼンテーションのタイトルは「著名クリエイターの電脳化に成功」というもの。社内の人気ゲームクリエイター金子一馬氏の協力で、イラストを生成するAIモデルを構築した。
その結果、「人力では実現できなかった規模」の体験を提供し、ユーザーも面白がる「生成ゲー」というジャンルを成立させた。金子氏風のオリジナルカードを無限に生成し、ファンはこの世に1枚しかないオリジナルカードを入手できるというわけだ。ゲームユーザーは、クオリティにバラツキがあることも楽しむ要素にしてしまう。
このプロジェクトは、「生成AI=敵」ではなく、新ジャンル「生成ゲー」として受け入れてもらうというアプローチが新しい。他のプロジェクトも社会課題の解決に資する素晴らしいものだったが、これがグランプリとなったのは納得だった。
2025年の振り返りと2026年の動向予測
表彰式では、最終審査中に「生成AIの今年の総括および2026年の動向予測」と題したスペシャルセッションが行われたので、その内容についても簡単に紹介しよう。登壇者は、國吉啓介氏(Generative AI Japan)をモデレーターに、渡辺琢也氏(経済産業省 商務情報政策局 情報技術利用促進課長 兼 情報産業化AI産業戦略室長)、八木聡之氏(日本ディープラーニング協会理事、富士ソフト 常務執行役員)、大黒達也氏(東京大学次世代知能科学研究センター 准教授)の4名だ。
日本ディープラーニング協会では毎年その年を振り返っているが、2025年について八木氏は以下のような点を挙げた。
- AIは「実験・研究」フェーズから、産業・経済・教育・法制度を同時に動かすフェーズへ
- フィジカルAI/Embodied AIが本格化
- 企業向けAIエージェントが実業務に本格的に組み込まれ始めている
- 世界規模の超大型投資・インフラ投資が加速
- 日本でもAI法・AI基本計画が進行
ポイントは、「AIはもはや『技術トピック』ではなく、社会インフラそのものになりつつある」ということだ。
また、これまで製造業の現場などでは、ハードウェアの性能が高く、ソフトウェアが追いついていないという状況が多かった。それがLLMの発展によりソフトウェアが大きく進展し、逆にハードウェアが追いついていないという時代が来たと八木氏は考えている。富士ソフトはSIerだが、「今までは業務系で少しAIを使っているというところが多かったが、今年1年はロボティクスが非常に多い。実は当社も二足歩行ロボットを導入したいという相談が、今年1年でおそらく10件は超えたと思う」(八木氏)と言う。
もうひとつの大きな動きはAIエージェントで、これによって業務フローにAIが埋め込まれるというシーンが出てきた。
さらに、AI運用の実務ガバナンスとしてISO/IEC 42001(AIマネジメントシステム規格)への対応が企業に求められるなど、社会的な影響が大きくなっている。「AIは“選択肢”ではなく“前提条件”になった」と八木氏は言う。
渡辺氏も、AIエージェントが業務にAIが普及する大きなきっかけになったと考えている。また、法制度の観点では「2024年末から2025年初頭にかけて、流れが変わった」と言う。
2025年の通常国会に向けての、AI法の準備は2024年から始まっている。当時は「AIは危険だ」との雰囲気で、「AI規制法」として考えていた。EUにもAI規制法があり、日本でどう規制するかと議論されていたという。それが、2024年末から2025年初頭にかけて、「これはやはり促進なのでは」という雰囲気に変わった。その結果、AI法は「AI推進法」になった。
AI産業戦略室の立場としては、とにかくどんどんAIの利活用を進めるという方向だ。国際的なアンケートなどを見ると、日本はAI利用率が米国などに比べて格段に低い。AIの活用についてはこれからさまざまな問題が出てくるとは思うが、まずは利活用が進まなければ話にならない、というフェーズだという。
「日本ではAI利活用がまだ立ち上がりきっていないため、AIデータセンターへの投資が難しい(投資回収の計算が立ちづらい)という話も、データセンター事業者から聞いている」(渡辺氏)
また、製造業大国、ロボット大国と言われる日本としては、フィジカルAIは負けられない分野だとも言う。工場内のデータを集めて、AIに判断させて製造ロボットを動かすようなことは、これから整備されていかなければならないだろう。



