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2027会計年度までにBox Japanの売上高をグローバルの約30%まで引き上げたい――佐藤範之社長が意気込みを語る

 米Boxは9月11日・12日(米国時間)に、同社の年次イベントとなる「BoxWorks 2025」を米国カリフォルニア州サンフランシスコ市で開催した。それに合わせて、日本の記者からの質疑応答に応じた株式会社Box Japan 社長執行役員 佐藤範之氏は「現在日本法人はBox全体の売上高のうち23%を占めている。会計年度2027年までにこれを30%に引き上げたいと社内で目標を設定している」と述べ、ほかの地域に比べて急成長を続ける日本市場の成長を、さらに加速させていきたいと説明した。

BoxWorks 2025 Japan Nightであいさつする株式会社Box Japan 社長執行役員 佐藤範之氏

 Boxの現状と、その急成長を支える背景について、今回のBoxWorks 2025で見えてきたことなどからまとめていく。

BoxWorks 2025

Boxの売上高のうち23%を占める日本市場、BoxWorks 2025でも重視の姿勢をアピール

 今、日本で最も勢いがあるSaaSベンダーの日本法人の1つが、Boxの日本法人となるBox Japanだ。その社長執行役員である佐藤範之氏は、前任の古市克典氏の後を継いで、2025年2月1日からBox Japanを率いている。

 Box Japanが誕生して以来、日本法人をけん引してきた古市克典氏は、Box Japan 代表取締役会長に就任し、本社のエグゼクティブチームの一員として、新しい成長市場としてアジア市場の開拓を担うなど、新しい展開の中での人事異動になる。

 佐藤氏は2014年にBox Japanに入社して以来、古市氏と一緒にBox Japanの成長を実現してきた。実際、Boxにとって日本市場はグローバルの市場のうち、最も重要な市場になっている。

 というのも、Boxの会計年度2026年度第2四半期の決算リリースを見れば、Boxの売上高のうち約1/3は米国外の市場で、そのうち約65%が日本円の売上高だと明確に書いてあるのだ。

 つまり計算上では、全体の約21.66%がBox Japanの売上高ということになる(約1/3が33.33%とは限らないので、あくまで計算上の数字)。Box Japanの佐藤氏によれば、より正確に言うと「1月末の時点で約23%という数字だった。為替の影響が大きい」とのこと。

 グローバルの売上高で約23%が日本市場というのは、ほかのグローバルなITベンダーの日本法人にとっては驚くべき数字、うらやましい数字と言っても過言ではない。1990年代であれば、日本が10~20%の割合を占めているのがどこのITベンダーでも一般的だったため、23%という数字がさほど驚きだったわけではない。しかし、世界経済が成長し、日本のGDPが世界全体のGDPに占める割合が減っていく中で、それに比例するかのように各社の日本における売り上げの割合は下がっていった。今では、5%あれば合格点、10%あれば「すごい」、20%を超えるというのは「超すごい」の部類だ。

 そうした状況であるため、Boxの社内でも日本市場はとても大事にされている。先週Boxが米国サンフランシスコで開催したBoxWorks 2025でも、多くの日本の顧客やパートナーが参加しており、筆者が近年参加したITのイベントで、これだけ日本人率が高いイベントは記憶にないぐらいだ(正確に言うと1つあったが、それは昨年のBoxWorks 2024だった)。

 こうした背景から、Boxは、日本人の顧客やパートナー向けの特別イベント(Japan Night)を開催し、CEOであるアーロン・レヴィ氏、COOのオリビア・ノッテボーン氏などの同社幹部が登壇してあいさつするなどしている。Boxにとって、明らかに日本が重要な市場だと位置づけられていることが可視化されていた。

BoxWorks 2025 Japan NightであいさつするBox COO オリビア・ノッテボーン氏

Boxが日本で急成長しているのはパートナーの活用、文書の活用、そしてファイルサーバーからの置き換えが要因

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株式会社Box Japan 社長執行役員 佐藤範之氏

 Boxにとって日本市場が「成長市場」になっている状況について、Box Japanの佐藤氏は「3つの理由があると考えている。1つ目は、Box Japanを始めた当時からパートナービジネスのビジネスモデルを重視しており、それが成功してきたこと。2つ目は、起案書から報告書まですべて文書でやり取りする、文書ドリブンな日本の業務のやり方とBoxの相性が良かったこと。そして最後の要因としては、コロナ禍のころにはまだローカルのファイルサーバーがそこかしこに残っていて、その乗り換え先としてBoxが選ばれたという側面がある」と述べ、パートナービジネス、サービスが日本の業務形態にマッチしていたこと、そして最後にWindowsサーバーのような、ローカルのファイルサーバーからの乗り換え先としてBoxが選ばれた側面が強いと指摘した。

 特に、最後のローカルのファイルサーバーからBoxに乗り換えたというのは、今回BoxWorks 2025に参加していたBoxの顧客が、みな口をそろえてそう言っていた。ローカルのファイルサーバーの容量がいっぱいになって、リプレースする段階で新しいローカルサーバーを入れるよりも、アクセス権の管理が容易かつ詳細に可能で、ログなどの管理もオンライン上で完結し、しかも容量が無制限で利用できるというBoxの特徴を評価してBoxに乗り換えたのだという。

 顧客にすれば、Boxに乗り換えると、よりモダンにWebブラウザだけで使え、セキュリティ的にもローカルのファイルサーバーよりも安心でき、何より容量無制限であるため、従来のファイルサーバーのようにユーザーに容量制限を課して全体の容量を制限するなどの管理上の面倒も減るし、良いことだらけなのである。

 もちろん、ローカルで管理することがセキュリティ面で最上だと考えている企業であれば、そのポリシーを変える必要はあるが、現状、活用が進展している生成AIサービスの多くがクラウド上で提供されていることを考えれば、データをクラウドに移動するモチベーションになるだろう。

 もちろん、Boxはそうした企業に向けてソブリン対応を済ませており、「Box Governance、Box Zones」の機能を利用することで、日本のデータセンターを指定してデータを置けるようになっている(Enterprise PlusとEnterprise Advancedという2つのエンタープライズ向けプランでは料金内、EnterpriseとBusiness Plusという2つの料金プランではオプション)。

 なお、佐藤氏によれば、BoxはすでにインフラのIaaS化を完了しており、従来は自社ハードウェアでデータセンターにデータを置く形になっていたが、 今はIaaSのクラウド事業者(例えばAWS、Azure、Google Cloudなど)のストレージを利用する形になっているため、従来よりも低コストでストレージサービスを提供可能になっているという。そうした対応が、「容量無制限」というサービスの提供を可能にしている背景でもある。

クラウドストレージにデータが集まることで、ICM(賢いコンテンツ管理)の実現が可能になる

 Boxの強みは、そうしたファイルサーバーの代替としてBoxが選ばれていることで、エンタープライズのデータが既にBoxのストレージ上にあるということだ。それは、Boxが顧客のデータをAIの学習に利用するという意味ではなく、顧客がBoxのAIを利用してデータをさらに利活用できるという意味で、だ。

Box AIのアーキテクチャ

 Boxは昨年「Box AI」という構想を発表。SaaSの形で提供するAIアプリケーションにより、顧客がBoxのストレージに保存しているデータの利活用を可能にするとしていた。その中心にあるのが、BoxのレヴィCEOが提唱するICM(Intelligent Content Management、賢いコンテンツ管理)構想だ。

Box CEO アーロン・レヴィ氏が推進するICM(Intelligent Content Management、賢いコンテンツ管理)

 ICMは簡単に言えば、企業が持っているWord(.docx)、Excel(.xlsx)、PowerPoint(.pptx)、Acrobat(.pdf)などのさまざまな形式の文書、画像や動画といったデータに対して、AIが自動で判別できるメタデータなどを付与することで、そうしたデータをAIが活用できるようになるという考え方だ。

 こうした文書ファイルは、データベースに格納されているようなデータとは異なり構造化されておらず、AIにとっては扱いにくいデータになってしまっている。それを構造化して、データベースに格納されているデータと同じように扱えるようにすることで、企業内で有効活用できていない文書データを活用できるようにする、それがICMの基本的な考え方だ。

構造化されていない90%のデータを構造化することで、データの利活用を進める

 Box AIはそうした構想のプラットフォームとなるアプリケーションで、Boxのストレージの上にAIレイヤとして存在し、企業がBoxに格納した文書データにメタデータなどを自動で付与して、AIによる利活用を促進する。また、Box AI Studioは、AIエージェントをローコード/ノーコードで作成するツールで、企業がそうした文書データを活用するようなAIエージェントを簡単に構築できる。

 今回、BoxはBoxWorks 2025で、業務手順自動化「Box Automate」、AIによるメタデータ付与をより高度化する「Box Extract」、Boxストレージのセキュリティ機能「Box Shield」を高機能化する「Box Shield Pro」などを発表し、11月からベータ版などの形で順次提供していくと発表しているが、それらの詳細は以下のレポートをご参照いただきたい。

 今回の発表は、ICM構想をさらに加速する新機能で、Boxのユーザーにとって、より高機能なAIが利用可能になる注目のアップデートだ。Boxが、そうした新機能を矢継ぎ早に発表していくことは、こうしたAIの新機能を活用できる最上位プランの「Enterprise Advanced」への乗り換えを促すことが狙いとなる。

 今のBox Japanでは、ファイルサーバーからの移行でBoxのクラウドストレージにデータを置くユーザーが増えているわけだが、そうしたユーザーが増加することで、AIによる新機能を活用してもらう機会が増し、より上位プランへの乗り換えを促すことが可能になる――そうした好循環の中にいると考えられる。

SMBへのアクセス拡大や社内体制の強化により、2027会計年度に日本市場だけで30%超を目指す

 Box Japanの佐藤氏によれば、昨年、当時社長だった古市会長が課題と言っていた中小企業へのアクセス拡大に関して、「すでにダイワボウ情報システムと販売代理店契約を締結しており、同社傘下のパートナーネットワークを経由しての全国販売に取り組んでいる。当社の東京、大阪のオフィスだけではカバーしきれないような地方のお客さまも、ダイワボウ情報システムのパートナーネットワークでカバーしてもらえるようになった」と述べ、5月末に発表されたダイワボウ情報システムとの代理店契約締結が、その大きな第一歩になっていると説明した。

 また前述のように、より上位のプランでAI機能が充実しているEnterprise Advancedへの移行を促すことも大事な目標で、そのためにBox Japanの営業力強化も行っていく計画だ。現在250名前後の従業員も今後増やす計画で「従業員が増えたときに組織が硬直しないように、組織の形態を新しくするなどを考えていきたい」と述べ、組織の改編も含めて、新しいBox Japanの形を目指していきたいと説明した。

 そして、そうした体制強化などを基に、2027会計年度(FY27、暦年では2026年2月~2027年1月)までに「(グローバルの売上の)30%を目指すのが社内的な目標」(佐藤氏)と話している。

 グローバルなIT企業で日本法人の売上割合が20%を超えているのは「超すごい」と表現したが、それが30%を超えたとしたら、なんと表現すれば良いのだろうか。それぐらいの大きな目標を見据えて、Box Japan佐藤丸は航海を続けることになる。